Make believe
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予定時間直前になり、イザークとミナは自分の機体に乗り込んだ。
あれからミナはイザークと顔を合わせることはなかった。
モニターから見えるミナの顔は俯きがちで、表情は伺えなかった。
「危険だと判断したらすぐに引くぞ、わかったか?」
「はい……」
開始時間になり、イザークとミナは出撃する。
「やはり人がいるようには見えないな……」
情報のあった建物に着くが人やMSのいるような気配はない。
だが怪しいのは死角になっている部分。
中に入らないと確認できそうにない。
「隊長、ここからはMSでは無理です。私が行くので隊長はここで……」
「俺も出る、行くぞ」
ミナの返答は聞かず、コックピットを開く。
それに続いてミナもコックピットを開けて、イザークの後に続く。
そっと中を覗くと、案の定建物の中にはMS一機も見当たらない。
人もいないようだった。
イザークらは銃を持ち、周りを気にしながら奥へ進んでいく。
罠を張っている様子もないようだが……
ミナに意見を聞こうと振り向こうとすると、イザークは目を見開いた。
ミナはイザークに銃を向けていたのだ。
バンッ!!!
銃撃が建物内に響いた。
イザークは起こったことが信じられなかったが、脇腹に感じる痛みがこれは現実だと知らせる。
………イザークは、ミナに撃たれたのだ。
「隊長は馬鹿です。こんな作戦にまんまと乗るとは思いませんでした。乗らなければ、こんなことにはならなかったのに。」
淡々と話すミナに感情はなかった。
今まで見たどのミナとも違う冷たい瞳。
「……っ……なんなんだ……お前は……」
「お気づきでしょう?私は敵のスパイですよ。」
「…!?」
銃を構えたままミナは続けた。
「あなたたちを狙うテロ組織の1人。私はスパイとしてプラントに潜入し、軍に入ったんです。私への命令は、エリート部隊であるジュール隊を崩壊させること……その為にはまず、あなたを殺さないといけなかった……」
「……っ……」
その言葉には感情がなかったが、ミナの表情が一瞬曇ったのをイザークは見逃さない。
痛みで立っていられない足にどうにか力を入れる。
「終わりですね?隊長。こんな女に騙され殺されるなんて屈辱なんでしょうね……。あなたにとって。」
「……」
バンッッ
次に腕に一撃食らわす。
イザークは痛みで思わずその腕を抑える。
「どうしたんですか?反撃してくださいよ。でないとつまらないです。撃ってください。」
「……俺にっ……できるわけないだろう……」
「……っ……本当に馬鹿……。私はスパイなんですよ?イザーク・ジュール……あなたがこんなにお人好しだなんて思わなかったわ。」
「ふっ……俺だって驚いている」
バンッ
今度は太ももだった。
ついには立っていられなくなり、しゃがみこむ。
「あなたはおかしいです。隊長……。……ねぇ……どうして?……どうして私についてきたの……?……こんな……私なんかに………どうして優しくしたの……?」
不安げな表情はいつも見ているミナと同じ顔だった。
こんなことをしてもやっぱりミナはミナなのだとイザークは思った。
「…………お前だからだ」
「!?」
イザークは痛みを我慢しゆっくり立ち上がる。
ミナは動揺しつつも銃は降ろさなかった。
よく見ると瞳には涙が滲んでいた。
彼女の涙を見るのは2度目だった。
1度目はおそらく母親を思って……
でも今の涙は自分に向けられているのだと思うとこんな状況であるというのに嬉しく思う自分がいた。
それが答えだったのだ。
「俺は……お前が好きだ」
「……!!……何言ってるの!?私……スパイなんだよ?今までの私は全部偽り……嘘なの!!ありえないよ!!」
「ならそれが……本当のお前か?」
「え……」
「やっと見せてくれたな。本当の姿を……」
イザークは痛みに耐えながらもミナに笑ってみせた。
今までの口ごもっているミナとも、戦闘時の冷静なミナとも違う…感情的なミナ。
イザークはやっと見れた本当の姿を目に焼き付けていた。
ミナは微笑むイザークをみて顔を歪ませた。
「……お前だって最初から急所を撃てたはずだ。何故撃たなかった?」
「……!?」
ミナが撃ったのは脇腹、腕、太もも。
どれも1発じゃ死なないような場所だ。
とても殺そうとしているものが撃つ場所ではない。
「それに、なんで俺に撃って欲しがるんだ?俺を殺すことが目的ならそんなこと要求する必要もないだろう。」
それではまるで、撃つ前に殺してくれと言っているようだ。
「……どうして、そんなこと聞くんですか?」
「……」
「…ったし……私だって……っ……ころしたくっ……」
泣きながら必死に話そうとするミナの言葉を待った。
しかし……
「イザーク!!」
「「……!!」」
タイミング悪く、親友の声が聞こえてくる。
通信を聞きつけこちらに向かってるのだろう。
ミナは銃をしまい、去ろうとする。
「待て!!!」
「……ごめんなさいっ……」
ミナはイザークには目もくれず、隠れた抜け道を使いその場を去った。
少ししてディアッカが隊員を引き連れ建物内に入ってきた。
親友の姿が視界に入った瞬間、イザークは力なく目を閉じた。
「……っ」
目を開けると、白い天井が目に入った。
自分は何をしていたのだろうか?
辺りを見渡すと、親友であるディアッカと目があった。
「生きているのか、俺は……」
「とりあえずな……」
普段から肌の白いイザークだが、出血が多かった為かさらに白く、そして青い。
「…………あいつは?」
「置いてあったMSに乗り込んで逃げたよ。入れ違いで出て行ったみたいだな。」
「そうか……」
隊のやつに殺されたのではと思ったが、鉢合わなかったらしい。
殺されかけたというのにそんな心配をしてしまうイザークをみて、ディアッカはイザークが本気でミナのことが好きなのだと実感した。
「でもこの傷を見る限り、お前のこと本気で殺そうとは思ってなかったんだろうな……」
「……やはりそう思うか?」
「けどあと一歩遅ければやばかった。もしそんなことになったら俺はあいつ許せないかもな。」
ディアッカがそんなことを言うとは思わなかったが、それだけ自分を思ってくれていることに心の中で感謝した。
「どうするんだ?奴らお前が怪我をしてんの知ってる訳だし……すぐ攻めてくるぞ」
「そんな簡単にはやらせない。それにそれなら好都合だ、あいつにはまだ聞かなきゃいけないことがあるんだ。」
「……連れ戻すのか?」
「あいつだっていいように利用されてるのかもしれん。」
「……だといいけどな。」
あの時お前が言おうとした言葉。
『…ったし……私だって……っ……ころしたくっ……』
お前はどうしてスパイになった?
どうしてあんなことをした?
もしかして母親と関係あるのではないか。
そして………どうして俺を殺さなかった?
ディアッカが医務室から立ち去り、イザークは体を起こす。
まだ無理はできないとは言っていたが、どうしても今すぐ確認したいことがある。
痛む体をなんとか動かしある場所に向かう。
そう、ミナの部屋だ。
先ほどディアッカは調べさせるか?と聞いてきたが、今はいいと伝えた。
その前に自分が見ておきたかったというのもあるし、ミナが帰ってくる可能性もまだ信じていたからだ。
なんとかミナの部屋につき中に入る。
彼女は1人部屋だ。
たまたまとはいえスパイとしては好都合だっただろう。
中には机やベッドとまぁ普通の部屋だ。
女子としては物は少ない方かもしれない。
ベッドの下を覗き込むと通信機があり、これで奴らと通信していたのだとわかる。
そして机の上には以前借りた本と分厚いノートが置いてあった。
そこには戦闘の記録や改善点を事細かに書いてあった。
スパイとしてばれないようにするために念密に研究していたのかもしれない。
そして、机の棚に一冊だけノートが入っていた。
パラパラとページをめくる。
「日記か……」
見てはいけない物だと思いつつもページをめくる手が止められなかった。
そこには今まで見ていたミナからは考えられない、悲痛な叫びが書いてあった。
"なんで私ここにいるんだろう"
"つらい、やめたい"
"帰りたい"
"戦いなんてもう嫌だ"
"どうしてこうなったの……?"
今まで出せなかった感情はすべてこの日記に書いてきたのだろう…
日記というよりは感情の殴り書きだ。
そして1番新しいページはさらに乱れた文字で、ページがぐしゃぐしゃになるくらい書かれていた。
"どうして、いやだ、やめたい、もういや、帰らせて、ヤメテヤダオネガイタスケテコンナコトシタクナイニゲタイイヤダイヤダイヤダヤダヤダヤダヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテモウヤメテ!!!!!!!"
苦し紛れに書いたであろう文章に目を伏せたくなった。
しかし最後の1行にイザークは目を見開いた。
"コロシタクナイ"
これが、お前の本音……?
震える手が止まらない。
こんな気持ちのまま銃を向けていたのか?
ミナ、お前は……やっぱり……
疑問が確信へと変わった瞬間……ボルテール内に警報が鳴り響いた。
おそらく奴らだ……そして、その中にミナがいるだろう。
行かなくては…!!
イザークは足を引きづりながら、歩き出す。
ミナの元へ行くために。