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「ヴィラン出現により、緊急出動要請!手の空いてるヒーロー、出動願います!」
焦凍「俺行きます」
「ショートさん、出動お願いします!場所はスマホに送信済みです!」
焦凍「はい」
昼のパトロールを終え、簡単な昼飯を食べながら待機していた所に事務所内に緊急出動アラートが鳴った。
ちょうど昼飯も食べ終わった所だったから、出動を申し出て足早に事務所を飛び出した。
スマホに送られた位置情報を確認し氷結で滑走移動をしながら、任務詳細について確認した。
"怪盗 ジャンヌ"
今回、騒動を起こしたヴィラン。
それは最近何かと耳にする名前だった。この怪盗ジャンヌは予告通りに現れ、物を盗んで行く。
その物は骨董品や金目の物と言うわけではなく、おもちゃ屋に売ってるようなぬいぐるみやおもちゃだったり。はたまたCDや昔使われていたレコードだったり様々で、金目当てというわけではなさそうだ。
目的は不明瞭だが、被害届が出てる以上警察も動いてはいるが現場には間に合っているのに拘束するに足らず、未だ一度も縄に付かせられずにいるらしい。
一度逃げれば次に現れるまで、足を掴ませないかなり厄介な相手で、ヒーローにも要請を出して管轄が近いうちの事務所にもよく応援要請が来る。
が、やはり逃してしまうようだ。俺はこのジャンヌの事件に立ち会うのは初めてだが、仮にもNo.1ヒーローが構える大手事務所所属のヒーロー達を躱して逃げられるというのは相応の手腕の持ち主なんだろ。
現場が見えて来て、警察がメガホンでヴィランに呼びかけているのが見える。
焦凍「すいません、今到着しました」
刑事「ショートくん!待ってたよ」
警察「今回は、この質屋に流れている某アイドルのポスターに予告が出た。30人体制で囲っていたのにも関わらず奴は現れ全く動じずに盗品を探し始めたんだ。我々もその隙を捕縛しようとこちらも試みてはいるんだが....」
焦凍「躱されるんですね」
刑事「情けない事にな」
苦笑いしながらぼやく刑事。
かなりお手上げな様子だ。
焦凍「奴の個性って分かりますか?」
刑事「いや、詳細は...ただ今回の建物が元々迷宮のような造りをしているのを利用し、かなり巧妙な場所に隠して場所を分かっている人間ですら地図がないと簡単に辿り着けない場所に隠してあったんだが奴は目標の場所が分かっているかのように何故かスムーズに近づいているんだ」
焦凍「目標の場所が分かってるかのように...?」
刑事「ああ」
焦凍「奴は今どの辺りに?」
刑事「追跡部隊が今この辺りに」
警察の人は俺に地図を見せながら指差しで場所を教えてくれた。
焦凍「俺も行ってみます」
地図を受け取り、頼んだよ!と言う警察の鼓舞を背中に受け俺は建物の中に入った。
**
建物の地下はかなり入り組んでいて警察の言っていた通り、地図がなきゃ進むことも出ることも出来なさそうなほどに複雑な造りをしていた。
地図を頼りに、滑走して進んでいくと誰かの話し声が聞こえた。警察とジャンヌか?
『早く貴方のお家に返してあげるね』
息を潜め近づいてみるが、1人の女の声しか聞こえねぇ。
これが、ジャンヌの声か?誰と話してんだ?
『こんな助け方しか出来なくてごめんね...』
彼女の声には何故か悲しみが含まれているように感じた。
それにあの言葉の意味は...助け方?
疑問は色々あるが、ヴィランの拘束が最優先だと判断した俺は彼女に向けて氷結を放った。
『?!』
氷結に気づいたヴィランが身をよじり地を蹴り俺の氷結を躱して行った。
焦凍「そこまでだ、ヴィラン」
目元と口元だけが晒された仮面を被っていたジャンヌは、接近されて居た事に驚いたのか。俺の顔を見るなりその露出した目を見開いた。
『貴方は...』
メディアに晒されることも多いために俺がヒーローだと言う事を知っているようだ。
焦凍「今ならまだ更生の余地はある。その気があるなら俺も協力してやる。だから自首するんだ」
諭すように話すも、俺がヒーローだと知っているにも関わらず彼女の表情からは動揺を読み取れない。
捕まらない自信があるのか?
『テレビで見てたよ。昔と変わらないね、焦凍くんは』
焦凍「は?」
『ヴィランとヒーローとしての再会じゃなくて....出来れば、捕獲じゃなくて、プロヒーローの貴方に救われたかった』
焦凍「何、言ってんだ?」
『覚えてないか...そうだよね。もう焦凍くんは、私だけのヒーローじゃないもんね』
彼女がつぶやいたその言葉に俺の脳裏に一つの幼い記憶が蘇った。
あれはお母さんが病院に入院したばかりの頃...。
父からの熾烈な特訓が一段落し、父が仕事に出かけた隙に焦凍は家を飛び出した。
しばらく走りやって来たのは近所の公園。だがそこには楽しそうに遊ぶ同年代の子供達がいた。
けれど、特訓しかして来なかった焦凍は公園で遊ぶ友達も公園での遊び方も知らなかった。
楽しそうに遊んでいる子達を見て羨ましいと思う感情を残し、そのまま家に引き返そうとした。
『きみだーれ?』
後ろから女の子の声が聞こえて、焦凍が振り返るとポニーテールに可愛らしいピンクのリボンをした女の子が焦凍を見てニコニコと笑っていた。
焦凍「え..えっと...」
『私風舞莉紗!きみは?』
焦凍「と、とどろき..しょうと...」
『とどろき?あ、もしかしてエンデヴァーの!』
焦凍「え、う..うん...」
『そっかー、しょうとくんもこういうところであそぶの?』
焦凍「ううん、あそんだことない...」
『そうなの?じゃあいっしょにあそぼうよ!』
公園での遊び方も友達との付き合い方も知らない焦凍に、焦凍が知らない世界を見せ、教えてくれたのは紛れもなく莉紗だった。
周りの同年代の子供も大人も、焦凍に向ける視線はいつも"エンデヴァーの息子"という肩書きがついてまわり、焦凍の評価もそれに準じていた。しかし、莉紗だけは違った。
彼女だけは焦凍を焦凍として、見て接してくれた。そんな彼女に焦凍が心を開くのに時間はそうかからなかった。
焦凍はエンデヴァーが仕事に行っていない隙を見ては公園に度々出向き、莉紗との友情を深め、友達と遊ぶことや外の世界の楽しさを覚えていった。
そんなある日の事。
「なあ、おまえの父ちゃんって悪いやつなんだろ?」
「悪いやつの子供って事はお前も悪いやつだなー!」
小6のガキ大将とその取り巻きが莉紗に絡んできた。
『じぶんより弱い子ばっかいじめるあんた達よりずっとマシ!』
「なんだとこのやろ!!」
「おんなのくせになまいきなんだよ!」
ガキ大将達が莉紗に対して掴みかかってきた。
それを見た焦凍が間に入りガキ大将達を突き飛ばした。
焦凍「やめろ!」
焦凍はその左側を炎で煌々と滾らせ、ガキ大将達を威嚇した。
焦凍「莉紗ちゃんイジメるやつはぼくがゆるさない」
そう言ってガキ大将達を見下ろす焦凍の目は小学生の少年とは思えない程に冷たい目をしていた。
焦凍がガキ大将達に手のひらを向けると、彼の個性である炎で燃やされると思ったガキ大将達は顔を青くしながら焦凍と莉紗に対して、謝罪の言葉を繰り返し慌ててその場から逃げていった。
『しょうとくん?』
いつも見て来た、泣き虫で可愛らしい焦凍とはまるで別人のようなその雰囲気に莉紗はおそるおそる焦凍の名前を呼んだ。
焦凍「莉紗ちゃん、だいじょーぶ?ケガは?」
そう言って莉紗を心配する焦凍はいつも莉紗が見て来た焦凍だった事に、莉紗はホッと息を吐いた。
『ううん、しょうとくんが守ってくれたから大丈夫!ありがと!』
焦凍「そんな、ぼくはなにも...」
『しょうとくんはわたしのヒーローだね!』
焦凍「え?」
『ずっとわたしのヒーローでいてくれたらうれしいなぁ』
焦凍「も、もちろんだよ!莉紗ちゃんのことはぼくがまもるよ!」
『ふふ、しょーとくんカッコいい!』
幼い子供が口にした誓い。
2人は前にも増して学校でも放課後もいつも一緒にいるようになった。そして、時は流れ中学生に入学した焦凍。
同じ学校に入学しているはずの莉紗の姿を探した。
焦凍「(莉紗の奴...いねぇな)」
中々見当たらない彼女の姿に、連絡を取ろうとポケットからスマホを出した時だった。
女1「そういえば知ってる?風舞さん。何か凝山小卒業と同時に引っ越したらしいよ?」
女2「え?そうなの?まー、通いにくいよね。だってヴィランの娘でしょ?私なら外歩けないよ」
女1「確かに。ほら、凝小1のイケメンの轟くんとずっと一緒にいたよね」
女2「ヴィランの娘のくせに厚かましいよね」
女1「ほんと、身を弁えろって感じ」
焦凍「(莉紗が引っ越した...?)」
信じられない焦凍はスマホで電話を掛けるも電話の向こうからは現在使われていないという無機質な音声が繰り返されるだけだった。
焦凍にとっては青天の霹靂だった。
母と離れ離れになり居場所も拠り所もなくしていた焦凍にとって莉紗との時間はかけがえないものであり、唯一笑って過ごせる時間で、彼女だけが焦凍の心の支えだったからだ。
まさかこんなにあっけなく、そして何の音沙汰もなく焦凍の前から大切な存在が消えてしまうのは焦凍にとっては二度目の事だった。
それからの焦凍は以前にも増して他人を遠ざけ、誰かと関わる事を拒み会話をすることすら拒絶するようになった
あれから10年以上の年月が経った。
いつの間にか親父への嫌がらせで頭がいっぱいになっていた俺は親父を見返すためにヒーローを目指し雄英に入学した。
そして仲間達と切磋琢磨しているうちに彼女が何も言わずに離れていった悲しい記憶を忘れ1つの思い出として記憶の奥底に閉じ込めていた。莉紗と離れてから大分後に聞いた話しだが莉紗の父親は、異形系の個性持ちで幼少の頃から誹謗や中傷を受けていたらしく学生の頃はかなり荒れていたらしい。
莉紗の母親と出会い少し落ち着いたらしいが、莉紗が産まれあろう事か最愛の娘にまで中傷の刃が飛び火し、それがきっかけで莉紗が小学校を卒業する少し前に個性犯罪を犯し逮捕されたそうだ。
焦凍「...莉紗、なのか?」
俺がそう呟くと、ジャンヌは仮面を取って素顔を見せた。
目の前にいるのは、間違いなくいつも俺の隣にいたはずの彼女だった。
『そうだよ、思い出してくれた?』
焦凍「何で、ヴィランなんかに...」
『そうだね。ヒーローの焦凍くんからしたら私はヴィラン、だよね』
意味深な言葉を囁く莉紗。まるで別の誰かからすれば莉紗はヴィランじゃないとでも言いたげな口ぶりに俺は眉を顰めた。
焦凍「何言ってんだ?」
『でもね、この子達にとってはむしろ焦凍くんの方が悪なんだよ』
焦凍「は?」
『私の個性、知らないもんね。私の個性はハート』
焦凍「ハート..?」
聞いた事もなかった莉紗の個性。莉紗はその表情を崩す事なく自分の個性について話し始めた。
『生命のない物体の心を知ることが出来る。私が盗んできた物は、野蛮な盗人達がこの子達の主人から盗んだり奪ったりして主人と引き離され主人の元に帰りたいと願う悲しい子達。そういう子達を元の主人の元に帰してあげてるの』
焦凍「盗まれたもの..?」
『そう、ポスター1枚に盗難の被害届が出たって警察もヒーローも動いたりしないでしょ?盗まれた主人だってそう。ポスター1枚だと泣き寝入りしてしまう事が多い。だけど、この子は帰りたがってる。私はそういう子達が家に帰る手助けをしてるの』
焦凍「例えそうだとしても、お前がやってる事はれっきとした犯罪だ。正規の職務として動いてない以上、お前は盗人でヴィランなんだぞ」
『別に私は正義のつもりでやってるわけじゃない。この子達が望むから手を貸してるだけ。私がヴィランだろうが何だろうが関係ない。それに、ヴィランの娘なんだし私がヴィランだって不思議じゃないでしょ』
彼女のその言葉に、俺は幼い頃彼女が同じ学校のヤツらに心無い言葉を投げつけられていた記憶を思い出した。
焦凍「お前、それでヴィランになったのか?」
『ヴィランになったつもりはないけど、まあ世間からすれば現状はヴィランそのものね』
焦凍「お前の親父さんの事は知ってる。最終的に犯罪を犯したのは親父さん自身だが、その過程で言えば確実に被害者だ。現に情状酌量で減刑もされた。司法もお前の親父さんだけが悪いわけじゃないって認めたからだろ。お前も自分の親が個性犯罪を犯したからってお前までヤケを起こして個性犯罪を犯す必要はねぇ。親父さんが悲しむはずだ」
『..........』
莉紗は表情を変える事なく黙って俺の言葉を聞いている。
かつての俺にとってなくてはならなかった存在。
俺を救ってくれた存在。
だから、今度は俺が彼女を救いたい。
彼女を蝕んで来た悪意や拒絶から、彼女を守りたい。
焦凍「まだやり直せる。俺もサポートする。だから、これ以上罪を重ねるな。」
『....もっと早く、焦凍くんと再会したかった』
焦凍「今会っただろ」
『もう手遅れだよ』
焦凍「手遅れなんかじゃねぇよ」
『やり直すなんか出来やしない!』
焦凍「それはお前次第だ。お前にやり直す意思があれば出来る。俺が力になる。お前の個性は犯罪なんかに使っていいはずがねぇ」
莉紗の個性を聞いた時に、不思議としっくり来た。
『....何で?』
焦凍「お前は優しい奴だから。お前に救われて、あの頃の俺は1人じゃなくなった。辛かった日々が楽しくなった。お前はそういう奴なんだ」
『...............』
焦凍「だから、お前の個性も...お前と同じでもっと優しい個性のはずだ」
『焦凍くん....』
焦凍「お前が俺にしてくれたみたいに、俺もお前を助けたい。お前が手を伸ばしてくれんなら、俺はその手を取ってやりたい」
『ッ..』
ずっと表情を変えなかった莉紗がここに来て苦しそうに表情を歪めた。その表情は、俺に助けを求めてるようにも見えた。
焦凍「莉紗」
『っ、焦凍くん...助けて...もう、追われる日々は、イヤ...』
そう言って涙を流しながら俺の身体にしがみついてきた莉紗。俺は莉紗の身体を抱きしめた。
それから少しの間泣き続けた莉紗は、自ら警察の元に行くと言い俺は一緒に警察の元に向かった。
**
警察「怪盗ジャンヌ、14:38!現行犯逮捕する!」
警察に莉紗の身を預け、莉紗はパトカーに乗せられ連行されていった。
刑事「ショートくん、ご苦労さま。迅速な解決、さすがだ」
焦凍「いえ、ちゃんと話せば伝わる奴だったんで」
刑事「..そうか」
焦凍「あの、あいつは...」
刑事「大丈夫だ、良きに図るよ。幼少の頃から父親の事で追い詰められていた環境、そして出所したばかりの父親を殺されそれに憔悴した母親が後追い自殺し中学生で孤児となった後親戚のいなかった彼女を養子として引き取った夫婦が、彼女と同じような未成年で使い勝手のいい個性の子たちを養子として迎え悪用し、膨大な利益を得ていてね。彼女も悪事の為にその個性を利用されていたんだ。3年前にようやく逮捕出来て利用されていた子供たちはカウンセリングを受けて未成年の子供たちは施設に入り、彼女や成人していた子たちは自由の身だったんだけど。精神ケアが足りなかったようだ。そうういう背景があるのも知っていたから、指名手配などにあげて大々的に捜査する事も躊躇していたんだ。利用されていたとは言え悪事に働き続けていた罪悪感が社会の中に飛び込む勇気を阻害していたんだろうね」
想像していた以上に過酷な莉紗の人生に俺は言葉を失った。分かってはいた事だが、彼女は望んでヴィランになったわけじゃない。
だからと言って自らの意思で選んだというわけでもない。
そういう生き方しか知らなかったし、違う生き方を示してくれる人も後押ししてくれる人もいなかったんだ。
焦凍「俺、子供の頃あいつに助けてもらったんです。だから、今度は俺があいつの助けになりたいです」
刑事「そうか...そう思ってくれる存在がいるというのはきっと彼女の更生には不可欠だと思う。頼んだよ、ショートくん」
焦凍「はい」
**
その後の捜査で莉紗の窃盗は、本人の言うように元々盗まれた盗品を最初の持ち主に返していただけだったという事が判明した。
拾い物を盗んだ事に関しては最初の持ち主のものだという証拠を出す事が難しい為立証は不可能だが最後の持ち主が落とし物を拾って入手したという証言を得る事が出来、莉紗の証言はあながちウソではないだろうという結論に至った。
その為、最初の持ち主たちはジャンヌに対し敬意と感謝を口々にしていたし最後の持ち主とも示談という形に落ち着き莉紗は罪に問われる事なく釈放となった。
『ご迷惑おかけしました』
刑事「これからは新しい人生を生きる事。君を支えてくれる人がちゃんといるから君ならきっと大丈夫だ」
『はい、ありがとうございます』
拘留所から出て来た彼女は刑事さんに頭を下げた。
刑事さんは穏やかな表情で彼女の肩に手を置いて何かを伝えていて、彼女も刑事さんに微笑んでいた。
焦凍「莉紗」
会話が終わったように見えたから俺は莉紗の名前を呼んだ。莉紗は振り返って俺にも笑顔を見せてくれた。
『焦凍くん』
刑事「ショートくん、彼女を頼むよ。エンデヴァーにもよろしく伝えてくれ」
焦凍「はい」
親も親戚もいない彼女は身元引受人がいない。
だから、俺が彼女の身元引受人として志願し彼女を迎えに来た。
俺が身元引受人として認められた理由も彼女の今後と関係がある。
『何から何まで迷惑かけてごめんなさい』
焦凍「困ってる人間を助けんのがヒーローだ。気にするな」
『焦凍くん...』
焦凍「それに、親父も了承した事だ。お前が気に病むことはねぇよ」
『今後焦凍くんとエンデヴァーさんには一生頭上がらないや』
焦凍「お前が頭下げる必要もねぇよ。元はと言えばお前は被害者なんだから」
俺は親父に事情を説明し彼女を助ける方法がないか相談した結果、莉紗をエンデヴァー事務所で引き取り、事務員兼現場のサポート要員として働かせる事になった。
彼女の個性"ハート"は捜査において大いに役に立つ。
それに、彼女が怪盗ジャンヌとして活動を繰り返している中で身につけた身のこなしや戦闘技術(主に回避術)はよほどの過酷な現場に行かせるような事がなければ足かせにもなり得ない。
無免許ではあるが、そもそも彼女の個性は専らのサポート個性。
危害を加えたりするような個性でもない以上、現場のヒーロー達のサポート、アシスト程度なら法律違反にもならない。
『私どうやってこの恩を返して行けばいいんだろう』
焦凍「そんな深く考えるな。俺としては棚からぼたもちってやつだ」
『棚からぼたもち?何で?』
焦凍「お前と一緒にいれるから」
『え...?』
焦凍「お前がいなくなってから、ずっと心に穴が開いたみたいだった」
ガキの頃の約束なんて、くだらねぇと笑われるかもしれない。
けど俺にとっては何より大切な約束で、俺がヒーローを志したきっかけでもあった。
焦凍「お前の事は、俺が守る」
『っ...』
子供の頃に交わした約束。
果たせるはずもない、何の力もない子供だった俺がしていた口約束じゃない。
ちゃんと守る力を今は持ってる。
この
焦凍「これからはちゃんと、守らせてくれ」
『焦凍くん...』
焦凍「好きだ、莉紗」
『っ、私も..。焦凍くんが、好きだった...でも、私..ヴィランの娘だから..ヒーロー目指した、焦凍くんの隣にはいれないって...そう思って..あの人達の、養子に...』
莉紗の心はいつもヴィランとなった父親の存在に押しつぶされてきた。それは彼女の癒えない傷となって苦しめてきたが、いい加減解放されていいはずだ。いや、解放されなきゃいけねぇ。
莉紗はこれ以上ないほど、傷ついてきたんだ。
何の罪もない幼少のこいつは社会的な制裁を受け続けてきた。
焦凍「お前は風舞莉紗だ。親父さんとお前は別の存在だ。父親に引きずられるな」
『...私も、焦凍くんを好きでいて、いいの?』
焦凍「俺は、お前に好きになってもらいたい」
俺の気持ちが全部伝わるように、俺は莉紗の小さな身体を力いっぱい抱きしめた。
焦凍「好きだ」
『っ、私も..好き..!!』
やっと戻ってきた大切な存在。もう離れて行かねぇように、莉紗の身体を離してキスしてやると莉紗は顔を真っ赤にして照れくさそうに笑った。
ああ...やっと戻ってきたんだな。
おかえり、莉紗。
**
1年後
『こっち処理終わってます』
「ありがとう、こっちもお願いしていい?」
『はい』
莉紗はエンデヴァー事務所で引き取って1年が経った。
事務所の社内寮に住みながら事務員として独り立ちして、業務にも慣れてきたようで手際よく業務をこなすようになった。
「緊急出動!ヴィランによる誘拐事件。現場は大通り5丁目!手の空いてるヒーロー出動願います!」
エン「ショート、バーニン、行けるか?」
焦凍「ああ」
バーニン「イエッサー!」
エン「莉紗!お前も来い!」
『あ、はい!』
莉紗は現場サポーターとして窃盗、盗難、事故などで度々俺達ヒーローに同行し個性を駆使し現場の状況把握に協力してもらっている。それを公に行えるように、莉紗を事務所で引き取った時に、親父の勧めでヒーローの指示の元であれば個性を駆使することが認められる"ヒーローサポーター"という資格を得る為に莉紗は通信制の学校に通いながら事務員として働き始めた。
そして、つい先月。その資格試験に合格し莉紗は俺達をサポートする為にその個性を堂々と発揮することが出来る。
エン「莉紗、どうだ」
個性を発動し、子供を誘拐して犯人が入ったとの目撃があったビルの前に立ち壁に手をつく莉紗。
『犯人はこのビルの3階の会議室内に人質を連れ込んで立て籠り中。武器はサバイバルナイフ1本のみ。人質は小学生くらいの女の子』
ビルの壁やドアなど物体たちから知り得たであろう情報を俺達に簡潔に伝えた。
現場の状況を把握出来るおかげで正確にかつ迅速に事件解決にあたれて莉紗が現場に同行するようになってから事件解決までの時間が大幅に短縮された。
事務所のヒーロー達からも感謝されるようになって莉紗は最近笑顔が増えた。
焦凍「莉紗、お疲れ」
『あ、焦凍くん。お疲れさま!』
帰ろうとしていた莉紗に声をかけると振り返った莉紗が可愛らしい笑顔を見せた。
莉紗は日に日に昔の彼女に戻りつつある。
それが俺も嬉しくて、最初は毎日職場で会えるので満足だったが最近は少し違う。
焦凍「やっぱスゲェな。お前の個性あるのとないのじゃ全然違ェ」
『ふふ、ありがと!私もこの個性にこんな使い方があったなんて、考えもしなかったよ。焦凍くんやエンデヴァーさんのおかげだね!これからもよろしくお願いします!』
焦凍「ああ...その、これからの事なんだが」
『ん?』
焦凍「お前が良かったら、一緒に暮らさないか?」
『え..』
焦凍「職場で顔合わせるだけじゃ、足りねぇんだ」
『................』
俺の申し出に、莉紗が俯いて黙ってしまった。
もしかして、嫌だったか...?
焦凍「莉紗..イヤならイヤって言ってくれ。その...『い、イヤじゃない!』」
俺の言葉を遮って否定した莉紗。
俺を見るその顔は真っ赤に染まっていた。
『わ、私も..もっと、焦凍くんと一緒に、いたい...から...///』
焦凍「お前...」
照れくさそうに言うその姿が可愛くてたまらないから誰にも見せたくなくて抱きしめてやった。
焦凍「家、探しに行かなきゃな」
『うん...!///』
そう言ってお互い笑い合っていると背後から「ゴホンっ!」と咳払いが聞こえてきて振り返るとバーニンや親父がいた。
『え、エンデヴァーさん!』
エン「お前達..そう言うのは、だな..その、なんだ「見せつけるなぁ~2人共!」
『あ、あの..!!す、すいません..!!///』
焦凍「そういう事だから、こいつの退寮手続き頼むぞ。じゃあな」
莉紗の手を引いてその場を後にした。
『え、ちょ、焦凍くん!お、お疲れ様でした!』
莉紗の手を引き事務所を出ると莉紗は俺の服を掴み呼び止めた。
焦凍「どうした?」
『あんな言い逃げみたいな感じでいいの?』
焦凍「良いんだ。どうせダメとは言わねぇから」
『そういう問題..なのかな?』
焦凍「閉まらねぇうちに家、見にいかねぇとだろ?」
『! 焦凍くんって、意外と善は急げタイプだったんだね』
焦凍「俺は今からでもお前と暮らしたいからな」
『...じゃあ』
焦凍「ん?」
『今日、焦凍くんの家に泊まりに行っても...いい....かな?////』
焦凍「え...」
『ダメ、かな...///』
焦凍「いや、嬉しいが...何もしねぇ保証は、しねぇ...」
『え?』
焦凍「っ、何でもねぇ。行くぞ」
ヴィランとヒーローとして再会した俺達が、同じ屋根の下で暮らせるようになるのはもうすぐ。
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