Season5
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『せんせー』
職員室にやってきた私は、ゼリー飲料を啜っている相澤先生の元にやってきた。
相澤「どうした」
『そろそろまたおばあちゃんに個性見てもらいたくて明日外出したいんですけど』
相澤「何だ。お前もか」
『..も?』
相澤「轟も外出許可申請出してきた。まあ、お前らの家の近さなら俺がまとめて付き添えばいいから合理的だが」
焦凍くんも家帰るんだ。
冬ちゃんの事だからおじさまの快気祝いしよう、とかかな。
『前から思ってたんですけど。どっちかの親に来てもらえば先生わざわざ来なくていいんじゃないですか?』
相澤「向こうから言ってきた時は別としてこっちから頼むことじゃない。気にするな、詰まってる仕事もない」
『じゃあ、お願いします』
**
寮に戻って来た私は、今日一緒に食事当番の障子と瀬呂と3人で食事の支度にとりかかっていた。
『あ、オイスターソース足りない..』
瀬呂「買い出し班に頼めばー?」
『時間あるし自分で行ってくるからそのまま置いといて』
障子「分かった。頼んだぞ」
「莉紗」
寮を出て校舎の中にある購買に向かって歩いていると背後から聞き馴染みのある声が私の名前を呼び、振り返るとジャージ姿の幼馴染がいた。
『焦凍くん』
焦凍「買い物か?」
『うん、焦凍くんは?』
焦凍「ノート切れたから購買に行くとこだ」
『そっか、じゃあ一緒に行こっか』
焦凍「おう」
2人で校舎までの道のりを並んで歩く。
以前と変わらない光景なのに、以前とは違う距離。
その距離感を見て、寂しさを覚えながらもその気持ちを悟られないように前を見た。
焦凍「お前、明日外出出来ないか?」
『私明日おばあちゃん来てくれるから家行くよ。相澤先生にも許可取ってきた』
焦凍「そうなのか?」
『うん、焦凍くんも家帰るんでしょ?先生が言ってた』
焦凍「ああ、姉さんが親父の快気祝いするから帰って来れねぇかって」
あ、当たりだった...。
相澤先生から焦凍くんの事を聞いた時に自分が予想した事がどんぴしゃり当たった事に苦笑いを浮かべた。
焦凍「お前の事も連れて来いって言ってたけど、おばあさん来んなら来れねぇよな」
『ううん、行けるよ?おばあちゃんも長居するわけじゃないし』
焦凍「梨央たちは?」
『明日は蒼兄が遊園地連れてってそのまま蒼兄の家泊まるって昨日連絡来たから私が帰る事言ってないんだ』
焦凍「蒼兄と?結構打ち解けてんだな」
『蒼兄は元々コミュ力高いからね。
おばあちゃんに個性の進行状況見てもらったらそっち行くね』
焦凍「ん」
**
翌日、相澤先生の車で自宅に帰ってきた私と焦凍くん。
焦凍くんと一緒に車を降りる。
『おばあちゃんまだみたいだからそっち行く』
焦凍「あぁ」
『先生も入って』
車を覗き込んで相澤先生に声をかけるも片手を上げただけで降りる気配を見せない先生。
相澤「俺は遠慮する。俺の事は気にしないで行って来い」
『ん、はーい』
焦凍くんのお家にお邪魔すると冬ちゃんがバタバタとお出迎えに玄関まで出てきてくれた。
冬美「焦凍、莉紗ちゃん!おかえり!」
焦凍「ただいま姉さん」
『ただいま。おばあちゃん来たら一回家帰るね』
冬美「うん、気にしないで♪」
家の中に入り、夕食の手伝いをしようと台所に向かうと何やら大がかりに何かをやっていた形跡があった。何やら嗅ぎ馴染みのある香りがする。
『これは...蕎麦粉?』
冬美「うん!焦凍、蕎麦好きでしょ?だから手打ち練習してたんだ」
『スゴイ...さすが冬ちゃん。上手...』
冬美「莉紗ちゃんも器用だから何回かやったらすぐ出来るよ~」
『誕生日に手打ち蕎麦の約束してたのにまだ練習してないや...』
何だかんだ色々あって道具すら買い揃えていない私。間に合うかなー..。
冬美「時間までやってみる?」
『良いの?』
冬美「もちろん!」
冬ちゃんにやり方を教えてもらいながら工程通りに進めていくもののどうしても切れてしまい、中々うまく行かない。
『うまくいかない...』
冬美「あはは、最初から上手く出来たら莉紗ちゃん天才だよ?」
もう一回挑戦してみようと思っていた所におばあちゃんから連絡が来た。
『あ、おばあちゃん来たみたい』
冬美「うん!行っといで」
『ごめんね、散らかしてって』
冬美「全然大丈夫だから気にしないで!」
私は簡単に手を洗ってリビングにいた焦凍くんにも声をかけて一旦自分の家に戻った。
母さんと話をしていたおばあちゃんを呼び3人で庭に移動した。
祖母「どうだい、進みは」
『水と土はこんな感じ』
水で竜巻を作り、土は丸く形成し実際操っている所をおばあちゃんに披露した。
『まだ複雑な形状とかは出来ないけど、土の壁も作れるよ』
楓子「実戦でも十分通用するレベルだったよ」
祖母「そうかい。火と雷はどうだい?」
『今の所は...』
祖母「んー、まあ使えるか使えないかわからないものに縋ってるのもアレだしねぇ。今使える3つをしっかりと伸ばしていきな」
『ん』
祖母「土流については私よりも流子の方が上手いからね。機会があったら教えてもらうといいよ。水に関しては水のない所で発動しようとすると不足分を自分の体内の水分で補おうとして脱水を起こす危険性があるから気を付けな」
『あー、やっぱそうなんだね』
祖母「何だい?気づいてたのかい」
『何か不慣れな時に練習してたらものすごい口渇が強くなってもしかしてって...。だから今は空気中の水分とか地面の中の水分かき集めるようにしてる』
「「え..」」
私の言葉におばあちゃんと母さんが驚いたように目を丸くした。
『え?』
祖母「あんた空気中の水分集められんのかい?」
『え、集められてると思ってたけど。それを意識するようになってから身体の渇き減ったし』
祖母「それおばあちゃんが何年もかけて会得した技術だよ」
『え...?』
楓子「お母さん...」
祖母「んー。そもそもおばあちゃんは水を発現してすぐに空気中の水分を集めようという発想にならなかったよ」
楓子「この子勉強は苦手だけど機転は利くタイプだからね」
祖母「ちょっとあんたが今出せる最大量の水を出してごらん」
『え、うん』
おばあちゃんにそう言われて、私は手のひらに意識を集中させて水を出した。
大きな波を打って現れた水を庭の池の中に向けて飛ばした私。
池の水面は大きく揺れバシャンと音を立てた。
楓子「え、そんなに出せるの?」
祖母「これは自分の身体からひねり出す量じゃないね」
『うん?』
祖母「あんた、空気中の水分から水を作るってどういう工程を踏むかわかるかい?」
『....は?』
おばあちゃんが言いたい事が分からなくて真顔で反応したら母さんが何故か苦笑いを浮かべた。
楓子「ん~...苦笑」
祖母「あのね、莉紗。空気中の水分から水を生み出すってのは空気を暖めて蒸発させて渇いた空気と水を切り離す必要がある。この工程をあんたは無意識にやってることになるんだよ」
『空気を暖める?』
祖母「そう、つまりあんたは多分火は出せていなくとも熱を産み出す事が出来てる。だから空気中の水分から液体の水を作り出せるんだよ」
『え、じゃあ火の発現も近い?』
祖母「かもね。あんた、その個性で行きつく先はおばあちゃんよりも遥か上かもしれないねぇ」
『何の事?』
楓子「才能があるって事」
祖母「もしあんたが火と雷も発現するようになったらおばあちゃんですら辿り着かなかった領域にたどりつくかもね」
『............』
おばあちゃんがそろそろ北海道に戻るって事で轟家に移動した私。
夏くんも来ていて、おじさまが少し遅くなるって言うから先にみんなで蕎麦を食べてようって事になって冬ちゃんお手製の手打ちそばを食べ始めた。
夏雄「莉紗ちゃんは自分ん家にいたの?」
『うん、少しおばあちゃんに特訓つけてもらってた』
冬美「頑張ってるんだね、焦凍も莉紗ちゃんも」
焦凍「..どうだった?」
主語はないけど焦凍くんが私を見て何かを聞いて来た。何が聞きたいか分かった私は説明しようと思ったけど何と答えていいか迷い声を唸らせた。
『んー、なんか色々と驚きが...』
焦凍「驚き?」
そんな時、居間のふすまが開いた。
蕎麦を啜りながら横目で見るとおじさまが入ってきた。
冬美「おつかれー!」
『おかえりー』
私と冬ちゃんが声をかけたのに対し、夏くんと焦凍くんはちらりとおじさまに視線を移しただけ。
炎司「久しぶりだな」
冬美「焦凍と莉紗ちゃんはわざわざ外出許可頂いてね!先生にも上がって頂くつもりだったけど、遠慮するって。とりあえず、大仕事お疲れ様でしたーって事で!ね?」
焦凍「傷跡、酷ェな」
炎司「.........」
夏雄「.........」
焦凍「.........」
睨み合ってる、というわけではないのけどその場に流れる重苦しい雰囲気に冬ちゃんがあたふたとし、私もなんとなく気まずくなって蕎麦に視線を移し再び啜り始めた。
冬美「コソ...2人とも!!今日は労おうって約束でしょ?!せっかくお父さんが家族を省みようとし始めてるんだから!!嫌いだからって顔に出しすぎだよ?!」
『冬ちゃん...駄々洩れ』
炎司「..聞こえてるぞ」
ドン!
そんな空気を壊すように夏くんが箸をテーブルに叩きつけた。
夏雄「姉ちゃんごめん。やっぱ無理っぽい、俺」
冬美「夏!」
居間を出て行こうとしておじさまの横を通り過ぎようとふすまを全開にした夏くん。
そんな夏くんの肩に手を置いたおじさまが夏くんを止めた。
炎司「夏雄、言いたい事があるなら言え」
夏雄「言えって..?よく言うね。俺さ!焦凍が蕎麦好きだなんて初めて知ったよ。あんたが失敗作の俺達と関わらせないようにしてたから」
焦凍「.......」
『夏くん...』
夏雄「お母さんも姉ちゃんも何故か許す流れだし。理不尽にあんたに殴られてた莉紗ちゃんまであんたの事許してるみたいだけどさ!俺の中じゃイカレ野郎絶賛継続中だよ。変わったようで全然変わってない。俺達は放ったらかし..No.1になって強敵倒した所で心から消えるはずないだろ...。
お母さんの悲鳴、焦凍や莉紗ちゃんの泣き声...燈矢兄の事もさ!!勝手に心変わりして一方的にヨリ戻そうってか!気持ち悪りぃぜ!!」
夏くんの怒りに間違いは一切なくて、家族の仲を一生懸命取り持つ冬ちゃんも、おじさまを応援する私も誰も口を挟むことは出来ず、ただおじさまが何て答えるのか見守った。
炎司「これから向き合い、償うつもりだ」
夏雄「あっそ!悪い姉ちゃん、ごちそうさま!」
冬美「夏!」
居間を出て行った夏くんを追いかけてふすまから顔を出した冬ちゃん。
だけど引き止めに行くことは出来なくて顔を覆った冬ちゃんは悲しそうな声を上げた。
冬美「やっぱりだめかなぁ...焦凍と莉紗ちゃんが仲直りして、焦凍がお母さんに会うようになって、お父さんも歩み寄ってくれてさ。お母さんも笑うようになって..うちも、うちだって家族になれるんだって...嬉しかったのー!!姉さんはー!焦凍ー!泣」
また蕎麦を啜り始めた焦凍くんの腕を掴みぶんぶんと揺さぶった冬ちゃん。
冬ちゃんも普通の家族への憧れが昔から強かったから、きっと普通の家族になれるかもしれないのが嬉しかったんだろうな..。
焦凍「姉さん。夏兄があんな感情剥き出すとこ初めて見た」
冬美「...?」
焦凍くんが話し始めたそのとき。
かかっていたテレビから先日のおじさまとホークスが脳無と戦っていた時の映像と共にアナウンサーの声が流れた。
[あの戦いから2日。No.1ヒーローに対する評価が揺れ続けています]
地域住民の声は賛否両論。
エンデヴァーを支持する声や苦戦を強いられたことに不安視をする声など様々だった。
冬美「消そ消そ!」
焦凍「いや」
今の気まずい空気にトドメを差すような報道にTVを消すことを提案する冬ちゃんに焦凍くんが制止をかけた。
『焦凍くん..?』
映像は、苦戦を強いられているエンデヴァーを見て絶望的になっていた現場の空気を一変させるような声を上げ、エンデヴァーを見ろ!と訴えた少年が映った。
[見ろやくんの愛称で話題になっている少年。彼の叫びは多くの心をエンデヴァーに引き寄せました]
炎司「あの時の子か..」
面識があったのかそう呟いたおじさま。
そして、焦凍くんがテレビを見つめながらゆっくりと口を開いた。
焦凍「ヒーローとしてのエンデヴァーって奴はすごかったよ」
炎司「!」
焦凍「すごい奴だ。けど..夏兄の言った事はその通りだと思うし、お前がお母さんにしてきた事も莉紗を傷つけた事も..まだ許せてねぇ」
『焦凍くん...』
焦凍「だから、親父としてこれからどうなっていくのか見たい。ちょっとしたきっかけが人を変えることもあるって、俺は知ってるから」
そう言って再び蕎麦を啜り始めた焦凍くん。
そして、おじさまも居間を離れようとした。
冬美「お父さんまでどこ行くの!」
炎司「冬美、今まですまなかった」
冬美「..?」
炎司「莉紗も、すまなかった。そして、ありがとう」
『え....?』
炎司「夏雄にかける言葉を間違えた」
そう言っておじさまは夏くんを追いかけて行ったのか静かに居間を去っていった。
**
先生に送ってもらい、寮までの道を二人並んで歩く私達。
焦凍「お前..」
『ん?』
焦凍「親父の事憎んでねぇのか?」
突然聞かれた事。それは私にとって一言で返答するには難しい質問だった。
『何でそんな事聞くの?』
焦凍「お前だって、あいつには散々傷つけられて来ただろ。なのに、何で今あいつと普通に接してられんだ」
『そんなの、焦凍くんも一緒でしょ?てか焦凍くんの方がたくさん傷ついてきた』
焦凍「それは、そうだが..」
憎んでないのか、か...。
その答えに、以前の私なら憎んでると答えたと思う。
実際、体育祭で久しぶりに会った時は気まずさと嫌悪感が先行していた。
それもそのはず。
あの頃の私にとって焦凍くんと冷さんは唯一の拠り所。
そんな大好きで、大切な二人を傷つけ続けたおじさまは私にとって敵でしかなかった。
守る術もなかった。
ただ、両手を広げて前に立つことしか...。
だけど、それはきっと...
焦凍くんも一緒なんだね。
だって焦凍くんは...。
『.....自分がされたことを許さない、とは言わないんだね』
焦凍「え?」
『ホント、優しいね。焦凍くんは..昔から』
焦凍くんがおじさまへの憎しみや想いを口にすることはあるけど、その時に焦凍くんが訴えかけるのは自分自身が受けてきた特訓という名の暴力や傷の事じゃない。
焦凍くんが口にするのは、必ずと言っていいほど冷さんと私の事だ。
あの頃の私にとって、冷さんと焦凍くんを傷つけられたのが悔しくて、悲しかったのと同じように。
焦凍くんにとっても私や冷さんが傷つけられる事は私のその感情と同等なんだって。
そう思う度に、私はこんなに大切に想われているんだと幸せな気持ちになる。
『人は変わる。焦凍くんも変わった。私の両親も、蒼兄も...おじさまも。だから、私も変わりたい』
焦凍「莉紗...」
『過去に囚われるよりも一歩でも前に進みたいし、憎しみの気持ちに縋って生きるよりも人を信じられる気持ちに縋って生きたい。だってその方が...』
色んな人の色んな想いのカタチがあって。
だけど、それは決していつでも綺麗なカタチではなくて。
時には、欲望や感情のままに歪んだカタチにしてしまう事もあるかもしれない。
だけど、人はキレイさを求め、キレイであろうとする生き物だと信じたいから。
『希望に満ち溢れてるでしょ?』
自分の家族と焦凍くんの家族を見てきて私は知った。
愛情がなければ憎しみは生まれない。
冷さんを失った焦凍くんの憎しみ。それは母を求め、母を愛する母に対する子の愛情の深さ。
そう...愛情が深いからこそ憎しみも深くなる。そう気づいた。
だからこそ、本当の"愛情"や"家族"に気づいたおじさまが焦凍くん達の憎しみと向き合っていく覚悟を私は応援したくなった。
『私は....信じる強さを持っていられる人間になりたい』
なりたい私になるために...。
私は今、なりたい自分を見つけた。
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