ごちゃまぜ
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疲れた。ぼふん、と勢いよくベッドに沈み込む。今日は朝からグリムがゴーストたちと大騒ぎした為に、オンボロ寮の玄関のドアを破壊されたし、魔法薬学ではこれまたグリムが調合レシピにない薬草を釜に入れた為、爆発を起こしてクルーウェル先生に叱られるし。昼休みはフロイド先輩に絡まれ、つい逃げてしまったら追いかけっこだと思ったのか付いてくるしでご飯を食べるタイミングを完全に逃した。そんな空腹の状態で受けた飛行術。私は魔力が無いのでいつもグラウンドを走らされているが、炎天下の中そんな状態でまともに走れるわけもなく。もうヘロヘロだ。
「今日は厄日だ…」
呟いた言葉が空に消える。ぐー、とお腹の音が鳴るが起きる気力もなかった。グリムは、お腹空いたんだゾ!カリムに飯食わせてもらうんだゾ!とかなんとか言ってスカラビアに旅立って行った。私だってジャミル先輩のご飯食べたい。いや、それよりも。モストロ・ラウンジでジェイド先輩が作ったご飯のほうがいいなぁ。目を瞑り、彼の顔を思い出す。そういえば、フロイド先輩には会ったけど、今日一日ジェイド先輩に会わなかった。
「ジェイド先輩に、会いたいなぁ」
「お呼びでしょうか?」
「…、えっ?!?!?」
「そんなに驚かないで。ふふ、面白い顔ですね」
ドア、壊れていたので簡単に入れましたよ。不用心ですから、直しておきました。
クスクスと目の前で笑っている彼は本物だろうか。思わず飛び起き、頬を抓る。痛い。彼は私の赤くなった頬をそっと撫でた。お互いの顔がゆっくりと近づく。あ、これは。頬にある彼の手に、手を重ね、目を閉じる。その瞬間、ぐぅ、とお腹の音が響いた。ハッとして目を見開く。ジェイド先輩は至近距離で目をぱちくりさせていた。
「あっ、えと、これは!…すみません」
途端に恥ずかしくなり、俯く。せっかくそういう雰囲気だったのにお腹の音でぶち壊してしまった。それもこれもお昼食べ損ねた所為だ、と目の前にいる彼の片割れに責任を転嫁した。
「僕が何か作りましょう。お昼、食べられなかったんでしょう?」
「ご存知だったんですか」
「えぇ。フロイドがご迷惑をお掛けいたしました」
口元にいつもの笑みを浮かべる彼は全然迷惑をかけたとは思っていない顔をしていた。スッと私から離れ、ドアへ向かう。
「キッチン、お借りしますね」
「私も手伝います」
「いえ、名前さんはここで待っていてください」
そう言い部屋を出た彼の後ろ姿を見送った。呆れられただろうか。再びシーツの海へ沈む。でも念願のジェイド先輩のご飯だ。嬉しい。枕をギュッと抱きしめる。ジェイド先輩にも会えたし、今日は厄日ではないのかもしれない。うつらうつらと考え事をしているうちに私の目は完全に閉じていた。
「…さん、名前さん。起きてください」
「んっ…」
「早く起きないと、食べてしまいますよ」
僕が、貴女を。
愉快そうな笑い声が聞こえる。そして、なんだか美味しそうな香りが漂う。ゆっくりと起きると残念そうな表情の彼がいた。
「おや、起きてしまいましたね」
「ジェイド、せんぱい…」
「はい、ジェイドです。ご飯、食べられますか?」
テーブルに並べられた料理に目を向ける。ふわふわしたままテーブルまでとぼとぼと歩く。椅子に座るとその香りに寝ぼけていた脳が徐々に覚醒した。
「わぁ…!これジェイド先輩が作ったんですか?」
「はい。冷めないうちにどうぞ」
「いただきます」
おいしい。やっぱりジェイド先輩ってハイスペックだなぁ。どうして私と付き合ってくれてるのか不思議なくらいだ。くだらないことを考えながら、食べ進めるうちに、不意に涙が頬を伝った。あれ、なんだろう。別に悲しくないのにな。涙が止まらない。ジェイド先輩はそんな私の頭をそっと撫でた。食べ終わるまで、何も言わずに。
「せんぱい」
「はい」
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「ジェイド先輩」
「はい」
「ありがとうございます」
「ふふ、では僕が貴女に料理を振る舞ったことの対価を頂戴してもよろしいですか?」
「この流れでそれですか」
やっぱりこの男がタダでご飯を作ってくれるわけがなかった。なんだろう。モストロでの労働?一週間先輩のパシリ?ドキドキしながらジェイド先輩をみつめる。彼は椅子に座る私をヒョイ、と抱き上げベッドに運んだ。
「僕に抱きしめられてください」
「…そんなことでいいんですか?」
「えぇ、それがいいんです」
寧ろそれは私のご褒美ではないかと思ったが、大人しく彼の私より大きな体と長い腕に包まれる。ジェイド先輩のにおいだ。彼の手が私の髪を撫でる。くるくると髪を弄ぶ彼の指先。ゆっくりと、首元に彼の顔が埋まる。耳元に口を寄せると彼はそっと囁いた。
「今日も頑張りましたね」
「せんぱ、」
「名前さん、好きです」
「じぇ、どせんぱい、」
よしよしと子供をあやすように私の頭を撫でる彼の胸に顔を埋めボロボロと涙を溢した。
「名前さん、顔を上げてください」
「…いやです」
「困りましたね。キスができません」
「私今ぶさいくなんです」
「どんな顔でも、貴女は僕の愛しい人ですよ」
思わず、ばっ、と顔を上げると優しく微笑むジェイド先輩。彼の瞳に映った私はなんだか間抜け面だった。彼の指が涙を拭い、輪郭をなぞる。私の目元に口を寄せると、止まることない涙を舌先で舐めとった。ちゅ、ちゅ、とおでこ、頬、鼻先、顔の至るところにキスを落とす。
「せんぱいっ、」
「ふふ、なんでしょう」
「なんだか恥ずかしいです」
「今日は貴女を目一杯愛でたい気分なんです」
「でも、」
「名前さん、すき。すきです」
「…私も好きです。ジェイド先輩」
「存じてます」
顔を見合わせ、ふふふ、と笑い合う。
今日は厄日だと思っていたけれど、ジェイド先輩とこうしているだけで幸せな気持ちが溢れそうだ。私を愛でたい、というジェイド先輩の言葉に甘えて、精一杯可愛がってもらおう。そうしたら明日からも頑張れそうだ。
「名前さん、愛しています」
「私もです。ジェイド先輩」
慣れない世界で知らず知らずのうちにストレスを感じる監督生とそれに気づいた人魚のお話
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