Season2
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『(なんか、スゴイイライラしてない...?私と別れた後何が...)』
莉紗は轟の異様な苛立ちが気になり立ち上がって走り出した。
麗日「あ、莉紗ちゃん?どこ行くん?!」
『ちょっと、出番前にトイレ』
轟を探しにバックヤードに向かった莉紗。
『!!』
エンデヴァー「莉紗か、久しぶりだな」
出来れば莉紗自身会いたくなかったし、轟にも関わるなと言われていたエンデヴァーがいた。
『お久しぶり、です..』
エン「グルーガン達から聞いていた通り、ウィンドリアの個性。自在に使えているようだな」
『特訓したんで..』
エン「わざわざお前を引き離す必要もなかったな」
『.....どういう「あいつは未だに幼稚な反抗をしている。お前が話すのが効果的だろう。左を使うように話してみろ」
莉紗の言葉への返答をすることなく自分の言いたいことだけ言ってのけるうえに、相変わらず轟の事を省みないその物言いにカチンときて莉紗の目つきは鋭くなった。
『使う使わないは本人次第だから私は何も言いません。
っていうか、それわざわざ試合前の焦凍くんに言ったんですか?』
エン「意地を張って醜態ばかりだからな」
『(......クソ、イライラしてたのはそのせいか)』
「何してる」
会話を遮るように発せられた声は馴染んだ声なのに聞き慣れないトーン。その声の主、轟焦凍はエンデヴァーと莉紗が話してる光景を見て表情を歪ませた。
『しょ、とくん..』
轟「ッ...来い」
キィっと歯を食いしばり眉をしかめた轟は2人の間に割って入り莉紗の腕を掴むと足早にその場を離れようとした。
エン「手放すなよ、個性だけではない。色々とお前に必要になるだろう」
エンデヴァーが言ったその言葉を聞いて轟の頭の中に嫌でも蘇った単語。
"個性婚"
轟「っ、俺に莉紗は必要ねェ!」
突如怒鳴り散らすように轟が言い放ったその言葉に内心胸を痛めた莉紗。
『っ!
(分かってる...今焦凍くんは、イラついてるから...分かってる、けど...)』
エン「お前はまだ気づいていないだけだ」
轟「テメェ!二度と莉紗に関わんな!」
『ちょ、焦凍くん落ち着いて...』
何かと怒鳴りつける爆豪とは正反対で、苛立ってても怒っててもどちらかと言えば相手を威嚇するように怒気を込めた声色で静かに淡々と言うタイプの轟が珍しく尋常じゃない程に感情を露わにしそう言い放った。今にもエンデヴァーに殴りかかりそうなその様子にさすがに止めに入った莉紗。
『ほら、もう次の試合始まるから行こ』
半ば強制的に轟の身体を押し、その場を離れた。
**
人気のない倉庫の陰にやってきた二人。
轟は倉庫に寄りかかるようにしてしゃがんだ。
『焦凍くん...?』
名前を呼ばれ、顔は動かさず視線だけ動かした轟。
轟「....あいつに、何言われた」
先ほどよりは落ち着いたようだが、声のトーンはまだイライラしてる様子の轟。
『あー...ウィンドリアの個性自在に扱えてるようだなって。まあ、ただの雑談』
轟「...........」
莉紗は轟の隣に座り込んだ。
『あのね、体育祭始まってからずっと見てて思ったんだ。
焦凍君は、何見てるんだろうって...。』
轟「何が言いたいんだ?」
『焦凍くんは、ヒーローになりたいん...だよね?』
その問いに轟は答えようとはしなかった。
『こんなこと言って気悪くしたらごめんね。
何か、雄英入ってからの焦凍くん。昔みたいなヒーローになるって思いがいまいち感じられなくて...
何ていうか、ヒーローになりたい気持ちが0とは思わないけど、それよりおじさまを見返したいって思いの方が強い気がしてならないんだ...』
轟「..............」
『もちろん目標は人それぞれだよ。けど、今日は。焦凍くん、誰の事も見えてないと思う』
轟「..言ってる意味がわからねぇ」
『目の前に立つライバルの向こうにエンデヴァーを見てる』
轟「...!」
『どんな相手が目の前にいても焦凍くんはその相手にエンデヴァーの姿を見てる。
どんな状況でも、どう相手を攻略するか考える向こう側でどうしたらエンデヴァーが表情を歪ませるかを考えてる』
轟「......っ....」
轟は思い当たる節があるのか、図星なのか少しだけ表情を歪ませた。
『だから、騎馬戦の時とっさに出した左の炎...あの時だけは、エンデヴァーじゃなく緑谷自身を見ていたんじゃない?』
轟「あの時は...」
何かを言いかけて言葉をつぐんだ轟。
『焦凍くんはどんなヒーローになりたいの?』
轟「俺は.....」
『.....大丈夫だよ。焦凍くんがどんな答えを出したって。私は、いつだって焦凍くんの味方。応援してるよ』
言葉を詰まらせた轟の手を取りその右腕に自分の粘着糸を1周緩めに巻いた莉紗。
轟「..........」
轟は腕に巻かれた粘着糸を数秒見つめると、莉紗を見た。
『お守り、なんてね』
そう言って莉紗は微笑み、立ち上がるとその場を後にした。
**
莉紗が皆のところに戻る途中...
緑谷「風舞さん」
『...緑谷?』
緑谷「聞きたいこと、あるんだけど...いいかな」
『...私に?』
緑谷に促されながら2人は人のいない物陰にやってきた。
『何?聞きたいことって』
緑谷「あの...轟くん、の事なんだけど」
『轟くん?何で私に?』
緑谷「幼なじみなんだよね?」
『.....轟くんが、自分で言ったの?』
緑谷「うん」
『....そう。それで、何が聞きたいの?』
表情を変えず感情が読めない淡々とした物言いで緑谷に聞く莉紗。
緑谷「轟くんから、生い立ちを聞いたんだ。エンデヴァーが轟くんをオールマイトを越えるヒーローにしようとしてるって。けど、それが叶わなかったときのための保険も用意しているって。
それが何か聞いたら、風舞さんのことだって言ってた。
その意味が気になったけど、轟くん本人にそれ以上は聞けなくて...風舞さんの事だからもしかしたら知ってるかもと思って」
『..........』
緑谷「ごめん、他人の僕がこんな突っ込んだ事情に探り入れるようなこと...けど、僕に話した轟くん本人もすごく思い詰めた表情してたから」
『.......多分、なんだけど』
緑谷「え?」
『轟くん本人も、エンデヴァーにはっきりそれを言われたわけじゃないんだと思う。そして、私も、なんとなく察したってだけで確定的じゃない』
緑谷は黙って莉紗の言葉に耳を傾けた。
『轟くんが産まれた経緯は聞いた?』
緑谷「うん...エンデヴァーが個性婚で、って話しは...」
『そう、それ』
緑谷「え?」
『エンデヴァーは、轟くんがオールマイトを越えられなかったときの保険に、今度は轟くんにそれをさせようとしてるん、だと思う』
緑谷「え、じゃあ..その相手に」
『うん、私とね』
緑谷「そんな....」
『昔の話しなんだけど。小学校の低学年の時に色々あってエンデヴァーから出禁食らって会えなくなったんだ。
中学も別の所だったからそのまま音信不通だったんだけど、中学入ってすぐの頃にたまたま再会したの。
それから半年くらいは放課後一緒に特訓したり轟くん家にご飯食べに行ったりしてた。
けど、ある日今度は轟くんから突然拒絶されてそれからまた会わなくなって。
でも雄英で、はたまた再会して...最近ちゃんと話し合ったらね。エンデヴァーが私の事利用しようとしてるのに気づいたから突き放したって。
昔からね。私が怪我したり傷つくの異様に嫌がってたから怖かったんだね。私が、エンデヴァーに傷つけられると思って。
だから、その保険の話しももしはっきり告げられてたらきっと轟くんは私との関わりを一切断ち切るはず。今まだそれをしてないってことは匂わせたことを言われて轟くんが察したってだけなんだと思う』
緑谷「そんな、轟くんの意志も風舞さんの意志も....」
『ないよ、あの人には。あるのは自分の野望だけだから』
轟に引き続き、莉紗からも衝撃の事実を聞かされ言葉をなくした緑谷。
緑谷「ごめん、そんな話し..聞いちゃって」
『ううん、自分の話ししない轟くんがそこまで話したのにもワケがあるだろうし。それに緑谷はペラペラ他言するような奴じゃないと思ってる。
あのさ、緑谷』
緑谷「な、なにかな?」
意志のこもった強い眼で緑谷を見た莉紗。
『思いっきり...全力で戦ってあげて』
緑谷「え?」
『轟くんの目にはね、エンデヴァーしか映ってないんだ。
エンデヴァーへの嫌がらせで頭がいっぱい。
長い間苦しめられてきたから、仕方ないんだけど..こうしてヒーローになるための世界に飛び込んだ今でもエンデヴァーの幻影に囚われてる。それが、轟くんの可能性を閉ざしてる...
だから騎馬戦の時、緑谷と対峙して無意識に左を使いかけたの見て緑谷なら轟くんを解放してあげられるかもって思った』
緑谷「風舞さん....」
『顔の火傷の話しは聞いた?』
緑谷「あ、うん...お母さんに煮え湯を、って」
『...私もさ。その場面、目の前で見ててね』
緑谷「え...」
『轟くんのお母さんは、轟くんのこと憎んでた訳じゃない。ちゃんと心から大切にしてたし、轟くんのこと愛してた。
でもそれ以上にエンデヴァーに追い詰められて...おかしくなっちゃったんだ。
目の前にいる小さな轟くんがエンデヴァーに見えてしまうくらい...大切な我が子だと認識出来なくなってしまうくらい...壊れちゃったんだよね』
緑谷「そんな....」
『私もさ、頭では分かってるんだよ。轟くんはこのままじゃダメだって...ホントは多少手荒でも向き合わせてあげるのが本人の為だと思ってる。でも、やっぱそういうの全部見てきちゃったから私はどうしてもぶつかれないんだ。
ぶつかって、もっとダメになって轟くんの心が壊れちゃったら...って考えちゃってさ。どうしても、守ろうとしちゃうんだ』
緑谷「.............」
緑谷はそう話す莉紗の表情があまりにも切なそうで、それでいて不安げなその表情に胸が締め付けられた。
轟程ではないものの、普段あまり表情に感情を乗せない彼女。
どちらかと言えばクールなタイプで、動じている様子は短い付き合いの中だがまだ見たことがない。戦闘訓練でもヴィランと対峙した実戦でさえも、不安や迷いなど一切見せずに冷静さを見せつけた彼女がこれほどまでに不安そうな表情をしてしまうほど、心底彼のことを案じているのが痛いほど伝わってきた。
だからこそ、緑谷の中で莉紗が先程言っていた轟は彼女が傷つくのが怖いという言葉が引っかかった。
彼が目の前の少女を大切に思っているのは彼らの話しを聞けば間違いない。
だが、彼女にこんな不安そうな顔をさせているのは多かれ少なかれ轟自身であると。エンデヴァーへの憎しみで、彼女のこの表情に気づいていないのでは..とそう思った。
『だから、緑谷には全力で戦ってあげて欲しい。閉じ切った視野、広げてやって欲しいんだ』
緑谷「風舞さん.....
僕、轟くんに全力で戦って勝つよ」
強い決意を秘めたその目に莉紗は切なさを入り交ぜた微笑みを浮かべた。
『轟くんの個性は、範囲も威力もケタ違いだからチートくさい。だけど、個性は個性だから完璧ではない』
緑谷「え?」
『特に、左を封じてる今はデメリットの方がデカいんだ』
緑谷「デメリット?」
『これ以上はテストの答え教えてるみたいなもんでズルいから』
悪戯な笑みを浮かべて言う莉紗に緑谷は先程まで緊張感が少し解けた。
『緑谷なら戦ってるうちに見えてくると思うよ、轟くんの攻略法』
緑谷「ありがとう!風舞さん」
莉紗は幾分先ほどよりも柔らかい表情を浮かべ、観客席に戻って行った。
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