「俺が百恵と仲良くなったきっかけ、それなんだよ。
だから……俺には兵助にどうこう言う権利はないよ」


勘右衛門はこう続ける。

王子様のために頑張る百恵なんて見たくないから、
俺には最初から百恵の望む言葉なんてかけてやれなかったんだ。

実際、百恵の望む言葉をかけたのは、兵助だしさ。
だから、いいんだよ。


俺ならいいとか言っておきながら、勘右衛門の目には未だに諦めきれない何かが映っているのが分かる。

勘右衛門は百恵のこととなると、前までの俺みたいに自分を殺し出すくせがあるらしい。


「兵助だって、百恵のこと好きなんだろ。
俺ら二人がここで出会うずっと前の――初めて、百恵の剣道の試合を見たときから、ずっと」
「……は、あ?」


あれ、図星だった?

乾いた笑い声を教室に響かせる勘右衛門。

……カマ、かけられたのか。
さっきの知ってるなら知っててもおかしくないか、と思いかけたんだけど。


「俺、萩窪のこと好きだよ。
俺、ああだったから告白とか全く考えてなかったけど。
しかも俺の事覚えてないみたいだったし、まるで別人みたいに変わってたから……
いっそのこと、もう別人として関わろうと思ってたけど……耐えられなかった」


「兵助は百恵が変わっても、百恵のことを好きであり続けたんだな」

言葉通りの意味ではないような気がして、俺は勘右衛門に聞いた。
……それって、どういう意味なんだ?

しばらく間を置いてから、勘右衛門は話し始めた。