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それから数日後、捜査隊から敵MSが出入りしている建物を発見した。
間違いない、組織の機体だ……
作戦は本当に進んでいるのだ。
そしてここに組織のものがいないこともわかっている。
私の役目はここに隊長をおびき寄せ……
隊長を……コロス。
考えるだけで胸がチクリと傷む。
でもその痛みは無視し、私は単身で出ることを申し出た。
しかしそれを1番反対したのはよりにもよってジュール隊長だった。
……なんでなの?
私はあなたを殺すためにここにいるのに……なぜあなたは私に優しくするの?
結局隊長命令で隊長と2人で潜入調査をすることになった。
抗議をしてもイザークは優しい言葉をかけるだけ。
『隊長!!どうしてあんな……』
『お前があの敵にどんな思い入れがあるかは、知らないが、どうしても叶えたい望みがあるのだろう?』
『……え』
兵力を欠くのを恐れての行動かと思っていた。
だけどそれって私の為ってこと……?
『それなら俺はそれを叶えてやる。だが死ぬことは許さん、必ずここに戻ってくるぞ。』
でもごめんなさい。
その命令は聞けないの……
この作戦が成功したら……私が望みを叶えてしまったら……あなたも私もここには帰ってこれない。
『……ありがとうございます。』
言いたくもないお礼を伝える。
……イザーク。
あなたが優しすぎるから、私はあなたを殺さなくてはいけない。
ごめんなさい……
それから私はしばらく射撃場に篭っていた。
今回の作戦は銃撃戦になるだろうから。
ようやくここまで来たのだ。
この為に私はプラントにきた……
シッパイデキナイ。
でもどうしてだろう……的から外れるなんてことは滅多にないはずなのに何度やっても当たらない。
理由もわからずひたすら撃っていても結果は同じだった。
こんなこと今までない……
理由はわかってる。
イザークに心を乱されているから。
目的の為スパイとしてここに来た。
何もかも捨てて、ただ役目を果たすはずだった……生半可な気持ちじゃない。
しかし当のイザークに会って、彼の優しさに触れてからはとにかくおかしい。
なにがあっても殺さなくてはいけない相手が、どうしても殺したくない相手に変わってしまったのだ。
……どうしたらいいの?
答えが出せないままただひたすら撃つしかなかった。
すると突然付けていたイヤーマフが外され、私は思い切り振り返った。
そして……。
『おい、食事はどうした?』
『え……え?』
なんで?なんでイザークがいるの?
いつから……?
困惑していると、イザークは私の手を引き射撃場から抜け出した。
訳もわからずただイザークについていくが……
『た……隊長?どうしたんですか……?』
『いいからこいっ!……お前は、俺がこの間言ったことを忘れたのか?』
『え……?』
この間?
何か言われた……っけ?
『無理をするな。』
『あ……』
あぁ、確かに倒れた時に言われた気がする。
私が射撃場にずっと篭っていたから、もしかして心配してくれた?
『申し訳ありません……でもこの作戦、失敗するわけにはいきませんので……』
これで私の望みが叶う……
もう後戻りはできない、失敗できない。
『だからと言ってやりすぎだ……もしかして昨夜から食べていないのではないか?』
『え……な、なんで……?』
なぜそれを知っているのだろう?
確かに食事をとる事なく射撃場にいた。
そもそもここにきてからというもの食事が喉を通らない……
でも死ぬわけには行かないからなんとか1口2口食べていた。
だから1日食べないくらいなんて事ないのに……
食堂に行き着くとイザークは私の分の食事を受け取り、イザークの向かいの席に食事を置いた。
私をその席に座らせると食べることを促してきた。
これはもう食べるしかないなと思い、料理を口に運ぶ。
……味が分からない。
プラントに……特にボルテールに来てからは料理を美味しいと思えないし、うまく喉を通らない。
多分想像以上に自分は緊張しているのだろう。
自分の役目のこと、今置かれている状況のことを考えると……私は普通ではいられない。
気づくとイザークは食べ終わっていた。
私も数口食べたけど、イザークは納得していないようだった。
『どうした?美味くないか?』
『……!!……いえ、違うんです……なんか食べられなくて……』
『ならこれだけでも食べろ。さっきの件もそうだが、お前が無理をして倒れている間に敵が来たらどうするんだ?訓練も大事だが、体を万全にすることを考えろ。隊長命令だ。』
『……はい。』
厳しいようだが声色は優しい。
こちらを見る視線も……
そんなことを言われてしまったら食べるしかない。
差し出された小鉢を受け取り、1口口に運ぶ。
……あ、味がある……。
久しぶりに感じた食事の味だった。
これは……イザークのおかげ?
しかししばらく食べていなかったせいか、小鉢一品食べるのが精一杯だった。
それにしてもイザークはいつも強引だ。
優しさゆえの強引さ……そんな人が前にもいた気がする。
無理をする私を心配し、助けてくれる存在。
『ジュール隊長は優しいですね……』
『……そんなことはない。』
『なんだか……お母さんみたい。……あっ』
そうか、お母さんに似てるんだ。
お母さん……お母さんに会いたいな……
なんて子供みたいなことを考えている内に、私は泣いてしまっていたのだろう。
イザークが驚いている。
失礼なことも言ってしまったし、すぐに謝らないと……
そう思ったが、落ち着こうと思えば思うほど涙が溢れて止まらない……
もうだめだ、そう感じイザークの前から姿を消した。
私は自室へ全力疾走し、ベッドに倒れ込んだ。
イザークから離れても涙は止まってくれなかった。
行き場のない怒りと悲しさで、どうにかなってしまいそう……
でも……もう道は決めている。
ゴールも近い。
「覚悟を決めなくちゃ……ね。」
イザークを殺す覚悟を……
作戦実行の日。
私は予定時間より早めに機体に入り調整していた。
最もあの建物では機体のまま中に入ることはできないけれども……
あれからイザークとは会っていない。
あんな別れ方をしたら顔を合わせづらいし、何より今日私はイザークを殺すのだ。
殺す相手の顔なんかみたくない……ましてやイザークの事を私は少なくとも嫌いではないのだから。
出立前にイザークは通信を入れてきた。
私は顔が見えないように俯いた。
『危険だと判断したらすぐ引くぞ、わかったか?』
『はい……』
それから私達は目標へと向かった。
私が1人で出ると言ってもイザークは聞かず、結局2人でMSを降り現場へと向かうことになった。
あぁ、もう後戻りはできないなぁ……
イザークは先を歩いている。
私は立ち止まり、銃を手に取った。
長かった、ようやく終わるんだ。
これで、本当に……
でもなんで……?
銃は構えた、引き金を引けば終わるのに。
目の前にいるイザークをどうしても撃つことができない……
イザークは私に話しかけようと振り返る。
しまった…!!
私は慌てて引き金を引いた。
当たったのは……脇腹だった。
狙ったのは心臓だったのに……
イザークの顔を見たら撃つことができなかった。
あなたはいつも私を狂わす……
『隊長は馬鹿です。こんな作戦にまんまと乗るとは思いませんでした。乗らなければ、こんなことにはならなかったのに。』
これは本心だ。
イザークが大人しくボルテールで待っていれば、こんなことにはならなかった。
いや……でも本当はイザークが来てくれないと困るのだ。
ざわめく心を押さえ、淡々とイザークに真実を話す。
自分がスパイだと。今まで攻撃してきたテロ組織の1人だと。
そして、これからイザークを殺すことを。
話すたびに心が痛くなる。
『終わりですね?隊長。こんな女に騙され殺されるなんて屈辱なんでしょうね……。あなたにとって。』
感情を殺し、淡々と撃つ。
……でも相変わらず急所を狙えない。
イザークは反撃するつもりはない、今がチャンスなのに……
どうしてももう1人の私が邪魔をする。
彼を殺してはいけないと。
あぁ、やっぱり私には殺せないんだ……
だったら、せめて……
『どうしたんですか?反撃してくださいよ。でないとつまらないです。撃ってください。』
あなたの手で私を殺してほしい。
私をどうか止めてほしい。
それなのに……
『……俺にっ…できるわけないだろう……』
『……!!』
あなたはこんな時でも優しいのね……
『……本当に馬鹿……。私はスパイなんですよ?イザーク・ジュール……あなたがこんなお人好しだなんて思わなかったわ。』
『ふっ……俺だって驚いている』
バンッ!!
また狙いを外す。
正直もうどうしたらいいのかわからない……
それもこれもすべてイザークに惑わされたから……
『あなたおかしいです。隊長……。……ねぇ、どうして?どうして私についてきたの……?こんな……私なんかに……どうして優しくしたの……?』
今までのイザークは隊長としてはあるまじき行動が多かった。
この作戦だってそう。
私はずっと疑問に思っていたことをぶつけた。
どのような結末になっても、どうせ今日で全て終わるのだから……
『……っ……お前だからだ』
『……!?』
私……だから?
それって……もしかして……
イザークは私のことを……
自惚れかもしれない……でも部下だからという答えではなく、私だから。
そう答えてくれたことが、こんな状況にもかかわらず嬉しくて視界が滲んだ。
それが今まで私がなぜ心をざわめかせたのかの答え、なのかもしれない……
『俺は……お前が好きだ』
『……!!』
痛みだ歪んだ顔ではあったが、まっすぐに私を見る。
その瞳に私は囚われた。
自惚れなんかじゃなかった……イザークも、私を思ってくれたんだ。
嬉しい……けど、私にはそんな権利はないじゃない……
『……何言ってるの!?私……スパイなんだよ?今までの私は全て偽り……嘘なの!!ありえないよ!!』
『ならそれが……本当のお前か?』
『え……』
確かに今の私は、何も取り繕ってない本当の私だ。
『やっと見せてくれたな。本当の姿を……』
イザークはずっと待っていてくれたんだ……
私が本当の自分を出せる時を。
今まで見たことのないイザークの笑顔を見て、私は抑えていた涙を流した。
『……お前だって最初から急所を撃てたはずだ。なぜ撃たなかった?』
『……!?』
違う、撃たなかったんじゃない……撃とうとしても撃てなかったの……
あなたを殺さないと頭では分かっていても、体がいうことをきかないの……
『それに、なんで俺に撃って欲しがるんだ?俺を殺すことが目的ならそんなこと要求する必要もないだろう。』
それは私があなたを殺せないから……
だからせめてあなたに止めて欲しかった……
あなたにはその権利がある。
それにもう私は敵なのだから……
……でも、あなたは何故敵である私を撃ってくれないの……?
どうして敵にそんなことを聞くの……?
『……どうして、そんなことを聞くんですか?』
『……』
『……ったし……私だって……っ……ころしたく……』
殺したくない、そう伝えようとした瞬間……イザークを呼ぶ声が聞こえた。
ディアッカだ……
他にもたくさんの足音が聞こえてくる。
…………もうここにはいられない。
私はディアッカ達に見つかる前にあらかじめ用意されていた抜け道に向かって走り出す。
『待て!!!』
『……ごめんなさいっ……』
撃ってしまったこと。
裏切ってしまったこと。
あなたの気持ちに応えられないこと。
本当に、本当に……ごめんなさい。
イザークと離れたくない気持ちを胸にしまい、私はその場を去った。
そして私は……またここに戻ってきてしまったのだ……。
アジトに戻り、ボスにイザークが怪我をしていることを報告した。
そしてすぐにこの牢に入れられた。
これからどうするのだろう……やっぱりすぐに出撃するのかな……
ジュール隊を殲滅するために……
……私のせいだ。
でも仕方がなかった……これも全部……取り返すためだったから……
そんなことを考えているうちに、静かな牢獄にひとつの足音が響いた。
こちらに向かってくる……多分足音の主はボスだ。
「よう、改めてご苦労だった。」
「……ボス……」
「隊長と呼べと伝えただろう?……まぁ、いい。すぐに出る、ジュール隊を叩くぞ。本当はお前がイザークを殺してくれたほうが助かったんだがな。」
「…………ボス、ジュール隊の殲滅に成功したら……家族は……?」
「あぁ、会わせてやる。約束だからな。」
「……分かりました。」
私が返事をするとボスは牢の鍵を開け、私を格納庫へ連れて行く。
そして私は先程のザフトの機体に乗り込んだ。
そう……家族の為。
イザーク・ジュール……今度こそあなたを……