そのいち
あなたの名前はなんですか?(夢小説機能)
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あれから訓練に訓練を重ね、私はわりと箸使いが上手くなった。
まだ形の崩れやすいものは落とすけど、前よりは大分ましになったと思う。
そんな私はまだまだ修行中で、久々知先輩と一緒に食事をしているわけだけれども。今日も今日とて久々知先輩は美豆腐をキラキラした瞳で見つめたと思えば、幸せそうに噛み締めるようにゆっくりと味わっている。
豆腐譲りますよ、と私が言うと一瞬いいのか、と餌付けされた家畜――という表現は失礼すぎる気がするけれど、他になんと言ったらいいか分からないような雰囲気をかもし出し、それから途中で我に返ったかのように首を横に振り、それじゃあ名前の訓練にならないだろう、と言い出すのはいつ見ても少しおもしろい。
久々知先輩はときどきこれが私の訓練であることを忘れているらしい。
この間それを指摘すると、楽しくてつい忘れちゃうんだ、と言われた。久々知先輩が私との時間を楽しいと感じているのは意外だった。
前と比べれば全然話すようになったし、一緒にいる時間も増えたけど、ただそれだけで、私が久々知先輩を付き合わせていると思っていたものだから。
あと、最近の久々知先輩関連の出来事といえば――あの恋文だろうか。
久々知先輩は人気者ということは知っていたけど、まさかそういった意味でも人気であるとは知らなかった。
一定の距離を保って接する先輩ということで有名ということもあって、そういうのはないかなと勝手に思い込んでいたのだと思う。
最近よく一緒にいるでしょう?と、私に渡された手紙には色々な意図があったように思えたけれど、そこは目を逸らして、私は久々知先輩に手紙を渡した。
『久々知先輩。当然ですが、これ、私の知人から渡すように頼まれたので。受け取ってください』
『うん? ……これ……えっと、もしかして』
恋文だそうです、と矢羽根で伝えれば、なんだか浮かない表情でそうかと返されて私は首を捻った。未だにその表情の理由は分かっていないけれど、もしかして、こういうのにはもう懲り懲りなのだろうか。
改めて久々知先輩の顔をじっくりと見ると、確かに久々知先輩の顔は整っている。ただ、委員会では豆腐を愛してやまない優秀な先輩というの印象の方が根強いだけで。
なんと言っても特徴的なのはその目である。大きくて童顔と思わせるような瞳と、瞬きする度にばさりとなるまつ毛――それに対して、どこかきりっとしている眉毛の齟齬がいい感じに噛み合っているというか、なんというか……肌も女子顔負けみたいに白くてすべすべしてそうだ。
「……苗字、俺に何かついてるのか?」
私にずっと見られていることに気が付いてしまったらしい先輩は、少し首を傾げた。ちょっと恥ずかしいなと思って、急いで弁解する。
「い、いや。大丈夫です。ただ、久々知先輩って長くて綺麗なまつ毛してるなって思っただけで」
「ああ、よく言われるよ……急に見つめてくるから、なんか気恥ずかしくなってしまって」
「……そんな様子には見えなかったですけどね」
「本当? よかった、口元がにやけてないか心配だったんだ」
私に見えたのは、いつも通りのあまり表情の変わらない先輩だったけれど……本当にそんな様子には見えなかった。……やはり一学年上であるからか、こういうところは叶わないのかもしれない。そう思うと少し寂しくて、なんだか、現実を押し付けられたかのような気がした。
そんなとき、突然先輩が立ち上がって、私の頭を優しく撫でた。頭を撫でられたというよりは、髪を撫でられたかのように感覚は薄い。先輩は、かなり弱い力で私の頭に触れているみたいだった。
「……せ、先輩……?」
「あっ、ご、ごめん。つい、苗字が寂しそうな顔をしていたから」
先輩は、みんなに好かれているだけあっていい人だ。こういうところがみんなに好かれる秘訣のひとつなのだろうな、と、今日もまたひとつ新たなことを学んだ。
まだ形の崩れやすいものは落とすけど、前よりは大分ましになったと思う。
そんな私はまだまだ修行中で、久々知先輩と一緒に食事をしているわけだけれども。今日も今日とて久々知先輩は美豆腐をキラキラした瞳で見つめたと思えば、幸せそうに噛み締めるようにゆっくりと味わっている。
豆腐譲りますよ、と私が言うと一瞬いいのか、と餌付けされた家畜――という表現は失礼すぎる気がするけれど、他になんと言ったらいいか分からないような雰囲気をかもし出し、それから途中で我に返ったかのように首を横に振り、それじゃあ名前の訓練にならないだろう、と言い出すのはいつ見ても少しおもしろい。
久々知先輩はときどきこれが私の訓練であることを忘れているらしい。
この間それを指摘すると、楽しくてつい忘れちゃうんだ、と言われた。久々知先輩が私との時間を楽しいと感じているのは意外だった。
前と比べれば全然話すようになったし、一緒にいる時間も増えたけど、ただそれだけで、私が久々知先輩を付き合わせていると思っていたものだから。
あと、最近の久々知先輩関連の出来事といえば――あの恋文だろうか。
久々知先輩は人気者ということは知っていたけど、まさかそういった意味でも人気であるとは知らなかった。
一定の距離を保って接する先輩ということで有名ということもあって、そういうのはないかなと勝手に思い込んでいたのだと思う。
最近よく一緒にいるでしょう?と、私に渡された手紙には色々な意図があったように思えたけれど、そこは目を逸らして、私は久々知先輩に手紙を渡した。
『久々知先輩。当然ですが、これ、私の知人から渡すように頼まれたので。受け取ってください』
『うん? ……これ……えっと、もしかして』
恋文だそうです、と矢羽根で伝えれば、なんだか浮かない表情でそうかと返されて私は首を捻った。未だにその表情の理由は分かっていないけれど、もしかして、こういうのにはもう懲り懲りなのだろうか。
改めて久々知先輩の顔をじっくりと見ると、確かに久々知先輩の顔は整っている。ただ、委員会では豆腐を愛してやまない優秀な先輩というの印象の方が根強いだけで。
なんと言っても特徴的なのはその目である。大きくて童顔と思わせるような瞳と、瞬きする度にばさりとなるまつ毛――それに対して、どこかきりっとしている眉毛の齟齬がいい感じに噛み合っているというか、なんというか……肌も女子顔負けみたいに白くてすべすべしてそうだ。
「……苗字、俺に何かついてるのか?」
私にずっと見られていることに気が付いてしまったらしい先輩は、少し首を傾げた。ちょっと恥ずかしいなと思って、急いで弁解する。
「い、いや。大丈夫です。ただ、久々知先輩って長くて綺麗なまつ毛してるなって思っただけで」
「ああ、よく言われるよ……急に見つめてくるから、なんか気恥ずかしくなってしまって」
「……そんな様子には見えなかったですけどね」
「本当? よかった、口元がにやけてないか心配だったんだ」
私に見えたのは、いつも通りのあまり表情の変わらない先輩だったけれど……本当にそんな様子には見えなかった。……やはり一学年上であるからか、こういうところは叶わないのかもしれない。そう思うと少し寂しくて、なんだか、現実を押し付けられたかのような気がした。
そんなとき、突然先輩が立ち上がって、私の頭を優しく撫でた。頭を撫でられたというよりは、髪を撫でられたかのように感覚は薄い。先輩は、かなり弱い力で私の頭に触れているみたいだった。
「……せ、先輩……?」
「あっ、ご、ごめん。つい、苗字が寂しそうな顔をしていたから」
先輩は、みんなに好かれているだけあっていい人だ。こういうところがみんなに好かれる秘訣のひとつなのだろうな、と、今日もまたひとつ新たなことを学んだ。