Season2
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緑谷は負けた麗日を励まそうと顔を出し、次の自分の試合に備えステージへと歩いている時だった。
突如ものすごいオーラを解き放ち曲がり角からエンデヴァーが現れたことに動揺した。
緑谷「エンデヴァー?!」
エン「おー、いたいた」
緑谷「エンデヴァー..何でこんなところに?!」
エン「君の活躍見せてもらった。素晴らしい個性だね。指を弾くだけであれほどの風圧。パワーだけで言えばオールマイトに匹敵する」
緑谷「な、何を言いたいんですか?僕、もう行かないと...」
そう言って緑谷はエンデヴァーの横を通り過ぎそのままその場を離れようとした。
エン「うちの焦凍には、オールマイトを超える義務がある。君との試合はテストベットとしてとても有益なものとなる。くれぐれも、みっともない試合はしないでくれ」
エンデヴァーの言葉を聞き、緑谷の頭の中に轟の言葉が浮かんだ。
轟「クソ親父の個性なんぞなくたって、いや..使わず1番になることで奴を完全否定する」
エン「言いたいのはそれだけだ。直前に失礼した」
緑谷「僕は、オールマイトじゃありません」
エン「そんなもんはわか「当たり前なことですよね!」
エンデヴァーの言葉を遮るように強い口調で言った緑谷にエンデヴァーは口を閉じ緑谷の言葉を待った。
エン「.........」
緑谷「轟君も、貴方じゃない」
エン「..............」
緑谷「風舞さんだって、誰かの人生の為の駒じゃない」
**
マイク「お待たせした、エブリバディー!!2回戦、第1試合はビッグマッチだぁあ!!
1回戦の圧勝で、観客を文字通り凍り付かせた男、ヒーロー科轟焦凍!!
かたや、こっちは冷や冷やでの1回戦突破!今度はどんな戦いを見せてくれるのか!ヒーロー科緑谷出久!!」
轟「来たな」
緑谷「轟君...」
マイク「今回の体育祭、両者トップクラスの成績!緑谷vs轟!!」
轟の為に全力で戦ってほしいと言ってしまったが故に緑谷に負わせなくてもいい心理的負担を背負わせてしまった事をひどく後悔している莉紗は周りの声が聞こえなくなる程に目の前で今にも始まろうとしている試合の行く末を考え案じている。
飯田「風舞くん」
『............』
飯田「風舞くん!」
『! あ、ごめん。何?』
麗日「莉紗ちゃん、大丈夫?」
『あ、うん。ちょっと眠くなってた』
麗日「よ、余裕や~...」
飯田「風舞くんはこの試合、どう見る?」
『単純な個性のぶつけ合いなら緑谷はまず難しいだろうね。中遠距離で相手を追い込みつつ自身との間合いを詰めさせない轟くんに、ゴリゴリの近接戦闘の緑谷。相性的には滅法悪い。緑谷が不利すぎる。ただ....』
麗日「ただ?」
『緑谷はUSJで垣間見せた未知数なパワーと障害物競走や騎馬戦の途中で見せた驚くべき発想の機転。それに、ヒーローオタク故に培った多種多様な個性の知識や個性や戦闘スタイルを考察出来るあの分析力。これらがどのように活かされるかによってはどんでん返しはもちろんありうる。何にしても増強系個性の緑谷が轟くんに勝つにはとにかく懐に入らないといけないから負傷覚悟で迫ってくる氷結を破壊しながら間合いを詰めていくしか戦法としてはないと思うよ』
麗日「デクくん...」
『(USJの時...オールマイトを助けようと飛び込んだあのスピードがここで出されれば勝敗は分からなくなるけど...)』
**
「ヒック...ふぇえ.....」
「でも、ヒーローにはなりたいんでしょ?いいのよ、お前は」
これは、幼い俺と母との記憶。
親父の特訓に嫌気がさし、また母を殴る親父への怒りや母が傷ついていく悲しさ、あいつを守れない悔しさ....いろんなものがあふれ出て泣いていた俺を母が優しく諭してくれていた。
だが...この先を、いつの間にか忘れてしまった。
緑谷「(まず氷結が来る...)」
轟「(あのパワーを好きに撃たせるのは危ねぇ)」
「「(開始瞬間に...!)」」
マイク「スタート!!」
轟「(ぶつけろ!)」
轟はおなじみの氷結で緑谷のもとに攻め込んだ。
緑谷「(スマッシュ!!)」
緑谷は右手の人差し指を親指ではじくと風圧で氷結は壊れ轟は逆にその風圧に押された。
轟の氷結の冷気を巻き込んだ風は観客席までをも凍てつかせた。
「さむっ!」
「風だけでこんな寒いのかよ!!」
轟は自分の背後に氷結を出し風圧に押し出されるのを防いだ。
轟「(やっぱそう来るか...自損覚悟の打ち消し!)」
マイク「おーっと緑谷!轟の攻撃を破ったー!!」
轟は続けて氷結を出すも、またもや緑谷が指の風圧で弾き飛ばした。
緑谷「(轟君の戦いは知る限りいつも一瞬で情報が少ない...情報をこの戦いの中で、隙を見つけなくちゃ!
背面にあった氷はおそらく、吹っ飛ばされない為に対策した結果だ。だとしたら指で正解だった...腕犠牲100%のスマッシュでも対応されてた可能性が高い。見極めろ、考えろ..見つけるんだ。
あと、6回の中で!!)」
轟「お前は...」
轟は再び氷結を出したが、やはり緑谷のスマッシュで弾かれた。
**
切島「わ、始まってんじゃん!」
鉄哲との試合で気を失っていた切島が慌ただしく戻ってきた。
上鳴「あ、切島!2回戦進出やったな!」
切島「おうよ、次おめぇとだ爆豪!よろしく!」
爆豪「ぶっ殺す」
切島「ハッ八ッ、やってみな!とか言って、おめぇも轟も風舞も強烈な範囲攻撃ポンポン出してくるからなぁ。バァーッっつって」
瀬呂「しかもタイムラグなしでな」
『ポンポン出してるわけないでしょーが』
切島「え?」
爆豪「筋肉酷使すりゃ筋繊維が切れるし走り続けりゃ息切れる。
個性だって身体機能。奴らにもなんらかの限度があるはずだろ..
そうだろ、クソアマ」
右端にいた爆豪は反対端に座っていた莉紗に問いた。
『何で私に聞く』
爆豪「...........」
莉紗の質問返しには答えなかった爆豪。
『(爆豪...こいつも中々頭キレるな)』
切島「考えりゃそりゃそっか。じゃあ緑谷、瞬殺マンの轟に....」
轟「(耐久戦か....)すぐ終わらせてやるよ」
轟が再び氷結を出し、緑谷がそれを弾き飛ばす。
何度かのその攻防で、緑谷の右手の指は全部負傷し真っ赤に変色していた。
轟はすぐさま今度は空中に向かって氷結を伸ばし走って登っていった。
緑谷は迫ってくる轟を妨害するために、今度は左手の指を使って氷結を弾いた。轟の足場は崩れ、それと同時に轟は飛び跳ねると緑谷に向かって飛び降りてきて拳を地面に突き立てると氷結を出した。間一髪で避けた緑谷が空中で体勢を変えにくいところを轟の氷結が襲った。緑谷の足が掴まりかけたその時....
バァァアアンッ!
緑谷は指ではなく左の拳で氷結を殴り壊した。
緑谷「あぁあっ!!」
視界を塞ぐほどの真っ白な冷気が晴れると...
轟「さっきより、随分高威力だな」
緑谷「!!」
咄嗟に指とは比べ物にならない威力ではじき飛ばしたはずなのに、轟が自分の背後に出した氷結で場外を防ぎ対応していることに緑谷は唖然とした。
轟「近づくなってか」
緑谷「(個性、だけじゃない..!
判断力、応用力、機動力。全ての能力が強い....)」
轟のあまりに見事な氷結の威力や使い方に観客席も唖然としていた。
「もう、そこらのプロ以上だよ...あれ」
「さすがはNo.2の息子って感じだ....」
『(焦凍くんの半冷半燃...爆豪のいう通り、限度はある。焦凍くんの身体自身、熱にも冷気にも無限に耐えれるわけじゃない。左右で相殺し合って体温調整すればその上限をリセット出来て使い続けられるから端から見れば上限皆無のようにも見える。だけど、それはリセットしたなら...の話し。少なくとも焦凍くんは戦いの最中は体温調節にすら左を使おうとしない。氷結を使えば使うだけ焦凍くんの身体は冷気で左側まで体温が極端に下がり身体機能が低下する。限度を超えて使い続ければ仮死状態になる可能性だってある。だから右だけを使う焦凍くんは長期戦には向かない。短時間で終わらせる必要がある。緑谷がどこまで食らいついてくるかは分からないけど、焦凍くんも霜が降り始めてる。そろそろ動きが落ちてくる頃.....これ以上長引くのは危ない)』
轟「何だよ、守って逃げるだけでボロボロじゃねぇか」
緑谷「クッ....!!
(震え...?そうか、デメリットってそう言うことか...クッソォ...)」
轟の右腕がわずかに震えてるのを見て、莉紗の言葉が結びついた。
轟「悪かったな、ありがとう緑谷。おかげで、奴の顔が曇った」
緑谷「っ...!?」
轟「クソ親父の個性なんざなくたって...
いや、左を使わず1番になる事で奴を完全否定する」
『轟くんの目には、エンデヴァーしか映ってないんだ』
轟「その両手じゃもう戦いにならねぇだろ。終わりにしよう」
そう言って轟は突っ立ったまま緑谷に向かって氷結を繰り出した。
緑谷「どこ、見てるんだ!」
轟「!?」
氷結がまた破壊された。
もう指は全部壊れているはず。
右腕は先ほど壊れたはず...。
巻き起こった風圧は轟を場外に吹き飛ばしかけたが、轟も自身の氷結で何とか場外を免れた。
轟「テメェ...壊れた指で。何でそこまで....」
緑谷「震えてるよ、轟くん....」
轟「!!」
緑谷の頭には莉紗に言われた言葉が浮かんでいた。
『個性は個性だから完璧じゃない。特に左を封じてる今はデメリットの方がデカいんだ』
緑谷「個性だって身体機能の1つだ...君自身、冷気に耐えられる限度があるんだろ?でも、それって左側の熱を使えば解決できるもんなんじゃないのか...?」
轟「...クッ」
緑谷「みんな、本気でやってる。勝って、目標に近づくために...1番になる為に...半分の力で勝つ?まだ僕は、君に傷1つつけられちゃいないぞ...!」
『私は、どうしてもぶつかれないんだ』
『思いっきり...全力で戦ってあげて』
緑谷「グッ....全力でかかってこい!!」
緑谷の言葉に轟の表情が怒りに満ちた。
轟「緑谷...何のつもりだ...全力?
クソ親父に金でも握らされたか?イラつくなぁっ!!」
轟が緑谷に向かって走り出した。
緑谷「!!(動きが....)」
爆豪「(鈍い!身体に霜が下りてからだ。俺の威力上限と違って、ゲームMPみてぇなもん...しょうゆ顔の時の規模がおよそ最大限か)」
轟「(近距離なら、お前は対応できない)」
轟が地を蹴り右足を浮かせた瞬間、緑谷が動いた。
轟「(右足が上がった瞬間、こいつ..!)」
緑谷「(イメージ、電子レンジの...爆発、しないしないしないしない...しない!!)」
緑谷の右の拳が轟の腹部に命中し、轟は吹っ飛ばされた。
観客席が目の前で起こった光景に湧き上がった。
「轟に1発入れやがった!」
「どう見ても緑谷の方がボロボロなのに..」
「ここで攻勢にでるなんて!」
轟「ゴホッ、ゴホッ....(何で...)」
轟が立ち上がり氷結を出すも、その威力も著しく落ちていた。
緑谷「(氷の勢いも弱まってる..!)」
それからは膠着状態が続いた。
威力の落ちた氷結を緑谷がかわし、間に合わない時は負傷した指を何度も使ってはじき飛ばした。
実況席で見ていた相澤は入学当初自分が緑谷に言った言葉を思い出していた。
相澤「個性の制御、いつまでも出来ないから仕方ないじゃ通させねぇぞ」
相澤「(威力は落ちるが、出来始めてる....無茶苦茶やってるんじゃない。勝つ為にはこれが現時点での奴の最善。しっかしまあ、いくら治るからと言っても自ら激痛に飛び込むのは相応の覚悟がいるもんだ。
何があいつを突き動かす..)」
勢いが弱まりながらも轟は氷結を出し続ける。
緑谷は負傷した指を握ることが出来ず、口に指を引っ掛けて弾いた。
轟「!!」
轟もなんとか氷結で場外を逃れる。
轟「クッ、何で...そこまで」
緑谷「期待に、応えたいんだ。笑って応えられるような...カッコイイ、ヒーローに...なりたいんだー!」
「焦凍」
『焦凍くんは、どんなヒーローになりたいの?』
緑谷のヒーローに対する想いを聞き、轟の頭の中に、2人の女性の顔が浮かんだ。
轟「クッ....ガハッ!」
緑谷が轟の腹部に頭突きをした。
緑谷「だから、みんな..全力でやってんだ、みんな!!」
轟「ハァハァ....」
緑谷「君の境遇も...君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない。でも、全力も出さずに1番になって完全否定なんてふざけるな、って今は思ってる!」
轟「知ったような口利くんじゃねぇ「君が!!傷つけたくないと思ってる子を!」
轟の言葉を遮り緑谷が声を上げた。
緑谷の頭の中には普段はあまり感情を表情に出さないが、目の前の彼を思い、自分が何もできないことに苦しくも切なく..また不安な表情を浮かべる少女の顔が浮かんだ。
緑谷「守りたいと思ってる子に、あんな顔させてるのは....不安にさせてるのは誰だよ!!君が壊れてしまうのが怖くて向き合わせてあげられないって...自分を責めてるみたいだった。
そう思わせてるのは、君自身じゃないのか!」
轟「!?」
一部の人間を除き、2人の会話の内容に観客席一体何の話しをしているのか想像もつかず、疑問符を浮かべながら試合の展開をジッと見ていた。
轟side
俺が話してない、俺や莉紗の昔の事まで知ってるかのようなその口ぶりに疑問に思うことはあったが、それよりも緑谷の言葉を聞いて俺は、俺の事で不安な表情をする莉紗の顔が浮かんだ。あいつはクソ親父に傷めつけられる俺をずっと見てきた。それを止めようとして莉紗自身殴られたことも何度もある。この火傷を負った時もあいつは目の前に....
『きゃあっ!!』
冬美「莉紗ちゃん!!」
轟「りさちゃん...ぐすっ、ごめん..ぼくのせいで..」
轟「?!」
この記憶は...
あれは、俺の左の個性が発現したばかりの時の事....
轟「りさちゃん、みて!ぼく、こせいもう1つ出たんだよ!ほら!」
いつものように姉さんに連れられて莉紗と家のすぐ近くの公園で遊んでいるときの事だった。
『ホントだ!すごーい!!』
冬美「こら、焦凍!個性無断で使ったら怒られるよ!」
轟「ちょっとだけだよ!」
『しょーとくん、もう1回みせて!』
轟「いいよ、ほら!」
まだ発現したばかりの個性。扱い方もろくに教わってない4歳児にはうまく扱えるわけもなく
『キャッ!!』
勢い余って飛び出した炎は莉紗の胸元に飛んでいった。
冬美「莉紗ちゃん!!」
姉さんがお母さん譲りの自分の個性で莉紗が火傷を負った部分を冷やしながらすぐに自宅に連れ帰った。
お母さんはすぐに莉紗を病院に連れて行った。
幸い大事には至らなかったが、その時の火傷の痕はおそらく残っているはずだ。
両親は莉紗の親に謝罪に行ったが、「そうですか、わかりました」と言っただけで俺の両親を責めるでも、莉紗を心配する素振りも見せずその日以降も特訓の時以外はウチに置いていくのは変わらなった。
轟「りさちゃん...ぐすっ、ごめん..ぼくのせいで..」
何で、何で忘れてた...今まで。
俺のこの力はあいつを...
莉紗を...傷つけたじゃねぇか。
そうだ...辛かったのは俺だけじゃない。
あいつは、自分が傷つくことをいとわず俺を庇うような奴だ。
莉紗自身、あいつに何度も傷つけられた。
俺のこの左が、あいつを傷つけた。
目の前で、俺やお母さんが傷つけられるのを成すすべなくあいつはいつも見てた。
あいつも...俺と同じく、いやそれ以上に辛かったはずだ。
そんな簡単な事にも気づかなかった...
今のままで良いのか..
今の自分は正しいのか。
わからねぇ...
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莉紗side
『(迷ってるの...?焦凍くん)』
時折二人が声を張り上げると聞こえてくる会話。緑谷が焦凍くんの抱えてるものに真正面からぶつかっているようだ。そのせいなのか、私には攻撃を受けながら、緑谷の言葉を聞く焦凍くんの表情が迷ってるように見えた。
焦凍「ゴホッゴホッ...うぇっ...」
エン「立て!こんなもので倒れていては、オールマイトはおろか雑魚ヴィランすら「やめてください!まだ5つですよ?!」
エン「もう5つだ!!邪魔するな!」
エンデヴァーは止めに入った轟母を殴った。
焦凍「?!おかあさん...?」
____
『おじさま、しょーとくんの話しきいてあげて?』
炎司「口を出すな!」
バシッ!
小さな身体で両手を広げて幼い轟を庇う莉紗の頬を平手で殴ったエンデヴァー。
焦凍「莉紗!っ、莉紗をいじめるな!!」
轟「うるせぇ....」
戦い中であるため、左の熱で体温調整することもせず限度ギリギリまで氷結を出していた轟の右側は霜に覆われて行った。
焦凍「グスッ、やだよおかあさん..ボク、ボク、お父さんみたいになりたくない!ヒック...おかあさんをいじめるような人になんかなりたくないっ!あいつ、莉紗のこともなぐって...グスッ...」
轟母「でも、ヒーローにはなりたいんでしょ?莉紗ちゃんのこと、守れるヒーローに。
いいのよ、お前は。強く思う将来があるなら」
緑谷「だから...僕が勝つ!!君を超えて!!」
緑谷は再び轟の腹部に拳をねじ込んだ。
その威力で、轟の体を覆っていた霜も剥がれていった。
3人の兄弟と、幼なじみの少女、そして少女の兄が庭で遊んでいる様子を2階の廊下から羨ましそうに眺めていた記憶。
エン「焦凍、見るな。あれらはお前とは違う世界の人間だ」
**
轟母「お母さん...私変なの。もうダメ、子供達が日に日にあの人に似てくる...焦凍の...あの子の左側が、時折とても醜く思えてしまうの。私もう育てれられない....育てちゃダメなの...」
焦凍「お、かあさん...?」
轟母「!!」
焦凍「!?」
『いやあっ!!しょーとくん!!!』
轟の母は、精神的に追い詰められ轟の顔の左側に沸騰したお湯を浴びせた。
**
エン「全く、大事な時だってのに」
焦凍「おかあさんは...?」
エン「あ?あぁ、お前に危害を加えたから病院に入れた」
焦凍「グスッ...おまえのせいだ...おまえがおかあさんを!!」
轟「俺は、こいつを....親父の、力を....」
緑谷「君の!力じゃないか!!」
轟「!!」
『!!
(そっか....そうだよね、緑谷の言う通り。左の炎は、おじさまの力じゃない...。焦凍くん自身の力なんだよね....
焦凍くんが辛い思いしてるのを何も出来ずただ見てきたからこそ、私は見えなくなってた。
ホントは、私が背中を押してあげなきゃ行けなかったのに....
左を使うことを促して、焦凍くんが壊れてしまうんじゃないかって....いや、違う。ホントは、きっと....)』
莉紗は何かを決意したように立ち上がると観客席の前方まで歩いていった。
幼い日ある時に、轟の母と轟は一緒にテレビでオールマイトを見ていた。
オールマイト「ああ、その通り。個性というのは、親から子へ受け継いでいきます。しかし本当に大切なのは、その繋がりではなく自分の血肉、自分であると認識すること。そういう意味もあって、私はこういうのさ。
私が来た!ってね」
**
轟母「でも、ヒーローにはなりたいんでしょ?莉紗ちゃんの事、守れるヒーローに。いいのよ、お前は。血に囚われることなんてないーーーーーー」
轟「(いつの間にか、忘れてしまった...この続きを。俺は...使うべきなのか?この力を....)」
緑谷の言葉の数々が轟に迷いをもたらせた。
自分はずっと、この力を..母を追い込み、幼なじみを傷つけた...そしてその元凶たる憎いあの男の忌々しい力だと、ずっと封じ込めていた。
しかし、ここに来て緑谷が自分を守るために強固に張り巡らせてきた壁をどんどん壊していく。
轟は自分は、この力を使うべきなのかもしれない。そう思うようになっていた。しかし、自分が傷つけた2人の女性の顔が彼の心を蝕み、左の力を使うことを恐れて踏み出せずにいた。
しかし...
『前見て!』
轟「!?」
『なりたい自分に、なっていいんだよ!!』
轟「!!」
ああ、莉紗。
お前はいつもそうやって...
轟「りさちゃん...ぐすっ、ごめん..ぼくのせいで..」
『しょーとくん、だいじょうぶだよ!おたがいさま!』
轟「ヒック...え?」
『わたしも、こせいであそんでるときにしょーとくんに、ねんちゃく糸くっついちゃって痛くさせちゃったから』
轟「あ、あんなのいたくなかったよ!」
『そっか、じゃあ...私もへいきだからなかなおりしよ?』
そう言って莉紗は笑って手を差し出した。そして、轟もその手を取った。
莉紗..お前も、辛かったよな。自分も辛いはずなのに、お前はいつも俺を守ってくれていた。
今も昔も俺が、お前にどれだけ救われていたか..お前は知らないだろ?
だから今度は俺がお前を守る。そう決めてた。
それなのに、親父への憎しみで俺の事でどれだけ傷ついて不安になってたか。それすら見えなくなってた。
そんな簡単なことすら見えてなかった俺が...お前の事、守れるはずがねぇよ!
自分がかつてこの力で傷つけてしまった大切な幼なじみが必死に叫んで背中を押そうとしてくれている。
そして、いつの間にか忘れていた母の言葉をあいつが全力で叫んでいる。ようやく思い出した...
轟母「なりたい自分に、なっていいんだよ」
轟の心から迷いはなくなった。そしてこの瞬間だけは彼の意識の中から憎き父の存在が消え、ただ目の前のライバルに勝ちたい...。彼女に自分の力で立ち上がり戦う姿を見せたい。その気持ちで溢れた。そう思った轟の左側に炎が姿を現した。そして、右側を覆っていた霜が溶けていく。
緑谷は目の前に立ってるだけでその熱気を肌で感じた。
麗日「っ、熱来た...」
飯田「使った...」
轟「勝ちてぇ、くせに...ちくしょう。
敵に塩を送るなんて...どっちがふざけてるって話だな...」
『焦凍くんは、ヒーローになりたいん...だよね?』
轟「俺だって....ヒーローに..!」
『焦....凍くん...』
轟の炎が現れた事。そして観客席まで伝わるその熱気に会場中が沈黙した事で確かに聞こえた轟のヒーローへの想い。それを聞いた莉紗の目からは1筋の涙が零れた。
エン「焦凍ーーっ!!」
『?!』
突然近くから叫び声が聞こえ振り返るとエンデヴァーが上機嫌で階段を降りてきた。
エン「やっと俺を受け入れたか!」
『(違うって..)』
心の中でツッコむ莉紗。
エン「そうだ...いいぞ!!ここからがお前の始まり...
俺の血を持って、俺を超えていき..俺の野望をお前が果たせ!!」
『(おじさまを受け入れたんじゃない。少なくとも、この瞬間だけは..焦凍くんの嘘偽りない想いが、左の力を自分の力として受け入れた)』
轟は、エンデヴァーの言葉なんて耳に入っていないのか目の前の相手と力の限りを出しぶつかることを心から楽しんでいる..そんな表情をしている。
エン「お前もあの緑谷という少年も、焚きつける腕があるな」
『焚きつけるって、その言い方....』
マイク「エンデヴァーさん、急に激励...か?親バカなのね」
緑谷「すごっ..」
目の前の相手が余すことなく放出する炎の勢いに思わず口角が上がり素直な感想が口から飛び出した緑谷。
轟「何笑ってんだよ。そのケガで、この状況で。お前...イカれてるよ。どうなっても知らねぇぞ」
そして、轟は自分の右の下がりに下がった温度を左の熱で戻すと自分の右足を中心に氷結を出し始めた。勢いを取り戻した氷結はステージの温度を一気に氷点下にした。それに対応すべく、緑谷も足にパワーを溜め始めた。そして、轟は氷結を緑谷に向け解き放ち緑谷は地を蹴り氷結を避けたり壊しながら轟との間合いを一気に詰めた。迫ってくる緑谷に轟は、左手を向けた。
轟「緑谷.....ありがとな」
そう言う轟の目から一筋の涙が流れた。セメントスが二人の間を割るようにコンクリートの壁を出すものの、両者問答無用に緑谷が氷結を破壊するべく腕を振り、轟は炎を放った。するとステージ上は突然爆発を起こし辺りは真っ白な視界に包まれた。
あたりは立っていられない程の爆風に包まれた。
マイク「ててて...何、今の...お前のクラス何なの?」
相澤「散々冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張した」
マイク「それでこの爆発って..どんだけ高熱だよぉ!ったく何も見えねぇ!!」
『(昔1度だけ、規模は可愛いもんだったけど見たことある....)』
爆発と爆風によって舞い上がった砂塵や煙がステージの視界を0にしていたが、少しずつ煙が晴れ、姿が見えてきた。
そこには、ステージに残った轟と場外の壁に叩きつけられ気を失っている緑谷が地に伏せてしまったところだった。
ミッドナイト「み、緑谷くん...場外!
轟くん!3回戦進出!」
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