セラムン夢
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「教科書ありがとうございました。」
転校初日だった為、教科書を借りていた玲花は放課後職員室に
返しにきていた。
「間に合わなくてすまないな。明日には届くと思うから。」
「わかりました。では、失礼します。」
担任に挨拶し、職員室を後にする。
今日は予定もない為、そのまま事務所まで歩いて帰ることにした。
おそらく連絡したらリムジンが来るのだが、今は歩きたい気分だった。
帰りながら、うさぎのことを思い出していた。
とても暖かい雰囲気の女の子だった……
(乗り気じゃなかったけど…あの子に会えたことはなんだか嬉しかったし、学校も悪くない…かな?)
にやにやしながらそんなことを考えながら歩いていると、いきなり腕を掴まれ何事かと後ろを振り返る。
「ちょっと……何回も呼んだんだけど聞こえなかったわけ?」
夜天は息を切らしながらそう言う。
どうやら走ってきたみたいだった。
「え!?……や、夜天くん!?呼んでたの……?」
「……君って、考え事すると周りが見えないタイプでしょ?」
「そ、そんなことないですっ!!」
今日に関しては本当にたまたまだった。
転校初日な上に、最近起こった不可解な出来事までプラスされて考えることが多かったのだ。
それをいつもそうかのように言われて少し腹が立っていた私は、そっぽを向いて歩き出した。
「あのさ!」
それを夜天が目の前に立ち制止する。
「な…なに?」
「こっちは走ってきたんだけど?しかも何回も呼んでるんだよね?」
「それがどうかしました?」
「……なにか一言ぐらい言ったらどうなの?」
相手がむすっとしていることは見ればわかった。
だがこちらも引かない。
「……別に約束していたわけじゃないし、そっちが勝手にしたことでしょ?」
「……はぁ。君ってそう言う人だよね……」
「なにそれ!私を知ってるみたいに……」
「知ってるよ。」
(……あ、まただ。)
初めて会った時に見せた、夜天のあの切なそうな顔……
正直この顔が忘れられなかった。
見ると後ろ髪を引かれるような……そんな気持ちにさせる。
(私は……あなたに何かしてしまったの?)
「……まぁ、今はいいよ。それより玲花は部活には入らないの?」
「部活?……そうね、興味はあるけど。」
「昨日見学してきたんだけど、星野も大気もノリノリでさ……よくやるよ。」
「夜天くんは何かやらないの?」
「運動部入って汗かくのはごめんだし、文化部入ったら眠くなりそうだからやだ。」
「ふふ、夜天くんっぽいね。」
(……あれ?
さっきまでギクシャクしてたのに……なんだか会話スムーズじゃない?
むしろ話してて心地いい気もする……
あんなに嫌な気持ちだったのに……なんで?)
ーーー懐かしい。
記憶もない、会ったこともないはずなのにそう思った。
「家はこっちなの?」
「あ、いやぁ……これからお仕事の打ち合わせで事務所に……」
「そう、じゃあ送ってくよ。」
「え!?いや、悪いし……」
「いいから!最近物騒な話が多いんだから玲花も気をつけてよね!」
そういうと玲花の手首を掴み前を歩き出した。
多分こうなるときかない。
玲花の中の記憶なのか、直感なのかわからないけど……そう思ったから諦めて夜天と帰ることにした。
他愛のない話をしつつ事務所まで辿り着くと、夜天は軽く挨拶をしてあっさり帰っていった。
(なんだか不思議な感覚だったな……やっぱり過去に会ったことがあるんだろうなぁ)
いつかその話をきけるのだろうか……
いや、記憶を取り戻すためにも、いつかは話さなくてはならないのだろう。
しかし。
(彼が知っている私はおそらくフレアとしての私。)
玲花はあれから変身はしていない。
本当は……この間、アリスが化け物に変わった時に感じた感覚を何度か感じている。
まさに昨日も、麻布十番高校付近で感じたのだ。
でもこわい。
これから戦いにも身を投じなくてはいけないのかと思ったら……
それが無性に怖くて……記憶を取り戻すことにも恐怖を感じるようになった。
(ねぇ、フレア?
私はどうしたらいい?)
疑問を抱えながら、玲花は事務所に"帰っていった"。
「ただいま戻りましたー。」
「おかえりHIKARIちゃん!学校どうだった?」
マネージャーが目を輝かせながら、聞いてきた。
「……まぁ、まぁかな?」
「うんうん!よかったよかった!」
不貞腐れながら学校へ行ったから素直に楽しかった、とはいわなかったが……きっと顔でばれている。
マネージャーはもう40代になる女性だ。
玲花に母がいれば、そのくらいになるのだろうか?
…… 玲花には母も父も、家族もいない。
気づいた時には河原で倒れていて、それをマネージャーが助けてくれた。
何故そこにいたのか、何故記憶がないのか……全て思い出せず。
心配したマネージャーが玲花を養子に迎えてくれた。
マネージャーの夫である社長も快く引き受けてくれた。
それからは夫婦の家にもなっている事務所に寝泊まりしている。
そして歌の才能を感じてくれた社長とマネージャーが、私をHIKARIとしてデビューさせてくれた。
弱小事務所だったうちの事務所も、HIKARIのデビューをきっかけに仕事をたくさんもらえるようになったとか。
何故自分の歌が世間にここまで受け入れてもらえているのか、正直自分でもわからない。
作曲は確かにいい。
しかし作詞は素人である玲花が自分で詩を書いている。
自分を取り戻すための詩を自分の本能で書いているのだ。
ただ、記憶を取り戻す……それだけではないような気がしている。
私の本能が、また別のものを探しているような気がしている。
それはまだ、わからない。
「明日から……どんな1日になるんだろう?」
新しい学校。
新しい友達。
そして自分を知っていると言う夜天……
楽しみなような、不安なような……
複雑な心情のままソファに腰掛け、玲花はため息をついた。