「兵助はもう、厳しい家が嫌で。
そして、出来るなら――家族を元に戻したい、そうだよな?」

「……うん。出来るなら、前の家族に戻って欲しい」


でも、そんなこと――。
出来るのか、と問おうとしたところで口を噤む。


“大切なことは、相手に自分を知ってもらうことと、自分も相手を知ろうとすること”

……だよな。
最初から諦めていては何も始まらないって、勘右衛門は言うんだろう。


勘右衛門と友達になったきっかけの、あの日の教室。
あの時は厄介なやつに絡まれたなんて思っていたけど、今では感謝してもしきれないくらいで。

多分、全て勘右衛門の思惑通りなんだろうけど。


俺は勘右衛門や萩窪達から始まり、
着々と自分の意見を口に出来るようになり、今俺はこうして家族の問題に自分から関わり出した。


――良い、傾向だと思う。

その分大変なことは増えそうだけど、なぜだかそんなことが気にならないくらいの勇気が俺にあった。


「さすがに、家族を元に戻せるかどうかは俺には分からない。
分からないけど、多分、今の兵助ならきっと、自分の力で家族を形成し直す橋となれると思う。
――そこで、一つだけ俺に提案があるんだけど」


次、母が帰ってくる日に、百恵と恋人のフリをしてデートをしてくれ。


「は、はあっ!? お前萩窪のこと好きなんだろ。
……嫌じゃないのか?」

そういうと勘右衛門は一瞬宙を見てから、すぐに俺に向き直して頬杖をついた。

「……まあ、兵助ならいいかなって。だって、お前がきっかけなんだろ。
百恵がまた、努力をし始めたのってさ」

「なんでそれを……じゃあ、努力をしなくなった理由が俺なのも知ってるだろ」


萩窪は――俺の剣道を見て、絶望した。
それで、彼女は努力を辞めた。前みたいに、燃えるような目をしなくなったのだ。