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油断していたわけじゃない。
自分の力を過信していたわけじゃない。
だけど、心のどこかで...。
自分なら大丈夫だと、積み上げてきたものに寄りかかり過ぎていたんだ。
『クッ...』
戦闘に巻き込まれそうな子供を見つけ、その子の元に全力で飛び込み腕に抱え建物の影に隠れた。
『大丈夫、ここからすぐに逃げて』
子供を離し敵のいない方へ逃がし、見送った瞬間鈍い痛みを感じた。
そう、すでに手遅れだった。
「超人社会のジャンヌ・ダルクが聞いて呆れるぜ!こんなもん易々と撃ち込まれるとはな!」
ビルの影から顔を出しヴィランが手にしているものを確認するとそれは小型のリボルバーだった。
器物破損+暴行罪+個性取扱法違反に銃刀法違反まで。
罪を重ねすぎでしょ。
救いようのない奴。
私は周囲にいた人達の避難が終わったのを確認して自身の個性を発動しようとした。
だけど....。
『え...』
「おめぇ、もしかして今個性使おうとしたかぁ?馬鹿が!この銃弾が何か教えてやるよ!かの死穢八斎會が開発した、個性消失弾だ!」
ヴィランのその言葉に何かが崩れ落ちていく音がした。
**
目が覚めたら病院のベッドの上だった。
ヴィランはどうなったのか。
私は何があったのか。
「莉紗、大丈夫か?」
呆然としていた私を現実に引き戻すように私の名前を呼んだ声は私のベッドのすぐ隣に置いてある椅子に座っていた。
『....焦凍?』
そこには幼馴染の焦凍がいた。
何故ここに..そう考えた瞬間にあの時、自分に何があったか思い出した。
ヴィランの言葉に、まさか自分が個性を失った...?そう呆然とした私にヴィランが飛びかかって来たその時、焦凍が助けに入ってくれたんだ。
『焦凍...何であそこに?』
焦凍「パトロールでたまたま近くにいたんだ。騒ぎを聞いて現場に向かったらヴィランが向かって来てんのにお前が動く気配なかったから」
『....そっか』
焦凍が駆けつけてくれなかったら私はこんな手足に包帯くらいの怪我ではすまなかったと思う。
焦凍「....警察から大体聞いた」
『忙しいのに、わざわざお見舞いに来てくれたんだね』
焦凍「ヴィランが持ってた銃弾。流通元探るのにおばさん達も駆り出されてて忙しそうだったから」
おばさん達に頼まれた奴、と床頭台の上に置かれた紙袋を指差した焦凍。
『それなら焦凍も忙しいだろうに』
焦凍「その案件に関しては俺じゃなく親父の仕事だ」
『それも、そうか...』
個性消失弾...。
ヴィランは確かにそう言っていた。
焦凍によると私の脚に撃ち込まれた銃弾を摘出し解析に出した結果を警察が話しに来ていたらしく個性消失弾の成分と99.3%一致したらしい。
『そっか、まあそうだよね。実際個性使えなかったもん』
焦凍「大丈夫か?」
『大丈夫なわけないじゃん。個性なくなってさ』
焦凍はただ心配してくれているだけなのに私は刺々しい言い方をしてしまった。後悔しても捻ねくれた性格の私は素直に謝る事も出来なくて沈黙を貫いた。
焦凍「そうだよな、悪りぃ」
焦凍は何も悪くないのに、気を悪くした素振りも見せずに私に謝罪を述べた。
『...ううん。悪いけど今日はもう帰ってくれる?』
焦凍「ああ..分かった。明日も来るから何か欲しいもんあったら連絡しろよ」
『ん、分かった』
じゃあな、と私の頭にポンと手を乗せた焦凍は静かに病室を出て行った。
1人ポツンと取り残された静かな病室で、今日起こった事を思い出した。
ほんの小さな気の緩みが...。
私から個性を奪った。
ヴィランが悪いのは前提問題ではあるけど。
今回の事は、完全に私の不注意によるもの。
だけど、どれだけ悔やんでも...。
私に個性は戻ってこない...。
**
検査結果も問題なく、退院となった私は個性をなくしヒーロー活動が出来なくなり引退を余儀なくされた。
雄英卒業後、プロヒーローである親の事務所に所属した私。
ヒーローとしては順調に実績を残していたと思う。
個性が入り混じり、強個性が珍しくなくなっていた第5世代。
それに加え、雄英高校で私達の世代はAB両クラス共に解放戦線で前線で戦っていた事もあり3年生になった頃にはビッグスリーを超えるべく超人社会のプラチナ世代と呼ばれた。
その中でもオールマイトから引き継いだ、ワン・フォー・オールの継承者として緑谷は雄英を卒業した頃には既に次代の平和の象徴として称えられるようになっていた。
そして...。
私は、個性2つ持ちの父親の【怪力】【跳躍】という個性を2つ共受け継ぎ、あろうことか母親の【癒し】の個性までも受け継いだ半冷半燃の焦凍を超える個性3つ持ち。
3つ持ちを認知された時にはそれは騒がれたものだった。
超人社会の歴史を遡っても、3つも個性を受け継ぐなんて前例はない。
親が2人共プロヒーローという甲斐あって危ない目にあった事はないけど、一時はオールフォーワンにも目をつけられてしまって大変な目にもあった。
そんな特攻向きの【怪力】、機動力抜群の【跳躍】、希少なサポート系個性【癒し】の3つの個性を持ってプロヒーロー"アビリティアル"として活動を始めた。
個性を極めれば極めて行くほど、本音か建前か。
いつからか全盛期のオールマイト越えなんて噂されるように。その暁には、世間から"超人社会のジャンヌダルク"と呼ばれるようになった。
何がジャンヌダルクだ...。
ただの情けない、矮小な人間だ。
後悔しても、個性は戻ってこない。
頭では分かっていても、後悔せずにはいられない。
ヒーロ―として生きられなくなり、これからどうしたらいいのか。
どんな仕事をしたらいいのか。
考えても考えがまとまらない。
退院してからというもの急転した日常に半ば、自暴自棄になって連日飲み歩いている私。
幸い、ヒーロー活動を数年続けてきた中で使う時間もなく貯まりに貯まった貯金でよほどの贅沢をして生活水準を上げたりしなければ当分は普通に生活していけるだけのお金はある。
だけど元々、お酒が特別好きというわけでもない私。
飲み会とか付き合いで飲むくらいでそれほど強いわけでもない。
毎日飲む習慣もなかったのに、ここ数日は毎日のように深夜まで飲み歩いては家に帰って倒れ込むようにソファーで寝る生活。
そろそろ身体にも変化が出てきて今朝は窓から入る朝日にたたき起こされてから頭も痛かったし胃もむかむかしてた。
それでも、何にも手に付かずに結局昼間は何も食べる事もなくだらだら寝たり起きたりを繰り返して夕方になってようやく動き始めシャワーを浴びてさっさと飲み屋街に繰り出して今に至る。
「アビリティアルちゃん、そんなに飲んで大丈夫かい?ここんとこ毎日飲んでるんだろ?」
ヒーロー活動をしている頃、夜遅くなった時にご飯だけ食べてほんの時々軽く1杯だけ飲んで帰っていた行きつけの居酒屋。
そんな元の私を知っているマスターが、ここ最近時間はバラバラとはいえ、毎日のように現れては飲みまくってる私を心配しているらしく顔を見れば私の身を案じた言葉をかけてくる。
『ん、他にすることもないし』
「俺は来てくれるのは嬉しいけどよ。休肝日はちゃんと作れよ?」
『ん、善処します』
今日はここに来てからお通しの時雨煮以外何も食べていなかったのを心配してマスターが、今日のおすすめメニューの肉じゃがとおにぎりを出してくれた。
「食べながら飲めよ?」
そう言って厨房の中へ入っていき、他の客のオーダーの調理に取り掛かった。
せっかくだから食べよう。そう思って箸を手にして、マスターが持ってきてくれた肉じゃがのじゃがいもを口に運んだ。
ほくほくのじゃがいも。味が染みていてホッとする味。
そう言えば、実家にも何年も帰ってないな。
先日入院中に両親が顔を見に来たけど。
あれで何年ぶりだったっけ?
自分が年を取ったからなのか何だか、両親が少しだけ小さく見えた気がした。
そんな事をぼんやりと考えていると、自分の真後ろに人が立った気配を感じ後ろを振り返るとそこにはよく知るツートンカラーの幼馴染が立っていた。
『焦凍..?』
焦凍「ここんとこ家に行っても全然出てこねぇし電話もメールも反応ねぇから心配した」
心なしか少し怒ってる様子の焦凍。
理由はなんとなく分かるけど今の私には関係ないし、正直放っておいて欲しい。
『あー、スマホ持ち歩いてない』
焦凍「携帯しなきゃ意味ねぇだろ」
『..何かあった?』
焦凍のごもっともな論破もさらりと流して、急かすように用件を問うと、眉をピクリと動かした焦凍。
焦凍「毎日飲み歩いてるって聞いた。お前、何やってんだ?」
『暇だから出歩いてるだけだけど』
焦凍「お前元々そんな飲まねぇだろ」
『他にすることないんだから良いでしょ。焦凍に関係ないし』
焦凍「こっちはどんだけ心配したと思ってんだ」
『それはごめんね。ちゃんと元気だから大丈夫だよ』
説教をされてるみたいで何だか気分が悪くなってた私は、食べていたおにぎりを無理やり口に放り込んで残ってるお酒を一気に飲み干した。
咀嚼を終え、立ち上がりカウンターに十分すぎるお代を置いておきマスターにお礼を言った後、何か言いたそうな焦凍の横を通り過ぎて店を出た。
焦凍「なあ、莉紗」
『何?』
焦凍が慌てて私を追いかけてきて腕を掴んで無理やり振り向かせてきた。
焦凍「お前何かヤケになってねぇか?」
『なってないし仮になってたとしても別に焦凍には迷惑かけてないでしょ』
焦凍「迷惑かけてるとかかけてないとかそういう問題じゃねぇだろ」
『じゃあどういう問題?』
焦凍「お前の事が心配なだけだ」
そう言う焦凍の顔はどこか寂しそうだった。
『...心配とかしなくて大丈夫だから』
その後も、帰る気配もなく何故か家までついてくる焦凍。
痺れを切らした私は、焦凍に聞いた。
『ねぇ、帰らないの?』
焦凍「帰ったらお前また出歩くだろ」
『ダメなの?』
焦凍「毎日飲み歩くのは体にも悪りぃから」
帰り道から繰り返す会話。
温和に見えて焦凍も頑固だから多分このまま居座る気だろうな。
そう思った私は仕方なく家の中に招き入れた。
**
『焦凍、まさか泊まる気?』
さも自分の家のようにソファーに座ってくつろぎ始めた焦凍に聞いてみると状況からして想定通りの答えが返ってきた。
焦凍「莉紗が良いなら」
『むしろダメって言ったら帰ってくれるの?』
焦凍「ダメなのか...?」
そう言って、眉尻を下げ子犬のような寂しげな顔をした焦凍。
ホントにこいつのこういうトコは昔から変わらない。
悪気がない分余計にタチが悪い。
『もう好きにして』
それから何をしていたって?
私には体に悪いとかなんとか言いながら、私が酎ハイの缶を1本開けると、俺も飲むとか言って人の家の冷蔵庫を勝手に開けて酎ハイを取り出し一緒に飲み始めた。
『ねぇ、身体に悪いとか言ってなかった?何で一緒に飲んでんの?』
焦凍「どうせお前やめる気ねぇんだろ?俺はまだこれが最初だ」
そう言って飲んでいた酎ハイの缶を手にし私に見せた。
『そ』
適当に家にあったおつまみを出して面白くもないTVをかけながらお酒を進める。
元々口数が多くない私たちは会話がない事も多い。
ただ2人してTVを見つめながらお酒を飲むだけで時間が過ぎていく。
かれこれ2人で飲み始めて2時間は経った頃。
焦凍「莉紗...」
『ん...なに』
焦凍「いい加減、飲むのやめろよ」
顔を赤くしながら私に飲む事を制止しようとする焦凍。
私よりもずっとお酒に弱いのに無理に付き合おうとするから今にも寝落ちしそうな程に目がとろんとしている。
『焦凍こそ寝たら?』
焦凍「ん..莉紗」
『なに』
焦凍「お前が、将来困ったら....」
『...困ったら?』
焦凍「俺んとこに、来い..」
酔っ払ったせいか突拍子もなく訳のわからない事を言い出す焦凍に、はあ?と呆れた声をあげた。
とりあえずソファーに寝かせようと焦凍の近くに行き腕を掴み立たせながら焦凍の意味不明発言を嘲笑った。
『なに、嫁にでも貰ってくれんの?』
焦凍「ん」
『ちょ..っ!!』
ソファーに寝かせようとした時、あろう事かソファーに押し倒された。
『焦凍!』
焦凍「いいか?」
『はぁ?』
焦凍「抱いていいか?」
真面目な顔をして何を言うかと思えば、この男はとんでもない事を言い出した。
『...何で?』
焦凍「お前が寂しそうだから」
寂しそうって何...。
個性を失った私の気持ちなんて焦凍に分かるわけない。
私の苦しみなんか、理解出来るわけない。
ただの同情なんてクソくらえだ。
それでも、断れるはずなんてなかった。だって、私は...。
『...好きにすれば』
中学生の頃から焦凍に恋をしていた。
だけど、顔が良すぎる焦凍は昔から女子にモテまくっていた。
当然、私なんか到底敵わないような可愛い子達にも囲まれていた。
私はこんな性格なうえに、怪力の個性のせいで女子扱いされることはほぼないに等しかった。
そんな私が、焦凍に言えるわけがなかった。
"好き"
だなんて...。
焦凍の顔が近づいて来て反射的に目を閉じた。
気付けば重なった唇を、私は半ば投げやりになって受け入れた。
焦凍はかなり酔ってる。
明日になれば覚えていないだろうし、もうどうにでもなっちゃえ...。
私は流れに身を任せ考える事をやめた。
絡み合う舌が独特の水音を放ち、静かな部屋の中に響いた。
いつの間にか消されていたTV。焦凍の背後にあるその黒い画面には私達がぴったりと身体を密着させながら舌を絡ませる私達の姿が映っていた。
焦凍の手が私の脇腹と太ももを行ったりきたりする度に触れられた場所が熱くなっていく。
次第にTシャツの中に潜り込んで来た右手はお酒と行為で火照る身体をひんやりと冷やしてくれて心地良い。
Tシャツをまくりあげブラジャー越しに両方の膨らみを優しく揉みほぐし始めた。
焦凍「やわらけぇ」
『んっ、そりゃ脂肪の塊だからね』
焦凍「色気のない言い方だな、それ」
そんなことを言いつつも別に萎えたわけでもないらしく行為はどんどん本格的になっていき、ブラジャーを外され今度は突起を摘んだり舌で弄り始めた。
『んぁ...や...』
焦凍の舌が突起を転がす度に身体がうねり、私の甲高い声が部屋に響いた。
焦凍「これ好きなんだな」
そう言って休むこと無く刺激を与えてくるからか次第に下着がじんわりと湿ってきたのを感じた。
焦凍が私の首筋から耳にかけて舌を這わせると同時に太ももを撫でながら下着までたどりつくと下着越しに割れ目をツーッとなぞった。
焦凍「濡れてる」
わざわざ言わなくても良いのに耳元でそんなことを言うもんだからこっちは羞恥心でたまらなくなった。
だけどそんな私の心情なんて知らない焦凍が下着越しに秘部を擦り、時折摘むを繰り返すうちに下着が段々と湿り気を増していった。
焦凍「コレ、もう意味ねぇな」
そう言ってすっかり濡れてしまった下着を脱がせてソファーの下に落とすと今度は湿ったままの私の秘部を上下になぞった後、ゆっくりと指を挿入していく焦凍。
その指が私の中を掻き回せば掻き回すほど卑猥な音を立てていく。
そして1番気持ちいいトコロに当たる度に私の頭の中は白味を帯びていき、同時に焦凍が私の胸の突起を甘噛みした瞬間弾けるように世界が真っ白になった。
乱れた呼吸を整える隙も与えず、焦凍は私のぐちゃぐちゃになった秘部に自身の肉棒をあてがった。
焦凍「挿れるな?」
休まむ間も無く次の行為に進めていくくせに私を気遣うような優しい声で問い掛け挿入せずに私の返事を待つ焦凍に、まるで大切にされてるような錯覚を起こして胸が締め付けられた。
コクンと頷くとゆっくりと肉棒を私の秘部の中に押し進める。
予想以上の圧迫感に逃げたくなるけどがっちりと腰を掴まれそれも叶わない。
『あっ...!!、く、るし..』
焦凍「っ、悪りぃ...お前ん中キツいな..すぐイっちまいそうだ..」
焦凍も苦しそうな表情を浮かべて、ゆっくりと中を押し広げるように奥に進んでいくと私の中のある一点に焦凍の先端が当たった。その瞬間、まるで身体に電気が流れたような感覚に襲われた。甲高い声をあげた私に、何かを悟った焦凍はその一点ばかりを狙って突き立ててくる。再び快楽の波が押し寄せて来て、目の前が点滅を繰り返した。
『ひぁっ!しょ、と..もう、あっ!!』
焦凍「俺も、だ...!!」
焦凍も苦しそうな声を上げると、肉棒が抜けるか抜けないかまで引き抜くと一気に私の中を突き上げた。
私の頭が真っ白になった瞬間、焦凍も私の中から引き抜くとお腹の上に白濁の汁を存分に出し切った。
事が終わって目が覚めると何故か服を着てベッドに寝ていた私。
カーテンの向こうはすっかり朝になっていた。
何が何だか分からずリビングに向かうと焦凍がソファーで服を着て寝ていた。
まるで昨日の事が無かったかのように...いや、きっと焦凍は忘れてるだろうからむしろ無かった事にしよう。
そう思いながら、朝食を作っていると掠れた声が聞こえそちらに目を向けるとソファーで寝ていた焦凍がゆっくりと身体を起こした。
昨日のことを思い出すとなんだか気まずくて気づかないふりをし調理を続けていると、焦凍が静かに私の名を呼んだ。
焦凍「身体...大丈夫か?」
覚えてたのか...。心なしかそう聞く焦凍の声も少し気まずそうに聞こえ、私はなおのこと顔を合わせにくくなった。
目を合わせず調理する手を止める事なく大丈夫、と答えると焦凍は小さく「そうか」と一言呟いた。
焦凍「そういや。お前、これからどうすんだ?」
気まずい雰囲気の中、朝食を取り終え片付けをしていると焦凍が思い出したように聞いて来た。
私が現実逃避をしたくて1人酒に逃げていたのに勝手に家までついてきて私も流されたとは言え酒の勢いで身体の関係にまで持ち込み、あげく避けたかった話題を持ち出して来た。
先程気まずそうに感じたのは気のせいだったか?私の近況を知ってれば絶対触れにくい話題のはずにも関わらずこの万年天然男はあっさりと突っ込んできた。
『聞いてどうすんの?』
焦凍「うちの事務所、事務員が最近立て続けに辞めたのと何人か独立したヒーローがいて人手不足なんだ。最近新人も数人入って来たんだが...」
『トドのつまり、事務員でも新人育成でも良いから協力してくれって?』
焦凍「さすがに話しが早いな」
昨日の流れから今のこの気まずい雰囲気の中でよくまあいけしゃあしゃあとそんな依頼が出来たものだ。
『それ焦凍の案?それともおじさまの案?』
焦凍「どっちもだ」
ホントにこの親子は...現場の空気は読めるくせに人の気持ちに関してはとことんKYなのは変わらない。
けど、あのおじさまが協力を要請してくるというのはよっぽど人手に困ってるんだな。
けど、おじさまには昔からお世話になってるし焦凍も...まあ惚れた弱みと言うのか何と言うか。
『個性を無くした私が今更ヒーローとして教えられる事なんかない』
焦凍「...そうか」
『...事務員としてなら』
焦凍「え?」
『事務員としてなら、雇われてもいいよ』
焦凍「莉紗...サンキュ」
**
エンデヴァー事務所にひとまず契約雇用で事務員として雇われた私。
元々ヒーローとして前線に出ていた事もあり現場の状況を認識するのに長け、人員配置が的確であると評価された。
焦凍「お。おつかれ」
あれから焦凍とは業務上必要な会話以外はあまりしなくなった。
向こうがどう思ってるかは分からないけど、やっぱり一夜にあんな事があった以上今まで通りは難しく。
私に至っては焦凍に対する想いも相まって尚のこと気まずさを感じてしまっている。
そんな私達を見て、おじさまが喧嘩でもしたのか?と尋ねて来た事もあったけどその時は当たり障りなく訂正し、それ以降は聞かれなくなった。
「風舞さん、先に昼休憩どうぞ?」
『ありがとうございます。ではお先に頂きます』
エンデヴァー事務所に雇われてから昼食は事務所内の食堂で取っていたけどこの辺りを散策して見るのも良いかと思い今日は街中に繰り出してみた。すると、小洒落た洋食屋を見つけ吸い込まれるように中へ入った。
夫婦2人で営んでいた小さな洋食屋は居心地が良く頼んだランチセットも安心する味だった。
ランチを満喫し、事務所へと戻ると事務所に近づくにつれてだんだんと騒がしくなっていき自然と足取りも早駆けになる。
騒ぎの渦中を確かめに行くとあろうことかすぐそこに大手のヒーロー事務所があるにも関わらずヴィランが暴れていた。
すぐに事務所に電話をするもあれだけ多くのサイドキックを雇ってるのにも関わらずタイミングが悪いことにちょうど緊急要請が相次ぎベテランヒーローたちが出払っていて事務所に残ってるのは若手のヒーローばかりだと言う。ひとまず、若手ヒーロー達に現行してもらい個性がないとはいえ最近までヒーローをしていた私が1番現場での状況判断に長けているだろうから、指揮系統をとってヴィラン対応と避難誘導をさせよう。
そう決意していたタイミングで、現着した若手サイドキック達。
ヴィラン退治と避難誘導に采配し、ヴィラン退治の指揮を取ることに専念した。
「がははっ!テメェはアビリティアルじゃねぇか!!」
奴が口にした名前。それは間違いなく私のヒーロー名だった。
よく見ればそいつは、私に個性消失弾を撃ち込み私から個性を奪った例のヴィランだった。
ヴィラン警に捕まったと思っていたけど何故か娑婆の世界にいるそいつに私は一瞬呆けてしまった。
「風舞さん!」
サイドキック達の声で現実に引き戻された私。
目の前でヴィランが私に向かって巨大な腕を振り下ろしている。
それが私の中に残っていた最後の記憶だった。
**
真っ暗...。
ここどこだろう。
私、何処にいるの?
確か、事務所の近くでヴィランが暴れて...。
あぁ、そっか。
もしかして私...死んだのかな?
まあ、個性もなくしてヒーロー生命を絶たれた私なんてそもそも超人社会で何の価値もなかったし。
"莉紗"
...誰?
"莉紗"
私を呼ぶのは誰?
"目を覚ましてくれ"
誰かが私を呼んでる。誰?
"まだ、お前に伝えてねぇ事があるんだ"
伝えてない事...。
そういえば、私も焦凍に気持ち伝えてなかったな。
あれ以来気まずかったけど、こんなことになるなら伝えておけば良かった。
それに、謝りたい事だって...。
本当に...このまま、死んでも良いの?
...やっぱり、嫌だ。
私、焦凍にちゃんと気持ち伝えたい。
あの日の事、謝りたい。
起きなきゃ...起きなきゃ...!!
起きろ、私!!
「莉紗!?」
目を開けると目の前には見慣れたツートンカラーがあった。
『.... しょ...と..』
焦凍「莉紗...良か、った...もう、起きねぇのかもって...」
普段滅多に泣く事のない焦凍の頬に涙の跡がくっきりと残り、その目は真っ赤に充血していた。
『しょう、と...ごめ....』
焦凍「何のことだ...?」
『あの日の、事...心配して、くれて...たのに...冷たく、して』
焦凍「そんな事、気にしてねぇよ。無事で良かった..」
そう言ってベッドに顔を埋め大きく息を吐く、あまり見た事のない焦凍の姿にそれほどまでに心配をかけてしまったんだなと罪悪感に苛まれた。
手をつき支えにしながらゆっくりと身体を起こした。
『ごめん...個性、ないのに...出しゃばったから...』
焦凍「いや、お前が若手の奴らを避難誘導とヴィラン対応にベストな采配をしてくれたおかげで俺達が駆けつけた時には市民の人達はみんな避難が終わっていて怪我人も出なかった。ヒーローも軽傷者だけだ。お前以外はな」
そう言って、私の頭を撫でた焦凍。
その手の温もりに、私は酷く安堵した。
『そっ、か...』
焦凍「個性なくしても、お前はやっぱりスゲェヒーローだよ」
焦凍のその言葉が嬉しかった。
個性が無くなっても私に出来ることがまだあるんだと言われたみたいで。
焦凍「それで、だな...莉紗」
『ん?』
焦凍「俺もお前に、謝りたい事がある」
『何?』
焦凍「あの日、酒の勢いであんな事して悪かった」
焦凍の言うあの日が何なのか聞くまでも無かった。
受け入れた私も悪いから焦凍が謝ることはないのに。
『謝ることないよ。受け入れた、私も...悪いから』
焦凍「何で、受け入れたんだ」
『だって...』
気持ちを伝えなきゃと思った。
伝えた結果、どうなるかなんて分からない。
だけどこのまま気持ちを隠し、誤魔化したままあの日の事を無かったことにはできなかった。
『私、ずっと....焦凍が好きだった、から』
焦凍「......え」
『そこに、気持ちがなくても...一夜だけの身体の関係でも焦凍なら、いいやって思って...ヤケになってたし、もうどうでも良かった...ごめん、利用したみたいで』
焦凍「好きだった...って。お前が、俺を?」
『うん、中学の時からずっとね』
今までの私たちの関係が壊れてしまうだろう。
だけど、私がこれから新しい第一歩を進む為に長年のこの想いにいい加減ケジメを付けようと思った。
そう思ってたのに、私はなぜ焦凍に抱きしめられてるんだろう。
こんなに、力強く...。
どうして、焦凍の腕はこんなに震えてるんだろう。
『...焦凍?』
焦凍「莉紗、悪りぃ。順番...とばしちまう」
『え、何?』
急に訳の分からない事を言う焦凍。
抱きしめていた腕を緩め身体を離すと私の事をじっと見つめてくる。
焦凍「俺と、結婚してくれ」
『...............は?へ、、え?』
結婚って...。
『焦凍、結婚って知ってる?』
焦凍「知ってる」
『私達付き合ってもないんだけど』
焦凍「だから順番とばしちまうって言っただろ」
『いや、言ってたけど...何で結婚?!』
焦凍「俺も、高校の時からお前の事ずっと好きだったんだ」
『......え』
焦凍「ホントはお前の目が覚めたら告白するつもりだった。けど、お前が中学の時から俺のことが好きだったって知って...順番とかどうでも良くなっちまって。早く一緒になりたくなった」
『ウソ...』
焦凍「ウソじゃねぇ」
『私達、学生の時から両片思いだったって事...?』
焦凍「らしいな」
そう言って眉尻を下げて笑った焦凍。
その顔はいつもよりも少し幼く、今まで見た事がないくらい嬉しそうだった。
『私で、いいの?』
焦凍「お前がいい」
『だって、怪力女だよ?』
焦凍「もうその個性ねェから違ェだろ」
『私傷だらけで、全然キレイじゃないよ?』
焦凍「超人社会のジャンヌ・ダルクが、その身を呈して多くの平和を守って来た勲章だろ」
『...ホントに、私で良いの?』
堪えきれなくなった涙を溢れさせながら聞くと再び焦凍が私を力強く抱きしめた。
焦凍「お前じゃねぇと、俺がイヤだ」
ヒーローにとって商売道具である個性を失った私。
私が失ったものは大きかったけど、その代わり守れたモノもあった。
そして、失ったその代償に...。
私は最大の幸福を得た。
『焦凍....』
焦凍「ん」
『幸せにしてね』
私の、新たな人生が今ここから始まる。
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