そのいち
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【秘密の特訓/久々知兵助】
私の委員会の代理委員長の久々知兵助先輩の豆腐好きは、この学園の中で知らない人はいない。
そして先輩から喰らわされる“豆腐地獄”も、これまた有名である。
はぁ……。
思わずため息を零しながら、私は食堂の机に夕食のおぼんを置いた。
すると、目の前には五年生の先輩が……。
「なっ……なんで……」
「いやいや。ここに置いたの、苗字だろう?」
確かに、おぼんをここに置いたのは私だった。
はぁ。本日二回目のため息である。
なんで先輩に気づかないで一人だと思い込んでたんだろう。
……いいや、うん。豆腐を作りすぎてしまう以外はいい先輩なので、別に私も嫌ってはいないのだ。
先輩の優秀さはその所作から滲み出ているし、たまに見かけるご飯をかきあげて食べるような真似はしない。
……私はすぐに銭湯に浸かりたい時はやってしまうけども、少なくとも先輩がやっているのは見たことがない。
それでも大好物の豆腐を食べる時は気分が良いらしく鼻歌を歌いながら醤油をかけるし、
ぱくっと効果音が着きそうな感じで豆腐を口に入れては、幸せそうに頬を手で挟んだりと少し所作が崩れるところがある。
そんな様子を見て私は残念だとは思わない。
男子を、しかも年上を形容する言葉としては間違っているだろうけど……つい可愛らしいと思ってしまうのだ。
「……あの、良かったらなんですけど。私の分の豆腐も食べますか?」
「えっ、いいのかい? ……本当に?」
私の提案に、先輩は申し訳なさそうに眉を下げる。
……しかし、表情とは裏腹に声色は弾んでいる。
なんて分かりやすい……優秀なのは確かなんだけど、やはり先輩はどこか抜けている。
「はい。もちろんです」
「じゃあ、お皿ごと頂くよ」
先輩はまた、豆腐を嬉しそうに口に運んだ。
……箸で豆腐をぱくりと、落とさずに。
なぜ、先輩はそんなに器用に冷奴を食べることが出来るのだろうか?
私はどちらかというと、箸使いが苦手な方に含まれると思う。
木綿豆腐はまだいい。
しかし絹ごし豆腐となると、水っけが多くつるつるとしているため箸が滑る。
そして食べ続けているうちにぐじゃぐじゃになって、
最終的に小鉢に口を付けてまるで飲み物を飲んでいるような気分になることがある。
……くノ一教室の生徒として大恥晒しであることは理解している。
実際何度も箸使いの補習を受けさせられているほどの落ちこぼれだ。
……だけど、だからこそ久々知先輩に問いたい。
なぜ、そんなに、箸使いが繊細かつ美しいのか!
「うーん、やっぱり俺だけ貰うのって不公平だよな。
苗字、なんか欲しいものある? といっても、もうあんまりないんだけど……」
「……はっ! い、いえ。気を遣わないでください」
どうやら気を遣わせてしまったらしい。
私が謝ると、先輩も引き下がった。何か視線を感じる気がするが、それが何かは分からない。
……しかし、本当になんでそんなに美しい箸使いが出来るのか。
一度疑問に思うとなかなか元に戻れないのが私である。
委員会中は先輩は人気者であるので話しかけにくく聞けなかったし、
私は委員会の用事以外で先輩に声をかけることが出来るほど陽気な性格でもなければ先輩と大して親しい仲でもない。
学園内で会えば挨拶をしてくれるけども、先輩は付かず離れずの距離感に定評があるので一人一人とそんな深い話はしないのである。
……つまるところ、今回の機会を逃したら先輩とはしばらく話せないということなんだけど……。
「苗字、俺に何か用事があるんじゃないのか?」
言おうか言うまいか悩んでいたら、なんと先輩の方から声をかけさせてしまった。
「はい。あるにはあるんですけど……先輩、もう食べ終わっているから、もう遅いかなと思って」
「なるほど。何やら悩んでいるので俺も首を突っ込んでいいのかと迷ったんだが、そんなことなら気にしなくていいよ。
俺も出来る限りは後輩を助けてやりたいからね」
この人は実は地上に現れし神なのではないだろうか。
忍術学園の人は皆優しいが、今は先輩が一等輝いて見える。
私はできるかぎり笑ってお礼を言って、本題に入ることにした。
「……なるほど。補習に引っかかるというのは、確かにまずいな。
苗字の将来にも関わるかもしれないし……あまり無責任なことは言えないけれど、明日から早速特訓を始めるぞ」
「と、特訓ですか……」
頭の上に広がる想像は、あの恐ろしい豆腐地獄である。
私の箸使いが改善させられればもっと楽しめる気がするけど、それでもあれはやりすぎな気もする。
「委員会ではもちろん、明日からなるべく苗字と食事を取るようにする。
箸使いの基本からみっちり教えるから、覚悟しておいてくれ」
「え、悪いですよ、そこまでしてもらっちゃ」
さすがにそこまでして貰えるとは思わず、私は先輩に焦って抗議する。
委員会の時間と食事もなんて、授業中以外の結構な時間を占める。
それに、先輩だって一緒に食事を取りたい友達がいるはずなのに、貴重な時間を大して親しくない後輩に使うなんて……。
「また余計なことを考えてないか? 実は……その、恥ずかしいから言うつもりはなかったんだけど。
苗字にこうして相談されることなんてはじめてだから張り切っているんだ。
……悪いようにはしないから、俺にできる限りのことをさせてくれないか?」
先輩にきっと悪気はないのだろうが、そんな顔をされては断れるはずがない。
しかも、普段しっかりしていて真面目な先輩なだけあって効果は覿面である。そう、気付けば私は二つ返事をしていたのだった。
私の委員会の代理委員長の久々知兵助先輩の豆腐好きは、この学園の中で知らない人はいない。
そして先輩から喰らわされる“豆腐地獄”も、これまた有名である。
はぁ……。
思わずため息を零しながら、私は食堂の机に夕食のおぼんを置いた。
すると、目の前には五年生の先輩が……。
「なっ……なんで……」
「いやいや。ここに置いたの、苗字だろう?」
確かに、おぼんをここに置いたのは私だった。
はぁ。本日二回目のため息である。
なんで先輩に気づかないで一人だと思い込んでたんだろう。
……いいや、うん。豆腐を作りすぎてしまう以外はいい先輩なので、別に私も嫌ってはいないのだ。
先輩の優秀さはその所作から滲み出ているし、たまに見かけるご飯をかきあげて食べるような真似はしない。
……私はすぐに銭湯に浸かりたい時はやってしまうけども、少なくとも先輩がやっているのは見たことがない。
それでも大好物の豆腐を食べる時は気分が良いらしく鼻歌を歌いながら醤油をかけるし、
ぱくっと効果音が着きそうな感じで豆腐を口に入れては、幸せそうに頬を手で挟んだりと少し所作が崩れるところがある。
そんな様子を見て私は残念だとは思わない。
男子を、しかも年上を形容する言葉としては間違っているだろうけど……つい可愛らしいと思ってしまうのだ。
「……あの、良かったらなんですけど。私の分の豆腐も食べますか?」
「えっ、いいのかい? ……本当に?」
私の提案に、先輩は申し訳なさそうに眉を下げる。
……しかし、表情とは裏腹に声色は弾んでいる。
なんて分かりやすい……優秀なのは確かなんだけど、やはり先輩はどこか抜けている。
「はい。もちろんです」
「じゃあ、お皿ごと頂くよ」
先輩はまた、豆腐を嬉しそうに口に運んだ。
……箸で豆腐をぱくりと、落とさずに。
なぜ、先輩はそんなに器用に冷奴を食べることが出来るのだろうか?
私はどちらかというと、箸使いが苦手な方に含まれると思う。
木綿豆腐はまだいい。
しかし絹ごし豆腐となると、水っけが多くつるつるとしているため箸が滑る。
そして食べ続けているうちにぐじゃぐじゃになって、
最終的に小鉢に口を付けてまるで飲み物を飲んでいるような気分になることがある。
……くノ一教室の生徒として大恥晒しであることは理解している。
実際何度も箸使いの補習を受けさせられているほどの落ちこぼれだ。
……だけど、だからこそ久々知先輩に問いたい。
なぜ、そんなに、箸使いが繊細かつ美しいのか!
「うーん、やっぱり俺だけ貰うのって不公平だよな。
苗字、なんか欲しいものある? といっても、もうあんまりないんだけど……」
「……はっ! い、いえ。気を遣わないでください」
どうやら気を遣わせてしまったらしい。
私が謝ると、先輩も引き下がった。何か視線を感じる気がするが、それが何かは分からない。
……しかし、本当になんでそんなに美しい箸使いが出来るのか。
一度疑問に思うとなかなか元に戻れないのが私である。
委員会中は先輩は人気者であるので話しかけにくく聞けなかったし、
私は委員会の用事以外で先輩に声をかけることが出来るほど陽気な性格でもなければ先輩と大して親しい仲でもない。
学園内で会えば挨拶をしてくれるけども、先輩は付かず離れずの距離感に定評があるので一人一人とそんな深い話はしないのである。
……つまるところ、今回の機会を逃したら先輩とはしばらく話せないということなんだけど……。
「苗字、俺に何か用事があるんじゃないのか?」
言おうか言うまいか悩んでいたら、なんと先輩の方から声をかけさせてしまった。
「はい。あるにはあるんですけど……先輩、もう食べ終わっているから、もう遅いかなと思って」
「なるほど。何やら悩んでいるので俺も首を突っ込んでいいのかと迷ったんだが、そんなことなら気にしなくていいよ。
俺も出来る限りは後輩を助けてやりたいからね」
この人は実は地上に現れし神なのではないだろうか。
忍術学園の人は皆優しいが、今は先輩が一等輝いて見える。
私はできるかぎり笑ってお礼を言って、本題に入ることにした。
「……なるほど。補習に引っかかるというのは、確かにまずいな。
苗字の将来にも関わるかもしれないし……あまり無責任なことは言えないけれど、明日から早速特訓を始めるぞ」
「と、特訓ですか……」
頭の上に広がる想像は、あの恐ろしい豆腐地獄である。
私の箸使いが改善させられればもっと楽しめる気がするけど、それでもあれはやりすぎな気もする。
「委員会ではもちろん、明日からなるべく苗字と食事を取るようにする。
箸使いの基本からみっちり教えるから、覚悟しておいてくれ」
「え、悪いですよ、そこまでしてもらっちゃ」
さすがにそこまでして貰えるとは思わず、私は先輩に焦って抗議する。
委員会の時間と食事もなんて、授業中以外の結構な時間を占める。
それに、先輩だって一緒に食事を取りたい友達がいるはずなのに、貴重な時間を大して親しくない後輩に使うなんて……。
「また余計なことを考えてないか? 実は……その、恥ずかしいから言うつもりはなかったんだけど。
苗字にこうして相談されることなんてはじめてだから張り切っているんだ。
……悪いようにはしないから、俺にできる限りのことをさせてくれないか?」
先輩にきっと悪気はないのだろうが、そんな顔をされては断れるはずがない。
しかも、普段しっかりしていて真面目な先輩なだけあって効果は覿面である。そう、気付けば私は二つ返事をしていたのだった。