そのいち
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「なあ俺たち、無人島にでも遭難したのか?」
「てか、喉乾いたんだけど……一旦車止めて休憩しない?」
「……勘右衛門に賛成」
「へ、兵助、大丈夫? 顔色、すごく悪いけど」
こいつら……運転してないからって好き勝手いいやがって。特に三郎。でもまあ俺も疲れているし兵助が心配だしで、車を停めることにした。
とは言っても現在地は山道の中の山道で、車を停めるところなんてなく。だからといって草木だらけで先が見えない、進んでいるうちにいつ終わるんだよ、あーどうせおわらないんだろ?もう分かったよって感じでこっちが拗ねてしまいそうな森の中を進んで駐車できる場所を探すなんて気力はもう残っていない。
もはや現代版羅生門の称号を与えていいと思う。あそこまで死屍累々ではないけど、イメージ的には似通っている。もし夜に来たなら肝試しスポットかもしれない。
センターラインがないのは当たり前、しかもその道路の幅も車一つ分入るか入らないかのギリギリのラインをせめてくる鬼畜っぷり。俺は知らないうちにレースゲームに巻き込まれていたのだろうか。地味にカーブ多いし、そうかもしれない気がしてきた。
少し道路からずれるとそこにはぬかるんだ土があり、隅に避けようとしたらタイヤが埋まる。お察しの通り天候は最悪。まだ梅雨明けしてなかったのかよ、と文句を言いたくなるほどのザーザー降り。ナビは壊れるし、山奥だからか電波はクソで我らがGoogle先生にすら頼れない。気分も雰囲気も最悪だったが、ここまで来て諦めるのもまた最悪である。
違う車がこっちに向かってきたら、そのまま衝突してここで帰れない絶望エンドだけど、この天候ならそうそうこんなところに意識的にくるやつなんていないはずだと信じて、仕方なく、やっと車を道路のど真ん中にとめる。まあ、この道路の狭さじゃど真ん中もクソもあるかって話だけど。
「はぁー、疲れた。外の空気吸ってくるわ」
「……は? どしゃ降りだぞ、勘右衛門。やめとけって」
勘右衛門に対して制止の声をかけるが、勘右衛門は聞こえていないかのように勢いよく車から出ていった。少し開いただけなのに、雨が車内に入ってきた。後部座席真ん中の勘右衛門が出た方向のドア、右側に座っていた雷蔵が少し眉を潜めたのが見えた。
もしかして、ついでに自動販売機でも探そうってんじゃないだろうな? 誰もよらないだろうからゴミさえないだろう。空気は淀んでたけど、窓開けたら雨入ってくるから開けてなかったのに、あいつ普通に車内に雨入れやがったぞ……。つかやっぱびしょ濡れじゃねえか。そのまんま車内に入ってきたら座席ごとびしょ濡れになるんだけど。もうあいつここに置き去りにしようかな……。
まあアイツは放置するとして、俺は後部座席左側に座る兵助に声をかける。
「……大丈夫か? ……酔い止めは?」
静かに手を横に振る兵助。そうか、首を横に振るのも辛いか。あいにく俺は車酔いをするタイプではないので、薬は所持していない。雷蔵も首を振る。
「兵助、私の酔い止めを貸してやる。水なしで飲める錠剤だ。……あと、席も交換してやるから、立て」
そうか、そういえば三郎も酔いやすいタイプだった。前方座席にいるのに平気そうな顔をしているからすっかり忘れていた。どうやら席を交換してから薬を飲むことに決めたらしい二人は、同時に立ち上がった。
「痛っ!!」
大の男が二人揃って車内で頭をぶつけるなんてなんだかおかしくて、俺と雷蔵は顔を見合わせてから笑った。何事もなかったかのように、クールに席を移動し始めるところもじわりポイントだ。心做しか車内の空気も柔らかくなる。
しかし……勘右衛門のやつ、何してんだ。勘右衛門が車から出ていって、もう数十分が経つ。兵助のことも落ち着いたことだし、と窓から外を見ると、勘右衛門は驚くことに雨の中一人で遊んでいた。しかも、気づけば半裸になっていた。
「ぶっ!? おい、勘右衛門、風邪引くぞ!! いい加減戻れよ」
半ば反射的に窓を開けたせいで、雨が車内に入ってくることを忘れていた。おかげで顔面に雨を食らってしまったが、そんなもの勘右衛門のあのびしょ濡れ具合に比べれば安いものである。
「ん? 八左ヱ門〜お前もこっちこいよ、雨めっちゃ気持ちいいぞ! 風だけは暖かいから風邪とか引かない引かない!」
こいつ話聞いてないな……。まあ、勘右衛門が人の話を聞かないのはよくあることだけど。それにしても本当に楽しそうに雨に打たれてるな。一人で。よくそんなに楽しめるよな。俺、あいつだけはどこでも生きていける気がする。あまりはなも楽しいことを見つける天才すぎて。
「楽しそうだね、勘右衛門……」
そこで、服を脱ぐ音が聞こえた。
「雷蔵……!? お前、正気か!?!?」
「雷蔵が行くなら私も行くぞ!!」
「は!? 三郎、お前も!? お前ら正気か、ちょっ、おいいいっ!?」
行くよ、三郎!! おう、雷蔵!! そんな掛け声をして、二人一斉にドアを開けて勢いよくバン、とドアが閉められた。ああもう、後部座席がびしょ濡れだよ。まあ、俺の席もびしょ濡れなんですけど。これにて車内の濡れてない席はいよいよ前方座席左側、兵助の席だけになってしまった。
というか、三郎……あいつ、いつ脱いだんだよ。
油断も隙もないな。まあ俺は体調の悪い兵助の様子を見るわけだけど、あいつら、体調悪くなっても知らないからな……。
「……うん? ちょっと待てよ兵助。お前車酔いしたんだよな?」
「ああ」
あくまで平然としている兵助だが、完全に車から出てあいつらに合流する気満々である。おいおい、ちょっと待ってくれ! 気持ちは分かるが、お前は今具合が悪いはずなんだ。それは自分で分かっているよな? いや、分かってもらわなきゃ困る。風邪引いたらせっかくの明日の海が台無しだぞ。お前を外に出すわけにはいかない。
あの手この手で説得しようとするも、兵助は一切応じない。一応は俺の許可を得ようとしているらしく勝手に出ようとはしなかったが、俺が折れるしかないみたいだった。
「……しょうがないな」
「! いいのか」
ただし、俺も混ぜること。当たり前だ、と兵助は笑って答える。そして俺達は車を飛び出した。
「てか、喉乾いたんだけど……一旦車止めて休憩しない?」
「……勘右衛門に賛成」
「へ、兵助、大丈夫? 顔色、すごく悪いけど」
こいつら……運転してないからって好き勝手いいやがって。特に三郎。でもまあ俺も疲れているし兵助が心配だしで、車を停めることにした。
とは言っても現在地は山道の中の山道で、車を停めるところなんてなく。だからといって草木だらけで先が見えない、進んでいるうちにいつ終わるんだよ、あーどうせおわらないんだろ?もう分かったよって感じでこっちが拗ねてしまいそうな森の中を進んで駐車できる場所を探すなんて気力はもう残っていない。
もはや現代版羅生門の称号を与えていいと思う。あそこまで死屍累々ではないけど、イメージ的には似通っている。もし夜に来たなら肝試しスポットかもしれない。
センターラインがないのは当たり前、しかもその道路の幅も車一つ分入るか入らないかのギリギリのラインをせめてくる鬼畜っぷり。俺は知らないうちにレースゲームに巻き込まれていたのだろうか。地味にカーブ多いし、そうかもしれない気がしてきた。
少し道路からずれるとそこにはぬかるんだ土があり、隅に避けようとしたらタイヤが埋まる。お察しの通り天候は最悪。まだ梅雨明けしてなかったのかよ、と文句を言いたくなるほどのザーザー降り。ナビは壊れるし、山奥だからか電波はクソで我らがGoogle先生にすら頼れない。気分も雰囲気も最悪だったが、ここまで来て諦めるのもまた最悪である。
違う車がこっちに向かってきたら、そのまま衝突してここで帰れない絶望エンドだけど、この天候ならそうそうこんなところに意識的にくるやつなんていないはずだと信じて、仕方なく、やっと車を道路のど真ん中にとめる。まあ、この道路の狭さじゃど真ん中もクソもあるかって話だけど。
「はぁー、疲れた。外の空気吸ってくるわ」
「……は? どしゃ降りだぞ、勘右衛門。やめとけって」
勘右衛門に対して制止の声をかけるが、勘右衛門は聞こえていないかのように勢いよく車から出ていった。少し開いただけなのに、雨が車内に入ってきた。後部座席真ん中の勘右衛門が出た方向のドア、右側に座っていた雷蔵が少し眉を潜めたのが見えた。
もしかして、ついでに自動販売機でも探そうってんじゃないだろうな? 誰もよらないだろうからゴミさえないだろう。空気は淀んでたけど、窓開けたら雨入ってくるから開けてなかったのに、あいつ普通に車内に雨入れやがったぞ……。つかやっぱびしょ濡れじゃねえか。そのまんま車内に入ってきたら座席ごとびしょ濡れになるんだけど。もうあいつここに置き去りにしようかな……。
まあアイツは放置するとして、俺は後部座席左側に座る兵助に声をかける。
「……大丈夫か? ……酔い止めは?」
静かに手を横に振る兵助。そうか、首を横に振るのも辛いか。あいにく俺は車酔いをするタイプではないので、薬は所持していない。雷蔵も首を振る。
「兵助、私の酔い止めを貸してやる。水なしで飲める錠剤だ。……あと、席も交換してやるから、立て」
そうか、そういえば三郎も酔いやすいタイプだった。前方座席にいるのに平気そうな顔をしているからすっかり忘れていた。どうやら席を交換してから薬を飲むことに決めたらしい二人は、同時に立ち上がった。
「痛っ!!」
大の男が二人揃って車内で頭をぶつけるなんてなんだかおかしくて、俺と雷蔵は顔を見合わせてから笑った。何事もなかったかのように、クールに席を移動し始めるところもじわりポイントだ。心做しか車内の空気も柔らかくなる。
しかし……勘右衛門のやつ、何してんだ。勘右衛門が車から出ていって、もう数十分が経つ。兵助のことも落ち着いたことだし、と窓から外を見ると、勘右衛門は驚くことに雨の中一人で遊んでいた。しかも、気づけば半裸になっていた。
「ぶっ!? おい、勘右衛門、風邪引くぞ!! いい加減戻れよ」
半ば反射的に窓を開けたせいで、雨が車内に入ってくることを忘れていた。おかげで顔面に雨を食らってしまったが、そんなもの勘右衛門のあのびしょ濡れ具合に比べれば安いものである。
「ん? 八左ヱ門〜お前もこっちこいよ、雨めっちゃ気持ちいいぞ! 風だけは暖かいから風邪とか引かない引かない!」
こいつ話聞いてないな……。まあ、勘右衛門が人の話を聞かないのはよくあることだけど。それにしても本当に楽しそうに雨に打たれてるな。一人で。よくそんなに楽しめるよな。俺、あいつだけはどこでも生きていける気がする。あまりはなも楽しいことを見つける天才すぎて。
「楽しそうだね、勘右衛門……」
そこで、服を脱ぐ音が聞こえた。
「雷蔵……!? お前、正気か!?!?」
「雷蔵が行くなら私も行くぞ!!」
「は!? 三郎、お前も!? お前ら正気か、ちょっ、おいいいっ!?」
行くよ、三郎!! おう、雷蔵!! そんな掛け声をして、二人一斉にドアを開けて勢いよくバン、とドアが閉められた。ああもう、後部座席がびしょ濡れだよ。まあ、俺の席もびしょ濡れなんですけど。これにて車内の濡れてない席はいよいよ前方座席左側、兵助の席だけになってしまった。
というか、三郎……あいつ、いつ脱いだんだよ。
油断も隙もないな。まあ俺は体調の悪い兵助の様子を見るわけだけど、あいつら、体調悪くなっても知らないからな……。
「……うん? ちょっと待てよ兵助。お前車酔いしたんだよな?」
「ああ」
あくまで平然としている兵助だが、完全に車から出てあいつらに合流する気満々である。おいおい、ちょっと待ってくれ! 気持ちは分かるが、お前は今具合が悪いはずなんだ。それは自分で分かっているよな? いや、分かってもらわなきゃ困る。風邪引いたらせっかくの明日の海が台無しだぞ。お前を外に出すわけにはいかない。
あの手この手で説得しようとするも、兵助は一切応じない。一応は俺の許可を得ようとしているらしく勝手に出ようとはしなかったが、俺が折れるしかないみたいだった。
「……しょうがないな」
「! いいのか」
ただし、俺も混ぜること。当たり前だ、と兵助は笑って答える。そして俺達は車を飛び出した。