ナデシコ
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あの事故から早数ヶ月。あの後無事に退院した私はすっかり元の生活に戻っていた。送り主がわからないネックレスも何故だか手放し難く、肌身離さず身につけていた。
結局、これをくれたのは誰だったんだろう。街を歩きながら、地面を見つめて考えた。何気なく顔を上げ前を見ると、パチリ、と前方から歩いてくる男と目が合った。穏やかに微笑まれる。綺麗な顔をした長身の男だった。そのまま擦れ違おうとしたが、不意に彼が左耳に身につけているピアスが揺れた。菱形の鮮やかなブルーのピアス。
あれ。
思わず立ち止まり、首元のネックレスを指に絡ませる。似ている。なんだろうか。胸が熱くなった。振り返ると、先程の男は見当たらなかった。あんなに身長が高い上、今さっき擦れ違ったばかりで見失うものだろうか。焦燥感に駆られる。彼を追いかけないと。気づいた時には走り出していた。
「はぁっ、どこにっ、行ったんだろう…っ」
全然見つからない。キョロキョロと周りを見回していると、視界の端に光が反射した。その光の方向へ進み路地に入ると鏡が置いてある。こんなところになんで鏡…?手を伸ばしそっと鏡に触れる。
「え…?」
鏡の中に吸い込まれたと思うと気がつけば見知らぬ場所に立っていた。いや、知らない場所じゃない。私はここを知っている。
「ナイトレイヴンカレッジ…」
ここは確か男子校のはず。私が勝手に入ったら騒ぎになってしまうだろうか。でも、行かなければいけない気がする。だってここには彼がいる。彼?彼って誰だろう。でも、彼がいる場所なら覚えている。自然と足が向いた。
「ここ、植物園、だよね…」
扉を開き、恐る恐る中に入る。
奥まで進むと見覚えのあるキノコの原木が置いてあった。
「これ、キクラゲ、だ…」
「おや、キクラゲをご存知なんですね」
後ろから声がした。ドクンドクンと、心臓が脈を打つ。彼、だ。ずっと会いたかった人。なんで会いたかったんだろう。私は彼を知らないはずなのに。顔を俯かせ、振り向けずにいると彼はコツコツと足音を響かせて近づき、私の目の前に立った。
「顔を上げてください」
「…っ、」
一筋の涙が頬を伝った。知らない訳がない。私は彼を知っている。いつまでも顔を上げない私に痺れを切らしたのか、彼は私の顎を持ち上げ、視線を絡ませた。
「貴女は泣き顔も美しいですね」
「ジェ、イドさんっ…」
「おや、僕のことを綺麗さっぱり忘れていたのでは?」
「そ、それは…。意地悪言わないでください」
「ふふっ、申し訳ありません」
ジェイドさんは私の腰を引き寄せ、胸元のネックレスを指で弄ぶと、私の体をギュッと抱きしめた。
「あぁ、漸く貴女に触れられますね」
「ジェ、ドさっ、くるし、」
「貴女を愛しく思うと、加減ができなくて」
すみません、と彼は少しだけ体を離し、私の頬に手を添えた。ジェイドさんってこんなに力強いんだ。それに、ひやりとするその手。意外と体温が低いみたいだ。そんなことを考えていると、ギラつくオッドアイが私を見つめた。捕食者のようなその目に捉えられ、胸が高鳴る。
「もう、離しません」
「私も、離れたくないです」
「可愛いことを言ってくれますね」
「かわっ…!」
「愛しています」
直後、頬に触れていた手を頭の後ろに回し、私の腰を更に引き寄せた彼は背を屈ませ、深い口づけを落とした。