変化
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
風舞を乗せた救急車は近くの大学病院に行き検査の後緊急手術が行われた。
頭部外傷により脳内に血種が出来ていて、血種が出来た場所が良くない場所だから手術が必要らしい。
戦闘の状況や敵の個性について塚内さん達に報告をして病院に着いたのは救急車が出発して2時間ほど経ってからだった。
麗日「莉紗ちゃん...」
耳郎「莉紗、大丈夫...だよね」
爆豪「ケッ...あの女が簡単にくたばるかよ」
蛙吹「今は信じましょう」
轟「風舞...」
俺たちが到着した時、手術はまだ終わっていなかった。
手術室の前の長椅子に座りながら俺は拳を握った。
耳郎「轟...」
麗日「轟くん...」
爆豪「仕事に戻る」
爆豪はそう一言だけ告げその場を離れた。
その後も今回のミッションの今後の方針について、耳郎と蛙吹が再び潜入捜査をする必要が出てきたらしく、ボス達に呼び戻された。
麗日「轟君、大丈夫?」
轟「あぁ...大丈夫、っつったらウソになるが」
強がる余裕すら無いほどに風舞がいなくなっちまうんじゃねぇかって怖くて自然と組んでいた手が震えてる事に気づいた。
麗日「轟君、ずっと莉紗ちゃんの事好きやったもんね」
轟「何で、知ってんだ...?」
麗日「え?何でって、多分轟君の片思い知らない人莉紗ちゃん本人だけやと思うなー」
苦笑いを浮かべた麗日。
自分が周りからそんな風に見られていた事に気づかなかった。
轟「俺、そんなに分かりやすかったか?」
麗日「うん、轟君自分から話しかけに行く女子って莉紗ちゃんだけやったしね」
轟「....そうか」
麗日「でも、久しぶりに会ったら莉紗ちゃんも満更じゃなさそうだったね」
轟「....そうか?」
麗日「うん。莉紗ちゃんは、大丈夫だよ」
轟「...そう、だな」
**
それからどれくらい時間が経ったか分からない。昼間に行われたはずの今回のミッション。気づけば窓の外は陽が落ちて夜になっていた。
俺は今回のミッションの為に他の仕事は外されているが他の奴らはそうじゃない。緊急要請や応援要請が入ったりして気づけば麗日もいなくなっていて病院には俺一人になっていた。あいつらからLINEで自分達がいない間に風舞の手術が終わったら連絡をくれと数時間前にメッセージが入っていたのに気づいたのもさっきの事。だが、まだ手術室のランプはついたまま。ぼんやりと考え事をしていると、どこからか走る足音が聞こえてきた。
「莉紗!!」
中年くらいの男女が風舞の名前を呼びながら慌てた様子でやってきた。
よく見れば女性の方は親父と共にトップヒーローに名を馳せていたウィンドリアだった。
轟「ウィンドリア....風舞のお母さんですよね」
「貴方は、轟くんね...。初めまして、莉紗の両親です。莉紗は?」
轟「まだ、手術が終わってません」
2人共かなり憔悴しきった様子でベンチに腰かけた。
ウィンドリアは任務中にこの事を聞いて急いで来たのかヒーロースーツ姿だった。
轟「あの、すいません...俺が至らなかったばかりに...」
そう頭を下げると風舞のお父さんが、頭を上げてくれと言った。
言われた通り頭を上げて2人を見ると、俺を責めようとしている表情じゃないのが分かった。
父「莉紗も同じプロヒーローだ。危険は承知で、本人も覚悟のうえでやっているのは分かっている。君のせいじゃないよ」
轟「...でも」
母「ずっとここに居て終わるの待っててくれてたのよね?ありがとう、きっと莉紗も心強かったと思う」
俺の力が足りなかった。
俺が弱かったからこんなことに...。
そう思ってる俺には、2人の優しい言葉が余計に苦しかった。
母「確か莉紗とチームアップ中だったのよね?」
轟「..はい」
母「ミッションが結構危険かもしれないって言ってたから心配はしてたの」
轟「............」
母「気をつけてねって言ったらね、あの子何て言ったと思う?」
轟「........」
母「"轟が一緒だから心配ない"って。そう言ってたのよ」
轟「え....」
母「私達もヒーローショートの活躍はよく目にしてるから君が強いってのは知ってたけど、なんだかすごく信頼してたからそんなに信頼してるの?って聞いたらね。あの子、"轟ほど強くて、轟以上に人の痛みが分かる優しい奴は知らないから、一緒に居て安心できる"って、そう言ったの」
轟「風舞が、そんな事...」
母「あの子がそれほど信頼を置く君とのチームアップだから、きっとどうしようも出来ない状況だったんでしょ?」
風舞が俺の事をそんな風に親に話していた事を心底嬉しいと思った半面、その信頼を裏切ってしまった事に悔やまずにはいられなかった。
それから、俺は何があったのか2人に話していると手術室のランプが消えた。
手術室のドアが開き中から医者が出てきた。
母「先生、莉紗は?!」
医者「一命は取り止めました。危険な状態は脱しましたが、目覚めるまでに時間がかかるかもしれません」
手術は成功したが、安心出来る報告ではなく風舞の両親も俺もまた肩を落とした。
父「ショートくん、莉紗の顔を見たら今日はもう帰って君もしっかり休みなさい。君が疲弊していたら目が覚めた時莉紗が心配する」
轟「...はい」
風舞の親父さんと言葉を交わしている横を酸素マスクを付け、たくさんの機械や点滴に繋がれストレッチャーに乗せられた風舞が通った。
轟「あの!」
俺の声に、風舞の後を追おうとした彼女の両親が振り返って俺を見た。
轟「明日も、来ていいですか?」
父「ああ、もちろんだよ」
母「莉紗もきっと喜ぶわ。でも、貴方が無理をしたらあの子が気を病むから。無理だけは絶対にしないように」
轟「はい」
風舞の両親と一緒に彼女の病室にやってきた。
面会謝絶と言うわけではないようだが、彼女の状態から面会フリーと言うわけでもなく特定の人間のみ通す指示となったらしい。
俺と直属上司のジーニストだけは通してやってくれと風舞の両親が医師に話しをしてくれたから俺も面会に来れる事になり、2人に頭を下げてお礼を言った。
轟「また、お前に守られちまったな....」
医師からの話しがあるらしく、席を離れている両親に変わり彼女のそばについてる事にした俺はベッドのそばの丸椅子に座り彼女の顔を見つめながら後悔を口にした。
轟「お前は..いつも俺を庇って傷つくんだな」
かつて雄英時代、ヴィランの襲撃にあった合宿先で風舞は今回と同じように俺を庇って傷ついた。
まるで俺が彼女を傷つけているかのようで、それが情けなくてこんなにも不甲斐無ぇ。
轟「風舞...ごめん」
**
自宅に帰ってきた俺は、腹は減ってるのに準備する気力も食う気力も湧かなくてソファーに身を投げ出した。
シンとした部屋。家電の稼働音だけが耳に入る。
1人暮らしを始めて随分経つのに、1人が寂しいと思ったのは初めてだった。
チームアップが始まってからは毎日一緒にいた。
何かあった時の為に同じ階に引っ越してきたが、寝るとき以外はほぼ毎日どちらかの家で一緒に過ごしていた。
酒を飲みすぎて眠くなってそのままリビングで2人して雑魚寝していた事もあった。
最近は、いつもあいつが...風舞がいたから。
あいつの笑顔がすぐそばにあったから。
だからか今は、1人の部屋がすげぇ広く感じる。
風舞の作った飯の味、風舞の声、風舞の笑った顔...
頭の中に浮かぶのは全部が彼女で、そのどれもが俺にとってはスゲェ大事なもん。
轟「っ、風舞....声...聞きてぇよ」
滅多に流れる事のない涙が目から流れてきたことを自覚し、俺は心底風舞の事が好きなんだと.....思い知らされた。
**
真っ暗...
何も見えない....
ここは、どこ...?私は、何を...
あぁ、そっか。
私、轟を庇って頭を打ったんだっけ。
轟は、大丈夫だったかな...。
起きたら、怒られるかな。
雄英時代、合宿でヴィランの奇襲にあった時も轟の事庇って後からすごい怒られたっけ。
心配してるんだろうな...。
早く起きて、顔みて大丈夫だよって言ってあげなきゃ。
蕎麦しか食べてないだろうから...早く起きてご飯作ってあげなきゃ。
あれ。私、轟の事ばっかだな。
いつの間にこんなに轟の事ばっかり考えるようになったんだろう。
その時急に視界が眩しく光り、目の前に人の影が現れた。
「風舞...」
目の前にいる誰かが私の名前を呼んだ。
誰?私の名前を呼ぶのは誰?
「また、お前に守られちまったな....」
そこにいるのは誰?
「お前は..いつも俺を庇って傷つくんだな」
いつも...?
私は何度も貴方を庇ってケガをしたの?
それじゃ、貴方は.....。
「風舞....." "」
あぁ、行かなきゃ。
行って、伝えなきゃ。
"食べたいもの考えといてね"って
言ってあげないと...。
早く、起きなきゃ..!!
起きろ、私!!
**
気がつけば窓から朝日が差していた。
結局飯も食わねぇでそのままソファーで寝ちまったらしい。
何となく目が開けにくいのは泣いたからだろうか。
右手で片目ずつ冷やしながら時間を確認しようと携帯を開くと不在着信が残っていた。誰からか確認するとそれはまさかの風舞で、1時間ほど前に着信が残っていた。
俺は掛け直すよりも先に家を飛び出した。
タクシーで彼女が入院している病院までやってきた。
轟「風舞!」
すれ違いざまに看護師が何か叫んでる声すら煩わしいと思うほど俺は気持ちに余裕がなかった。
目的の病室に辿り着くとドアが開いていた。
あれだけ急いで来たのに風舞に何かあったんじゃ、と悪いことばかり考えちまって中に入るのが怖いと思ってしまった俺は恐る恐る中に入ると風舞のおじさんとおばさんが風舞のベッドに寄り添って泣いていた。
風舞はベッドに横になったままだった。
轟「風舞....?」
俺の声におじさんとおばさんが振り返った。
母「と、轟くん....」
轟「あの...風舞、は?」
風舞の容態が気になるのに聞くのが怖い。
おばさん、何で泣いてんだよ...。
風舞..!!
『と.....ろき....』
轟「!」
呟くように聞こえたか細い声。だけど確かに俺の名を呼んだその声。
間違えるわけがない、ここん所毎日のように聞いていた。
俺の好きな、あいつの..。
轟「風舞...?」
父「莉紗が目を覚ましたよ。頭は動かせないし絶対安静だけど、無事だ」
涙を浮かべながら話すおじさんと肩を震わせて泣いているおばさんが少し横に移動すると目を開けた風舞が顔をこちらに向けて俺を見ていた。
『轟...ごめん、まだ、起きれなくて...』
途切れ途切れに言った風舞はいつもよりも弱々しい、だけどいつものように暖かい笑顔を俺に向けた。
轟「...っ、んなもん...気にすんな...」
彼女の顔を見て安堵からか、力が抜け座り込みそうになったのを必死で堪えた代わりに、昨日散々泣いたにも関わらず視界が涙でボヤけた。
こっちにおいで、と声をかけてくれたおじさんの言葉に甘えて俺も風舞のベッドの傍に移動した。
『ごめん、心配...かけて...』
轟「バカ。そんな事...っ、気にすんな」
『退院..したら、好きな物...奢ってあげるね』
轟「っ、いらねぇよ」
『えー..?』
くだらねぇ事ばっか気にしてる風舞の言葉を拒絶してやると風舞は不貞腐れたように頬をふくらませた。
轟「....お前のが良い」
『え?』
轟「お前の作った飯が良い」
『轟...』
数秒経ってこんな時に俺は何ガキみてぇな事言ってんだと次第に恥ずかしくなり、顔を背けた。
『間違えた。伝えたかった、事....』
轟「え?」
彼女の言葉の意味が分からず彼女を見た。するとそこにはいつもの安心する笑顔の風舞がいた。
『食べたいもの、考えといてね』
ああ、やっぱり俺は...。
お前が好きだよ、風舞。
.