変化
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それから1週間。
思った以上に根深く巣食っていたようすの新ヴィラン連合。
その為に多くのトップヒーロー達に招集がかけられたらしく、轟もその声がかかったうちの1人。
デクやイレイザーヘッド、ホークスやツクヨミ、ファットガム事務所総員、そして私の母ウィンドリアヒーロー事務所など、かつてのオール・フォー・ワンや死柄木との決戦を思い出す程のそうそうたる集結の甲斐あってか、連合が動き出す前に抑止することが出来たようで私もお見舞いに来てくれた轟からその話しを聞きようやく肩の力が抜けた。
そして、私が搬送されて2週間が経った。
脳障害などもなくようやく安静が解除され、リハビリに移行した私は少しずつ退院に向け離床を進めていった。
「風舞さん、さすがヒーローね。鍛え方が違うのかしら?回復が早いわ」
『そうですかね?ありがとうございます』
今日のリハビリメニューを終えた私は院内コンビニに立ち寄り、週間少年誌と好物のルイボスティーのペットボトル、そしてお気に入りのお菓子と和菓子ミックスの大袋をカゴに入れてレジに並んだ。
ふと、レジ待ちをしながら先程少年誌を取った本の陳列棚に目をやると女性誌の表紙にショートが載っていた。
その横には、"ヴィラン連合の残り香撃破"という文字が書かれ、今回の背亀達逮捕の件についての記事が載っているんだろうと思った。
カメラ映りを轟本人が気にしてるとは思わないけど、相変わらず映える容姿だなぁ。
さすがは日本の女性人気を独占してる説が絶えない大人気ヒーロー。
いや、でもショートはちゃんと男性ファンも多いんだよな。
そういえば昨日ワイドショーにも出演して例の件について話してた気がする。
病室に戻ってきた私は。ベッド横の小頭台に飾られた小さなピンクと白のプリザーブドフラワーを見た。
私が目を覚ました次のお見舞いの時に轟がくれたもの。
轟、ちゃんとご飯食べてるかな。
また蕎麦ばっか食べてる気がしないでもない。
ホント、高校の時から誰かが言わないと蕎麦しか食べてなかったもんなー。
心配させたし、迷惑かけちゃったから退院したら好きな物、お蕎麦以外で何でも作ってあげよう。
何作ってあげようかな。
1人で轟に作ってあげるメニューを考えていると病室のドアが開いた。
轟「起きてたんだな」
ほら、と渡してくれた紙袋の中には今流行ってる有名店のプリンが入っていた。確かプリン1つにお札が必要だったはず...。
高級な差し入れにテンションをあげた私はお礼を言って早速プリンを幸せな気分で食べ始めた。
轟「調子どうだ?」
『今週中には退院出来そうだって』
轟「そうか。決まったら連絡入れろよ」
プリンを食べながらつい今朝方、医師から今後のことについて話された内容をそのまま轟に伝えると意味深な返答が来た。
『何かあった?』
轟「迎えに来る」
『え、いいよわざわざ!忙しいだろうし』
轟「まだお前とのチームアップ解除されてねぇから仕事入ってねぇんだ」
自分用に買ってきたのか同じ店の抹茶ぜんざいを袋から出し封を開けて食べ始めた轟。
『でも例の件でテレビめっちゃ出てない?』
轟「まあ...でももうオファー来てるやつはほとんど終わった」
『そうなの?』
轟「ああ、チームアップが解除されてねぇのは後処理が終わってないからかもしれねぇが」
『そっか。私達のチームアップも、もうすぐ終わるんだね...』
轟「...........」
後処理が終わったら今回のチームアップミッションが終了。
轟とこんな風に毎日顔合わせる事もなくなるのか。
そう思うと、不思議と何だか寂しい気持ちになって来た。
轟「行って、いいか?」
『え?』
轟「今回のチームアップが終わっても、お前に会いに行って良いか?」
そう言う轟の表情はどこか悲しそうで、寂しそうな...そんな表情だった。
『......目を覚ます前さ、轟の声が聞こえた』
轟「俺...?」
『うん。一生懸命呼びかけてくれてたよね?』
轟「ああ...確かに、話しかけてた」
『轟が自分の事責めてるから、早く起きなきゃって思った』
轟「............」
真っ暗な意識の中、聞こえた轟の声。
何故かすごく安心した。
目を覚ました時、父さんと母さんの顔を見て安心するはずなのに何故か私は轟の姿を探した。
その時の私は、こう思った。
『目を覚ました時、会いたいって思った....』
轟「風舞...?」
『轟に、会いたいって』
轟「っ....」
『轟のいる生活が...気づいたら私の特別になってた』
はっきり"好き"と認識した訳じゃなかった。
だけど、こんな風に思うのはきっと....ただの同期の仲の良い男友達の域はとっくに越えていたんだ。
『好きとか、よく分かんないけど。
でも、いつの間にか...轟は私の特別になってた。
今はまだ、こんな答えでごめんね』
轟「...馬鹿。そんなこと考える暇あったらちゃんと休めよ」
私が気に病まないようにだろうなぁ。そう言って私の肩にポンと手を乗せた轟はやっぱり優しくて良い奴だ。
『知ってる?安静の時って考えるくらいしかする事ないんだよー?』
轟「言っとくが...家に帰ったら忙しいからな」
『ん、覚悟しとくね』
それから1週間後。
私は無事に退院が決まった。
轟は宣言通りに車で迎えに来てくれて、あろう事か荷物も運んでくれた。
『お姫様みたい』
轟「お姫様?」
私の突拍子もない言葉を笑いも呆れもせず真顔で聞き返してきた。
『車でお迎え来てもらって荷物まで持ってもらって』
轟「お前がお姫様なら俺は執事か?」
『あはは、轟が執事とか似合い過ぎて逆にウケるね』
轟の執事姿を想像したけどイケメン過ぎて心臓に悪いから想像するのやめた。
轟「いや、ウケねぇだろ」
そうこう話してるうちにマンションに到着した。
轟が先部屋行ってろと言ってくれたのでお言葉に甘えて先に部屋に行ってることにした。
『久しぶりの我が家だー』
1ヶ月近く空けていたからか少し埃っぽいし湿気臭い。
換気をしようと窓を開けると心地良い風が室内に入って来た。
轟「風舞、荷物ここ置いとくぞ」
帰って来れたんだなーとぼんやり外の景色を眺めていると荷物を持ってきてくれた轟が私の背中に声をかけた。
『あ、うん!ありがとう!』
リビングの端の方に荷物を置いて、何か手伝う事がないか聞いてくれたけど荷物を仕舞うだけだから大丈夫と答えると小さく「そうか」と呟いた。
『あ、轟。お腹空いたよね?とりあえず軽く何か食べよっか?』
轟「お前な..今日退院したばっかなんだからあんまりはしゃいで動き回るな」
『病気療養じゃないんだから、動いて体力戻さないと仕事復帰出来ないもーん』
轟「そうか。じゃあ、蕎麦食いてぇ」
相変わらず彼は"蕎麦"と言う単語しか知らないのかと疑ってしまうほどに口を開けば蕎麦しか言わない。
私から見た轟の蕎麦愛は、呆れるを通り越してもはや尊敬の域にまで達した。
『いつも食べてるだろうに』
轟「そばつゆが違う。お前のそばつゆ美味いから」
『そうですかー、すっかり轟の胃袋がっちり掴んじゃったね私』
茶化すように言って台所に立ち腕まくりをして手を洗い始めると棒立ちしたまま轟がボソリと何かを呟いた。
轟「胃袋は掴めねぇだろ」
『虜にしてるって意味だよ!轟、頭良いのに何でそういう言葉に弱いかなぁ』
轟「ああ、そういう事なら高校の時から掴まれてる」
『え..?』
轟「好きだ、って伝えた時に言っただろ。お前の変わらねぇ飯の味も好きだって」
『うん...?』
轟「お前の飯の味、美味いし安心すっから...お前が飯番の時は絶対飯の時間にスケジュール合わせて寮で食ってた」
全く知らなかったその事実を聞いて私は驚愕して手にしていた食材を落としてしまった。
『え、他の人の時は合わせてなかったの?』
轟「ああ、基本自分の事優先で時間が合った時だけ寮で食ってた」
『知らなかった...』
轟「だから、高校の時からお前には胃袋は掴まれてる」
轟の気持ちを知ってからずっと聞きたかった事。この際だから思い切って聞いてしまおうと思った。
『...轟って』
轟「何だ?」
『私の何がいいの?』
轟「何が、って..」
ヤオモモみたいな美人でスタイルも良くて秀才なわけじゃない。
三奈や透ちゃんみたいに人懐っこくてコミュ力や女子力が高いってわけでもない。
お茶子ちゃんみたいに優しくて可愛いわけでもない。
梅雨ちゃんみたいに万能でもなければ、響香みたいな何か一つでも特出したものがあるわけでもない。
どこにでもいる、ごく普通の女子。
轟「何でとかは、よく分かんねぇけど」
轟みたいな頭が良くて、イケメンで、強くて、優しくて...。
そんな人が選んだのが、何で私なんだろう。
轟「気づいたらお前の事ばっか考えるようになってた」
『考える...?』
轟「ああ、何でもねぇ事でも。いつもお前の事考えてた」
『どんな事考えるの?』
轟「何だろうな。今何してんのか、とか。もう寝たか、とか」
そう言えば、私も目覚める前轟の事ばっか考えてたっけ。
もっと気にすること沢山あったはずなのに。
ヴィラン連合はどうなったかとか
他の皆は無事かとか
両親、心配してるだろうな..とか。
そんな大事な事達よりも..
私は、轟にご飯作ってあげなきゃ、って考えてた気がする。
バカだなぁ。こんな大怪我して、他人のご飯なんか気にしてる場合じゃないのに。
『私も、そうだな』
轟「え?」
『最近の私...轟の事ばっか考えてる』
もうすぐ終わるであろう、この生活に寂しさを覚えてる。
はっきり分からないなんて、ウソ。
だって、私はこんなにも...。
轟「風舞....」
轟を想って苦しくなってる。
もっと、一緒にいたいと..。
私の心が叫んでる。
『私、轟がすっごく好きみたい...』
轟「っ...」
『まだ、間に合うかな...』
轟の全部が欲しいと...。
『轟の気持ちに、応えたい...まだ、間に合う?』
轟「風舞...!!」
轟に抱き締められた私。
ドキドキして心臓が高鳴ってる。
だけど、ものすごく嬉しい。
轟、温かいな...。
なんか、すごく安心する。
『ごめんね、勝手で...』
轟「んな事、思わねぇ」
心なしか轟の声が震えてる。
轟の鍛えられた腕が痛いほどにギュッと、私を捕まえて離さない。
だけどそれを苦だとも思わない。
轟の想いが全身から伝わってくる。
私は、こんなにもこの人に想われていたんだ...。
轟「風舞」
ふと緩んだ腕。轟が身体を離し私を呼んだ。
見上げると見た事がない程に嬉しそうな表情をした轟が私を見つめていた。
轟「好きだ」
遅くなってごめんね。
待たせて、ごめんね。
ずっと、私を好きでいてくれてありがとう。
『私も、轟が好き』
私の言葉を聞いて眉を動かした轟が顔を近づけてきた。
轟「...いいか?」
『ん』
轟の問いの意味が分かった私はたった1文字声に出し、そっと目を閉じた。
初めて重ねられた轟の唇は、見た目とは裏腹に少しかさついていた。
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