「あ、あの……なんで私と食事とるみたいな流れになってるんですか……?」

私の目の前に腰を下ろした三郎先輩は、もうここで食事をとることを決めたようだ。
既に挨拶を終えた私は逃げる術もなく、仕方なく箸を動かし始めたところだった。

「紗十子が寂しいだろうと思ってな」

強気な発言とは裏腹に、三郎先輩の顔は弱々しかった。
隈はついていないけど、一睡もしてないみたいな顔だった。

……名前呼びで定着しているのはもうつっこまないことにした。


「さ……寂しいのは三郎先輩でしょう」

少し言うことを躊躇ったけど、結局私は言うことにした。
弱みを見せたくないみたいなプライドがあるんだろうけど、そんなこと知らない。
普段意地悪ばかりだから、私からのささやかな仕返しだ。


でも寂しいからって私と一緒に食事をする理由にはならないと思う。

だって三郎先輩は有名人だし、いつもつるんでいる雷蔵先輩以外の先輩方は普通に視界の隅でご飯を食べているんだから。
もし寂しいなら、三郎先輩もあそこで食べればいいのに。


「紗十子がだんだん雷蔵に似てきているからな。いわゆる、雷蔵の代わりだ」

え……ら、雷蔵先輩に似てきてる……?
なんか、恥ずかしいな……。


「ほら、その仕草。あいつもやるんだよ。
照れたとき、首を軽く人差し指でかくんだ」

「……さすが、変装の達人と呼ばれる三郎先輩」


よく見てますね。
そういって笑うと、三郎先輩は何も掴んでいない箸を噛んで痛そうにしていた。