イザークくんと婚約しました。
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憂鬱だ…
今日は母上が無理矢理セッティングした見合いの日。
ずっと写真や映像を見ることすら断り続けている俺を見て、もう無理やり会わせるしかないと判断したのだろう。
確かにセッティングしてしまってはもう会うしかない…
ジュールの人間がドタキャンなどするわけには行かないのだ。
こんなことなら写真くらい見ておけばよかった。
とりあえず時間まで街で時間を潰そう。
そう考え適当に街をうろついていたのだが…
まさか彼女と再会するとは思わなかった。
ーーーミナ・ミューラル
アカデミー時代の同期。
名家であるミューラル家の令嬢。
パーティーで何度か見たことがある。
入学当時はそれくらいの認識だった。
女の癖にパイロットとは…そんなことを思っていたかもしれない。
でもある出来事をきっかけに、俺は彼女に恋をした。
アカデミーに入学して間もない頃、俺は母上から入学祝いでもらったピアスを落としてしまった。
それを探す為に廊下を探していたのだが、それを拾ってくれたのがミナだった。
『あの、探し物?』
『……あぁ。』
多分嫌悪感丸出しだっただろう。
ただでさえ大事なものをなくして苛立っているところだったのに、そこに話しかけられると余計苛立つ。
些細なことをきっかけに話しかけに来る女が多かったから尚更だ。
『もしかしてこのピアス、あなたの?』
『…!?そうだ、どこに落ちていた?』
『射撃場よ。ちょうど落し物として事務所に届けるところだったから良かった!』
射撃場?
確かに今日は射撃の訓練があったが数時間前だ。
『よく俺のだとわかったな…』
『え、だってあなた探し物してたし……それにあなたを見た瞬間ピンときたの!このピアス、あなたにとても似合ってるなって。』
母上のセンスはいいと思う。
しかしこのデザインは自分には少し派手ではないかと思っていたが…そう言われると嬉しかった。
そして俺とピアスを交互に見ながら、ほらやっぱり!とニコニコと笑う彼女から何故か目が離せなかった。
『はい、もう落とさないでね?』
『あぁ…ありがとう。』
ピアスを受け取ると、彼女は次の講義があるからと走り去ってしまった。
すれ違いざまに感じた甘い香りは今でも忘れない。
それから俺は無意識のうちに彼女を探すようになってしまった。
彼女は社交的なタイプで、男女関係なく明るく接していた。
成績は上の中〜下を行き来し、卒業間近には総合成績11位まで登りつめていた。
しかし納得できないのか、悔しさに泣き…そして毎日の居残りは欠かさなかった。
そして自分の弱いところや負けず嫌いなところ…つまりマイナスな感情は表に出さない。
そんは彼女を見続けているうちに、俺は柄にもなく恋してしまったんだろう…
だが接点はなく、あれから会話をすることはなかった。
そして今に至る。
久しぶりに見た彼女の背は少し伸びたようだった。
大人びた綺麗な顔立ちに、サラサラとした髪。
何か考え事をしているのかぽけっとしながらこちらに歩いてくる。
こっちにはまだ気づいていないようだ。
もしかしたら忘れてしまったかも知れない。
だとしたら声はかけるべきじゃないか…
悩んでいるうちにミナは俺の横を通り過ぎる。
あの時と同じ、甘い匂いがする……
「お前…」
「…へ!?」
気づいたら自然と体が動いていた。
通り過ぎたミナの腕を掴むと、彼女は驚いた表情でこちらを見る。
これで覚えていなかったら悲鳴でも挙げられてしまうだろう…
ヒヤヒヤする思いで次の言葉を待つが、その心配は必要なかったようだ。
「あれ?イザークくん…だよね?」
覚えていた…
しかも初めて名前を呼ばれた……
上がりそうになる口元を必死で抑え、ミナに返事をする。
「あぁ、覚えていたのか。」
「忘れるはずないよ!あの世代のザフトレッドはみんな優秀だったもん。」
あくまで赤だったから。
それでも自分に印象があったことは素直に嬉しい。
なんだか他の奴まで褒められたような気がするが、今回は知らぬふりをしておこう。
「というか、それをいうなら私の方だよ!私なんて全然目立たなかったのによく覚えてたね?」
忘れるはずないだろう。
あの頃から今まで…好きになったのはお前だけなんだから……
でもそんなこと言えるわけがない、家柄の話をしてなんとかごまかそう。
そして俺と同じで時間を潰していたというミナを茶に誘うことに成功した!
正直戦いに出るときより緊張する……
誘われることはあるが、女性を誘うのは初めてだった。
カフェではアカデミーの話や、卒業後の話をした。
「イザークくんは確かクルーゼ隊だったよね!すごいなぁ、エリート集団だぁ。」
「ミューラルはどこの隊に?」
「私?私はホーキンス隊だよ。」
彼女がホーキンス隊に配属になったことは実は知っていたが、敢えて知らないふりをしておいた。
さすがにその後どうなったかまではわからなかったが…
除隊したと聞いた時は少し驚いたが、彼女なりに先のことを考えての行動なのだろう。
「でもイザークくんはすごいよね。あの戦争を生き延びて英雄って呼ばれてさ、隊長になったり…今じゃ議長の護衛も……って、あれ?」
だんだんミナの顔が曇り、青ざめていくのがわかった。
具合でも悪くなったのか?と心配したがどうやら俺の立場を考え接し方を改めようとしたらしい。
その焦る姿に思わず吹き出してしまった。
正直普段から地位や家柄を気にして話してくる者は誰であろうと苦手だった。
今まで通りに接してほしいと頼むと、さすが社交的なミナはすぐに戻してきた。
それでいい、その方が嬉しい。
時間が迫ってきており、仕方なく解散することになった。
支払いを済まし、ミナを送ろうと行き先を訪ねる。
悪いよ!、と焦ったように言うミナに再び行き先を聞くと、彼女は少しふてくされたように「シティホテル」と答えた。
可愛い…。
いやまて、今シティホテルといったか!?
「……それは本当か?」
「え?…うん、どうして?」
「俺もそこで待ち合わせをしている…」
「え…」
いや、ホテルといっても会う場所は多数ある。
俺はレストランだがミナは違うはず……
「ほんと…すごい偶然……それでもしかして、レストランのVIPルームだったりして?」
「あぁ…」
嘘だろ……いや、VIPルームもひとつではない!
でももしかしたら…ミナが見合いの相手なのか?
だとしたら……どうする……?
確かにミナとそういう風になりたいとは思う。
だが、こんな強引に仕組まれた見合いで結ばれても正直嬉しくない。
ならどうしたらいい?
いやいや…待てよ俺。
まだ決まったわけではない。
「イザークくん首振ってどうしたの!?運転中だよ!?」
「あ、あぁ…すまん。」
道中、他愛のない話で盛り上がったがお互いこの先のことを考えないようにしてたんだろう。
少なくとも俺はそうだった。
そしてとうとうホテルに着いてしまった。
男がオドオドしていても仕方ない、さっさと向かってしまおう。
ミナが徐々に緊張しているのがわかる。
俺はなんとか平静を保ち、レストランまでやってきた。
そして目当てのVIPルームへと向かう…
俺が待ち合わせているのは2番。
ここにミナが来れば……
「2番の…部屋…?」
振り向くと彼女も呟きながら2番のドア前にやってきた。
ということは……そういうことなのだろう……。
ここに向かうまで何も考えないようにしていたが、少しくらい考えておけばよかったと後悔する。
ドアの前に来たというのに体が硬直し、中に入ることができない。
この状況に気づいているだろうミナにも、なんと声をかければいいのかわからない。
どうしたものかと思っていると、中から母上がでてきた。
常に時間より数十分はやくくる俺が5分前になっても来ないから心配したのだろう…
「まぁ、イザーク!遅いから心配したのよ?ミナ嬢と一緒だったのね。もう仲良くなったのか?」
「エザリア様!!」
「は、母上…これはどういう…?」
「あら、言わなかったかしら?ミナ嬢はあなたのお見合いの相手なのよ。」
「「…!!」」
あぁ…やはり……
ここまで来てわからぬはずもないが。
驚いている様子のミナだったが、我に返ったのか母上に礼儀正しく挨拶をしている。
アカデミーの頃と変わらない……マイナスな感情は一切表には向けない。
リアム議員の声で俺たちはようやく席に座ることができた。
まぁ、その後は普段の見合いと一緒だ。
挨拶をして、世間話をして…
ただ1つ違うのは、見合い相手であるミナ・ミューラルは俺の意中の相手だということだ。
それだけで緊張感が違う。
彼女の父にも失礼のないようにしなくてはならない。
だがそれは今のところ問題なかったようだ……
そしてとうとう2人きりの時間がやってきてしまった。
「驚いた…お見合いだとは思っていたけど……まさかイザークくんだったなんて。」
「…そうだな。」
「あ、でも相手が私だと迷惑かかっちゃうよね?」
…?
一体何が迷惑だというのだ?
こちらとしては大歓迎なのだが…
あぁ、もしかしたらミナは俺のことが嫌いで断るための口実にしているのかもしれない。
「私2人に伝えてくるよ!今回は…」
もしミナが俺が嫌いなのならそれは仕方ない…
でも待ってくれ、俺はそれでいいのか?
気持ちも伝えられぬままこのまま終わってしまっていいのか?
「俺じゃ嫌なのか?」
「…え?」
彼女の気持ちを確認したい。
家柄も地位も関係ない、ミナの気持ちを…
「いや…じゃないけど…」
頬がほんのり赤く色づいている。
これは期待していいのか?
考えるより先に体が動いていた。
ミナの手を引き2人に縁談を受けると話すと、ミナは相当驚いたようだった。
そして満足した親たちはとっとと出て行ってしまった。
話し合いもなく勝手に受けてしまったことでミナは怒ってしまったようだ。
こんな彼女は初めてみる。
「イザークくん!何してるの!?私と婚約なんてイザークくんの迷惑になるだけだって!!」
「別に迷惑にはならないだろう。ミューラルは良家だ。」
「そういうことを言ってるんじゃないの!!」
「…!!」
さっきから俺に迷惑だとかなんとか言っているが、何が迷惑だというのだろうか?
家柄は申し分ないというのに…
今回見合いをしたということは遺伝子の相性だっていいはず。
なら何が?
「私なんて……価値がないよ……ただ良家に生まれただけ。」
あぁ…そうか、そうだったな。
ミナは自己評価が低いのだ。
「私は緑の平隊士だったし、今じゃ除隊して議員秘書だし……」
そんなこと関係ないだろう。
「顔だって……。」
謙遜する必要もなく、ミナの顔は整っている。
「イザークくんにはもっと相応しい人がいるはずだよ……それに……」
違う、お前しかいないんだ。
お前以外愛することができなかった。
「……子供みたいだってわかっているけど…私恋愛がしたいの。婚姻統制とか家のこととか、ちゃんとわかってる!でもね、お父様とお母様が恋愛結婚で、仲睦まじい姿を見ているから…憧れてて……」
確かにミナにとってはこれはただの見合いかもしれない。
だが、俺にとっては違う。
ずっと恋い焦がれていた相手と、やっと結ばれることのできるチャンス…
そして彼女も婚姻統制や家の事関係なく恋愛したいという。
ならさせてやる……
「じゃあすればいい。」
「え…」
もう迷わない。
彼女の体を引き寄せ、そっと口づけをする。
キス、というものを俺は初めてする。
それは唇の味なのか、それとも彼女の香りなのか…とても甘かった。
何が起きたのか分かっていないようなミナに、俺の気持ちを伝える。
「……俺はアカデミーの時からお前に惚れていた。」
「…え?」
ここまで言ってもまだ理解できんのか!!
そう叫びたくなるのを抑え、
「す、好きだと言ってるんだ!!」
「えー!!?」
再度気持ちを伝える。
顔が熱い……熱でもあるのだろうかというほど。
「だからこの婚約は婚姻統制も、家のことも関係ない。俺がお前に恋愛している時点で……」
もちろん無理やりな話だというのは分かっている。
だが、俺は婚姻統制も家のことも関係なくミナのことが好きなのだ。
これから…これから好きになってくれればいい。
だから少しでもいい……その気持ちがあるなら……
「……ミナ、俺と結婚してくれないか?」
そっと手を差し出す。
これで断られたら笑い物だな……
だがその心配は必要なかった。
「……よろこんで。」
赤い顔をしながら俺の手を取り微笑む彼女はとても可愛らしい。
その手から感じるぬくもりがこれが夢ではなく現実だと教えてくれる。
叶わなかった恋を今やっと叶えることができた……のかもしれん。
fin.