そのいち
あなたの名前はなんですか?(夢小説機能)
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「よっ、雷蔵。
まさか、四年目も同じクラスになるなんて思わなかったよ」
「うん、そうだね……」
僕は私立受験をして、中高一貫校に入学した。
話しかけてきたドッペルゲンガーの名前は鉢屋三郎。親戚でもなんでもない、顔は偶然の一致だった。
しかし、僕が今気になっていたのはそんなことじゃなくて……。
「……苗字名前。知り合いなのか?」
「え、あ、うん……」
三郎は器用に僕の視線の先を見破って、それを僕に指摘した。
張り出されたクラス表に乗っているその名前――苗字名前は、僕の、紛れもない初恋の女の子だ。
初恋は実らないとよく言うけれどその通りで、僕はその名前を見たとたんに苦い思い出が蘇った。
僕と彼女は一緒で小学校の中でも仲がいいことで有名だった。
……小学校で仲がいいと有名な男女なんて、からかいの的であるわけだけど。
僕らはその例に漏れなかった。
小学校の卒業間際。
なぜかはもう忘れてしまったけど……
校庭の真ん中で、僕らはキスをしろとまくし立てられていたのだ。
その時ちょうど、名前は男子にモテモテだった。
さらに名前から直接、この間告白された――という話を聞いたばかりのところで、
僕は彼女が誰かに取られるんじゃないかと不安になっていた。
「……ごめんね」
僕は小さくそう呟きながら名前の目を塞いで、触れるか触れないかぐらいのキスをしたのだ。
噂されるのは本当に嫌だった。だけども、彼女が取られるのはもっと嫌だった。
このキスによって僕らの噂が〝本当〟ということになったら、
さすがに彼女に告白するやつはいないだろうと思ったから、僕はキスをしたんだ。
でも僕はすぐに後悔をした。
別に彼女に嫌だったとか、そういうことを言われたわけじゃなかったけど。
その日からなんとなく僕は彼女の顔を見ることが出来なくなって、僕は彼女に口を聞けなくなった。
そして、彼女も僕に話しかけることはなく。
――そのまんま、今に至る。
「……告白してしまえばよかったのに」
「簡単に言うなよ。僕にそこまでの勇気はなかったんだ」
「女子のファーストキスを奪っておいてよく言うよ」
……それは、うん。
本当に申し訳ないって言うか、己の軽率さを恥じるよ。
「まあ、それはともかく。教室に向かうぞ、雷蔵」
「……うん、三郎」
これから、名前にまた会うのか。
……ちゃんと話せるかな。
というか名前、覚えてるかな、僕のこと。
幼なじみとはいえ家はそこまで近くないし、
小学校を卒業して以来一切会っていないのだから覚えていないと考えるのが自然だろう。
……でも、覚えてて欲しいような。忘れていて欲しいような。
そんな曖昧な気分のまま、僕たちは教室に向かった。
教室に入り席順を見ると隣の席はなんと彼女で、その席はまだ空白だった。
心臓をどきどきとさせながら、僕はひとまず鞄を机に引っ掛けてそこに座って本を読むことにする。
ページをめくると、本の香りが僕の鼻腔をくすぐった。
いつもは落ち着く匂いのはずなのに、
この香りが嫌いだと言いのけた名前のことを思い出して、僕の心拍数は上がるばかりだった。
「――雷蔵」
あの問い答えは唐突に訪れて、聞き覚えのある声が僕の鼓膜に届く。
おそるおそる振り返るとそこには、可愛らしい制服を身にまとった彼女がそのまんまの姿でそこに立っている。
「……名前」
名前、僕のこと覚えてるんだ。
別れが別れだから、僕は何を言ったらいいかわからなくて、ただ彼女の名前だけを呟いた。
「はじめまして、これからよろしくね」
「……っ」
唾を飲む。
僕にはこれが、いいことなのか悪いことなのか分からない。
分からないけど、もう一度名前と仲良しに戻れるのなら……。
「うん、よろしく――苗字さん」
僕は、その手を取るに決まっている。