再会
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電車で2時間かけて轟の家にやってきた私たち。
マンションはいわゆる32階建ての超高層のタワマン。轟の家はその30階で、居住フロアの最上階だった。
31階には展望バー、32階にはテラスがあるって言っていた。
見るからにキレイなハイブランドなマンション。内装も四方見渡すとどこからどう見ても大理石で出来ている。
シックな色合いで落ち着いた雰囲気のエントランスに華やかな花が飾られ、来客との応対用なのか、本革で出来た椅子にこれまた大理石で出来たテーブルが置かれていた。
エレベーターに乗ると、全面ガラス張りの高速エレベーターであっという間に街の光景が小さく見えていく。
『もう、なんかケタ違いなセレブだね。さすがはエンデヴァー事務所の御曹子』
轟「よせ」
『あはは、ごめん』
チン、という音と共に扉が開くと何か違和感を感じる。
『ん?このマンション1フロアに3部屋しかないの?』
轟「ああ、いやこの階だけだ。
このマンション、俺がプロヒーローになった時に親父が建てたマンションでこのマンション契約する管理会社もエンデヴァー事務所の傘下なんだ。
俺が他の住人と接触しないようにこのフロアには3部屋だけ作って他の2部屋は契約させねぇことになっててな、俺しか住んでねぇ」
『そっか、ヒーロー活動する上ではありがたい環境だけどプライベートで他者との交流ないの寂しくない?』
轟「いや、そんなに気にならねぇな」
『そっかー』
轟「入ってくれ」
轟に促され部屋に入ると中も想像を軽く凌駕する程のセレブマンションっぷりだった。
『広!高!』
轟「何だ、その感想」
私のよく分からない単語での感想に轟が苦笑いした。
中は黒で統一されていて、窓ガラスは全面張り。最低限の家具しか置いておらず生活感があまりない。
『物少ないねー?』
轟「月の半分は事務所に泊まってるし、家に居る時間少ねぇからな。風呂と寝にだけ帰って来てる感じだ」
『家賃もったいなーい』
轟「あー、半分は経費で落としてるらしい」
『派遣中どうするの?』
轟「1回契約切る。どうせこのフロア誰も入れねぇし」
『そっか、でもちょっと安心した』
轟「安心?」
『いやさ、寮の時のインパクトデカかったから。こんな如何にもセレブのデザイナーズマンションって感じなのにドア開けてがっつり畳の和室だったらどうしようかと思ってた笑』
轟「ああ、さすがに全部は難しかったから1部屋だけな」
『あ、でもやっぱ和室は作ったんだ?』
轟「和室ねぇと落ち着かねぇからな」
『え、じゃああっちのマンションもまた和室にすんの?』
轟「ああ、業者に畳敷いてもらうかと思ってる」
『和室への熱と根性がすごい...』
談笑の後、私は轟に指示を貰ってダンボールに荷物を詰め込んだ。
家具などはほとんど完備してるから荷造りはそれほど時間がかからなかった。
が、手伝いに来てよかったとは思う。
何故なら轟は服を畳むのが苦手らしく、全てボストンバックの中にクシャクシャに入れようとしていたし、他にもとにかく荷物の詰め方が雑。
ワレモノをそのままダンボールに入れようとしてたし。轟の動向から目を離せず観察しながら荷造りをした私。
持っていくもの自体が少ないため荷造り自体は2時間ほどで終わった。
轟「助かった、ありがとな」
『来てよかったよ、轟の荷造り危なっかしい笑』
轟「そうか?」
轟の顔は真剣に自分の行動を思い返しているようだ。
『服グチャグチャに入れるのは百歩譲っていいけど、ワレモノを裸で入れるのは論外ね!』
轟「あー、悪りぃ」
『引越し業者使うまでもなさそうな荷物の量だね』
準備した荷物は、キャリーバッグ1つにボストンバッグ1つ、ダンボールが2つだけだった。
轟「ああ、車で1回で運べそうだ」
『轟今日どうするの?ホテル?』
轟「ああ」
『なら、今日車で荷物運んじゃったら?私の家に置いておいていいよ。入居日また戻ってくるの大変でしょ?』
轟「ああ、悪いな。何から何まで」
『私お寿司食べたいなぁ〜』
明後日の方を向きながら冗談っぽく私が言うと轟が何か思いついたように言った。
轟「そうか、じゃあ今日の夜は寿司食いに行くか」
『あ、昼じゃないんだ?』
轟「寿司食うなら酒も飲みたいだろ?」
『何で分かるの?』
轟「昨日の飲み方見てたら」
『..轟の中の私のイメージが完全に飲兵衛になってない?』
轟「違ったか?」
『...否定はしない』
轟「風舞、頼みがあるんだが」
『ん?』
轟「冷蔵庫の中に少し食材が入ってんだが、なんか作れるか?」
『食材?轟、料理するの?』
轟「あんましねぇけど、休みの日くらいはやってみようと思って」
『そっか、チャレンジ精神偉いね!』
轟「断念が多いけどな」
『あはは、想像つく!じゃあキッチン借りるね?』
轟「ああ、悪いな」
『開けまーす』
アイランド式のキッチンに立ち、そう一言告げてから冷蔵庫を開けると、大根、ジャガイモ、玉ねぎ、ニラ、豚肉、卵が入っていた。
『んー、この中を見ると料理を頑張ろうとしたのは伝わったわ』
轟「そうか?」
『万能食材ばっかだから選択肢多いね』
轟「そうなのか」
『よし、決めた。轟、耐熱ボウル借りていい?』
轟「ボウルならこの下に」
シンクの下の引き出しを開けると様々な種類のボウルが入っていた。目的のものを取り出し作業台に置き、私がまず取り出したのは大根。皮をむいて細切りにし、耐熱ボウルにいれ水を少し入れて電子レンジに入れ加熱を始めた。
その間に、ジャガイモを切り同じく耐熱ボウルに水と入れておいておき、玉ねぎを切り今度は油を引いて温めておいたフライパンに投入し手早く炒め始めると、そのうち電子レンジの音が聞こえた。
『轟、その大根小鍋に入れて水入れて火にかけといてもらっていい?』
近くに立ってじっと私の料理してる手技を観察してる轟にそう頼むと、言われた通りに雪平鍋を取り出し水を入れるとレンジから取り出した大根を投入し火をつけた。
『それで、そこのジャガイモを今度は5分チンかけてもらっていい?』
轟「ああ、分かった」
轟に指示を出してる間にも私は玉ねぎを炒める手を止めずいい感じに色が変わって来た頃に豚肉を投入した。
豚肉に火が回る頃にはジャガイモのチンも終わりフライパンに投入し冷蔵庫からニンニクとショウガを取り出し入れてから更に手を動かした。ジャガイモにもある程度火が通ったら水を入れ、轟に教えてもらった調味料の収納場所からめんつゆと砂糖を取りだしフライパンに投入した。
『日本酒とかない?』
轟「ああ、正月の御神酒が。飲むのか?」
『違うよ、料理酒代わり』
轟がどこからか御神酒を持ってきてくれて私はそれを開け適量まわし入れた。
そして味噌を溶かし入れてフタをして一旦放置。
雪平鍋の中ではお湯が丁度沸騰していたので本だしと味噌を溶かし入れ火を止めた。
次に、冷蔵庫からニラと卵を出しニラを切ってフライパンで炒めてからめんつゆと水を入れて軽く煮詰めた後溶いた卵を回し入れ蓋をした。
『料理しないのに、調味料何で揃ってるの?』
轟「ああ、姉さんや母さんがうちで作って置いていくからだな」
『あ〜、なるほど』
全ての料理が完成してから私は大切なことに気づいた。
『ところで...』
轟「どうした?」
『ご飯あるの?』
轟「いや、ねぇな」
『うわー、お米欲しくなるものばっか作っちゃったよ』
轟「あー、けど。レンジで温めるやつはあるぞ」
『え、サトウのごはん的な?』
轟「ああ」
『ナイス』
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