ごちゃまぜ
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※不毛な恋、閑話の続き。閑話を読んでなくても話は繋がるはずです。悲恋で終わらせたい方はバック推奨。
彼が私の部屋から去った後、フロイドくんから連絡が入った。話したいことがある、と言われて十中八九ジェイドくんとのことだろうとは思ったが、断る理由はなかった。彼はいつも左耳にピアスを着けているが、情事の際は外していた。そのピアスをベッドサイドに忘れていったのだ。フロイドくん経由で返すのはどうかと思うが、直接ジェイドくんに会うのはこわかった。
フロイドくんとの約束の時間まであと少し。街行く人をぼーっと眺め、フロイドくんを待つ。遠くに周りの人よりも頭ひとつ分は高い位置にある水色がゆれた。フロイドくんだと分かっていても、彼なのではないかと期待と不安が過ぎってしまう。そんなわけ、ないのに。段々と早足になるその水色を見つめる。あれ、なんで。顔の表情まで確認できる位置まで近づくと、吊り目がちな目元と視線が絡む。フロイドくんじゃない。そう気づいた瞬間、その場から走って逃げ出した。
「待ってくださいっ」
彼の長い足に呆気なく追い付かれ、掴まれた手首から熱が伝う。いつも冷静な彼の手が、震えていた。どうして彼が。うまく言葉が出ない。お互いに俯く。沈黙の後、ようやく絞り出した声は震えていた。
「わたし、フロイドくんと約束、」
「貴女に言わなければならないことがあるんです」
「私はもうジェイドくんと話すことはないよ」
「僕の好きな人は貴女です、名前」
「…っ」
「貴女なんです。だからお願いします。僕から離れていかないで」
なんで、今更。彼の顔を下から見上げる。今にも泣きそうに、眉尻を下げた彼はまるで駄々を捏ねる子供のようだった。ぽつりぽつりと話し出す彼の言葉に耳を傾ける。
「貴女にひどいことをしたと思っています」
「他に好きな人がいるって言ってたじゃない」
「嘘なんです」
「なんでそんな、」
「最初から貴女のことしか見えてません」
「私が触るの、嫌そうだった」
「それは…、貴女に触れられると我慢が効かなくなるので」
なにそれ。私はあれだけ悩んだし心を痛めたというのに。ジェイドくんの行動全てが私に対しての愛情表現だったと、彼は言った。私が彼に恋情を抱いていることも知って、自分の欲の為に利用し、傷つけてしまったことは反省していると。しかし彼にとって私がフロイドくんと知り合ってしまうことは予想外だったらしい。フロイドくんと楽しそうに話す私を見かけて、自分への感情が消えたのではと焦ってしまった、そう話すジェイドくんはどことなく頼りなさげだった。
「今更だとは思います」
「本当にそうね」
「すみません、でも貴女が他の男の元へ行くなんて耐えられません。もう一度、僕にチャンスを頂けませんか」
どこまでも自分勝手な彼。でも、惚れてしまった弱みだろうか。私はそんな彼に弱いのだ。真っ直ぐに私を見つめるその瞳に応えるように視線を合わせる。
「少し、屈んでくれる?」
「え、えぇ」
私の目線と同じ位置まで顔を下げた彼の耳朶にそっと触れる。穴の位置を確認し、フロイドくんに返すつもりだったそれを着けた。光に反射したそれはゆらゆらと揺れている。
「本当はこれをフロイドくんからジェイドくんに返してもらうつもりだった」
「はい」
「それで私達の関係は終わり、って思ってたけど本当に昨日で終わらせるつもりなら返さずに捨てればよかったよね」
「それは…、」
「フロイドくんからの連絡だって無視したら良かったのに。結局期待してたのは私みたい」
自分と同じ目線にある彼の顔を両手でそっと包み込み、唇を重ねる。触れるだけで直ぐに離れると彼は目を大きく開けていた。普段見られないような間抜けな顔が愛おしい。
「私の好きな人はジェイドくんだよ」
「しかし僕の知っている人だと…」
「間違ってないでしょう」
「名前っ…」
「そのピアス、ジェイドくんによく似合ってる」
お互いを見つめ合い、指先をそっと絡める。始まりは間違えたかもしれないけれど、そんなの大したことじゃない。これから少しずつお互いを知って、積み重ねていけばいい。申し訳なさそうな、だけど嬉しそうな複雑な表情をしたジェイドくん。彼のそんな表情なんてこれから先見れないかもしれないからしっかり焼き付けておこう。
「今までの分、私のこと大切にしてね」
「勿論です。絶対幸せにします」
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