変化
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調査を始めてから3日が経った。
莉紗と轟が追う被疑者は工場勤務の40代の男性。
個性は、1M以内にある物や人を引き寄せる個性。対象の選択は不可で個性を発動すると1M以内にある物やいる人は全て引き寄せてしまう為個性の汎用性が高くなく使い勝手が悪い事と、引っ込み思案な性格から幼少期はからかわれたりいじめられる事が多かったらしく、周りの大人たちは誰も味方になってくれなかったことが反ヒーロー思考の礎になっているようだ。
『今の所怪しい動きなし』
轟「けど、家にいる時間ほとんどねぇんだな」
『確かに。朝は始発に乗るのか6時前には家出ちゃうし、夜は帰ってくるの深夜近いし』
轟「けど、会社出るのが事実23時過ぎだ。会社から自宅までの道中どこかに寄るわけでもねぇし、奴がヴィラン連合との関与があるなら怪しい動きをする余地はねぇ」
『そうだねー、こいつはシロっぽいかなー』
轟「まあ、まだ結論付けるのは早い。もうしばらく追おう」
『うん』
調査を続けても、この男は家と会社の往復をするだけ。休みらしい休みもない。
『シロで結論付けちゃうのは何か気になる気もするけど...実際、何も出てこないよね』
轟「そうだな、違う奴にシフト変えた方がいいかもな」
そう話し、二人は本部に戻っていった。
**
『え、背亀が主要メンバー?』
耳郎「間違いない。出所した背亀が真っ先に向かったのは、このメイン通りを1本入った路地裏の一見ごく普通の雑居ビル。
だけどその中には、被疑者のうちこいつを除いた他の全員いた」
地図を指さしながら場所の説明をしてくれる響香は、その横に並んでいる被疑者たちの写真の中から1枚の写真を手に取り言った。響香が除いた1人は私と轟がずっと追跡していた男だった。
しかし、響香はその写真を私達に見せ予想もしていなかった事実を話し始めた。
耳郎「だけど中の会話を盗聴した所、この男こそ新ヴィラン連合の首謀者だったんだ」
『え...』
轟「間違いないのか?」
耳郎「うん、こいつの名前を出してリーダーと呼んでいた」
『でも私達が追跡している限り、こいつは家と会社の往復だけでヴィラン連合と関わった形跡なんて....!!まさか...』
轟「どうした」
『現代社会において...交流する場所なんて、どこだっていい』
轟「!まさか...」
耳郎「多分そのまさかだよ。実際スピーカーから聞こえてくるような雑音交じりの声が聞こえてきた。パソコンとかを使ってオンラインでやり取りしてるんだと思う」
蛙吹「いきなり本アジトらしき場所に行きつくとは思わなかったから潜入すべきかどうか迷ってしまったの。慎重に行動すべきだと思ったからどうするべきか皆で検討しましょう」
『危うくシロにするところだった...』
轟「ああ、尾けられる事を想定しての対策なんだろ」
真砂「どうしますか?」
『まずは証拠抑えないと。
この被疑者たちがアジトに入っていく所を全て残した上で背亀とのやり取りも録音しないと』
耳郎「私達の番かな」
『そうだね。まずはボスたちに相談してくる』
耳郎「分かった。うちらはいつでも動けるから決まったら連絡して」
『うん、ありがとう』
**
エンデヴァー「そうか、アジトまでたどり着いたか」
私と轟はエンデヴァーとジーニストに連絡を取り、公安本部の会議室に集まった。
『被疑者に上がった人物は全員新ヴィラン連合に関わりがありました。ヴィランとなり下がったそのバックグラウンドもいきさつも真砂くんの方で収拾済みです』
轟「奴らが何を企んでいるのか不明瞭である以上、探る為にも早いとこ動くべきじゃないか?」
ジーニスト「よし、イヤホンジャックとフロッピーに潜入調査を依頼してスマートに事を進めよう」
エンデヴァー「他のヒーロー事務所にも情報共有し、万が一に備えよう」
『はい』
**
響香と梅雨ちゃんがアジトらしき建物に潜入調査を行ってる間、私と轟は外から様子を見ることになった。
『何か掴めればいいね』
轟「ああ...」
今日は何やら上の空な事が多い轟。
何か気がかりな事があるのか..。
『轟、大丈夫?』
轟「..何がだ?」
『なんか今日ボーっとしてるから』
轟「あ、あぁ..大丈夫だ」
大丈夫、とは言うものの煮え切らない感じの返答しかしない轟。
『無理しないで?体調的にも、メンタル的にも』
轟「ああ、大丈夫だ」
轟が気に揉んでる事。多分それは...
『気になる?お兄さんの事』
轟「!」
図星だったのか、突如考えてる事を言い当てられ驚いた様子の轟。
『そりゃあ、気になるよね。心中穏やかじゃないと思う...。でもそんな顔して上の空で任務にあたってたら取り返しのつかないことになるよ?』
轟「...ああ、悪い」
『私に出来ることなんてないけど、もし何か力になれる事があった言って?』
そう言った私の言葉に轟が黙りこんで何かを考え込んだかと思ったらぼそりと呟いた。
轟「....飯」
『え?』
轟「飯....今日は風舞の好きなもん食わせてやろうと思ってたけど、やっぱ風舞の飯食いてぇ」
『うん?作る気でいたけど.....』
轟「...そうか」
そう言った私の言葉に納得したのか一言返してまた黙った轟。だけどその表情が何だか嬉しそうだったのは気のせいじゃないと思う。
『何食べたいか考えといてね』
轟「ざるそば」
『.....そば打ちからしろって?』
そば好きは高校の時から変わってないらしい。
茹でるだけの料理をリクエストされて毒気を抜かれてしまったけど、仕方ない。天ぷらも一緒に作ってあげようか。
**
耳郎「証拠、揃ったね」
耳郎と蛙吹がボイスレコーダーで録音した会話。
それは奴らが新ヴィラン連合のメンバーであることを表明していると言っても過言ではない程にれっきとした証拠となった。
写真なども何枚か撮影し、揺らぎのない証拠品を揃えた一行。
蛙吹「小さい目のうちに詰んでおきたいわね」
轟「ああ、事が大きくあれば惨事になる可能性もある」
『真砂くん、上に報告して裁判所にガサ状の請求を。ガサ入れで証拠品が押収出来たら現行で逮捕したいから可能なら逮捕令状の発行申請も一緒に』
真砂「わかりました」
真砂くんがすぐに上司に掛け合うため会議室を離れた。
残された私達は今後の事について自分達のボスに報告する為にそれぞれが電話をかけ始めた。
響香「皆どうだった?」
蛙吹「リューキュウは事務所一丸となってサポートすると言ってくれたわ」
響香「うちのボスも。ボスも直々にサイドキック連れて立ち会うって」
『ジーニストも同じだよ。突入時には爆豪も連れて行くらしい』
轟「エンデヴァーも同じだ」
全員のボスが事務所総出で今回の件に協力してくれることになった事に全員が心強さを感じた。
轟「令状はどれくらいで発行されんだ?」
普段警察との共同捜査が多いジーニアス事務所。中でも莉紗は事務仕事も多くこなし警察との書面でのやり取りもこなし、他にも彼女の機動力と判断力を評価され家宅捜索や逮捕令状の執行などにも立ち会う事も多い。その為、おそらく同期の中でも最も警察との合同捜査のキャリアが高く流れもよく理解している。
『よっぽど証拠不十分とかでなければ1、2時間で発行されるよ』
響香「速い...!!」
蛙吹「いよいよね」
過去に自分達が対峙した大きな悪意。
その残り芽との戦いが始まろうとしている事に4人は拳を握った。
**
塚内「突入はイチナナゼロゼロとする!!敵からの攻撃回避能力の高いギャングオルカ、ウィンディ、イヤホンジャックの3名のヒーローを先頭に突入。その後ろから射撃隊とヒーロー達続いてくれ!」
エンデヴァー、ショート、ジーニスト、ダイナマイト、リューキュウ、ウラビティ、フロッピー、イヤホンジャック、ギャングオルカ。塚内さんも応援にかけつけ指揮系統をとってくれている。
轟「いよいよだな」
『うん、絶対今日で解決させよう』
轟「ああ」
突入開始時刻となり私とギャングオルカ、そしてイヤホン・ジャックを先頭に敵のアジトに突入した。1階部分を私、2階部分にギャングオルカ、そして3階にイヤホン・ジャックを先頭とし別れた。
私に続く主なヒーローはジーニスト、ショートとフロッピー。
『フロッピーお願い』
蛙吹「ええ」
索敵の個性持ちのギャングオルカやイヤホン・ジャックチームと違い私達のチームに索敵能力はいない。
だからフロッピーが擬態で1階フロアの通路を先行して首謀者を探していき私達はその後ろから1部屋ずつ突入していくのが今回の作戦だ。1つ、また1つと部屋のドアを勢いよく開けるも空振りが続く。
『人がいない...?』
轟「勘づかれたか?」
ジーニスト「トラップかもしれない。慎重に行こう」
更に先に進むも、人の気配をまるで感じない。
蛙吹「1階には誰もいないわ」
先に進んでいたフロッピーが戻ってきた。
『先手を打たれたか...こちら1階担当ウィンディ1階には誰もいません』
私は無線で2、3階のメンバーに呼びかけて情報を共有した。
[こちら3階イヤホン・ジャック。3階も誰もいない]
[2階担当のギャングオルカ、同じく2階も誰もいない]
起こってしまった最悪パターン。みんなで顔を見合わせた。
ジーニスト「全員、まずは合流し新たに今後の方針について話し合うとしよう」
『了解です。こちら1階班、一度全員合流して塚内さんも交えて話し合いましょう』
[[了解]]
**
建物の外に出て塚内さんに状況を説明した私達。
この最悪パターンは私達ヒーロー側も塚内さん達警察側も想定0だったわけではないが、起こるわけないと確信していた程に今回の捜査結果は信頼性があった。調べてもらった資料を見た限りでは姿を隠すような個性持ちも移動系の個性持ちもいなかったはず。
塚内「周囲はSWATが包囲していた。目視では誰も出てきていない」
エンデヴァー「誰かの個性でないなら他に抜け道があったとしか考えられん」
ジーニスト「2班に分けて連合の捜索と建物内の捜索を行いましょう」
塚内「そうだな、現状それがベストだ」
ジーニスト「イヤホンジャックとギャングオルカチームは連合の捜索を、我々は建物内の捜索を」
**
再び建物内に入った私達。2手に分かれて上下から捜索していくことにした。私とショートは3階から下に降りながら見て回る為一旦階段を使って3階に昇った私達。
『あと少しだったのに...』
轟「ああ、だが罠がないとも限らねぇ。気をつけていくぞ」
『うん』
部屋を1つ1つ見て周っていくが、どうにも違和感の拭えない異様な部屋が続く。
『ショート、気づいてる?部屋』
轟「ああ、まるで監獄だな」
部屋の窓には鉄格子が取り付けられていて部屋の中には布団一式と簡易トイレだけがある。換気扇らしきものはない為悪臭が漂ってる部屋もあった。
『中側にはドアノブすらなくて、鍵は外からしかかけられない仕様になってる』
轟「誰かを閉じ込めていたのは火を見るより明らかだ」
『一体誰を...?』
轟「さあな」
同じような部屋が続いていく中、1つだけ扉を開けずとも分かるほどに明らかに雰囲気の違う部屋があった。
その部屋を開けてみると、そこには宅内中の部屋を監視してるような大画面のモニターと、その端にはマイクが取り付けられたパソコンが置いてあった。
『ここで外部の人間とやりとりをしていた?』
轟「中の状況的にはそうだろうな。だがこの監視の仕様...一体誰を監視してたんだ」
『新連合のメンバーにしてはあまりにも扱いがひどすぎる』
轟「風舞、ジーニストと塚内さんに報告をしてこの部屋を見てもらうぞ」
『そうだね』
無線で2人に呼びかけようとした莉紗。
しかし、辺りが揺れている事に気づいた2人は周囲を見渡した。
『地震?』
轟「だと良かったが、おそらく違うだろうな」
『?!』
突然背後から刀が一本飛んできているのに気づいた莉紗は間一髪で避け命拾いしたが避けた際に右腕を掠ってしまい血が流れた。
轟「ウィンディ!」
『大丈夫!かすり傷』
轟「誰だ!」
轟の呼びかけに敵は姿を現すことはなく、辺りに置いてあるものが次々と2人に向かって飛んできた。
2人は個性で飛んでくるものが自身に当たる前に防いでいるが狭い室内では2人の個性が乱発すること自体も2人の障害になっている。
『こちらウィンディ!2階最奥の室内で奇襲あり!応援願います!個性は物を遠隔で操る個性と思われます』
無線の向こうから皆の返答が聞こえ、応援を待つ間なんとかこの場を凌ごうと2人は頭をひねらせた。
『って言ったけど個性合ってるかな?!』
轟「分からねぇ!だが、このまま個性使い続けりゃ袋のネズミだ。どうにか脱出しねぇと」
『なら窓から出よう!』
轟「ああ、そうだな!!」
風を纏って窓から下に降りようと考えた莉紗が窓の方を見た時、轟の背後に何かが飛んできているのが見えた。
『ショート!!』
思わず轟を突き飛ばした莉紗。個性を出していなそうとしたが轟を突き飛ばした事で個性発動のモーションに遅れが出てしまい発動する前に莉紗の頭部に大きな物が当たった。
轟「ウィンディ!」
部屋の中にドスッと鈍い音が響いた。轟が目にした室内に落ちたそれは、サッカーボール程の大きさの岩だった。
岩には赤い血が付着していた為ウィンディが負傷したのは明らかだった。
轟「ウィンディ!大丈夫か?!」
『ショ....ト、ごめん...足、引っ張....』
途切れ途切れに言葉を紡ぎながら莉紗の身体はゆっくりと地面に向かって倒れて行った。
轟「風舞!」
地面に倒れる前に支えた轟。莉紗の体を返すと目は閉じ前額部からはだらだらと生暖かい血液が流れていた。
轟「風舞!おい!しっかりしろ!」
莉紗に気を取られている轟の背後から再び岩が飛んできた。轟は自身の背面に氷壁を出し防いだ。
轟「.............」
轟は莉紗の前額部の傷に薄い氷を張るとゆっくりと立ち上がり莉紗の身体の周囲を氷壁で囲った。
轟「さっきから見てりゃ随分背後から攻撃してくるんだな」
元々低音ボイスの轟が更に低くなりさらにはその声に怒りが滲み出ていた。
轟「つー事は、テメェ俺らを目視できるくらいの距離にはいるんだろ」
左腕から炎を放ち一気に火の海と化した室内。
するとどこからか「熱い!」ともがき苦しむ声が聞こえた。
轟「燃えカスになる前に出てきた方がいいんじゃねぇか」
轟のその言葉に応じるように壁の中から男が出てきた。
轟は氷結で瞬時に室内を凍らせると火は一瞬で消えた。
火にのまれ火傷を負った男の身体も凍らせて冷やすのと同時に拘束した。
「うぐっ....くそ...」
男は事前調査で確認した写真の中にいた顔だった。
その後、到着したジーニストと塚内に男の事を任せ轟は救急車を呼んだ。救急隊が到着した時、莉紗は意識不明の重体。かろうじて自発呼吸がある状態だった。
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