Season5
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俺は、まだまだだ。
安心させられるヒーローには程遠い。
助けられてばかりだ。
**
『あのさ』
作戦会議を終わらせると莉紗が話しかけてきた。
轟「どうした」
『体育祭からずっと見せてきたことで焦凍くんの氷結ブッパ大分警戒されてると思うし第一手のバリエーション色々変えてみた方がいいと思う』
轟「バリエーションか」
つまり、莉紗が言いたいのは左から攻める方法も考えろって事だ。
『とは言っても使い慣れてるだろうし癖になってるところもあるだろうからいきなり言われても難しいと思うけど。まあいきなり試みてもたつくのも良くないから今日は任せるけど、今後のこと考えたら左からの攻撃展開パターンも考えたほうがいいかもよ』
轟「ああ、そうだな。サンキュー」
『ううん』
敵を視認し、作戦通りに辺り一帯を氷結で凍らせた。
地面を柔化しようと上から氷で覆えば問題ない。
氷結で一旦足止めをして、一斉に一網打尽にする。
飯田のエンジン音が聞こえ、俺も炎を出す準備をしていたが飯田が氷塊の上に足を乗せた瞬間氷が形を歪ませた。
骨抜「氷結ブッパは安い手じゃん。もっと非情に火攻めで来られたら、打つ手なかったのに」
ちきしょう...開始早々、試合前に莉紗の言葉がそのまま現実になった。
拘束するものがなくなりB組の奴ら次々と自由になっていく。
骨抜「近辺適当に柔らかくしといたから。足場信用しない方がいいぜ」
骨抜の柔化した配管の罠にハマった尾白に回原が攻めた。
莉紗の第2撃も一向に来ない。
足止めを食らってるか?
仕方ねぇ、俺はもう一度氷結を出して壁を作った。
この状況じゃ、炎と氷も思いっきり使えねぇ。
前に出るか?しかし、索敵役の障子のガードが...。
どうすべきか悩む俺の後方で障子の声が聞こえ後ろを振り返ると角取の角が障子捕えていた。
轟「障子!」
角取「索敵役の障子クンを安全圏に置く形態デェス。
So、例えば轟クンのbackとかネ!」
障子に気を取られていると鉄哲が氷結をぶち壊してそのまま突っ込んできやがった。
鉄哲「テメェよぉ、冷てェんだよなぁおい氷がよぉ!鉄哲がキンキンだよ、轟ィ!ステゴロでテメェが、俺に勝てるかァ!!」
鉄哲に背中から地面に叩きつけられたがすかさず立ち上がり氷壁で距離を置く。
だが、鉄哲はまるで物ともせずに氷を壊して進んで来る。
鉄哲「氷の防御なんざ!正義の鉄拳でぶち破るー!!」
轟「なら、炎の壁で!」
障子の方にいかないよう注意しながら辺り一面を炎で包み、距離を取る。
轟「障子!角取頼む!」
障子「あぁ!」
ここからどう攻めるか、最善を考えるも中々浮かばない。
退いてくれ、一旦距離を...。
轟「!」
炎の中に人影が見える。まさか...。
鉄哲「何で俺がテメェの相手してるか、分かってねェなァ。効かねぇからだよ」
熱で、紅く...!
鉄哲「今度は鉄哲がチンチンだよぉ!おい!」
ある程度は、想定していたが。
ここまで意味を成さないのか...。
奴相手に、氷も..炎も..。
鉄哲「個性伸ばしの一環よ!!テメェ、かまどで暮らした事あるかァ?!」
氷結も炎も通じねぇ、一旦退こうにも距離を取れねぇ中鉄哲の拳を避ける事も出来ずに何度か殴られ胸元を掴まれ持ち上げられた。
鉄哲「半冷半燃...俺には効かねぇ!これが、限界を超えて手に入れた俺の、最高峰!!」
鉄哲がそう叫ぶように言った直後、腹部に強い衝撃を感じた。
そうか、殴られたのか。
轟「ゴホッ!!」
「身体の熱を限界まで引き上げろ!そしてその限界を超えろ!出来ぬはずがない!やろうとしてないだけだ!!」
何で...こんな時に。
鉄哲の鉄拳を受け続けながら俺の頭の中には幼少期の地獄のような日々が次々とよぎる。
鉄哲「このまま気ぃ失うまでぶん殴る!!」
「自覚しろ!お前は誰よりも強い力を秘めていると!」
鉄哲「歯ァ食いしばれ!!」
何で今...出てくんだよ...クッソ!!
氷結も炎熱も意に介さねぇなら...。
「ようやくお前は、完璧な俺の上位互換となった!」
「君の、力じゃないかぁぁ!!」
「なりたい自分に、なってもいいんだよ!!」
今まで感じた事もない程の熱が、俺の身体中に滾った。
轟「退け」
鉄哲「うわぁアッチ!!」
もっと、もっとだ...もっと上げろ。
上げられる...己を燃やせ。
なりたい俺に、なるために!
身体中が熱い。頭ん中がぼんやりとするほどの熱さだ。
親父は、いつもこんな熱量で戦ってんのか?
さすがのコイツもこの火力は熱いようで歯食いしばりながら先ほどとは比べ物にならないほど身体を紅くしている。
だが、あろうことか退くこともせず真っすぐぶつかってきやがった。
鉄哲「我慢比べは得意だぜぇ!!」
轟「グッ....」
今度は腹に膝打ちをしてきやがった。
鋼鉄化してる分、ダメージも半端じゃねぇ。
轟「テメェ...火傷どころじゃ済まなくなっちまうぞ...」
鉄哲「訓練でタマ懸けねぇ奴は!本番でも懸けらんねぇよ!!格上と!限界はっ!超える為にある!!」
轟「クッ、うるせぇな...」
コスチュームの冷却機能が追いついてねぇのか。
身体が燃えるように熱ちぃ。動かすのも億劫になってきやがった。
鉄哲「どうした!すっトロイぜ、轟ィ!!」
轟「お前も鈍くなってンぞ!」
再び振り下ろしてきた拳を両手のガントレッドで防いだが、慣れねぇ火力を維持していた事と、こもった熱の冷却が追いついていなくて眩暈がする...。
身体が、思うように動かせねぇ...。
冷やそうにも、一旦こいつを退かせねぇと。
けど、意識が....。
『焦凍くん!!』
轟「!!」
その時莉紗の声が聞こえた。
聞こえた声の感じから、そんなに遠くねぇ。
近くにいんのか?あいつ..俺や親父の影響で普通の奴よりは熱さに慣れてるだろうが、耐熱体質じゃねぇくせに無理しやがって...。
『氷結で固定して!』
莉紗のその一言が示す事がすぐに何のことか分かった。
当初の作戦に戻すつもりだ。
その為にこいつを氷結で固定しろってことだ。
俺は莉紗の要望通りにこいつの身体を一瞬氷結で覆った。
この火力の中だ。氷なんてすぐに溶けちまったが、それでもあいつはその一瞬を見逃さなかった。
こいつがいる場所に正確に竜巻を放ってきた。
炎を巻き込んだ竜巻は鉄哲を巻き込みその渦は燃える火の熱によって幅広く、広がっていく。
そして今度はあいつの粘着糸が飛んできて鉄哲を捕らえた。粘着糸は熱に弱いが、粘度がなくなるだけで糸は残る。
燃える糸じゃねぇのは、幾度の訓練で実証済みだ。
莉紗が竜巻を解除すると、鋼鉄化した重みで地面に勢いよく落下していった。
鉄哲「がぁっ!!」
仮免試験の時と同じだ。また、助けられちまったな...。
お前には助けられて、守られて...救われてばかりだ。
『私はいつだって焦凍くんの味方。応援してるよ』
『なりたい自分に、なってきて』
傷つけてばかり、心配かけてばかり、不安にさせてばかり。
それでもあいつは...先に進むでも、後ろから押すでもなく当たり前のように横にいて俺の行く道を照らしてくれる。
そんなあいつに、恥じない俺になるために。
安心させられるヒーローになるために....!
「限界を超えろ!」
昔言われた、親父の言葉が急に頭をよぎった。
途端に左の拳が熱くなった。力が左手に集中していくのが、分かった。
これならいける。そう思ったが、急に身体が沈んでいく感覚がした。
骨抜「鉄哲溶けちゃうよ」
轟「!」
何とか体勢整えねぇと...そう思った瞬間、後頚部に衝撃が走った。
『焦凍くん!!』
莉紗が俺を呼ぶ声が聞こえた。
ヤッべ...意識が....。
身体も言う事聞かねぇし何も考えられなくなってきた。
飯田「あっつ!」
飯田、か...?
『飯田!』
助けに来てくれたんだな。
助けられてばっかだな、俺...。
そこで、俺の意識は途切れた。
**
チューっ!!
轟「っ!?」
目を覚ますと白い天井が見えた。
勢いよく身体を起こすと、まだ少しだるさは残っているが試合中よりは大分楽になっていた。
飯田「轟くん!」
リカ「お目覚めだね。ほら、カロリーバーお食べ。尾白も食べて帰ったよ」
リカバリーガールから手渡されたカロリーバーを手にし俺は試合がどうなったのか思い出そうとするも何も思い出せない。
鉄哲「轟ィ!試合は引き分けだったが、勝負は負けたと思ってる!やべぇ熱さだった!またやろうぜ!」
リカ「うるさいよ」
引き分け...。
飯田「俺がもっと速ければ...勝てた試合だった」
轟「飯田..」
飯田「俺はまだまだ遅い。骨抜くんの柔軟なスタイルに対応できなかった」
轟「助けてくれただろ、朧気に覚えてる。それに一番最初にミスしたのは、俺だ。まず氷結で先手を取るのが癖になってる..いや、身体に染みついてる。直前に、風舞にも言われてたんだ。考えた方がいいって。
お前は速いよ、俺が遅いだけだ。俺が遅いから心配かけさせちまった」
俺がダメでも、莉紗が何とかするって意識が俺の中に根付いてる。
だから、あいつに心配かけちまうんだ。
あいつがせっかくチャンスを作ってくれたのに俺はムダにしちまった。
助けられてばかりじゃダメだ。
頼ってばかりじゃダメだ。
轟「安心させられるヒーローになんなきゃな」
**
飯田や骨抜が先に戻っていった。俺も最後の診察と治癒を終え、莉紗に謝りたい事や礼を言いたくて足早に保健室を出てくると遠くの方で皆が盛り上がってる中、莉紗が峰田に粘着糸を巻き付けて締めあげていた。
峰田の奴、また何か莉紗を怒らせたのか。
インターバルが終わり次の試合の準備のアナウンスが流れ皆がモニターの近くに移動したが、莉紗は後方から動かなかった。
話しするにはちょうどいいか。
轟「莉紗」
後ろから名前を呼ぶと静かに振り返った莉紗。
『焦凍くん、大丈夫?』
轟「ああ、もう全部治してもらった」
そう言って傷が無いのを見せる為に腕をまくったりして見せると莉紗は小さく笑った。
『そっか』
轟「...莉紗」
『ん?』
轟「悪かった」
『何の事?』
突然謝ったからか、莉紗は何の事だか分かっていねえ顔をして眉を寄せた。
轟「せっかくお前がチャンス作ってくれたのに、気失っちまった」
『仕方ないでしょ、事故なんだし』
轟「あと....ありがとな」
『え?』
轟「自分の発した熱で、意識飛びそうだった。けど、お前の声で踏ん張れたから。また、助けられちまったな」
『またって、そんな助けてなくない?チーム一緒になったこと滅多にないし...』
轟「戦闘訓練とかだけじゃなくて。いつも助けられてる」
そう、戦闘訓練だけじゃない。
俺はいつもお前の優しさに救われて、お前の強さに助けられてる。
俺を正しい所に導いてくれるのは、いつだってお前で。
『...............』
轟「そういや昔、言ってくれてたよな。助けてあげるって」
『焦凍くん....』
轟「お前のおかげで前に進めたこと、昔からたくさんあったから。
だから、ありがとな」
『っ...!』
莉紗はいつも何も出来ていないと自分を責める。
だから俺は、お前にありがとうと言うんだ。
俺なんかにありがとうと言う莉紗に、助けられていたのは....前に進む背中を押してもらってたのは俺の方だと伝えるために。
お前に恥じない俺になる。
自信を持って、一緒にヒーローになろうと言えるように。
...どんな事からも、お前を守れるように。
『それよりさ』
轟「なんだ?」
『いつの間に赫灼習得してたの?まさか独学?』
そう言われてあの時の事を思い出したが、正直よくわからねぇ。
とにかく何とかしねぇと、と思ってがむしゃらになってたら出来たやつ。
何となく、これが赫灼じゃねぇかと思ったが莉紗から見てもやっぱそう見えてたか。
轟「あー...あれは、わかんねぇけど。あの瞬間何故か出来た」
『.......え、たまたま?』
轟「ああ、たまたま」
そう答えると急に黙り、かと思ったら突然笑い始めた莉紗。
『....ふふ』
轟「どうした?」
『じゃあ習得のコツ、おじさまに聞いてみなきゃね。泣いて喜ぶだろうね~』
轟「...............」
こいつ、俺が嫌がるの分かってて言ってるな。
意地の悪い事を考えてる時のこいつの顔は親父の見舞いに行った時のおばさんと瓜二つの顔...なんてことを言ったらこいつぜってー怒るから言わねぇが。
けど、こいつ気付いてんのか?
俺が親父に赫灼について連絡してみようか考えてた事。
なんだか無性に悔しくてその言葉に反応を示す事なく莉紗を置いて1人でモニターの方に移動してやった。
けど、そんな俺の強がりもこいつは見抜いてんのか後ろでまたクスクスと笑ってる。
...やっぱり俺は、一生莉紗に敵わねぇ気がする。
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