校庭のど真ん中、周りを見渡すと落とし穴だらけだった。

……穴掘り名人の……綾部喜八郎だっけか、その人の仕業か。
気配が辺りにないけど……。


とりあえず、落とし穴に落っこちてみるか。


う、うわっ、結構深いっ……!
こんな軽い気持ちで落ちるところじゃなかったな……。


そう後悔していると、綾部と思わしき人物が穴を覗き込んできた。


「おやまぁ……あなたはこの間不用心に天女に近付き、
食満先輩に手裏剣を打たれていたくノ一じゃないですか」

もう関わらない方が良いですよ。
あの女、先輩方にくノ一が襲ってきたとかなんとか言ってるみたいですから。


そう言いながら、私のいる穴に落っこちてくる綾部。


「近頃あの女がいるせいか、誰も僕の罠に引っかかってくれなくてイライラしているんですよ」

だから穴をあんなに掘っていたのか……。



それにしても変わり者だとは聞いていたけど……。
私に馬乗りしたまま話し出しすとは思わなかった。


「……質問なんだけど。天女様はみんなをたぶらかしているの?」
「僕にはさっぱりですが、一緒にいると幸せになるとかなんとか……」


それはつまり……天女様は自らの意思で忍たま達をたぶらかしている訳では無いということ?

……でも上級生全員がメロメロになっているだとか、くノ一から聞いたんだけど……。


「あの女は術を使って何かを企んでいるに違いありません。
……滝夜叉丸が自分以外にメロメロだとか、ありえなさ過ぎて気持ちが悪いですよ」

強気な言葉とは裏腹に、不意に逸らされた瞳は揺れていた。