朧月夜に君を抱いて
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月の光がぼんやりと室内を照らす。
まだ深夜。ふと目が覚めた。
もともと眠りは深い方ではないけど。
今は…… どこかふわふわとした夢見心地。
気持ちいい。
(ウサの身体…… あったかい)
自分の胸にぎゅっとしがみつくように眠る、白くて柔らかくて温かい肌。
甘く香りそうな首すじに、そっと顔を寄せた。
抱きしめる腕に、少しだけ力がこもる。
「───ん……」
ウサが小さく身じろぎした。
でも起きる様子はない。
(そもそも、何でこんな事になったんだっけ)
今までに何度も、俺のものになんないかな…なんて思っては来たけど。
この想いを伝えるつもりなんて無かった。
伝えちゃいけないはずだった。
俺の"日常"に巻き込むのが……怖かったから。
(───なのに)
(何やってんだろ、俺…)
ー ー ー ー ー
きっかけは潜入捜査のパーティ会場。
会場内に居る人物のチェック等、諸々の細かい事はモモとウサに任せ、別行動を取る。
これから、対象の女に接触、"ご協力"頂き、必要な情報を探る。
要するにハニートラップだ。
(ま、いつもの事だけど)
手を取りふわりと微笑めば、落ちない女はいない。
(有効活用してるだけだよ)
自分の顔の良さを。
相手を心まで踏み込ませたりしない、その自信もあった。
女の子からのお誘いだって星の数ほどあったし、"据え膳食った"事なんて毎度の事で、いちいち覚えてもいない。
割り切った関係は楽だった。
(さて……と)
相手の女から、欲しかった情報も引き出せた。
今後の捜査に必要になりそうな、色んな物も仕込んだ。
これでひとまず今日のオシゴトは終了。
後はモモに指示を出して、何事も無かったように帰るだけ。
(モモは……どこかな)
ぐるりとフロアを探す。
(あ、いた)
フロアの隅で、注意深く辺りを見ていたモモと目が合った。
任務完了の合図で軽く頷く。
正装したモモの向こうに、髪を上げドレスアップしているウサが見えた。
ワンショルダーの華やかなマーメイドラインのドレスは、太ももの際どい所までスリットが入っている。
ウサは裾が気になるのか、しきりに足もとに視線を落としている。
(任務中なのに。注意力散漫だな)
(後でみっちりお仕置きが必要かな?)
でも、いつもの地味スーツと違い、着飾ったウサは少しだけ大人っぽく見えた。
(あぁいうの、馬子にも衣装って言うのかな)
(そんな事言ったら、真っ赤になって怒るよね)
ー ー ー ー ー
潜入捜査の一週間前。
公安課のデスクにモモを呼ぶ。
「モモ」
「何ですか?津軽さん」
「この日のパーティなんだけど、ドレスコードあるから、ウサの事エスコートして」
「………」
モモは憮然とした顔で俺を見たけど、言葉はない。
(相手がウサなのが嫌なの?)
(俺だって、代われるものなら代わって欲しいよ)
モモの視線を横に流しながら、ウサの方を向いた。
「と言う訳だから、ウサちゃんはモモと一緒に来ること。いいね?」
ウサは一瞬きょとんとした後、すぐに素っ頓狂な声をあげた。
「えぇっ?百瀬さんとですか!?」
「あ"ぁ!?」
モモが後ろから蹴りを入れる。
「いた…っ… 蹴らないで下さいよ……」
「………」
「モーモ」
余計な事を言わなければ、蹴られることもないのに。
……いや、モモは何も言わなくても蹴るか。
【足は口程にものを言う】かな?モモの場合。
(あの時のモモとウサの顔……)
(面白かったな)
ー ー ー ー ー
ウサの着るドレスを選んだのは俺だ。
でも、童顔のあの子にはちょっとだけ背伸びした格好だったようだ。
(早いとこ、ハニトラ仕掛けられるような色気を付けろよ)
(まぁ、それはそれで困るけど)
視線の先のモモが、ウサの耳に顔を寄せる。
俺の指示を伝えているんだろう。
何も知らない人が見れば、立派なカップルに見えるはずだ。
こくんと頷いたウサがモモの手を取り、出口の方へ向かう。
その途中で、ウサが躓いた。
「きゃ……っ」
転びそうになったウサを、モモが腰を抱いて支える。
「………」
「ごめんなさい……!」
真っ赤になったウサは、モモから慌てて離れる。
いつもなら無言の蹴りが入っただろう。
しかし今は任務中という事もあり、邪険に扱ったりはしないようだ。
(まぁ、モモが何考えてるか大体想像つくけど)
(次に転びそうになっても、手なんか貸さないとか思ってるんだろ)
その様子は、離れた位置のここからでもはっきり見えた。
(はー……)
(あれで盛大に転びでもしたら、周りに印象付ける事になる)
ウサのおっちょこちょいは今に始まった事ではないけど。
こういう時には、ちょっと困る。
(いや、ちょっとじゃないな)
モモに腰を抱かれたまま、ウサはフロアから出て行った。
公安課ルームに居る時とは違った雰囲気の二人に、胸の奥がチリッと音を立てる。
(モモの隣になんて、置くんじゃなかった)
この胸のざわつきは、隣にいるのが自分じゃない事への苛立ち、モモへの嫉妬だ。
色んなものがごちゃ混ぜになりすぎて、独占欲だけが先走っているから。
(何もかもすっ飛ばして、手もとに置いておきたいと思うなんて……)
今まで、女の子にこんな事思ったことなかったのに。
あの子には、調子を狂わされっ放しだ。
(とりあえず……)
スマホに目を落とし、メッセージを送る。
『反省会実施。そのままAホテル5166号に来るように』
(ウサが来たら、どんなお仕置きしてやろうかな)
ー ー ー ー ー
ホテルに着いて、着替えようかとネクタイを緩めかけた時、ドアをノックする音が響いた。
ドアスコープから覗けば、ドレスの上にコートを羽織ったウサが落ち着かなそうに立っている。
招き入れ、コートを掛けてからソファに座るように促す。
ウサは部屋の中をきょろきょろと見回し、首を傾げる仕草をした。
「何?」
「あ、いえ。百瀬さんは居ないのかな…と思って」
「モモは反省会参加しなくても大丈夫だから」
「そうですよね……」
しゅんと項垂れるウサの隣に座る。
「反省会、しなきゃいけない理由分かるよね?」
「はい…」
「今日は、随分と注意力散漫だったね?」
「……すみません」
ウサの頭が更に下がる。
「あの場で何かあっても、あれじゃ直ぐに対応出来ない」
「はい…」
「それに……何で、モモに腰なんか抱かれてんの?」
「あれは……っ!」
ついでに、さっき見た苛立ちの原因を挙げると。
ウサは、ばっ!と効果音が付きそうな勢いで顔を上げる。
その頬はほんのり染まって見えた。
「今日のモモは、紳士で恰好良かった?」
「そんな事思ってません!」
「大体、百瀬さんと組ませたのは津軽さんじゃないですか!」
「そうだっけ?」
「………」
反論を諦めたように息を吐くウサに、拗らせた嫉妬心からつい、言わなくても良い事まで言ってしまう。
「本当は、俺がエスコートしたかった」
「!??」
「なんで、あそこにいるのが俺じゃないんだろうって…モモに嫉妬した」
「な……!?」
驚いて口をぱくぱくさせるウサの顔が面白い。
「津軽さんは、対象者の美人さんと楽しそうだったじゃないですか!」
「うん、楽しかったよ?」
「………」
今度は言葉を失ったようだ。
言いたかった事は、これじゃないのに。
俺はまた、ぽつりと零す。
「それでも、ウサの隣には俺が居たかったんだ」
「……っ」
「ウサのこと、好きだから」
「……!!」
一瞬動きの止まったウサの顔が、みるみるうちに真っ赤になる。
「じ…冗談は止めましょう?」
「冗談でこんなこと言えると思う?」
「津軽さんなら……」
別に、ウサにハニトラなんて仕掛けないんだけど。
(信用無いな)
(まぁ、今までの態度があんなんじゃ…仕方無いか)
隣に座ったソファの膝を詰める。
そして…改めて、想いを口にした。
本当は、伝えちゃいけない事だったけど。
何だか今言わないといけないような気がした。
「俺は… ナツキの事好きだよ」
「う…嘘…」
「嘘じゃない」
「だから…俺のものになってよ。……駄目?」
上目遣いに顔を見れば、さっきよりも更に赤くなっていく。
「わっ…私だって、津軽さんの事好… っ……」
言い終わるより先に、唇を塞いだ。
重ねた唇はとても柔らかくて、砂糖菓子みたいに甘い。
何度も角度を変え求めるうちに、頭の隅がジンジンと痺れてくる。
(止まらない…)
(キスって、こんなに気持ち良かったっけ)
「つが……さ……」
ナツキの唇から零れる吐息は、理性の箍を外す。
ドレスから窺く白い肌を唇でなぞり、首すじに舌を這わせる。
「───っ!」
腕の中でビクッと震える肩に軽く噛みついてみれば、ナツキの瞳に涙がじんわりと滲む。
(その表情、凄くイイ)
(もっと、俺の知らなかった表情 見せて)
強く抱き締めれば、残っていたわずかな理性が崩壊した。
(難波室の連中になんか、やらない)
(もう、俺の……)
その後はもう、止められなかった。
まるで仕方を知らないような抱き方。
無我夢中で探り、求め、溺れる。
腕の中で乱れる姿に煽られ、また溺れる。
ともすれば抱き潰してしまいそうなほど、強くかき抱く。
(このままひとつになれればいいのに)
(何もかも、溶けて無くなれ……)
ー ー ー ー ー
好きな子の表情一つで、煽られる感情があるなんて。
好きな子を抱く事が、あんなに緊張するなんて。
知らなかった。
(ていうか、余裕無さすぎ!)
(しかもガッつきすぎ!)
あんなセックス初めてだ……。
(ほんと、何やってんだよ、俺…)
(恰好悪い……)
仕事柄常にポーカーフェイスで、表情に出る事は無い。
でもナツキが絡むと、それはいとも簡単に崩れてしまうらしい。
(やばい……)
(今、顔赤い)
腕の中で眠るこの子を起こさないように、熱くなった頬を扇ぐ。
朝までには、まだ時間がある。
それまでもう少し、この心地良さの中に浸っていたい。
(朝になったら、どんな顔するかな)
頬に軽くキスを落として。
もう一度、眠りの中に落ちていった──。
fin
まだ深夜。ふと目が覚めた。
もともと眠りは深い方ではないけど。
今は…… どこかふわふわとした夢見心地。
気持ちいい。
(ウサの身体…… あったかい)
自分の胸にぎゅっとしがみつくように眠る、白くて柔らかくて温かい肌。
甘く香りそうな首すじに、そっと顔を寄せた。
抱きしめる腕に、少しだけ力がこもる。
「───ん……」
ウサが小さく身じろぎした。
でも起きる様子はない。
(そもそも、何でこんな事になったんだっけ)
今までに何度も、俺のものになんないかな…なんて思っては来たけど。
この想いを伝えるつもりなんて無かった。
伝えちゃいけないはずだった。
俺の"日常"に巻き込むのが……怖かったから。
(───なのに)
(何やってんだろ、俺…)
ー ー ー ー ー
きっかけは潜入捜査のパーティ会場。
会場内に居る人物のチェック等、諸々の細かい事はモモとウサに任せ、別行動を取る。
これから、対象の女に接触、"ご協力"頂き、必要な情報を探る。
要するにハニートラップだ。
(ま、いつもの事だけど)
手を取りふわりと微笑めば、落ちない女はいない。
(有効活用してるだけだよ)
自分の顔の良さを。
相手を心まで踏み込ませたりしない、その自信もあった。
女の子からのお誘いだって星の数ほどあったし、"据え膳食った"事なんて毎度の事で、いちいち覚えてもいない。
割り切った関係は楽だった。
(さて……と)
相手の女から、欲しかった情報も引き出せた。
今後の捜査に必要になりそうな、色んな物も仕込んだ。
これでひとまず今日のオシゴトは終了。
後はモモに指示を出して、何事も無かったように帰るだけ。
(モモは……どこかな)
ぐるりとフロアを探す。
(あ、いた)
フロアの隅で、注意深く辺りを見ていたモモと目が合った。
任務完了の合図で軽く頷く。
正装したモモの向こうに、髪を上げドレスアップしているウサが見えた。
ワンショルダーの華やかなマーメイドラインのドレスは、太ももの際どい所までスリットが入っている。
ウサは裾が気になるのか、しきりに足もとに視線を落としている。
(任務中なのに。注意力散漫だな)
(後でみっちりお仕置きが必要かな?)
でも、いつもの地味スーツと違い、着飾ったウサは少しだけ大人っぽく見えた。
(あぁいうの、馬子にも衣装って言うのかな)
(そんな事言ったら、真っ赤になって怒るよね)
ー ー ー ー ー
潜入捜査の一週間前。
公安課のデスクにモモを呼ぶ。
「モモ」
「何ですか?津軽さん」
「この日のパーティなんだけど、ドレスコードあるから、ウサの事エスコートして」
「………」
モモは憮然とした顔で俺を見たけど、言葉はない。
(相手がウサなのが嫌なの?)
(俺だって、代われるものなら代わって欲しいよ)
モモの視線を横に流しながら、ウサの方を向いた。
「と言う訳だから、ウサちゃんはモモと一緒に来ること。いいね?」
ウサは一瞬きょとんとした後、すぐに素っ頓狂な声をあげた。
「えぇっ?百瀬さんとですか!?」
「あ"ぁ!?」
モモが後ろから蹴りを入れる。
「いた…っ… 蹴らないで下さいよ……」
「………」
「モーモ」
余計な事を言わなければ、蹴られることもないのに。
……いや、モモは何も言わなくても蹴るか。
【足は口程にものを言う】かな?モモの場合。
(あの時のモモとウサの顔……)
(面白かったな)
ー ー ー ー ー
ウサの着るドレスを選んだのは俺だ。
でも、童顔のあの子にはちょっとだけ背伸びした格好だったようだ。
(早いとこ、ハニトラ仕掛けられるような色気を付けろよ)
(まぁ、それはそれで困るけど)
視線の先のモモが、ウサの耳に顔を寄せる。
俺の指示を伝えているんだろう。
何も知らない人が見れば、立派なカップルに見えるはずだ。
こくんと頷いたウサがモモの手を取り、出口の方へ向かう。
その途中で、ウサが躓いた。
「きゃ……っ」
転びそうになったウサを、モモが腰を抱いて支える。
「………」
「ごめんなさい……!」
真っ赤になったウサは、モモから慌てて離れる。
いつもなら無言の蹴りが入っただろう。
しかし今は任務中という事もあり、邪険に扱ったりはしないようだ。
(まぁ、モモが何考えてるか大体想像つくけど)
(次に転びそうになっても、手なんか貸さないとか思ってるんだろ)
その様子は、離れた位置のここからでもはっきり見えた。
(はー……)
(あれで盛大に転びでもしたら、周りに印象付ける事になる)
ウサのおっちょこちょいは今に始まった事ではないけど。
こういう時には、ちょっと困る。
(いや、ちょっとじゃないな)
モモに腰を抱かれたまま、ウサはフロアから出て行った。
公安課ルームに居る時とは違った雰囲気の二人に、胸の奥がチリッと音を立てる。
(モモの隣になんて、置くんじゃなかった)
この胸のざわつきは、隣にいるのが自分じゃない事への苛立ち、モモへの嫉妬だ。
色んなものがごちゃ混ぜになりすぎて、独占欲だけが先走っているから。
(何もかもすっ飛ばして、手もとに置いておきたいと思うなんて……)
今まで、女の子にこんな事思ったことなかったのに。
あの子には、調子を狂わされっ放しだ。
(とりあえず……)
スマホに目を落とし、メッセージを送る。
『反省会実施。そのままAホテル5166号に来るように』
(ウサが来たら、どんなお仕置きしてやろうかな)
ー ー ー ー ー
ホテルに着いて、着替えようかとネクタイを緩めかけた時、ドアをノックする音が響いた。
ドアスコープから覗けば、ドレスの上にコートを羽織ったウサが落ち着かなそうに立っている。
招き入れ、コートを掛けてからソファに座るように促す。
ウサは部屋の中をきょろきょろと見回し、首を傾げる仕草をした。
「何?」
「あ、いえ。百瀬さんは居ないのかな…と思って」
「モモは反省会参加しなくても大丈夫だから」
「そうですよね……」
しゅんと項垂れるウサの隣に座る。
「反省会、しなきゃいけない理由分かるよね?」
「はい…」
「今日は、随分と注意力散漫だったね?」
「……すみません」
ウサの頭が更に下がる。
「あの場で何かあっても、あれじゃ直ぐに対応出来ない」
「はい…」
「それに……何で、モモに腰なんか抱かれてんの?」
「あれは……っ!」
ついでに、さっき見た苛立ちの原因を挙げると。
ウサは、ばっ!と効果音が付きそうな勢いで顔を上げる。
その頬はほんのり染まって見えた。
「今日のモモは、紳士で恰好良かった?」
「そんな事思ってません!」
「大体、百瀬さんと組ませたのは津軽さんじゃないですか!」
「そうだっけ?」
「………」
反論を諦めたように息を吐くウサに、拗らせた嫉妬心からつい、言わなくても良い事まで言ってしまう。
「本当は、俺がエスコートしたかった」
「!??」
「なんで、あそこにいるのが俺じゃないんだろうって…モモに嫉妬した」
「な……!?」
驚いて口をぱくぱくさせるウサの顔が面白い。
「津軽さんは、対象者の美人さんと楽しそうだったじゃないですか!」
「うん、楽しかったよ?」
「………」
今度は言葉を失ったようだ。
言いたかった事は、これじゃないのに。
俺はまた、ぽつりと零す。
「それでも、ウサの隣には俺が居たかったんだ」
「……っ」
「ウサのこと、好きだから」
「……!!」
一瞬動きの止まったウサの顔が、みるみるうちに真っ赤になる。
「じ…冗談は止めましょう?」
「冗談でこんなこと言えると思う?」
「津軽さんなら……」
別に、ウサにハニトラなんて仕掛けないんだけど。
(信用無いな)
(まぁ、今までの態度があんなんじゃ…仕方無いか)
隣に座ったソファの膝を詰める。
そして…改めて、想いを口にした。
本当は、伝えちゃいけない事だったけど。
何だか今言わないといけないような気がした。
「俺は… ナツキの事好きだよ」
「う…嘘…」
「嘘じゃない」
「だから…俺のものになってよ。……駄目?」
上目遣いに顔を見れば、さっきよりも更に赤くなっていく。
「わっ…私だって、津軽さんの事好… っ……」
言い終わるより先に、唇を塞いだ。
重ねた唇はとても柔らかくて、砂糖菓子みたいに甘い。
何度も角度を変え求めるうちに、頭の隅がジンジンと痺れてくる。
(止まらない…)
(キスって、こんなに気持ち良かったっけ)
「つが……さ……」
ナツキの唇から零れる吐息は、理性の箍を外す。
ドレスから窺く白い肌を唇でなぞり、首すじに舌を這わせる。
「───っ!」
腕の中でビクッと震える肩に軽く噛みついてみれば、ナツキの瞳に涙がじんわりと滲む。
(その表情、凄くイイ)
(もっと、俺の知らなかった表情 見せて)
強く抱き締めれば、残っていたわずかな理性が崩壊した。
(難波室の連中になんか、やらない)
(もう、俺の……)
その後はもう、止められなかった。
まるで仕方を知らないような抱き方。
無我夢中で探り、求め、溺れる。
腕の中で乱れる姿に煽られ、また溺れる。
ともすれば抱き潰してしまいそうなほど、強くかき抱く。
(このままひとつになれればいいのに)
(何もかも、溶けて無くなれ……)
ー ー ー ー ー
好きな子の表情一つで、煽られる感情があるなんて。
好きな子を抱く事が、あんなに緊張するなんて。
知らなかった。
(ていうか、余裕無さすぎ!)
(しかもガッつきすぎ!)
あんなセックス初めてだ……。
(ほんと、何やってんだよ、俺…)
(恰好悪い……)
仕事柄常にポーカーフェイスで、表情に出る事は無い。
でもナツキが絡むと、それはいとも簡単に崩れてしまうらしい。
(やばい……)
(今、顔赤い)
腕の中で眠るこの子を起こさないように、熱くなった頬を扇ぐ。
朝までには、まだ時間がある。
それまでもう少し、この心地良さの中に浸っていたい。
(朝になったら、どんな顔するかな)
頬に軽くキスを落として。
もう一度、眠りの中に落ちていった──。
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