そのいち
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【勘違い/竹谷八左ヱ門】
「まあまあ。受け取ったラブレターが雷蔵宛だったからって、そんな落ち込まないでよ」
「謎に俺を経由して……そりゃ勘違いしちゃうだろ」
「なんで竹谷ってこうもモテないのか……」
私の隣で落ち込むこの男、竹谷八左ヱ門は熱い男だ。
……そう、あのテニス選手のように。
性格は根から明るく、スポーツなら大抵なんだって出来る。
サッカーや、バスケやら、バレーやら、陸上だって水泳だって。
ちょっと体が硬いので体操はエヌジーだが、スポーツをやっているときの彼はいい男だと思う。
……まあ、男臭いと言われてしまえばそれまでなのかもしれない。
普段はどうなのか、と聞かれると言葉に詰まる。
男らし過ぎず、爽やかに映るのは友人としての贔屓目なのかもしれないが、特に目立った欠点は見当たらない。
……あー、いや。
ちょっとズボラすぎるところはあるかもしれない。
髪の毛はいつだってボサボサで、美容院で武者修行中の青年に目をつけられていた。
しかし人の変化に割と目敏い方だし気遣いもそれなりにできるはずなんだけど、
なぜ彼がいつも彼女が出来ないと嘆いているのか本当に疑問である。
「……なあ、お前は俺と付き合ってみてもいいとか思ったりすんの?」
「え? まあ苦ではないけど……」
「けど?」
「付き合ったところで友達とあんまり変わらなそう」
そう言うと、竹谷は目から鱗だと言うように瞬きをした。
そしてそれに対して違う違う、とうるさいくらいに反論してきた。周りからの視線が少々痛い。
静かにしてと小さく釘を打ったところで、私は竹谷に言った。
「……じゃあ、なにが違うの?」
「えっ、えーっとぉ……手! 手に触れるとか! そういう、スキンシップ……」
途中で焦るあまり声がでかくなっていくことに気付いたのか、尻すぼみしていく声に思わず笑う。
「でも、手に触れるって私にもやってたよね?」
「……えっ、俺、そんなことやっちゃってた!?」
一年の春に偶然にも隣の席になり、通学に利用する駅も同じだと判明した私たちは、
それをきっかけに一緒に登校するようになった。
そして今朝も、同じように登校してきた。
今日はまだ十二月なのに雪が降っていたけど、幸い電車の遅延はなかったのでいいものの、
私はあまりの寒さに布団から出られず寝坊しかけた。
待ち合わせに遅れるのは申し訳ないので、コートを着てカロリーメイトを貪りながら急いだ。
そして竹谷は駅のホームで私を見て一言。
「お前、手ぇ真っ赤だな! って……冷たっ!」
「え、なんで手袋してないのにこんな暖かいの……?」
確かにそのとき、私の手の冷たさに驚いてあっためるようにして手をにぎにぎしていたはずだ。
「……あー、確かに。やってたわ」
口から白い息を吐き出す彼は、遠い目でどこかを見つめた。
……今更だけども、私は彼のことを好きだ。
もちろん、恋愛的な意味で。
しかし今の彼と付き合おうとは思わない。
彼は特定の女の子を好きなわけでもなく、彼女という存在に夢を見ている節がある。
きっと今の彼に告白をしても、彼女が出来たと浮かれるだけで私のことを好きになってくれることはないのだ。
……正直、絶望的な恋だとは思う。
相手から好意を寄せられるのを待つなんて、きっと恋愛初心者のやることじゃない。
でも臆病な私に当たって砕けろなんて酷でしかなかったし、彼の曖昧な境界線に甘んじていたかった。
状況に甘んじているのは私だけど、その境界線が嫌になるときもある。
そんなことしてると勘違いされちゃうよ、と思う。
……現に、私がたまに勘違いしそうになってしまうから。
「……お前って、そういうの気にするのか」
「そうだね。参考になった?」
「あー、うん。まあまあなったわ。ありがとな」
そんな真剣な顔しちゃって、本当に好きな子でも出来たら私はどうすればいいんだろう。
私は彼のためを思って退場するだろうが、やっぱり辛いものは辛いだろうな。
今からでも遅くないし、心の準備をしておくか、と私は覚悟を決めることにした。
「まあまあ。受け取ったラブレターが雷蔵宛だったからって、そんな落ち込まないでよ」
「謎に俺を経由して……そりゃ勘違いしちゃうだろ」
「なんで竹谷ってこうもモテないのか……」
私の隣で落ち込むこの男、竹谷八左ヱ門は熱い男だ。
……そう、あのテニス選手のように。
性格は根から明るく、スポーツなら大抵なんだって出来る。
サッカーや、バスケやら、バレーやら、陸上だって水泳だって。
ちょっと体が硬いので体操はエヌジーだが、スポーツをやっているときの彼はいい男だと思う。
……まあ、男臭いと言われてしまえばそれまでなのかもしれない。
普段はどうなのか、と聞かれると言葉に詰まる。
男らし過ぎず、爽やかに映るのは友人としての贔屓目なのかもしれないが、特に目立った欠点は見当たらない。
……あー、いや。
ちょっとズボラすぎるところはあるかもしれない。
髪の毛はいつだってボサボサで、美容院で武者修行中の青年に目をつけられていた。
しかし人の変化に割と目敏い方だし気遣いもそれなりにできるはずなんだけど、
なぜ彼がいつも彼女が出来ないと嘆いているのか本当に疑問である。
「……なあ、お前は俺と付き合ってみてもいいとか思ったりすんの?」
「え? まあ苦ではないけど……」
「けど?」
「付き合ったところで友達とあんまり変わらなそう」
そう言うと、竹谷は目から鱗だと言うように瞬きをした。
そしてそれに対して違う違う、とうるさいくらいに反論してきた。周りからの視線が少々痛い。
静かにしてと小さく釘を打ったところで、私は竹谷に言った。
「……じゃあ、なにが違うの?」
「えっ、えーっとぉ……手! 手に触れるとか! そういう、スキンシップ……」
途中で焦るあまり声がでかくなっていくことに気付いたのか、尻すぼみしていく声に思わず笑う。
「でも、手に触れるって私にもやってたよね?」
「……えっ、俺、そんなことやっちゃってた!?」
一年の春に偶然にも隣の席になり、通学に利用する駅も同じだと判明した私たちは、
それをきっかけに一緒に登校するようになった。
そして今朝も、同じように登校してきた。
今日はまだ十二月なのに雪が降っていたけど、幸い電車の遅延はなかったのでいいものの、
私はあまりの寒さに布団から出られず寝坊しかけた。
待ち合わせに遅れるのは申し訳ないので、コートを着てカロリーメイトを貪りながら急いだ。
そして竹谷は駅のホームで私を見て一言。
「お前、手ぇ真っ赤だな! って……冷たっ!」
「え、なんで手袋してないのにこんな暖かいの……?」
確かにそのとき、私の手の冷たさに驚いてあっためるようにして手をにぎにぎしていたはずだ。
「……あー、確かに。やってたわ」
口から白い息を吐き出す彼は、遠い目でどこかを見つめた。
……今更だけども、私は彼のことを好きだ。
もちろん、恋愛的な意味で。
しかし今の彼と付き合おうとは思わない。
彼は特定の女の子を好きなわけでもなく、彼女という存在に夢を見ている節がある。
きっと今の彼に告白をしても、彼女が出来たと浮かれるだけで私のことを好きになってくれることはないのだ。
……正直、絶望的な恋だとは思う。
相手から好意を寄せられるのを待つなんて、きっと恋愛初心者のやることじゃない。
でも臆病な私に当たって砕けろなんて酷でしかなかったし、彼の曖昧な境界線に甘んじていたかった。
状況に甘んじているのは私だけど、その境界線が嫌になるときもある。
そんなことしてると勘違いされちゃうよ、と思う。
……現に、私がたまに勘違いしそうになってしまうから。
「……お前って、そういうの気にするのか」
「そうだね。参考になった?」
「あー、うん。まあまあなったわ。ありがとな」
そんな真剣な顔しちゃって、本当に好きな子でも出来たら私はどうすればいいんだろう。
私は彼のためを思って退場するだろうが、やっぱり辛いものは辛いだろうな。
今からでも遅くないし、心の準備をしておくか、と私は覚悟を決めることにした。