不破くんと仲良くなり、夏休みに開催される高校生バンド限定のライブに一緒に行くことになった。
そしてバンドに対して興味もないはずの尾浜もなぜか一緒に行くことになったわけだけど……。


好きな人に会いにいくのなら、もっと万全な状態の方がいいんじゃないか?
はじまりはその一言で、確かに!と思った私はまんまとその言葉に乗ったのだ。

それにしても……ここまでするとは思わなかったんだけど。


「……あ、久々知」
「ん? ……って、萩窪か。小学生だと思った」
「え! 私の服そんな酷い?」

うん、と速攻頷く久々知。
……何気に毒舌だよねえ。せめて即答はやめて欲しかったけど。


なんせファッションに興味がなさすぎて、お母さんのお古ばかり着ているくらいだからね。

自分で選んだ服なんか持っていない。
あるのは小学生の時から伸びない身長を利用して使い回しにしている服ばっかり。
この服はわりとマシな方だったんだけど、久々知によるとダメらしい。

「じゃあ行くか」

何事もなかったかのように歩き出す久々知に、私は苦笑してあとを追いかけた。


* * *


「いらっしゃいませ～」

いきなりお出迎えをしたのは、髪を金髪に染めたイケイケな人だった。

……え。久々知、知り合いってこの人なの?
そんな私の無言の訴えに、久々知は頷いた。

久々知はいかにも真面目って感じだけど、こういう人とも交流を持っているのは意外だ。
まあ、ご近所ってことでそれなりに会う機会があったらしいけど……。


「……あれ、兵助くん。その女の子、彼女?」
「なっ。違いますよタカ丸さん。事情は昨日、説明したはずですよね」
「ふふ。まあね? ついつい、からかいたくなっちゃうんだよねえ」

……見事にからかわれている。

その様子はギャルにちょっかいをかけられているガリ勉くんにしか見えないのに、
タカ丸さんはなにやら柔らかい雰囲気で笑っていた。