思い出話をしているうちに、すっかりと夕暮れになっていた空を見上げて、私は深く息を吸った。


千鶴は、何も言わなかった。
……でもなんだか、名残惜しいような顔をして笑っていた。


「……三郎、どうしたの?」


……思い出話をしていたら、確かに固めていたはずのその心が揺れていた。


私が知らないところで死ぬよりはいいと思った。

背負うのは私一人で充分だと思った。

三禁を破った自分への、何よりの罰だと思った。

……彼女を最期まで見送った、特別な存在になりたかった。


……そう。
私は今から、千鶴をこの手で殺す。


殺すための武器を持つ右手が震えるのは、私がまだまだ未熟だからだろう。



「なぁ、……私が苛立つようなことを言ってくれないか?」

これからすることなんて、どうせお前にはお見通しなんだろう。


感情に任せて人を殺すことは、浅ましいことだと私は知った。
……でも、そうでもしなければ、私は千鶴を殺すことが出来なかった。


千鶴という存在は、確かに私の中に刻まれていて。まあ、言葉にするならば……。


「好きだよ、三郎」

そう、私はお前が好きだったからだ。

……そして、この言葉を“私の苛立つ言葉”として発言したということは。
千鶴は私の想いを知っているんだろう。


同い年のはずのお前が、私よりいくつも年上みたいな余裕ぶった態度を見せるとき。
お前が私以外の誰にでも同じような好きを向けるとき。

……私がどんな想いをしているかなんて、さすがに分かっていないだろうと思っていたのに。


やっぱりお前は私より年上で、大人で、私より何千枚も上手なんだ。

……でもな、私。

「今。幸せすぎて、死んでしまいそうだよ」