Make believe
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終戦から2年がたつ。
プラント、地球では終戦に納得できない者たちがそれぞれにテロ組織を作り反乱を起こしていた。
その為、ザフト・地球軍はその者達の鎮静に追われていた。
イザーク率いるジュール隊も最前線に立ち、プラントの防衛・そしてテロ組織の鎮静に勤めていた。
そして今日は、アカデミーを卒業した選ばれた新米兵達がジュール隊に入隊する日であった。
「……今後のお前たちの行動に期待する。以上。」
もう何度したかわからない入隊の挨拶を済ませ、本日入った隊員の顔と名前を覚えていく。
記憶力の優れているイザークには10数名覚えるのは造作もないことだった。
そして漸く最後の1名に差し掛かり、名前を尋ねる。
しかし…その女は赤服だというのに、自分が前に来た途端ビクビクと震え俯いていた。
俺に怯えているのか…?とイザークは思った。
この鋭い眼差しとピリッとする雰囲気は人を怖がらせるといつだかかディアッカが言っていた。
今までも新入隊員の怯えたような表情は何度も見たことがある。
しかしこの女はどうだろう。
怯えているにしては震えすぎだ。
「名は?」
「……は、はい…ミナ・ミューラルであります…」
消え入るような声そう答え、敬礼する。
怯えたような目はこちらを見ないようにしている。
よくこれで赤になれたものだ。
しかし副隊長であるディアッカの口からありえない真実が告げられる。
「イザーク、この子アカデミーの首席らしいぜ!期待の新人ってやつだな」
「なにぃ!?」
この女がっ…!?
こんな緑でもありえないような震え方をしているこいつが…首席だと!?
イザークはその言葉が信じられなかった。
しかし、彼女の入隊から半年経った今となっては、それが真実だったと思わざるを得ない。
定期的に実施している演習や戦闘シミュレーションでは毎回好成績を出している。
この結果だけでもミナが首席だったことを証明するには十分だった。
だが彼女は戦闘でもその真価を発揮した。
「隊長、敵機撃破しました!!」
普段の彼女からは想像できないような凛とした声がブリッジに響く。
ボルテールは元地球軍と思われるテロ組織のMS軍を捉え、すぐに応戦した。
ミナは前線に立ち、MS軍を圧倒していた。
人が変わったようだ。
彼女の動きは俊敏で、敵は手も足も出ない様子だった。
……正直彼女がいれば他は要らないと思ってしまう程。
そして勝ち目がないとわかるや否や、MS軍は撤退していった。
それを追おうとするミナをイザークが止める。
「よせ、奴らに戦闘の意思はもうない。」
「……了解」
それを聞き、ミナは帰投する。
「相変わらずミナさんすげぇな。普段からは想像もできないぜ」
「いつも震えているだけなのにな?この前話しかけても反応返ってこなかったし」
「まじかよ!顔は可愛いのに絡みづらいのが難点だよなぁ」
気を使ってこそこそと話しているようだったが、その会話はイザークの耳に容易に入った。
たしかにミナは自分どころか他の隊員とも馴染めていない様子だった。
ましてやあのディアッカでも手を焼いている。
これは隊長として何か手を打たなくてはいけないのではないか?
いくら腕が良くても、いざという時連係できなければ戦況が辛くなることもある。
彼女はこの隊のエース的存在だった。
故にこのままではいけない。
イザークはふぅ、とため息を吐き、どうしたらいいのか考え絵を巡らせた。
それから数日。
仕事がひと段落し、少し休もう目を瞑ると脳裏にミナの顔が浮かんだ。
そういえば彼女のことは何も解決していない。
ディアッカに再度ミナとの対話を試みてもらったが撃沈したと聞いた。
どうしたものか…
「全く……なぜ俺があんな女に頭を悩ませなければならんのだ」
イザークは物に当たり散らしたくなる怒りをどうにか抑え、特に意味もなくボルテール内を歩き回る。
正直に言うと、彼女のことは気にくわない。
実力は認める。だから堂々としていればいいのだ。
だが、彼女の様子は入隊時と変わらない。
このどちらが本当なのかわからないミナに、イザークはイライラしていた。
どのくらい歩いただろうか、時計を確認する為ふと資料室を見ると……そこには当の本人がいた。
ミナは高い位置にある本を取ろうと思い切り背伸びをしているが一向に届かない。
「これか?」
「…!!!」
イザークも身長が高い方ではないが、ミナよりは高いし腕も長い。
イザークは彼女の取りたがっている本をいとも簡単に取ることができた。
ミナは驚いたように目を見開き、こちらを凝視した。
「も、申し訳ありません!!!隊長にこのような……」
我に返ったのか慌てたように深く頭を下げ、か細い声で謝罪した。
「気にするな。」
そう言い彼女の欲しがっていた本を見ると、表紙には"ザフトの歴史"と書いてあった。
「なぜこれを?」
「あ………」
"話しかけても反応返ってこなかった"とある隊員が言っていただろうか…
成る程、そのようだ。
報告等で顔は合わせているが、それ以外の会話は今が初めてなのだ。
ミナは震えながら俯く。
またこれか…とイザークの抑えた怒りがまたふつふつと現れてきた。
さてどうしたものか、と考えを巡らせていると彼女は自分から口を開いた。
「し……知らなきゃいけないと思ったんです。
過去のことも……私知らないから……」
それは耳を澄ましてようやく聞こえるような小さな声だったが、たしかにそう言った。
だが、なんと返せばいいのだろう。
ミナとの会話はこれが初めてなのだ、慎重に返さなければ…
「……隊長は……なんで戦うんですか?」
それはまた急な問いだった。
なぜ彼女はそんな事が気になったんだろうか。
「プラントの為に決まっているだろう。
テロ組織がプラントを狙ってきているなら俺はそれを落とす。」
「そう…ですか……そうですよね」
彼女の中で完結したのだろうか?
これ以上は聞いてこなかった。
「俺も聞いていいか?なぜ貴様はいつもそんなに震えている」
「……え?」
もうやけだ、率直に聞いてしまおう。
イザークとて人付き合いはいい方ではないのだ。
それに最初に質問してきたのは向こうだ。
ならこちらも質問してもいいだろうというイザークの謎の持論からくる行動だった。
「私……震えてる?」
それはイザークにではなく、自問しているようであった。
まさか、自覚がなかったのか?
イザークは驚愕した。
こんなにも震えているのに本人には分からぬものなのか?
ミナは自分の手を見つめて、ほんとだ、と驚いていた。
「どうしてでしょう……?覚悟は決めたつもりだったのに……怖いんですかね?」
そういうと彼女は自嘲気味に笑う。
心から笑った顔ではなかったが、彼女の笑う顔を見たのは初めてだった。
いや、多分この隊の中で自分が初めてかもしれない。
「戦いが……か?」
「いえ…失う事が、です」
そう答えた彼女の目には、生気を感じなかった。
一体彼女は何故ザフトに入ったのだろう。
…それを聞くには彼女との距離が遠すぎた。
イザークはそっと本を渡し、ミナはそれを受け取ると敬礼し走り去っていった。
答えはもらったのに余計に増える疑問に、イザークは頭を抱えた。
その後イザークは何故かディアッカの部屋に行き、この行き場のないモヤモヤを爆発させたのだった。