第四章「回帰」
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初めて全国大会で少年に負けたあの日。
私は、悔しくて泣きじゃくった。雨に混じって泣いたりなんかして。
家族の前では明るく振舞った。
だって私はあのほのぼのとした空間が好きだったから、
自らの嗚咽でその空気をぶち壊すことなんてできなかったんだ。
家族に水溜まりで遊んでくるとか、そんなおざなりな嘘をついて公園に出かけて、
ブランコに揺られていた私に声をかけたのは尾浜だった。
あの時は本当に、尾浜がヒーローに思えた。
『尾浜ってヒーローみたいだね』
『本当? 俺、ヒーロー好きなんだ』
尾浜は私が望む言葉をかけてくれはしなかったけれど、
それまで意地悪だったのが嘘みたいに打ち解けて仲良くなった。
皆優しいから、いろいろ慰めの言葉をかけてくれた。
……でも、違った。
本気だったからこそ、悔しくて自分が許せなかった。
どんな言葉が欲しかったのかと聞かれると返答に詰まるけど、
今思えば、慰めの言葉よりも、激励され、厳しい言葉を浴びたかったのかもしれない、と思う。
「久々知と戦ったとき、私は確かに絶望したんだ。
ああ――きっと二度と勝てないだろうって。
だから、苦しくなって――中学進学を口実にしてやめることにしたんだ」
圧倒的な力量の差を感じた。彼には絶対に勝てないと悟ってしまった。
そんなことを思った自分がなにより恥ずかしかった。
彼――久々知の剣道は美しかった。
形にハマっているといえば悪い風に聞こえるかもしれないが、とにかく成熟された基本の動きをしていた。
「元凶の俺が言うのもなんだけど、俺、萩窪に憧れてたよ。
萩窪の目が好きだった。熱くて、こっちが燃えてしまいそうな目がさ」
だから、昔みたいに戻ってくれないか。
言外に含まれた意味が、ストンと私の胸に落ちた。
まるで、ずっと前からその言葉を待っていたみたいだった。