Season5
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2人揃って池に落ちてびしょ濡れになった俺と夏兄は莉紗に呆れた顔を、姉さんには苦笑いをされて押し込まれるように一緒に風呂に入った。
夏雄「はぁーっ...」
夏兄が湯に浸かりながら大きく息を吐いたのを聞いて罪悪感に苛まれごめんと呟くと夏兄も気まずそうな顔をしながら顔を横に振った。
夏雄「謝んなよ、俺がいきなり投げたのが悪いんだから」
轟「いや....うん」
だが、夏兄とこうして湯に浸かってる事が不思議な気持ちなのは幼少期の頃から思い返しても一緒に風呂に入った事がなかったからか。
轟「夏兄と風呂入んの初めてだ」
夏雄「そうだな。寮の風呂って大きいんだろ?」
轟「この倍以上ある」
夏雄「みんなとわいわい入んのも楽しそうだな」
轟「普通かな、もう慣れた。頭とか洗っちゃったほうがいいよね?」
もう夕方だし夜にまた入るのも面倒臭ぇからついでに全部洗っちまおうと思ったのは俺だけじゃなかったみたいで先に使っていいと言われ、俺は一度湯舟を出てシャワー蛇口を捻った。
夏雄「焦凍.....か?」
轟「え、何か言った?」
シャワーのせいでうまく聞き取れなかった夏兄の言葉を聞き直す為に振り返ると夏兄が少しだけ笑いながら学校楽しいか、と言い直してくれた。
轟「...楽しいのとは少し違う。訓練は厳しいし、授業もびっしりあるし」
夏雄「そっか、そうだよな」
轟「でも、だからいいんだ」
夏雄「そっか!」
俺の返答を聞いて何故か嬉しそうに笑った夏兄。
轟「夏兄こそ、大学は?」
夏雄「大変だよ!でも楽しい!」
轟「彼女できたって姉さんと莉紗が言ってた」
夏雄「っ!2人共余計な事を...」
照れくさそうにした夏兄がお湯に半分顔を沈めたのが面白くて小さく吹き出しちまったけど、そんな俺のリアクションに気を悪くした様子もなく夏兄も釣られるように笑った。
夏雄「焦凍は?そんな子いないのか?」
そういや莉紗と付き合ってる事は姉さんしか知らねぇんだったな。というか姉さんも別れてた事も知らねぇよな。
轟「............」
夏雄「そのリアクション...お前いるな?!」
轟「いや、まあ...」
夏雄「どんな子?」
轟「....夏兄もよく知ってる奴」
夏雄「え、俺も知ってる?」
驚いた夏兄が顎に手を当てて考え始めた。
夏雄「え、まさか...莉紗ちゃん?」
目を大きく見開いた夏兄が俺の顔をジッと見て聞いてきた。
轟「そう」
夏雄「え、いつの間にそんな事に...」
轟「夏休みの終わりくらいから」
夏雄「へぇ、まあ2人昔から仲良かったし納得いくっていえばいくけど。姉ちゃんは知ってんの?」
轟「付き合った日にバレた」
夏雄「やっぱ焦凍も姉ちゃんには嘘つけねーか」
轟「いや...」
夏雄「ん?」
轟「姉さんと莉紗には嘘つけねぇ。つけねぇつーか、すぐバレる」
何故か心を読むみたいに見抜いてくるからあの2人には隠し事も出来ねぇ。....隠す事もねぇけど。
夏雄「2人とも鋭いからなあ。じゃあ友達は?どんなヤツと仲良いんだ?」
夏兄にそう聞かれて、俺は学校での生活を思い返した。
轟「緑谷と飯田かな。昼飯は大体一緒に食ってる。一緒に勉強したりもしてるし」
夏雄「へぇ、もっと莉紗ちゃんといつも一緒にいんのかと思ってた」
轟「最初の時はいたけど、最近は莉紗も他の友達と居る事も多い」
夏雄「へぇ、でも良い事じゃん」
体育祭の後、話をしてから一緒に居る事は多くなったけど、莉紗は俺と違って人付き合いが下手じゃないからわりと色んな奴と普段から絡んでる。
別れてからは麗日や蛙吹と飯を食ってるのをよく見かけるし、気が合うらしく教室では耳郎と一緒に居る事も多い。
轟「爆豪とは、補講一緒に行ってたから仲良いと思ってたけど違うみてぇだ」
夏雄「でも、さっきのボールくらいちゃんと捕れないとな」
夏兄のいうさっきは池に落ちる直前の事だ。
鯉のエサを探している時に夏兄が見つけて俺に投げて来たけど、俺はそのボールに意識を取られちまった。
轟「...驚いたんだ。あのボール、夏兄達が昔遊んでたボールだったから。いつも混ざりたいなって思って見てたんだ」
いつも親父に手を引かれながら皆が遊んでる所を羨ましく思いながら見ていると、必ず莉紗と目が合った。
その時のあいつはいつも悲しそうな顔で俺を見ていた。
あいつなりにいつも俺の事を守ろうと親父の前に立ちはだかり傷ついてきたのに、どうにもしてやれねぇ事に悔やんでたに違いねぇ。
そんな悲しそうな莉紗の顔を見たくなくて次第にみんながサッカーをしていても俺はそっちを見なくなっていった。
夏雄「風呂あがったらサッカーでもやろうぜ」
轟「え、風呂上りに?」
夏雄「汗かいたらまた入ればいいだろ」
唐突な夏兄の提案にわかったと言おうとしたその時脱衣場の戸があく音がした。
冬美「夏、焦凍!ちょっと姉さんも莉紗ちゃんも出てくるから!」
夏雄「え、何で?」
冬美「寛ちゃんが熱出しちゃって当番医の所に連れて行くのと、頼んでたお餅取りにいくの!梨央ちゃんは宿題やって待ってるみたいだから頼むわね」
夏雄「....上がるか。梨央ちゃん寂しがるだろうし」
轟「ん」
風呂から上がり居間に行くと梨央がテーブルで宿題をやっていた。
梨央「あ、焦凍お兄ちゃん、夏お兄ちゃんおかえり」
夏雄「ただいま。寛太くん、大丈夫?」
梨央「ん~。機嫌は悪かったけど、でもおやつ食べてたから多分大丈夫かな」
夏雄「そっか。偉いね、宿題やって」
梨央「うん、早く終わらせちゃいたいから」
轟「姉ちゃんも梨央みたいに先に終わらせればいいのにな」
夏雄「莉紗ちゃんは駆け込みタイプ?」
轟「1学期の時はそうだった。まあ、あん時は色々あったのには違ぇねぇけど。普段から宿題忘れがちだから多分..」
梨央「お姉ちゃん、中学の時はいつも家の事で忙しかったから忘れちゃってたんだ。夏休み中とかは寛ちゃんあんまり保育園行けないから」
轟「そうなのか?」
梨央「お家で見れる時はお家でみてくださいって言われるから保育園預けられないんだって。だから寛ちゃんがほとんど家にいたから勉強とかあんまり出来なかったんだと思う」
中学の時、家の事で勉強が出来ず成績落としたって事は聞いていたが、思ってた以上に家の事で大変だったんだな。
それを見て育ってきてるから梨央もあいつに苦労かけねぇようにこんなしっかり者に育ったって事か。
姉さんに上げ膳据え膳してもらって育ってきた俺とは違ぇな。
夏雄「苦労してんだな、莉紗ちゃんも」
轟「宿題、わからねぇトコないか?」
梨央「うん、今算数やってるから。私算数得意なんだ!」
夏雄「へぇ、算数得意なのすごいな」
梨央「へへ」
轟「なんかわかんねぇとこあったら聞けよ」
梨央「うん!」
あの様子だと梨央は宿題で躓く事もなさそうだと思い、俺は夏兄と台所に行った。
おせちは完成していて、大きな鍋にはさっきまで火がかけられていたのか、お湯が張られている。隣の中くらいの鍋には、いい香りのそばつゆが入っていてスプーンでそのつゆを味見してみた。
轟「ん、このそばつゆ莉紗だ」
夏雄「わかるの?」
轟「姉さんは鰹の香り強めで、莉紗は甘味が姉さんのより強め」
夏雄「へぇ。どっちが好きなの?」
轟「どっちも気分とかもあるけど」
夏兄とそんな話しをしていると綿棒や大きなこね鉢、そば粉などが置いてあった。
夏雄「蕎麦、打つとこだったんだな」
夏兄の言葉も耳に入らないくらい俺はそば打ち道具に目を奪われた。蕎麦打ち....やってみてぇ。
そう心で思っていた俺の肩に夏兄がポンと手を置いた。
夏雄「サッカーはまた今度にしよう」
轟「え」
夏雄「だって蕎麦打ちたいんだろ?」
どうやら見抜かれたようだ。
誤魔化すこともせず、俺は小さく頷いた。
夏雄「蕎麦大好きだもんな。ほら、姉ちゃん帰ってくる前に打って、驚かせてやろうぜ」
轟「....うん」
腕まくりをしていざ始めようかと思ったが、実際蕎麦を打ったことのない俺には何からどう始めたらいいのかわからない。
そもそも、料理すらまともに出来ず莉紗に怒られてばかりの俺に蕎麦打ちなんか出来るんだろうか。
夏雄「焦凍?打たないのか?」
轟「打ちたいと思ってたけど、打ったことない。夏兄は?」
夏雄「俺もないよ!え、初心者2人で打てるもんなの?ちょっと待ってろ、ググる」
夏兄が携帯で蕎麦打ちを調べてみたらしけど、やはり初心者には難しそうみたいだ。
そういや職場体験の時に、莉紗も蕎麦打ちはしたことないけど誕生日に手打ちそば食べさせてやるって約束してくれたな。
あいつはもうやってみたんだろうか。
でも、あいつは器用だからすんなりやれそうな気もする。
夏雄「十割は難しそうだから、二八でやってみるか」
轟「いや、十割が良いと思う」
夏雄「でも難しいって」
轟「蕎麦は十割が美味いから」
俺が十割で引かないと感じ取ったのか夏兄は十割の打ち方を調べてくれてなるべく簡単なやり方を探してくれた。
俺達はその動画の通りに進めていく。
夏雄「水回しが一番大事らしいからな...行くぞ、水入れたら素早く全体に行き渡らせるんだぞ」
轟「分かってる...お」
夏雄「うわっ、粉飛ばすなよ!力入れ過ぎだって!」
轟「夏兄、そば粉足して」
夏雄「こんくらいか...あっ、やべ!計るの忘れてた!」
轟「あ...」
***
冬美「ただの風邪みたいで良かったね」
『ホント、年末年始にひやっとしたよ。冬ちゃん、ありがとね』
冬美「ううん!さて、蕎麦打たなきゃ!あ、寛ちゃん居間に寝かせる?」
『そうだね、目離すの心配だし』
冬美「じゃあお布団持っていくから先に居間に行っててくれる?」
『うん、ありがと』
居間に行くと梨央がTVを見ていた。
『あ、宿題終わったの?』
梨央「うん、暇だったから算数全部終わらせちゃった」
そう言って算数のドリルをペラペラと私に見せて言ってきた梨央。
『え、そうなの?さすが、お姉ちゃんとは出来が違うわ』
梨央「へへ、寛ちゃん大丈夫だった?」
『うん、ただの風邪だと思うって。飲んだり食べたりも出来てるから多分大丈夫かな?』
梨央「そっか、よかった」
『焦凍くんと夏くんは?』
梨央「お風呂あがったあと一回居間に来た後二人で台所行くって言ってたよ?」
『台所?お腹でも空いたのかな?』
焦凍くんはともかく夏くんはそれなりに料理が出来るから何か小腹埋めに作ってくれていたのかも..?
そう考えていた時、冬ちゃんが布団を持って居間に戻って来た。
冬美「この辺で良いかな?」
『うん、梨央ごめん。料理の仕上げしちゃうから見ててもらっていい?』
梨央「うん、いいよ」
冬ちゃんと一緒に台所に入ると、2人の後ろ姿が見えた。
冬美「ただいまー。ごめんね、遅くなって...どうしたの?二人とも」
何故か腕が粉だらけの二人が静かにこちらに振り返った。
『何で、粉だらけ...?』
夏雄「2人とも、ごめん...」
轟「蕎麦、失敗した....」
2人のその言葉に冬ちゃんと顔を見合わせてテーブルの上を見るとざるに盛られた謎の物体。蕎麦の色をしているけどどう見ても蕎麦ではない物体だった。
冬美「...もしかして、2人で作ったの?」
冬ちゃんのその問いかけに頷いた2人の傍らには空になったそば粉の袋があった。
冬美「ははぁー」
『何で、こんな形になるんだい?』
呆れ通り越して感心している冬ちゃんに、同じく呆れを通り越して疑問を口にした私。
その目の前でまるで叱られるのを待っているかのように眉尻を下げて気まずそうな顔をしている焦凍くんと夏くん。
夏雄「俺が分量失敗して...」
轟「俺も水回し何回やっても出来なかった...」
シュンとする2人に怒る気すら涌かず冬ちゃんと顔を見合わせて苦笑いをした。
冬美「いいよ、失敗しちゃったものは仕方ない。これ食べよ」
夏雄「ええ?!ウソだろ?!」
冬美「だって中身はそばでしょ?」
『まあ、そばがきみたいなものだと思えば』
夏雄「年越せないよ、これじゃ」
冬美「だってもう蕎麦粉ないじゃない」
轟「.......そば」
悲しそうに呟く焦凍くんに3人で顔を見合わせ思わず吹き出した。
夏雄「ほんっとそば好きだなー」
冬美「ねー」
『ていうか毎日食べてるでしょうが、そば』
私達に笑われて最初こそ「何だよ」と眉根を寄せた焦凍くんだけど、やがて釣られるように笑みを浮かべた。
***
冬美「お父さん、遅いなぁ」
テレビのある和室にザルに盛ったそばがきのようなものと天ぷらなどとともにお刺身を並べ、食卓についておじさまの帰りを待ってる私たち。
『あれ、そういえば梨央達おじさまに会うの初めてじゃない?』
轟「ああ、そうだな」
冬美「あ、ううん!前に一回だけあるよね」
梨央「うん!」
『え、いつ?』
予想外の返答に私と焦凍くん、夏くんまで驚いて冬ちゃんに注目した。
冬美「前におばさまに緊急要請が来て2人を預かった時にたまたまお父さん早帰りしててね。その時に!」
『へぇ...寛太、冬ちゃんから離れなかったんじゃない?』
冬美「うん!べったりされて可愛かったなあ〜」
『梨央は、おじさま怖くなかった?』
梨央「うん、別にー?顔の怖さならお父さんといい勝負だもん」
『あぁ、まあ....』
あまり相手に物怖じしない所はさすがあの親にこの姉ありってところだよね。
夏雄「それよりさ、どうせ仕事だろ。さっさと食べちゃおうよ。あいつが帰ってくる前に俺、出るし」
そっけなく言う夏くんに冬ちゃんが困ったように眉尻を下げたけど隣で焦凍くんも腹減ったってうるさいし梨央もお腹が空いているみたいで「じゃあ食べちゃおっか」と先に食事を始めている事にした。みんなで「いただきます」と手を合わせ思い思いに好物に箸をつけていった。
大好きな刺身を食べて声を唸らせた夏くん。
冬美「やっぱり魚吉さんのお刺身は新鮮でしょ」
夏雄「最高!」
いつもお刺身を頼んでいる近所の魚屋さんのお刺身に夏くんが満面の笑みを浮かべている横で、焦凍くんが納得のいかないような顔でそばがきのような物体をかじっている。
冬ちゃんが多分明日蕎麦打ち直して持たせてくれそうだけど年明けたら誕生日だし、私も早いところ完成させないとな。
そんな事を考えていたらTVの中の番組司会者驚いたような声をあげた。
【ここで緊急ニュースです!!静岡タワーに巨大なゴリラが出現!どうやら数日前に留置所から逃走したキングコングが個性のヴィランかと思われます!中継が繋がったようです!】
画面が変わるとそこには静岡タワーが映っていた。
高くそびえたつ静岡タワーにキングコングが上がり吠えていた。
梨央「でっか...」
冬美「やだ、結構近くじゃない。大丈夫かしら」
そんなキングコングの姿にちょっと引いてる梨央に、身の危険を危惧する冬ちゃん。
『何かあったら私と焦凍くんが守るから大丈夫だって』
緊張感が走っているのかそうじゃないのかよくわからない空気感の中、TV画面がキングコングの手元をズームしていった。
【こちらリポーターの佐藤です!大変です!ヴィランが人質を手に....これは、エンデヴァー?!】
冬美「お父さん?!」
夏雄「『グフッ...!!』」
何故かキングコングの手の中でもがいているエンデヴァーの姿に驚く冬ちゃんに、突然の事で口に入れた刺身や伊達巻を吹き出しそうになってむせた私と夏くん。
梨央「エンデヴァーのおじさん、何で捕まってるの?」
『さ、さあ....』
夏雄「何やってんだ?!アイツ..」
【捕まっているのはエンデヴァーです!しかし、何故反撃しないのか...ん?手に何か持っているようですね】
そのリポーターの言葉におじさまの手にちゅうもくすると、確かに両手いっぱいに紙袋を持っている。
『あれってもしかして....』
【ああっ!ヴィランがエンデヴァーを握りつぶそうとしているようです!!】
さらにズームアップするカメラが苦しそうなおじさまを捉えた。そのとき、おじさまが持っていた紙袋を落としたかと思うや否やパッと自身を発火させプロミネンスバーンを放った。
落ちて行った紙袋から出てきたのは肉や蟹や新巻鮭や葛餅など。
みんなが集まるからと、張り切って買ったんだろうご馳走達が無惨にも地面に落ちていく最中、エンデヴァーの炎に飲みこまれ炭と化した。
『ウホオッ・・・・!!」
プロミネンスバーンが直撃したヴィランはそのまま倒れた。
【エンデヴァー、一撃で敵を倒したぁー/今年最後のナンバーワンヒーローの雄姿、ご覧いただけましたでしょうか!しかしなぜかエンデヴァーは浮かない顔をしております!なかなか減らない犯罪を憂慮しているのでしょうか・・・・・・!!】
おじさまの視線はご馳走の成れの果てに注がれている。浮かない顔の原因を知るのは、ここにいる私達だけだろう。
冬美「‥とりあえず、無事でよかったよ〜」
夏雄「なにやってんだよ」
安堵する冬ちゃんに軽蔑混じりにあきれ顔を浮かべる夏くん。
画面から視線を戻した焦凍くんはそばがきのような物体を見た。
轟「そば…」
まだ納得のいっていない顔に、その場にいた誰もが笑った。
『これからヴィランの引き渡しして事務所戻って報告書の作成。そんでなんだかんだ所長案件の業務に捕まって...さて、日付け変わる前に帰ってこれるかな?』
冬美「夏、お父さん遅くなりそうだし、ゆっくりしなよ。ね?」
夏雄「ん〜。じゃあもうちょっといようかな」
冬美「それじゃ、私、お酒でも飲んじゃおうかな。大晦日だしね、ちょっとだけ。お父さんがいい大吟醸いただいたの」
パタパタと酒をとってきた冬ちゃんに、夏雄がその酒を注ぐ。
夏雄「今年もお疲れさま!いつも家のこと、ありがとね」
梨央「冬美お姉ちゃん、いつもありがとう!」
冬美「どういたしまして〜。ホント莉紗ちゃんに似て素直で良い子だなあ」
『私素直だったかな....』
褒め言葉なのに疑問が大きすぎて素直に喜べない私はぽつりと呟いたけどすでにお酒で良い気分になってる冬ちゃんの耳には届かなかったようだ。
冬「早く夏雄も呑めたらいいのになぁ。」
夏雄「来年まで待ってよ。いつか焦凍や莉紗ちゃんとも呑みたいな」
焦凍「うん」
夏雄「梨央ちゃんが飲めるようになるのは12年後か〜。俺も30超えてるし結婚とかしてるかもな!」
梨央「夏お兄ちゃん良いパパになりそうだよね」
夏雄「え、そうかな?」
冬美「あ、このそばがき、お酒と合う」
夏雄「姉ちゃん、一応、それ年越しそば目指したヤツだからね?」
轟「そばと酒って合うの」
冬美「合うよー。・・・・退院したら、お母さんとも呑みたいな」
一口ニロでほんのり酔いはじめた冬ちゃんが、幸せそうに笑って言った。
『…きっと呑めるよ』
思い耽るように言った冬ちゃんに私も少し考えて言葉を続けた。
夏雄「焦凍、そのときは今度こそうまい手打ちそば作ろうな」
轟「......うん」
小さく、けれどしっかりと頷いた焦凍くんに夏くんと冬ちゃんと私は顔を緩める。
テレビはまた賑やかな特別番組に戻った。
穏やかな轟家との大晦日がゆっくりと過ぎていく。
いつの日か、こんな時間が日常になるようにと願いながら。
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