Season5
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怪我人の治療とフィールド整備のためしばしの休憩時間の最中、チーム毎にまとまりそれぞれ作戦会議を始めた。
飯田「俺達も作戦を煮詰めよう」
障子「轟を軸に動くのが良いと思うが」
轟「俺か?」
尾白「良いと思う。飯田はいざって時の切り札に」
飯田「その前に、俺のレシプロについて皆に言っておきたいことがある」
飯田からレシプロのメリット、デメリットを聞いた私達。
飯田のスピードはある種最大の攻撃にもなり防御にもなる。尾白の言うようにレベルアップしたレシプロターボは切り札として取っておいたほうがいい。
尾白「風舞、どう思う?」
『敵の出方にも寄りけりだけど、轟くんは多分鉄哲とぶつかる事になると思うから注意して』
轟「何でだ?」
『鉄を相手に炎も氷も通じないかも。多分向こうは轟封じに鉄哲を持ってくるはず。かと言って硬化した切島と殴り合えるほどの強度だから、物理攻撃じゃ抑えられないしパワー勝負になったらこっちの分が悪い』
障子「なら、どうするんだ?」
『私が突風で引き離す。特定の場所に運ぶとなるとコントロールするためにある程度風力を抑えなきゃならないから難しいと思うけど力まかせの突風なら電柱飛ばせるくらいだから多分飛ばせる。私が鉄哲を離しつつ轟くんが敵の行動範囲を限局化、その後は尾白と一緒に敵の注意を引いて。飯田が隙を狙って敵の捕獲、隠し玉はギリギリまで使わないで。障子は後方で私達の死角のフォロー』
骨抜の柔化、鉄哲のスティール、回原の旋回、角取の
索敵はいないけど、向こうも中々に攻撃展開にバリエーションが持てる布陣だ。ただ、1つ懸念がある。
ブラド「第2試合!準備を!!」
第2試合はA組はヤオモモ、透、青山、常闇。B組は一佳、小森、吹出、黒色。
ヤオモモは頭も良いし、先を見据えた攻撃展開を組み立てるのが上手い。
ヤオモモの個性を考えると、B組はまずヤオモモを抑えに来るはず。
いかに先手を取り、相手の有利な状況に持ち込ませないか。
ブラド「それでは、拳藤チーム頑張れ!!第2試合、スタート!!」
芦戸「偏向実況やめろー!」
「「「やめろー!」」」
第2試合が始まり両チーム動き出した。
瀬呂「拳藤ってB組でどういう立ち位置なの?」
鉄哲「おう!!あれはやる奴だぜ!!何たって委員長だからな!!頭の回転早くて、咄嗟の判断も冷静だ!ここぞと言う時に前に出て身体張る勇気もある!!そしてクラスをまとめる明朗な性格!!アレがいなきゃ、B組は皆今頃物間に取り込まれてらぁ!!」
瀬呂「い、言い方...」
鉄哲「B組の姉君!それが拳藤一佳という女だー!!」
轟「八百万のオペレーションが上手くささるかどうか」
尾白「オペレーション?」
『きっと大丈夫だよ、ヤオモモなら』
心配と期待の気持ちでモニターを注視しているとA組が動き出した。
敵を探し始めたのか常闇がダークシャドウを伸ばした。
程なくして、ダークシャドウがB組の前に立ちはだかった。
ダークシャドウがB組に襲いかかるものの、何故か常闇の元に戻っていく。
そのまま常闇の中に収まるのかと思えば常闇の身体に体当たりをして突き飛ばした。
麗日「ダークシャドウが何で?!暴走?!」
緑谷「いや、現場は常闇くんが制御できないほどの暗さじゃない。もしかして、操られてる..!?B組の誰かの個性..?」
ヤオモモの指示で透が光を放つと、ダークシャドウがみじろぎ始めた。
常闇がダークシャドウに戻るよう命令するとダークシャドウの中から黒色が現れた。
『黒に溶け込むことが出来る...それはつまり影にも。以前は溶け込むだけだったけど、きっと個性伸ばしで溶け込んだものを動かせるようになったんだ』
麗日「じゃあ、黒色くんがダークシャドウを...」
黒色は配管の中に入り影の中を移動してまわっているようであたりをキョロキョロと警戒しているA組チーム。
尾白「1戦目と同じ展開で来るとは」
轟「裏の裏か..。しかもこの配管まみれのこのステージじゃ、居場所把握は無理だ」
あたりを警戒しているヤオモモ達の隙をついて、黒色は青山を掴みどこかに連れ去って行った。
意表をつかれ慌てて追いかけるヤオモモと透。
あれ、常闇がいない?
モニターの隅から隅まで目を凝らして探していると遠くの空中に黒い影が1つ。もしかして...。
B組「「「と、飛んでる?!」」」
常闇がダークシャドウを翼のように広げて空を飛び黒色を追いかけてきた。
麗日「常闇くんが..」
芦戸「新技だ!!」
峰田「何で飛べるんだ?!」
緑谷「原理としては簡単だ!ダークシャドウは常に浮遊状態。だから常闇くんを抱えて移動することも可能!そしてマントにくるまれることで弱点である光を防ぎ、常時高い出力を維持!しかもあの抱え方なら両手は自由なままだ!!ダークシャドウは浮遊する!当たり前過ぎて見落としていた事実に着目しそれを応用する!まさにコロンブスの卵的発想!!スゴい!スゴいよ常闇くん!」
緑谷の興奮度もスゴい...。
黒色から青山を取り返した常闇。
青山が細かい光をいくつも乱射し影の形を変え、黒色の行く手を阻んだ。逃げ道がなくなり影から出て来た黒色に、透とヤオモモが追い込んだ。
葉隠「もう逃さない!」
八百万「まさかの単独での奇襲。ですが想定外の事態など私、既に想定内ですわ!」
黒色「想定内ねぇ」
そう言って逃げ出した黒色を追うヤオモモと透。
だけど何故か2人の身体中にキノコが生え始めた。
黒色「クックックッ...やっぱ、拳藤の方が上手だな」
払っても払っても生えてくるキノコ。気づけばあたり一面キノコまみれになっていた。その光景に見てるこちらも顔色を青くした。
あそこにいたら中々な絶望感だったな...。
峰田「おいおい、身体にまで生えんのかよ...キモすぎんだろ!」
泡瀬「彼女のキノコは2.3時間で全部消えるから、あと引かないんだ。そのせいでブッパ癖がついてるけど」
キノコの対処に翻弄されているヤオモモ達を今度は吹出の具現化したオノマトペが襲った。
ブラド「黒色の危機を救ったのは小森と吹出。遠距離からの波状攻撃でA組を苦しめる!これがB組の実力か!」
芦戸「偏向実況やめろー!」
「「「やめろー!」」」
この茶番...最後まで続くのかな。
気付けば焦凍くんまで偏向実況反対デモに参加してるし...。
それより、吹出のオノマトペで辺りが崩壊しヤオモモが分断された。
一佳の狙いは、きっとコレだ。
司令塔であり万能個性のヤオモモを皆から切り離し、力で押し攻める。
持久戦になれば、ヤオモモが不利。
その予想は当たっていたようでヤオモモの背後から一佳が飛び込み、その個性"大拳"で攻撃を仕掛けた。
ヤオモモも咄嗟に盾を創造し、防いだ。咄嗟とは言えヤオモモの事だ。
より丈夫で破壊されにくい素材のものを出しているはずだけど、一佳の拳は易易とヤオモモの盾を破壊した。
その後も畳み掛けるように攻撃を仕掛ける一佳に、再び盾を出して必死に防ぐヤオモモ。
止むことのない攻撃のラッシュ。
きっとヤオモモに考える時間を与えないつもりだ。
鉄哲「あっという間に有利な状況を作り出した!作戦ドンピシャ!言ったろ?頭の回転早くて咄嗟の判断も冷静って!!これがうちの拳藤さんよ!」
轟「それが最善手かは分かんねぇが」
鉄哲が興奮してるところに焦凍くんが珍しく口を挟んだ。
普段の観戦中って言葉を発する事そんなに多くないのに、この試合始まってからはよく喋るな...。
鉄哲「え?」
轟「八百万を警戒しての分断なら、見誤ったかもな」
鉄哲「え?!」
轟「八百万を警戒すんなら、4人の総力で真っ先に潰すべきだった。この窮地も、あいつにとっては想定内の状況。想定していたからこそ、窮地からの勝利への組み立てを行える。八百万百の得意分野だ」
『...............』
仮免試験の時と同じだ。
あの時も、こんな風にモヤッとしたっけ。
焦凍くんのヤオモモへの信頼感と評価。
それに他意はないのは分かってるし、実際ヤオモモは有能な子だしそれは頷ける。
だけど焦凍くんがこうやって誰かの評価をはっきり口にすることはそう多くない。
そう、焦凍くんがこういう事を口にするのは決まってヤオモモに対してだ。
だから、大事な仮免試験でもこんな大事な戦闘訓練の最中でも私はみっともない嫉妬心を芽生えさせてしまう。
そんな黒い感情を抑え込みながらモニターに目をやると、ヤオモモはお得意の大砲を取り出した。
A組の私達からすると、大砲は今やヤオモモの伝家の宝刀だと認識してるから驚きもしないけどB組は驚愕のリアクション。
それは一佳も同じのようだった。ヤオモモは打つ手がなくて一佳の攻撃をただひたすらに守ってたわけじゃない。
大きな大砲を創造するのには時間がかかるから、時間を稼いでいただけだったんだ。
スゴい子だと思ってるし、ヤオモモの事は好きだ。なのに、ヤオモモに対して醜い感情をぶつけそうになってしまう。
焦凍くんには、個性も有能で頭も良い者同士のヤオモモの方がお似合いなんじゃないか...。
そう思って卑屈になってしまう自分がとても哀れに思えてくる。
結局その試合は青山は黒色に捕まり、投獄。
ヤオモモは一佳に気絶させられたけど、その直前に大砲と一緒に創造したロープで、大砲と自分ごと一佳に絡みつき一佳の動きを鈍らせることに成功。
そして、ヤオモモが大砲を創造した時に飛ばしたラッキーバッグ。その中に入っていたのはサーモグラフィーのゴーグルと滅菌スプレー。滅菌スプレーでキノコを死滅させ、常闇がゴーグルで敵の位置を視認。隙をつき追い詰めたと思ったけど、突如苦しそうにむせ込んだ常闇。小森の肺に繁殖するキノコによって戦闘不能にされた。
透もキノコがなくなり本気モードで吹出に怒涛のパンチラッシュで攻めていたけど、大砲とヤオモモを引きずりながら何とか合流した一佳に後ろから捕まれB組の勝利となった。
鉄哲「B組の面目役者だ!拳藤!やったー!!」
轟「八百万、また弱気になんねぇと良いが...」
『.............』
焦凍くんは優しいけど、こんな風に案じる言葉を素直に口にすることだって普段はそうない。
好きだとかそういう感情があると思ってるわけじゃない。
期末の時に、一緒だったから。
体育祭での敗北で自信が持てずに弱気でいるヤオモモを見てるから心配しただけだと思う。
だけど少なくとも、焦凍くんの中でヤオモモは他の女子とは違う存在なんじゃないかって。
期末で同じチームじゃなかったら...。別のクラスだったら....。
なんて、そんな邪な考えさえ浮かんで来てしまう。
今、私どんな顔してるのかな。
戦闘訓練とは関係のない私の醜い感情が誰にも気づかれないように私はそっと観覧席を下りて影に隠れた。
**
離れた場所で1人気持ちを落ち着かせると、誰かが近づく足音が聞こえた。
そっと、後ろを振り返って確認すると心配そうに眉を下げたお茶子ちゃんがいた。
『お茶子ちゃん?』
麗日「莉紗ちゃん、どうしたん?」
無理に聞き出すわけではなく、でも静かに寄り添うように優しく問いかけるお茶子ちゃん。
『ん?ううん、何でもないよ。ただ...』
麗日「ただ?」
『自分の嫌な部分が心底嫌になってただけ』
言葉にすると何だかおかしな表現だった。
だけど私の中では、醜い心とそれを自制しようとする心がぐちゃぐちゃに混ざり合っていて。
そんな自分の心に頭もついていっていない。
麗日「轟くんの、事?」
『.........私ね。私自身がヒーローを志したわけじゃないんだ』
おじさまに痛めつけられている焦凍くんを守りたい。
ヒーローに憧れて、ヒーローになる事を夢見る焦凍くんの力になりたい。
ヒーローとなって多くの人を守る焦凍くんを支えたい。
私がヒーローとして進んできた歩みは、いつだって焦凍くんが中心だ。
皆みたいに私自身の中に、ヒーローを目指す立派な理由がない。
だから、ちゃんと自分自身がヒーローを志して必死に進む焦凍くんや皆に劣等感を感じてしまう瞬間がある。
『だから、私じゃダメじゃなんじゃないかって。相応しくないんじゃないかって...授業中にそんな面倒臭いこと考えちゃって。バカだよね』
麗日「莉紗ちゃん...」
『ごめんね、急に。私ももうすぐ試合始まっちゃうから行かないと』
お茶子ちゃんが励まそうと言葉を探してくれているのに気付いたけど、今は何も言って欲しくなくて。
私はお茶子ちゃんが言葉を発する隙を与えないようにその場から離れた。
芦戸「風舞いた!」
私を見つけるなりクラスの皆が私の名前を呼んだ。
瀬呂「どこ行ってたんだ?風舞がいねぇって皆で焦ってたんだぜ?」
『ごめん、ちょっとトイレに。何かあった?』
尾白「うちのチームのブレーンが中々戻って来ないから焦ったよ」
『ブレーン?』
ブレーン...って、脳だっけ?
あ、頭脳って事?
『ブレーンって...そんな大層な頭してたらテストで冷や冷やしてないよ』
障子「うちのチームの司令塔だ。指揮系統は任せたぞ」
緑谷「風舞さん、頑張ってね!」
『ありがと』
瀬呂「まあ、推薦入学のチートコンビが同じチームなら勝てんじゃね?」
推薦入学、ね。
轟「どうした?」
私が急に黙ったのが気になったのか焦凍くんが問いかけて来た。
『勝敗のアドバンテージに推薦入学者がいるってのを考えるなら、フェアだよ』
瀬呂「え?」
『向こうにも、いるから。推薦入学者2人。骨抜柔造と、
そう。取陰や骨抜同様、彼女も推薦入学者。普段は存在感が薄くいつも影に隠れてるけど、推薦入試の時にいたから間違いない。
推薦入試の受験者はめちゃくちゃキャラが濃くて、存在感示してくるやつが多かった中で彼女はある意味浮いていたから焦凍くんのことで頭いっぱいで実力全部出しきれなかった私も彼女と夜嵐がいた事だけはよく覚えてる。
緑谷「彼女の個性って確か、鏡で放射攻撃を跳ね返すだったよね」
『うん』
授業の時は、A4サイズの鏡をいつも持っていて観察した限りでは鏡で攻撃を反射させていた。
だとすると透の個性に近いのだとは思うけど。
本当にそれだけだとすると、自発的な攻撃は出来ない。
透が自身の身体から発光させることが出来るように彼女も鏡から光を射出出来るのか。
この第3戦の中で、警戒すべきは頭がキレる骨抜と未知の個性の彼女だ。
頭の中で次の試合展開をシュミレートしていると耳障りな笑い声が聞こえた。
物間「ハッハッハ!第2試合はB組の完勝だったねぇ!!やはり文化祭の時と同じように最後に勝つのはB組と言うことさー!でも悔しがる必要はないよ、A組?実力さが、はっきり!出ただけの事さ!」
先程の考え事で頭も心も整理がつかず虫の居所も悪かった私は、無性にムカついたから粘着糸で全身ぐるぐる巻きにして一佳の元に放り投げてやった。
『一佳、ちゃんとリードしといて』
拳藤「あ、莉紗!ごめんな、捕獲してくれて助かったよ」
「「「(何その犬みたいな扱い.....;;)」」」
ブラド「次行くぞ!第3試合準備を!」
ステージの移動に伴い、観覧席も移動した。準備が整ったようでブラド先生の指示で私達は自分達の戦闘場所に移動を始めた。
麗日「ついに飯田くんの出番だね」
緑谷「うん。炎と氷、2つの広範囲攻撃を持つ轟くんにスピードの飯田くん、索敵能力に優れた障子くんに近接戦闘を得意とする尾白くん。それに、攻守サポート他方に万能な風舞さん。バランスの取れた良いチームだと思う」
峰田「こっちには轟と風舞の鬼畜コンビいるし楽勝だろ!」
芦戸「侮ると墓穴掘るぞ〜?」
峰田「分かってらぁ!!」
試合が始まる前に、焦凍くんに話したいことがあった私は焦凍くんに小さな声で話しかけた。
『あのさ』
轟「どうした」
『体育祭からずっと見せてきたことで焦凍くんの氷結ブッパ大分警戒されてると思うし第一手のバリエーション色々変えてみた方がいいと思う』
轟「バリエーションか」
『とは言っても使い慣れてるだろうし癖になってるところもあるだろうからいきなり言われても難しいと思うけど。まあいきなり試みてみて、もたつくのも良くないから今日は任せるけど、今後のこと考えたら左からの攻撃展開パターンも考えたほうがいいかもよ』
轟「ああ、そうだな。サンキュー」
『ううん』
話したい事を終え、私達はステージの中に入って行こうとした時常闇が焦凍くんを呼んだ。
轟「常闇、喉良いのか?」
さっきまで苦しさから声を出すことも辛そうだった常闇が普通に喋っていた。
常闇「薬を処方されて飲んだ。大丈夫だ」
轟「そうか」
常闇「情けない姿を見せた。あとは頼むぞ」
轟「...?何で俺に?」
常闇「ホークス、エンデヴァー。我々先の戦いの英雄に指示を仰ぐ者故に、No.1、No.2の名を背負う責務」
轟「ああ...」
焦凍くんは、常闇の言葉に何か瞑想するように黙り込んで考え事を始めた。
大方、おじさまのこと考えてるんだと思うけど。
チームの皆で自陣に移動して歩いてる間も焦凍くんは地面ばかりを見て考えごとをしていて飯田が話しかけてるのにも気づいていない。
『轟くん!』
仕方なく少し大きな声で名前を呼ぶとようやく気づいたのかふと前を見た焦凍くん。
『大丈夫?怪訝な顔して』
轟「そうか?」
飯田「何か悩みでも?」
轟「何でもねぇ、ありがとな」
尾白「轟表情そんな変わんないから分かんなかったな。さすが幼馴染だな」
『あはは..』
自陣に辿り着くと、開始のブザーが鳴った。
尾白「作戦は最初に言ってた通り?」
『そうだね。ただ、鏡野の個性が放射攻撃を反射以外いまいち掴めてない。
授業で反射出来るのを確認した限りでは爆豪の爆破、常闇のダークシャドウ、透の光、B組の個性だと泡瀬や円場の個性は反射させてたはず』
飯田「物理攻撃は通じるんだろうか」
『鏡を破壊されたら元も子もないしその可能性はあるね。少なくともうちのチームでは轟くんの個性は反射されると考えていいと思う。私の風は分からないけど、ダークホースになる可能性は高い。万が一は死角から粘着糸で捕獲出来るようにとりあえずは私がマークに入る』
みんなに自分の考えを伝え、了承を得た所で遠くから破壊音が聞こえたと思ったら、建物が崩れていくのが見えた。
尾白「何だ?」
障子「金属音が断続的に聞こえる」
『どうせ鉄哲の仕業でしょ。大方、向こうには索敵がいないしこっちに障子がいる以上、向こうからの奇襲は不可能に近い。だからあーやって居場所を知らせ辺り一帯更地にして開けた場所で1箇所に固まって私達から奇襲かけさせて、来たところを迎え打とうって魂胆だよ』
轟「向こうの意図は、正面戦闘」
尾白「ガチンコ勝負って事か」
『なら、対応も取りやすい。誘いに乗ってやろう』
轟「ああ」
飯田「よし、やるぞA組チーム3!!」
私達はB組チームがいる場所に向かって走って行った。
轟「クシュン..!!」
移動中、突然くしゃみをした焦凍くん。
飯田「大丈夫かい?君でも風邪を引くのか?」
轟「いや、多分大丈夫だ」
『エンデヴァーが、連絡欲しくてショートぉぉ!って叫んでたりして』
轟「...やめろ」
そんな話しをしているうちに、B組がいるチームの近くまでやって来た。
尾白「そろそろ着くぞ、手筈通り広がるよ」
そう言って尾白達はそれぞれ待機場所に散って行った。
『捕獲第1段目、任せたよ。2段目に備える』
轟「ああ」
私も自分の待機場所に向かった。
粘着糸による捕獲網は味方の行動範囲を狭める可能性もあるからチーム戦の時には不向きだ。
何より、私には役割がある。
『始まった』
辺りの温度が急激に下がった。
焦凍くんが動いた証拠だ。
骨抜が地面を柔化してトラップを張っていようと、氷で覆ってしまえば問題はない。鉄哲は力づくで破壊する可能性はあるから悠長に構えてるわけにはいかないけど。
動きが止まった所を私、飯田、尾白で一網打尽にし捕獲する。
飯田が動き出した。私も粘着糸を..そう思った時飯田の動きが止まった。
何が起こったのか、よく見ると辺りの氷結や配管がドロドロになって行った。そして、高所の配管の上に全身自由に動いている骨抜がいた。
『あの範囲の氷結ブッパを読んで回避した...だと』
氷結で来ることが分かったとしても、焦凍くんの氷結の発動速度は決して遅くない。完全にどの方向から来るのか読んだ上でタイミングを合わせて来たに違いない。
けど焦凍くんの氷結ブッパが読まれて対処されることは予想済み。
攻撃展開が第一手しか用意してないわけがない。
私は辺りに広範囲の突風を吹かせた。
突風からの竜巻攻撃、これで動きを止めたあと粘着糸で捕獲。そう考えていた私の作戦は易々と打ち砕かれた。
何故か私に向かって戻って来た突風。何が起こったのか分からないけど考えられる理由は1つ。
『鏡野、反奈....』
配管に粘着糸を巻き付けて飛ばされないように堪える。
鏡野「させません」
十中八九、彼女が鏡で私の風を返して来たんだ。
『風も丸ごと返しちゃうんだ、結構チートくさいね』
鏡野「個性伸ばしで、可能にしました。骨抜くんからの指示です。私は貴方を抑えるように、と。だから貴方を仲間の元へは行かせません」
なるほどね。向こうのチームには確かに彼女の鏡以外、私の風に対策取れる個性の奴いないもんね。
『ちょうど良かったよ。未知な貴方の個性を警戒して私も貴方をマークする担当だったから』
彼女の周囲に竜巻をいくつも飛ばし動線を限定させていく。
彼女の方から仕掛けては来ていない。やはり自発的な攻撃が出来ないのか、それとも私の攻撃を返すタイミングを狙っているのか?
私が動くたびに鏡を私のいる方向に向けてくる彼女。
『逃げ回るだけなの?それとも時間稼ぎ?』
その問いへの返事はなかった。
挑発に乗ってくるタイプでは、どう見てもないけど。
視界の端では、尾白が回原と対峙しているし飯田は仲間の元へ行きたくても骨抜に辺り一面柔化されてしまい、踏みしめる土台がなく走れない様子。焦凍くんと障子はここから見えない。
機動力封じられてちゃ打つ手ないな、こりゃあ。ちんたらマークなんてしてらんない。
そう思った私は、彼女の横にある配管に粘着糸を巻き付け特大の竜巻を前方に向かって飛ばした。竜巻は彼女より少し離れた場所を通り過ぎて行った。
鏡野「そんな馬鹿正直な攻撃に当たるわけないです」
彼女のすぐ背後で竜巻が配管を攻撃した。折れた配管、そして巻き付けた粘着糸を思いっきり引くと配管は勢いよく引っ張られ彼女に向かっていった。
鏡野「クッ...!」
鏡野は、構えていた鏡を抱えて配管を避けるように逃げた。
あの様子からすると、やっぱり物理攻撃は跳ね返せないと見ていいかな。一か八かやってみる価値はあるか。
ダッシュウィンドで彼女の間合いに飛びこみ、彼女が大事そうに抱える鏡に向かって風を纏わせて拳をぶつけた。
鏡野が咄嗟に私に鏡を向けた。そこで私は思いがけないものを目にする。
『氷?!』
そこには焦凍くんの氷結を彷彿させる氷があった。
私の拳はその氷にえぐりこみ鏡には届いていないようだった。
鏡野「第1手が轟くんで来る事は分かってたから。彼の氷を吸収しておいたの」
吸収って..。
『反射だけじゃなく、それもあんたの能力ってわけね』
鏡野「私の鏡は放射攻撃の反射と吸収。吸収した攻撃は自分の意図するタイミングで解放する事が出来ます」
『わざわざ情報どうも』
これは、中々苦戦しそうだ..。
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