「来たか……! 志摩千鶴……ッ!」


そんな忌々しげに名前を言わなくたって。

物凄い眼光で私を見ている昨日の木綿豆腐くんこと兵助を見て失笑する。
……多分、この世界では下の名前呼びが基本だから、兵助って言っても平気だろう。
久々知って呼びにくいし。


「千鶴でいいよ……で、何の用かな?」

私が今日ここに来たのは、兵助に呼び出されたからだ。


「今日は俺が豆腐を作るっ! 豆腐は味するし、木綿豆腐だって美味いんだってことを教えてやるよッ!」

「落ち着け、兵助! 今日は平和的に解決するんだろ?」


竹谷は私たちが再び口論しないようにするためにここにいるらしい。


……というか、豆腐ってどうやって作るんだろう。

一人暮らしだったからそれなりに料理はしていたつもりだけど、分からない。
そもそも豆腐は別に好きでもないので作ろうともしなかったけど……。


私はじっくりと兵助の豆腐の作り方を見ることにした。


「……そんなに見るな、気が散るだろ!」

「えっ、ごめん。そんなに見てた?
そういえば豆腐ってどんな風に作るんだろうと思ってつい凝視しちゃったよ」


まぁ、豆腐に興味を持ってくれたなら構わないけど……と小声で呟く彼に対して、私は再び失笑してしまった。


「耳が赤いの、丸見えだから」


その一言で、兵助が持っている豆腐が崩れた。

……からかい甲斐があるなぁ。


その後食べた兵助の豆腐は今まで食べた豆腐の中で一番美味しかった。