放課後の教室、窓から漏れた雨音が騒がしい。

ようやく帰り準備が終わり、よし、帰ろうと教室から出ようとしたところ、同じくまだ教室に残っていた久々知が私を呼び止めた。


「……萩窪、あのさ」
「うん? どうしたの」

なんだか言いにくそうに体をもじもじとさせながらこちらに話しかけてくる久々知に耳を貸してやると、
爆弾発言が飛び出した。


俺の彼女のフリしてくれないか。

しばらく言葉の意味を理解できないまま固まっていたが、
それを理解した瞬間、私は久々知からバッと離れる。

そんな私を申し訳なさげに眉を下げて見つめていた久々知が、少しして頭をぱさりと下げた。


「協力して欲しいんだ。……俺と俺の、家族の革命に」

……そっか、それは久々知の抱える問題を解決するために必要なものなんだ。
どういう作戦なのか詳しいことは後にして、これは手を差し伸べる他ないと思う。

「いいよ。詳しいことは、今日の放課後にお願い」

その言葉にパッと顔を上げて、久々知は笑顔を浮かべた。

「……ありがとう」
「いいや。気にしないでよ、私も久々知に救われたんだから」

そっか、と放った久々知の耳はなんだか赤く見えた。


私達は救い合う。

私と出会うことで、剣道を楽しむ心を取り戻した久々知。
久々知と出会うことで、努力を思い出した私。

そこに壁があるなら、壁の上から手を差し伸べるのが私たちなのだ。