千鶴が死なない理由は、直前まで分からなかった。

しかし付喪神の言う“人間には最も容易くて、千鶴には最も困難”なことなんて、正直……あれしか思いつかなかった。


「ここまで来れば、まぁいいか」

私は滅多に人の来ない、裏の裏の裏の裏の……山の、そのまた奥に千鶴を連れてきた。



「千鶴がこの世界にやってきて、約二年……。
私は千鶴に変装を教えたし、私も千鶴から色々なことを教えて貰った」


……本来の目的である、変装の相手になりきって戦闘を克服することは結局叶わなかったが、それでも千鶴は私の自慢の弟子の一人だ。


「……私、三郎になにか教えたっけ?」

「感情にながされるがまま人を殺めるなんてことは、酷く浅ましいことなんだということを知った」


千鶴が当たり前のことだと言い放ったときは、正直どれだけ幸せな頭をしているんだと思った。

この世界ではそれが日常茶飯事で、殺人が起きない日なんかないのに。
それを否定するのは、この世界の否定に等しいから。


……だから、千鶴が実は平成の人間だったと聞いた時は、逆に納得したんだ。