第五章「生長」
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「帰りたくない……」
もしこれが社会人だったなら今すぐ色っぽい展開になりそうなセリフだ。
ただ学生なので駄々をこねている子供にしかならないが。
「なんだよ。両親と何かあったのか?」
「んー……なんか、最近ここの駅でみんなと遊んでるだろ。
それが父さんにバレたらしくて、怒られたんだよ」
ここの駅というのは、この学園の最寄り駅であり俺の最寄り駅である駅だ。
「え、友達と遊んでるだけで怒られるの……!?」
……まあな。
絶句した様子の萩窪に頷いてみせると、なにやら怪訝そうな顔をした。
……相変わらず、分かりやすい。
「厳しいっつってもさ……友達と遊ぶの禁止ってそりゃないだろ」
「ちゃんと言えよ? 元はと言えば、俺らが友達になった理由、お前のそれなんだからさ」
南と尾浜にそう言われて、俺は言葉に詰まる。
そんなところで救世主が現れ、言えなくても言えないんでしょ、と二人をたしなめた。
なんだか彼女には救われてばかりだな。
なんて思いつつ、俺は笑いながらその話を有耶無耶にすることしか出来なかった。
* * *
今日は父さんじゃなくて母さんが帰ってくる日だ。
……本当、生まれる場所くらい選ばせて欲しかった。
家族だから、失うことが出来ない。だから、苦しい。
失ってもいいものならば、今すぐ手放してやるのに。
家族となればそうもいかない。
そう、例えば萩窪みたいな、暖かそうな家庭に生まれたかった。
面識こそないけれど、萩窪を見てると良い家庭で育てられたんだろうと思う。
……はあ。
どうしようもないことだと分かっているが、悩まずにはいられない。
そんな中で俺は家の扉を開く。
「ただいま」
「……おかえりなさい」
……一人よりは、いいな。
その程度か、大きなものなのか。
存在の価値は分からないけれど、返ってくる声があると、ただなんだか安心した。