そのいち
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【夜に著きは好いたひと/次屋三之助】
私はある人物を捜索していた。
同じ三年生の忍たまの一人、次屋三之助である。
背が高くて、方向音痴。こうなることは予測できていたが、今回もまた対処できずに見事迷子になってしまった。
元々作兵衛と同郷である私は、忍術学園で作兵衛を通じて左門と次屋三之助と仲良くなった。
それからというもの、次屋三之助には振り回されてばっかりだ。
……それにしても。こんな遅くまで見つからないのは久しぶり。
少なくともいつもは、夕方までには見つかるのに。もう日は落ちてきて真っ暗闇だ。
そうなると作兵衛と私だけで探索するわけにも行かず、事情を説明して先生方にまで手伝ってもらうことになった。
ため息をつきつつ、私はなんとなく休憩したい気分で海の方へ向かう。
さざ波を聴きながら休憩なんて、我ながらいい案だ。
……なーんて、思っていたんだけど。
妙に上にはねた髷に、背の高たかい男の子が見えた。
それは正しく、私が探していた次屋三之助で、私は反射的にそいつのもとへ駆けつけた。
……そりゃ、見付からないわけだ。いつも山の中で見つかるし、山を探すって作兵衛は言ってたけど。
今回はどうやら海だったらしい。
「ああーっ! 次屋三之助、やっと見つけた! どこいったと思ったらこんな遠い海にまで来ていたなんて!」
「わっ、驚かすなよ。名前こそ、どこに行ってたんだよ。迷子にならないでよ」
いや、迷子になってるのはそっちだから。
感情的になっても、いくら頑張って伝えようとしても
上手く汲み取ってくれないのは把握済なので、私はひとまず冷静につっこんでおいた。
海と月を背景にして、そういえばさぁ、
なんて普段の調子と同じく語りかけてくる次屋三之助は、やっぱり危機感にかけている。
肘を曲げて頭の後ろにつける格好は、彼の長身を引き立てている。
「……なんでおれだって分かったんだ? よく分かったよなぁ。だって、こんな暗いのにさ」
「なんで、って……」
きみが好きだからだよ。
……なんて、言ってやらないんだから。
私をたぶらかしちゃうきみも、少しでも私の気分を味わえばいい。
これは勝手な挑戦状。
私が我慢できずに気持ちを伝えるのが先か、きみが私のことを好きになるのが先か。
きみが私を好きになったら、私と同じように逃げ惑えばいいんだ。
少しの沈黙が生まれた。
その間に、波の音がざあ……ざあ……と静かに鳴り、沈黙を破ったのは次屋三之助だった。
「……おれのことが好きだから?」
ごくり、と、唾を飲んだ。
……これだから、次屋三之助は。つい、どきっとしてしまったじゃないか。
もしかして気付かれているのかもしれない、と息が詰まった。
……きみはきっと私の好意に気付くことはないんだろうけど。
予想通り私の好意には気付いていないようで、なんてな、と目を細めて笑った。
その仕草がやたらかっこよくて、私の心拍数を上昇させていくのをきみは知らない。
「もうっ! そんなこと言ってないで、早く忍術学園に戻るよー!?」
胸がどきどきうるさいのを聞かないふりをして、私は怒鳴った。
もう日は沈んでいて暗くてなんにも見えやしない。
「んー……やだ。せっかく名前と海にいるんだし、もっと一緒にいたい」
……また、懲りもせずそんなことを……。
もっと一緒にいたいなんて、歯の浮くような台詞を無意識で言うなんて。
相も変わらず恥ずかしいやつ……でも、それに照れちゃう私も私かぁ……。
諦めたようにため息をつきながら、私は次屋三之助を宥めた。
……そもそもきみが言ったそれは、私のあれとは違うんだろうけどさ。
私だってもっと一緒にいたいよ。でも、みんながきみを探して待っているのだから仕方ない。
というか、私が探してたのがきみだったからまだ見つけられたけど、普通に考えて私が来るまで絶望的な状況だった。
……なのに、どうしてそんなに余裕そうな顔をしているんだか。
私としても、作兵衛としても、もっと危機感を持って行動して欲しい。
いつかきみが、私たちでも探しきれないようなどこか遠くに消えてしまうんじゃないかって、不安になるから。
……おっと、暗い顔になってしまった。
そうして慌てて顔を戻しても、いつも次屋三之助には暴かれてしまうのだ。
「……どうした? もしかして、暗くて怖いのか? ……いや、名前は暗いの大丈夫だったよな。
他に、何かあった?」
無自覚な方向音痴。
その名が強すぎて案外知られていないけど、次屋三之助は観察眼が鋭いと先生によく褒められている。
そのわりに、私の気持ちに気付く気配は一切ないみたいだけど。
変なところで鋭くて、困る。
「……なんで。なんでそんな余裕そうな顔してるのよ。
私が次屋三之助を見つけていなかったら、きみは誰も知らないどこかに消えちゃったかもしれないのに」
「迷惑ばっかりかけてんのは悪いけど……みんな、どこにいっても必ずみんな助けてくれるから。
多分、安心しちゃってこう……なんか知らないとこに着いちゃうんだと思う」
バツが悪いのか、次屋三之助は地平線をじっと見つめて、そこから目を離さない。
裏を返せば、それは信頼の証ということなんだろう。
とっても栄光なことだけど、私が望んでいるのはそんなことではないのだ。
次屋三之助がどこかに消えるのは日常茶飯事だ。しかしそれでも、私の心は不安になる。
もし、作兵衛や私、先生方で大規模な散策をしても次屋三之助が見つからなかったら、と思うと冷や汗が止まらない。
その理由が理由だから、私はそれを次屋三之助に話すわけにはいかないんだけど……。
でも、それは友情でも起きうる感情に含まれるんじゃないか。
もしそうじゃなくても、きっと変に鈍い次屋三之助が気付くことは出来ないだろう。
……なら、せめて次屋三之助がいなくならないと意識するために、
私にとってどれくらい次屋三之助が大切かを、今ここで伝えるべきなんじゃないか?
思い立ったら即行動。
次屋三之助の相方を見習って、私は勇気を振り絞った。
「私は不安で不安で仕方ないよ。……いつか、きみが誰も何も知らないような、ずっと遠くに行っちゃうんじゃないかって不安になる。
だから、もっと危機感を持って欲しいの。次屋三之助が思うより、ずっと私はきみを心配してるんだよ」
その言葉に、私の声に反応するようにして、ずっと地平線を見つめていた顔を勢いよくこちらに向けた。
それがなんだか気恥ずかしくて、今度はこっちが顔を逸らしてしまった。
「そっ、か……名前、おれのこと、そんなに大切に思ってくれてたんだな」
心底柔らかい声が私の真隣から聞こえて、私はどうにかなってしまいそうだった。
私の心臓の音が波の音を隠してしまうくらいに大きかった。
……これだから、次屋三之助は。ほんとうに、私を照れさせるのが上手だ。
「……ったり前でしょう!? 今までなんで探してたと思ってたのよ!」
もうどうにでもなれだ、真隣に体ごと向けて怒ってやる。
そう、この顔の熱さは照れてるわけじゃなくて、怒ってるからなんから勘違いしないでよ。
「いや、ごめん。……嬉しくて、つい」
そんな思わせぶりな態度、お願いだから、私以外にはとらないでいてほしい。
「ほらもう! 帰るよ!」
海の冷たい夜風が、熱くなった頬に当たって心地いい。
……いつか、きみと私が結ばれることはあるのかな。
あったらいいなあ、なんて思って、私はきみの手を軽く握ったのだ。
私はある人物を捜索していた。
同じ三年生の忍たまの一人、次屋三之助である。
背が高くて、方向音痴。こうなることは予測できていたが、今回もまた対処できずに見事迷子になってしまった。
元々作兵衛と同郷である私は、忍術学園で作兵衛を通じて左門と次屋三之助と仲良くなった。
それからというもの、次屋三之助には振り回されてばっかりだ。
……それにしても。こんな遅くまで見つからないのは久しぶり。
少なくともいつもは、夕方までには見つかるのに。もう日は落ちてきて真っ暗闇だ。
そうなると作兵衛と私だけで探索するわけにも行かず、事情を説明して先生方にまで手伝ってもらうことになった。
ため息をつきつつ、私はなんとなく休憩したい気分で海の方へ向かう。
さざ波を聴きながら休憩なんて、我ながらいい案だ。
……なーんて、思っていたんだけど。
妙に上にはねた髷に、背の高たかい男の子が見えた。
それは正しく、私が探していた次屋三之助で、私は反射的にそいつのもとへ駆けつけた。
……そりゃ、見付からないわけだ。いつも山の中で見つかるし、山を探すって作兵衛は言ってたけど。
今回はどうやら海だったらしい。
「ああーっ! 次屋三之助、やっと見つけた! どこいったと思ったらこんな遠い海にまで来ていたなんて!」
「わっ、驚かすなよ。名前こそ、どこに行ってたんだよ。迷子にならないでよ」
いや、迷子になってるのはそっちだから。
感情的になっても、いくら頑張って伝えようとしても
上手く汲み取ってくれないのは把握済なので、私はひとまず冷静につっこんでおいた。
海と月を背景にして、そういえばさぁ、
なんて普段の調子と同じく語りかけてくる次屋三之助は、やっぱり危機感にかけている。
肘を曲げて頭の後ろにつける格好は、彼の長身を引き立てている。
「……なんでおれだって分かったんだ? よく分かったよなぁ。だって、こんな暗いのにさ」
「なんで、って……」
きみが好きだからだよ。
……なんて、言ってやらないんだから。
私をたぶらかしちゃうきみも、少しでも私の気分を味わえばいい。
これは勝手な挑戦状。
私が我慢できずに気持ちを伝えるのが先か、きみが私のことを好きになるのが先か。
きみが私を好きになったら、私と同じように逃げ惑えばいいんだ。
少しの沈黙が生まれた。
その間に、波の音がざあ……ざあ……と静かに鳴り、沈黙を破ったのは次屋三之助だった。
「……おれのことが好きだから?」
ごくり、と、唾を飲んだ。
……これだから、次屋三之助は。つい、どきっとしてしまったじゃないか。
もしかして気付かれているのかもしれない、と息が詰まった。
……きみはきっと私の好意に気付くことはないんだろうけど。
予想通り私の好意には気付いていないようで、なんてな、と目を細めて笑った。
その仕草がやたらかっこよくて、私の心拍数を上昇させていくのをきみは知らない。
「もうっ! そんなこと言ってないで、早く忍術学園に戻るよー!?」
胸がどきどきうるさいのを聞かないふりをして、私は怒鳴った。
もう日は沈んでいて暗くてなんにも見えやしない。
「んー……やだ。せっかく名前と海にいるんだし、もっと一緒にいたい」
……また、懲りもせずそんなことを……。
もっと一緒にいたいなんて、歯の浮くような台詞を無意識で言うなんて。
相も変わらず恥ずかしいやつ……でも、それに照れちゃう私も私かぁ……。
諦めたようにため息をつきながら、私は次屋三之助を宥めた。
……そもそもきみが言ったそれは、私のあれとは違うんだろうけどさ。
私だってもっと一緒にいたいよ。でも、みんながきみを探して待っているのだから仕方ない。
というか、私が探してたのがきみだったからまだ見つけられたけど、普通に考えて私が来るまで絶望的な状況だった。
……なのに、どうしてそんなに余裕そうな顔をしているんだか。
私としても、作兵衛としても、もっと危機感を持って行動して欲しい。
いつかきみが、私たちでも探しきれないようなどこか遠くに消えてしまうんじゃないかって、不安になるから。
……おっと、暗い顔になってしまった。
そうして慌てて顔を戻しても、いつも次屋三之助には暴かれてしまうのだ。
「……どうした? もしかして、暗くて怖いのか? ……いや、名前は暗いの大丈夫だったよな。
他に、何かあった?」
無自覚な方向音痴。
その名が強すぎて案外知られていないけど、次屋三之助は観察眼が鋭いと先生によく褒められている。
そのわりに、私の気持ちに気付く気配は一切ないみたいだけど。
変なところで鋭くて、困る。
「……なんで。なんでそんな余裕そうな顔してるのよ。
私が次屋三之助を見つけていなかったら、きみは誰も知らないどこかに消えちゃったかもしれないのに」
「迷惑ばっかりかけてんのは悪いけど……みんな、どこにいっても必ずみんな助けてくれるから。
多分、安心しちゃってこう……なんか知らないとこに着いちゃうんだと思う」
バツが悪いのか、次屋三之助は地平線をじっと見つめて、そこから目を離さない。
裏を返せば、それは信頼の証ということなんだろう。
とっても栄光なことだけど、私が望んでいるのはそんなことではないのだ。
次屋三之助がどこかに消えるのは日常茶飯事だ。しかしそれでも、私の心は不安になる。
もし、作兵衛や私、先生方で大規模な散策をしても次屋三之助が見つからなかったら、と思うと冷や汗が止まらない。
その理由が理由だから、私はそれを次屋三之助に話すわけにはいかないんだけど……。
でも、それは友情でも起きうる感情に含まれるんじゃないか。
もしそうじゃなくても、きっと変に鈍い次屋三之助が気付くことは出来ないだろう。
……なら、せめて次屋三之助がいなくならないと意識するために、
私にとってどれくらい次屋三之助が大切かを、今ここで伝えるべきなんじゃないか?
思い立ったら即行動。
次屋三之助の相方を見習って、私は勇気を振り絞った。
「私は不安で不安で仕方ないよ。……いつか、きみが誰も何も知らないような、ずっと遠くに行っちゃうんじゃないかって不安になる。
だから、もっと危機感を持って欲しいの。次屋三之助が思うより、ずっと私はきみを心配してるんだよ」
その言葉に、私の声に反応するようにして、ずっと地平線を見つめていた顔を勢いよくこちらに向けた。
それがなんだか気恥ずかしくて、今度はこっちが顔を逸らしてしまった。
「そっ、か……名前、おれのこと、そんなに大切に思ってくれてたんだな」
心底柔らかい声が私の真隣から聞こえて、私はどうにかなってしまいそうだった。
私の心臓の音が波の音を隠してしまうくらいに大きかった。
……これだから、次屋三之助は。ほんとうに、私を照れさせるのが上手だ。
「……ったり前でしょう!? 今までなんで探してたと思ってたのよ!」
もうどうにでもなれだ、真隣に体ごと向けて怒ってやる。
そう、この顔の熱さは照れてるわけじゃなくて、怒ってるからなんから勘違いしないでよ。
「いや、ごめん。……嬉しくて、つい」
そんな思わせぶりな態度、お願いだから、私以外にはとらないでいてほしい。
「ほらもう! 帰るよ!」
海の冷たい夜風が、熱くなった頬に当たって心地いい。
……いつか、きみと私が結ばれることはあるのかな。
あったらいいなあ、なんて思って、私はきみの手を軽く握ったのだ。