変化
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職場についてすぐに鳴ったスマホを見てみると家を出る時にやりとりをしていた焦凍から新しいメッセージが来ていて開いてみると何やら意味深なメッセージが届いていた。
何の話だろう..。不思議に思いながらも分かった、と返信をしてコスチュームに着替えた。
『ご迷惑おかけしました、今日から完全復帰します!』
退院から3ヶ月が経過。
お医者さんからの指示で、退院後すぐに仕事復帰をしても構わないが事務仕事などのデスクワークで様子を見るよう言われていた私。
ちょうど契約社員の事務員さんが1人退職してしまい事務科の人手が足りなくなってたから2週間くらいは事務仕事に専念した。
その後誰かの補佐としてパトロールに同行し軽い仕事を行いながら退院後2ヶ月経った先月、ヒーローウィンディは完全復帰を果たした。
「ウィンディ、復活か。頼もしいな!」
爆豪「ケッ、風女のくせに遅ェんだよ」
『個性関係ないでしょうが...』
相変わらずの爆豪の憎たらしは放っておいて、迷惑をかけたにも関わらず皆嫌な顔ひとつせず復帰までサポートしてくれて素敵な職場に恵まれたとジーニアス事務所でサイドキックとして働けることを誇りに思った。
『ジーニスト、ご迷惑をおかけしました』
ジー「君の甚大なる貢献で、今回新ヴィラン連合の火種を小さな芽のうちに詰むことが出来た。感謝する」
『いえ、私1人じゃ何も出来なかったです』
今回の事件は、焦凍と一緒だったこと。そして、真砂くんや梅雨ちゃんそれに響香の協力なくして解決は出来なかった。
私は重傷を負って結局解決に導いたのは他の皆で、私は迷惑をかけただけ。
ジー「しかし任務と言うのはそういうものだ。ヒーローはどんな時も1人でスマートに解決できるよう日々精進する事が大切だが、それは何事も1人でこなさなければならないというわけではない」
『え?』
ジー「今回の件のように多くのヒーローが一丸となって解決に尽力しなければ解決出来ない問題もある。その時に必要なのは、他のヒーローといかに密な連携を取れるかだ。そして、それが我がジーニアス事務所が、日頃から他の事務所の多くのヒーローとのチームアップを積極的に取り入れる理由の原点」
ジーニストは私の肩にポンと優しく手を置いた。
ジー「様々なヒーローとのパイプも、スマートに任務を行う為には極めて重要。それを認識し日頃から多種多様なヒーローとコミュニケーションを取るようにしたまえ。人脈の多さはスマートな事件解決への大切なキーだ」
『はい!』
今回の任務、最初から私と焦凍だけで解決できる問題じゃないとジーニストは分かってたんだ。そしておそらくエンデヴァーも。
分かったうえで自分達で考え、自分達で必要なパイプを選択し取り繋ぎ、事件解決に繋ぐ。その為に、今回私達だけに任せたんだ。何で私と焦凍だったかは分からないけど、きっとそういうのを経験させる為に私と焦凍のチームアップミッションだったんだと思う。
ジー「話しは変わるが、ウィンディ」
『はい?』
ジー「ダイナマイトが昨日独立志願をしてきた」
『え...もう?』
ジー「元より彼は独立への野望多き青年だったからな」
爆豪が独立を本気で考えている事は知ってたけど、それでもこんなに早いとは思わなかった。
爆豪が独立してやってけるかどうかという話しではないけど、それにしても早くはないだろうか?
確かに、ダイナマイトの事件解決数は私達若手のヒーローの中でもダントツ。実力も申し分ない。口も態度も悪いけど、仕事は丁寧で仕事に関する事だけで言えば信頼は厚い。
だけど、普段の素行の悪さは相変わらず...。それ故に、人気はあるけど好感度はそれほど高くはない。
...サイドキック雇えんのかなー。いや、人気があるからダイナマイト目当てで逆に人集まるか?
でもそういう人間は爆豪の方から切り捨てそうだなー。
そんな私には関係ない事で悶々と1人考えているとジーニストが再び私を呼んだ。
ジー「君はどうする?」
『...どうする、とは?』
ジー「君もダイナマイト同様。支持率、実力、事件解決数も申し分ない。トップヒーローに名を連ねた今、独立したい気持ちはないか?」
確かに私達ももうプロになって5年が経つ。
ヤオモモも先月クリエティヒーロー事務所を開業したと女子のグループLINEで報告があったし、ジーニアス事務所に挨拶の手紙が来ていた。爆豪も何だかんだ上手くやっていけそうだし。
ジーニストからこう言ってくると言う事は、ジーニストから見て私も独立して事務所を開けられると評価されているのかな。
嬉しい事ではあるけど私は元より独立に対する野望はない。
それに...。
『ありがとうございます。けど、私は独立への希望はなくて...ゆくゆくはサイドキックになって支えたい人がいるんです』
ジー「それは、ショートか?」
ジーニストの口から飛び出した名前は確かに私が支えたいと思ってる人の名前。
だけど、誰にも言ってないしそもそも私達が付き合ってる事も誰も知らないはずなのに何で知ってるの?
『なんで...』
ジー「昨日、エンデヴァーから連絡が来てね。ショートから独立の嘆願が出たらしく、それに向け人材集めを始めたらしいんだが。君をサイドキックに雇用したいと頼まれた」
『え...ショートが?』
ジー「私としては君の意向に沿いたいと思うが君はどうしたい?」
その言葉尻からジーニストは私がそれを望めば背中を押すつもりだということは察した。
じゃあ、私の気持ちは?
いつか焦凍が独立した際に、サイドキックとして迎えたいと言われ、私はそれを喜んで快諾した。
だけどそれがいつになるとは話してないし考えてもいなかった。
思ってたよりも早く訪れたその時。
焦凍のサイドキックになって彼を支えてあげたい気持ちはある。
スケジュール管理が苦手な焦凍の代わりに、私が焦凍のスケジュールを管理してあげたいと思う。
整理整頓が苦手な焦凍のデスクの整理をしてあげたいとも思う。
何より、毎日焦凍の様子を見て、顔を見て、言葉を交わして..今日は何を食べさせてあげようかって沢山考えてご飯を作ってあげたい。
今の私でも、ショートというトップヒーローを支えていける...?
ジーニアスをやめてショートのサイドキックになる気持ちは焦凍からその話しをされた時に既に固まっていた。だけど、新しい事務所を開くというのはそれだけ労力も必要だし、器量や人望も必要。
トップヒーロー入りしたとは言えまだ若い私やショートが、果たして上手く軌道に乗せていけるのか不安がないと言えばウソになる。
『....正直、お受けしたい気持ちはあります』
ジー「何か不安事でも?」
『若い私達に事務所を立ち上げていくだけの経験、器量や人望も..足りない気がして』
ジー「先行きが心配か?」
『今事務所を開こうとするショートが間違えてるとは思いません。彼なりに覚悟したうえだと思います。
だけどそのサイドキックに、私が務まるかどうか...。
軌道に乗るまではもっとショートを導いてくれるベテランヒーローの方が良いんじゃないかって』
若い2人で事務所をやりくりして、いざ問題が起こった時にきちんと解決出来るのか。対応出来るのか。
私達が、人を引っ張っていけるのか。
そう考えた時に、ぼんやりとした不安が私の心に立ち込める。
ジー「うむ。君はさっきの私の言葉を聞いていなかったようだな」
『え?』
ジー「新しい道を進む者が立ち塞がり問題にぶつかるのは当然の如く。しかしそれに手を貸し、言葉を貸し、導くのが先導する者の使命」
『...つまり?』
ジー「君とショートだけで頑張る必要はない。人脈の話しだけではない。君達には私やエンデヴァーがいる。困った時には頼ればいい。どこに居たって君は優秀な私の部下で、期待を寄せる後世なのだから」
『ジーニスト....』
ジー「それにショートが力量不足だと思うならエンデヴァーが止めているだろう」
『確かに...』
ジー「君は、君の思うように。君らしく、彼を精一杯支えてやるといい」
『ジーニスト...』
私の気持ちは固いけど、あと一歩背中を押す何かが欲しかった。
そんな私に気づいているかのようにジーニストは私を後押しをするように穏やかな口調で言った。
『ジーニスト。私は、ジーニアス事務所のヒーローとして活動出来たこと。
貴方のサイドキックとして活動出来た事は、私の何よりの誇りであり自信です。今日まで、ありがとうございました!』
ジー「今日まで我が事務所に尽力してくれた事、感謝する。
そして、これからの君に大いに期待をしているよウィンディ」
『はい!』
今日の仕事を終えた私はタクシーを拾って早急に家に帰ってきた。
自宅に入ると、既にあかりが付いていてリビングに入ると焦凍がキッチンに立って蕎麦を茹でていた。
『焦凍!早かったんだね』
焦凍「ああ、親父に無理矢理帰らされた」
独立の件。私をサイドキックに雇用したいという話をエンデヴァーからジーニストに連絡が来たらしいから、早く帰ってゆっくり話しをしろって事かな。
『そっか、気遣ってくれたんだね』
焦凍「..もしかしてジーニストからもう聞いたか?」
『うん!』
焦凍「そうか、悪りぃ。最初にお前に直接言うべきだった」
『ううん、大丈夫!思ってたよりすぐだったからびっくりはしたけどね』
焦凍「急ですまねぇ。それで、お前の気持ちはどうだ?」
『正直少し悩んだ。焦凍の所に行くのが不安とかじゃなくて、私に焦凍を支えて行けるかって』
焦凍は、口を挟むことなく真剣な表情で私の気持ちを聞いてくれている。
『開業して間もなくの大事な時期に、私で良いのかなって。もっとベテランの人じゃなくていいのかなって思ったけど。精一杯、焦凍の力になるよ』
焦凍「莉紗...ありがとう」
**
そしておおよそ半年の時が流れ、その時が来た。ショートヒーロー事務所の開業日。
焦凍「今日から開業になります。皆さん、俺の独立の為にココに来てくれてありがとうございます。俺はまだまだヒーローとしても人間としても未熟な所も多いと思います。ショートヒーロー事務所をこの街の拠り所となれるよう、皆さんの力を貸してください」
そう言って頭を下げたショートに、スタッフから拍手が送られた。
事務所を立ち上げる為に雇用者を募集したところ想像をはるかに超える応募があった。
明らかにショート1人で捌き切れる数ではなく、また明らかにショート目的と思われる女子からの応募もありショートは面接はせずショートヒーロー事務所の開業のバックアップをした、大元の事務所長であるエンデヴァーが必要な人材を見定め、面接を行うこととなった。しかし、その大半がやはりショート目的の不純な動機による応募が多く結局の所はエンデヴァー事務所とジーニアス事務所から引き抜く形で若手~ベテランまでのヒーローや事務員が移動となった。
特に事務員に関しては新しい事務所を経営していく為には独特なノウハウが必要な為ベテラン勢が多く、反対にヒーローはエンデヴァーとジーニストの助言で私とショートを筆頭とし、若手を多く集め後身を育成していく事にした。
早速、それぞれの持ち場につきショートヒーロー事務所が稼働。
私達も若手ヒーロー達を連れてパトロールに出ることになり各々が準備を始めた。
焦凍「ウィンディ」
『ん?』
準備を終えてパトロールに行くため同行させる後輩に声を掛けに行こうとした時背後からショートに呼ばれ振り返った。
焦凍「無事開業出来た。ありがとな」
『私は何もしてないよ?ショートが頑張ったんだから』
焦凍「言うと思った。今日は半日で閉めるし、挨拶回りも今日はエンデヴァーとジーニストのところだけだ。仕事終わったらどっか行かないか?」
『良いね~。行こ行こ!』
開業日である今日はまだ依頼を受け付けておらず、午前中はパトロールと街中でのトラブル対応のみの業務。
昼に事務所を閉め、その後はショートと二人でエンデヴァーヒーロー事務所とジーニアス事務所に無事開業に至った事を挨拶に行った。
どちらからも激励の言葉を頂いた。
ジー「2人だけで頑張ろうとするな。我々は君たちの味方だ」
心強い言葉をくれたジーニスト。
エン「ウィンディ、ショートを頼むぞ」
『え..?あ、はい』
エン「ショートの嫁として、お前を歓迎す「黙れ、クソ親父」
エン「な、ショートぉぉお!!」
焦凍「お前はいつもいつも一言多い」
『...(今、歓迎するって言おうとしてくれてたよね?)』
無事今日の分の挨拶周りを終え、私達はコスチュームから私服に着替えるために事務所に戻ってきた。
『あれ?』
ふと、事務所の入口に咲いている青紫色の一輪の花を見つけた私はその花の前でしゃがみこんだ。
焦凍「花?これがどうかしたのか?」
『アガパンサスだ』
焦凍「アガパンサス?」
『紫君子蘭とか、アフリカンリリーって呼び名もあるんだけど。ヒガンバナ科の花だよ。暑さにも寒さにも強いからガーデニングしやすい花なんだって』
焦凍「へぇ、よく知ってるな」
『ジーニアスって男の人多いから。私がインテリア担当みたいな感じでね。だからよくガーデニングもしてたんだ』
初心者にオススメの花だったから1番最初に育てた花でもある。
ここにこの花が咲いてるのは何か運命のようなものも感じるなぁ。
確か花言葉が...。
焦凍「そうなのか。ならうちの事務所のも頼もうか」
『うん、いいよ。ねぇ、焦凍。この花の花言葉、知ってる?』
焦凍「知らねぇ」
『恋の訪れ』
焦凍「恋の訪れ?」
『うん。この花はね、ギリシャ語で愛の意味を持つんだって。それで花言葉もそれに由来して"恋の訪れ"とか"ラブレター"って意味があるみたい』
焦凍「愛を司る花、か」
一輪だけ咲いてるという事は人工的に植えられたのか。
『ここに咲いてるのって、何だか私達の未来を祝福してくれてるみたいだね』
焦凍「!」
出会った頃は他の人より少し仲の良い友人だった。
お互いプロヒーローとなり、思いがけない場所で再会した私たち。
どんな運命の手引きなのか...。
共に極秘ミッションを受け一緒に過ごす時間が増え、焦凍の中に秘められていた自分への想いを初めて知った。
そして...死ぬ目に会って、私自身の想いにも気づいた。
いつから、彼の事ばかり考えるようになってたんだろう。
いつから彼を好きになっていたんだろう。
『焦凍、好きになってくれてありがとう』
焦凍「莉紗?」
『ずっと好きでいてくれて、ありがとう』
私の恋の訪れがいつだったかは分からない。
だけど、運命は訪れた。
全身全霊で守り、支え、愛していきたいと思える人に出会えた。
『焦凍が私を思ってくれていた分、これからは私が焦凍を想い続けるよ』
どんなに寒くても、どんなに暑くても、どんな雨が降ろうが風が吹こうが力強く凛と咲き続けるこの一凛の花のように...。
私の想いもこれから先、枯れる事なく咲き続けてる事を信じてる。
『愛してるよ』
Fin