第四章「回帰」
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「自慢のお母さんだよ」
私がそう言ったあと、久々知は力なく笑った。
その顔はどこかで見たことがあると思ったら、
いつも教室で私達以外に向けられている作り笑顔にそっくりだった。
そして私達に課せられた約束の元、久々知に考えていたことを語ってもらうことにした。
「努力しなければ、欲しいものは手に入らない。
そう思って――俺はずっと努力を続けてきたんだ」
〝努力〟……か。
見下しているわけでも、崇拝しているわけでもない。
ただ、遠い存在になってしまったそれを、私は苦い顔で眺める。
「努力をすること自体が苦痛になるほど努力をしてきた俺が、馬鹿らしくなるくらい。
みんな俺の欲しいものを努力せずとも最初から持ち合わせてる」
「……苦痛なのに、まだ続けてるんだね」
「いや。もう俺は苦痛から脱していたんだ。
俺を変えたのは――剣道全国大会小学生部門の、萩窪百恵選手だよ」
ごくり、息を飲み込んだ。
今、この現在で私を〝選手〟だなんて呼ぶのはきっと、久々知ぐらいだろう。
第一私は中学進学を目処に剣道をやめたことになっているのだから、やめた人間を今更選手なんて呼ぶ人間なんかいない。
「……私が、久々知を変えた?」
「初めて全国大会に出場して、萩窪と戦ったとき……。
動きはかなり破茶滅茶だったけど、そこには確かに努力の跡があって、なにより楽しそうだった。
そこで、俺は――剣道を楽しむことを思い出したんだ」
……もしかして、久々知って、あの。
忘れようとするあまり、薄れすぎた記憶を一生懸命に呼び直す。
「でも、年々……萩窪はどこか苦しそうに剣道をするようになった。
一緒にやってる奴にしか分からないような、些細な変化だったけど、俺は気づいてしまったんだ。
…………なあ、萩窪」
「……なに、久々知」
「お前は――どうして、努力をしなくなったんだ」