イザークくんと婚約しました。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
空は決められた通りの青空。
日差しも強すぎず、心地いい日だった。
しかしそれは天気だけ。
街を歩く少女ーーミナ・ミューラルはこのあとすぐのことを考え深いため息をついた。
(お父様からのお誘いは毎回いいことがないわ…)
今日は評議員であるミナの父に、ホテルでの食事に誘われていた。
だいたい食事に誘われると、もう1組待っておりお見合いをさせられるのがほとんどである。
今回もそのパターンだろうと思うと気が重い。
婚約統制自体納得できていないが、ミューラルの家はまぁ所謂名家…
つまり婚約は家の為でもある。
やはりミナも年頃の女子だ。
ちゃんと恋愛して結婚したいという願望はそう簡単には消えない。
だが、自分も1人娘故にミューラルの家を守りたいという気持ちもある。
そんな葛藤に苛まれ、憂鬱な気持ちを吹き飛ばす為、父とは別行動しこうして街に繰り出したのである。
ホテルでの食事ということで一応ドレスコードを着てはいるが、薄ピンクで落ち着いたデザインの物の為浮くことはない…と思いたい。
……しかしこれと言ってすることもないミナはうろうろと考え事をしながら街を歩くだけであった。
約束の時間も刻々と迫ってきている。
どうしたものか。
そんな時……
「お前……」
「…へ!?」
すれ違いざまに男性に腕を掴まれ、ぼーっとしていたミナはハッと現実に戻された。
それにしても間抜けな声を出してしまった……と恥ずかしがっている場合ではない!
急いで相手の顔を確認すると、そこには銀髪のアイスブルーの瞳を持つ男性が立っていた。
思わずポーッとしてしまうほど美しい彼をミナはよく知っていた。
「あれ?イザークくん…だよね?」
「あぁ、覚えていたのか。」
「忘れるはずないよ!あの世代のザフトレッドはみんな優秀だったもん。」
イザーク・ジュールーーー
誰もが知るジュール家の御曹司。
当時のアカデミーはそんな名家の御曹司達が入学し、しかも赤を着ていた。
アスラン・ザラを始めとする赤服の面々がかつてないほどの成績を残したとして話題になっていた。
噂にならないはずない…同期なら尚更だ。
そう、彼とは同期だった。
当然のごとく、そんな彼らを前に自分が活躍できるはずもなかった。
「というか、それをいうなら私の方だよ!私なんて全然目立たなかったのによく覚えてたね?」
「いや…そんなことないだろう。ミューラルと聞いて知らないものはいない。」
ジュール家ほどではないと思うが……
しかもミナにはイザークと会話をした記憶がない。
関わりのほとんどなかったミナを覚えているとは、記憶力は余程のものなのだろうか。
「イザークくんは……お買い物?」
「いや…この後予定があるのだが、少し乗り気がしなくてな……。時間を潰していた。」
「うそ!?私もなの!奇遇だね!」
こんなことあるんだ。
今日は憂鬱な1日だと思っていたが、この再会だけは素直に嬉しい。
「……時間があるのなら茶でもするか?近くに紅茶のうまい店があるんだが。」
「ほんと!?私紅茶大好きなんだ!!是非ご一緒させて?」
そんなこんなで、近くのカフェで時間を潰すことになった。
カフェについたら、イザークとアカデミー時代の話や入隊後の話をしていた。
「ほう。じゃああれからホーキンス隊に?」
「うん、でも緑だし…大したお仕事はしてないよ?ヤキンの時も私だけ後方支援に回されちゃって…」
「ミューラル議員がそうしたんだろう。」
俺もそうだった、とイザークは視線外し切なげに話す。
あの時のことを思い出しているのだろうか……
それにしてもイザークがこんなに話しやすい人だとは思わなかった。
心を許していない人は冷たくあしらうイメージだった。
だから今こうしてイザークに引き止められ、一緒にカフェでお茶をしてるなんて信じられなかった。
「しかしホーキンス隊もかなり評価されている。並みの隊員でもなかなか入れないだろう。実力があった証拠だ。」
「そうかな?……でも私除隊したんだ。」
「除隊?」
「うん、議員秘書をしてるの。お父様の仕事を覚えるために。」
「そうか。」
「でもイザークくんはすごいよね。あの戦争を生き延びて英雄って呼ばれてさ、隊長になったり…今じゃ議長の護衛も……って、あれ?」
ここまで話してミナの顔がどんどん青ざめていく。
冷静に考えたら、たしかに同期ではあるけれどすごい人と会話してるのだ。
除隊したとはいえこんなに気軽に話していい相手ではない。
「し、失礼しました!!私のようなものが馴れ馴れしく…」
「お、おい!いきなりどうした!?」
急に頭を下げるミナに、イザークはあたふたし始めた。
「だ…だって……イザークくん…いや、ジュール…あれ、階級は……」
「ふっ、そんな事か。」
「…不躾でした…」
「気にするな。というか、気にせず先程のように接してほしい…」
「…いいの?」
「かまわん、それにお前はもう除隊した身だろう?」
「そ…それじゃあお言葉に甘えさせてもらうね?」
イザークに頼まれてしまっては仕方ないだろう。
そうして会話をしているうちにそろそろ約束の時間も近くなってきている。
名残惜しいが2人は移動する事になった。
「払わせちゃってごめんね…!」
「俺が誘ったんだから気にするな。…それよりどこで待ち合わせしているんだ?近くにエレカを停めてあるから送っていく。」
「え、悪いよ!」
「…いいから、どこなんだ?」
「………シティホテルだよ。」
完全にイザークのペースだ。
ミナは不本意ながら行き先を伝えた。
名家のお坊ちゃまで、地位のある人間にここまでさせて申し訳ない。
「……それは本当か?」
「え?…うん。どうして?」
「俺もそこで待ち合わせをしている……」
「え…」
沈黙が流れる。
「ほんと…すごい偶然……それでもしかして、レストランのVIPルームだったりして?」
「あぁ…」
再び沈黙が流れる。
冗談のつもりが本当だったのでミナは焦っていた。
VIPルームは何部屋もある。
だがどの部屋で待ち合わせているのかはお互い聞けなかった。
とりあえず2人はイザークのエレカに乗り込み、ホテルへと向かう。
車中、他愛のない話をしているが、お互い余計なことは考えないようにしているようだった。
ホテルからは距離はそれほどなく、あっという間に着いてしまった。
敢えて行き先をお互い告げる事なく、レストランへと向かう。
ミナの心臓は外まで聞こえるのではないかという程バクバク音を立てていた。
(もしかして…イザークくんがお見合いの相手だったりして?いやいやぁ、まさかね!!)
と言い聞かせている間にレストラン前へと着いてしまう。
ここまでイザークと来てしまったがこの後はどうしようか。
でも悩んでいる時間もなかった。
約束の時間までもう5分もない。
「……ここにいても仕方ない。入るぞ。」
「あ、イザークくん…!!」
足早にレストランに入っていくイザークの後を追いかける。
VIPルームはレストランの奥にある。
ミナが待ち合わせていたのは2番の部屋だ。
そしてイザークが入ろうとしている部屋は……
「2番の…部屋…?」
イザークは部屋に入る事なく扉の前にたっていた。
そしてミナがイザークのもとにやってきた瞬間難しい顔をしていた。
向かう先はやはり同じだったようだ。
お互い何もいう事なく扉の前で唖然としている。
どうしたらいいのかと困っていると、中から人が出てきた。
「まぁ、イザーク!遅いから心配したのよ?ミナ嬢と一緒だったのね。もう仲良くなったのか?」
「エザリア様!!」
「は、母上…これはどういう…?」
「あら、言わなかったかしら?ミナ嬢はあなたのお見合いの相手なのよ。」
「「…!!」」
この部屋の前に来た事でわかっていた事だが、いざ言われてしまうと驚くしかない…
しかしここはしっかりしなくてはならない。
驚く自分を一旦抑え、ミナはエザリアに挨拶をする。
「…こうしてお話しするのは初めてですね、エザリア様。ミナ・ミューラルです。父がお世話になっておりますわ。」
「それはこちらの方だ。リアムがいなかったら私は今ここにはいないだろう。」
あの大戦以降、強硬派の議員たちは軟禁状態にあい外界に出ることは許されなかった。
そんな強硬派を助けるために動いたのが穏健派であるミナの父ーーーリアム・ミューラルだ。
そしてそのおかげでエザリア達強硬派は無事普通の生活を送ることを許されたのだ。
「ミナ、来ていたのか?2人ともそんなところに立ってないで中に入ったらどうだ?」
父の声で2人は席に着く。
お互い挨拶を終え、近頃のお互いの話や世間話をしながら食事を楽しんでいた。
だが、ミナとイザークの顔は曇ったままだ。
「でもまさか2人がアカデミーの同期だったとは思わなかったな。」
「あぁ、あの時は忙しくて子と話す暇もなかったからな…」
「イザーク様は常に成績優秀で、私も頑張らなくてはと背中を押される気持ちでしたわ。」
「とんでもありません。ミナ嬢も女性の身でありながら、我々と同じ訓練を受け好成績を出していました。そんな姿を拝見し尊敬しておりました。」
好成績といっても赤を着ることはなかったのだ。
総合成績はいつも11位…
本番に弱いのだろうと教官にいつも言われていたが、当時は悔しくて仕方がなかった。
しかしそんな姿まで見られていたとは…イザークの記憶力にまた驚かされた。
「エザリア、少し向こうで話さないか?久しぶりに昔話でもしようか。」
「そうだな、あとは若い2人で話すといい。」
そう言い親達は別室に移った。
取り残されたミナとイザークはしばらく話すことなく気まずい時間を過ごしていた。
しかし、沈黙を破ったのはミナの方だった。
「驚いた…お見合いだとは思っていたけど……まさかイザークくんだったなんて。」
「…そうだな。」
「あ、でも相手が私じゃ迷惑かかっちゃうよね?……私2人に伝えてくるよ!今回は…」
「俺じゃ嫌なのか?」
「…え?」
しまった。そう捉えられてしまったか。
もちろん嫌なはずない。
イザークの紳士な部分を今日もいっぱい見てきた。
彼と婚約できるとならば嫌がる人などいないだろう。
「いや…じゃないけど…」
だが、そういう問題ではない。
ミナとイザーク……どう考えても釣り合わない。
容姿だけでなく、立場も地位も……なにもかもが釣り合わない。
だから今回は断ろう、そう言おうと思ったのだが……
「なら…」
「わっ!」
イザークはミナの手を引き、エザリアとリアムのいる部屋へ入っていった。
そして何を言うのかと思ったら…
「今回の縁談…お受けいたします。」
「え!!イザークくん!?」
つい素が出てそう呼んでしまった。
だが、訂正する余裕もない。
イザークが婚約を受けてしまった……
そしてよろこぶ親達……ミナは完全に置いてけぼりにあってしまった。
「それはよかった!これからよろしく頼む、ミナ嬢。」
「ようやく我が子らにも春が来たようだな、エザリア。」
「え…え…あ、あの…?」
「今すぐお祝いをしたいところなんだが、仕事の呼び出しがあってな。」
「ならば私も席を外そう。イザーク、ミナ嬢を自宅まで送って差し上げなさい。」
「わかっております。」
「あ!まっ………行っちゃった……」
何を言えばいいのか、何から訂正すればいいのか分からずあたふたしている間に親達は出ていってしまった。
「イザークくん!何してるの!?私と婚約なんてイザークくんの迷惑になるだけだって!!」
「別に迷惑にはならないだろう。ミューラルは良家だ。」
「そういうこと言ってるんじゃないの!!」
「…!!」
イザークは大声を出すミナをみて目を見開いて驚いている。
「私なんて……価値がないよ……ただ良家に生まれただけ。私は緑の平隊士だったし、今じゃ除隊してただの議員秘書だし……顔だって……。イザークくんにはもっと相応しい人がいるはずだよ……それに……」
「……」
「……子供みたいだってわかっているけど…私恋愛がしたいの。婚姻統制とか家のこととか、ちゃんとわかってる!でもね、お父様とお母様が恋愛結婚で、仲睦まじい姿をみているから…憧れてて……」
「じゃあすればいい。」
「え…」
泣きじゃくりながら話すミナを引き寄せ、イザークはそっと唇を合わせた。
ミナは何が起こっているのか分からず動くことができなかった。
ゆっくり離した唇からぬくもりが消え、そこで自分がキスされたのだと気づく。
「……俺はアカデミーの時からお前に惚れていた。」
「…え?」
イザークの言った意味がわからなくて思わず聞き返す。
するとイザークは赤かった頬をさらに赤くした。
「す、好きだと言っているんだ!!」
「えぇー!!?」
信じられなくて絶叫してしまったが、ここがレストランだと思い出し急いで口を塞ぐ。
「だからこの婚約は婚約統制も、家のことも関係ない。俺がお前に恋愛している時点で……」
(そりゃあイザークくんにはとってはそうだろうけど……)
「……ミナ、俺と結婚してくれないか?」
でもそんな顔をして…そんな真剣な顔をして言われてしまっては突っ込むことはできなかった。
赤い顔をしながらもプロポーズする彼にキュンときてしまったのはとてもじゃないけど言えない。
……そしてその感覚で思い出してしまった。
アカデミー時代、彼を見つけるだけで目で追って胸がドキドキしまったあの時のことを……
(そうか…私は……)
「……よろこんで。」
ミナはそっと差し出されたイザークの手をとった。
fin.