第五章「生長」
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「……ただいま」
誰もいないのはわかり切っているけれど、それでも言いたくなるのはなぜだろう。
余計虚しくなるだけなのに、もしかしたらいるんじゃないかとか、そんな期待をしている。
両親とも共働きで互いの休みは滅多に被らない。
被ったら被ったで嫌なことになるけれど、それでも片方どっちかはいて欲しいに決まっている。
それくらいは分かって欲しいけど、あの二人にとって自分はそんなことを考えるほど大切ではないのだと思う。
それに俺がこうして高校に通えているのだって、
服を着たりご飯を食べたりするのだって両親が働いて金を稼いでいるからなのだ。
そんな両親に文句を言うことが出来るわけがない。
そばにいて欲しいだなんて言えない。
言えるはずがない。許されてはいけない。
もしそれを言ったとしても、きっとその願いは受け入れられないのだ。
〝自分を殺すということは、分かり合おうとすることへの拒絶だ〟
〝主張をすることは大切だって、兵助に遠まわしに伝えようとしたんだ〟
頭の中で、二つの言葉が反響する。
……だめ、だめだ。
第一、俺は決めていたはずなんだ。
あいつらには〝そう〟でも構わないけれど、他に対しては今まで通りにするって。
特に、両親には本当のことを伝えてはいけないって。
「……んぐっ」
考え込みすぎて、食べ物が喉に詰まった。
苦しいと思いつつも、グレー色のカップを持ちながら俺は隅にあるウォーターサーバーに向かって歩く。
父さんが黒で母さんが白、それで俺がグレー。
唯一とも言える家族の象徴は、二つばかりタンスの中で埃を被っている。
水を思い切り流し込んで、一人で何をやっているんだろうな、と俺は何も無くなったカップの底を見つめていた。