海色の初恋
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ジェイドさんに1人で来てと言われたが、やはり今日は休みのようで扉にはclosedの文字。これは勝手に入っていいのかと頭を悩ませる。試しにノブに手をかけるがやはり鍵が掛かっているようだ。そうだ、昨日連絡先を交換したんだった。ジェイドさんに連絡してみよう。スマホを取り出し電話をかけようとしたところに後ろから響く聴き慣れた彼の声。
「今日店休みなんだけど〜。どいてくんね?」
「あ、ごめんなさい」
「って、なんでここに…っ」
振り向くとフロイドさんは驚いたような顔をしたあと気まずそうに視線を彷徨わせる。あー、もう、と頭をガシガシと掻き毟ると扉の鍵をガチャガチャと開けた。
「ん、どーぞ。入っていーよ」
「お邪魔します…」
店内は薄暗く、いつもの活気が微塵も無い。きらきらとした水槽の影が床に揺らめいていた。さっきから少し元気が無いような落ち着きがないような複雑な表情のフロイドさんは私をソファーに座らせると隣に腰掛けた。
「休みなの、知らなかった?」
「いえ、知ってたんですがジェイドさんに呼ばれて…」
「ハ?」
「けど開いていなかったので、電話しようとしてたんです」
「…また、ジェイド?」
「また?」
「昨日も一緒にいたじゃん」
「えと、偶然会ったんです。ジェイドさんって不思議な方ですね」
「ジェイドとなに話してたの」
「それは…」
フロイドさんのこと、と言ったら影で探っているようで彼はいい気がしないだろう。と考えて、なんだか前にも似たようなことがあったな、と思い出す。あの時も言い淀んで彼を不機嫌にしてしまった。案の定、いつまでも答えない私に苛ついたのか、みるみる不機嫌になる彼に気づいた頃にはソファーに勢いよく押し倒されていた。彼の一束だけ長い髪が私の左頬を擽ぐる。大きな体にのし掛かられ、抜け出そうと彼の胸板を押すがびくともしない。彼はお互いの足を絡めると、グッと顔を近づけた。
「オレのこと見ててって、言ったじゃん」
いつになく切なげで艶めいた表情に息を呑んだ。唇が触れそうなほどお互いの距離が近づくが、あと数ミリ、というところでピタッと止まる。フロイドさん。と名前を呟くと、彼は目を丸くし勢いよく起き上がった。
「いや、あの、ごめん。オレ今ちゅーしようとした」
ストレートにそう告白した彼は顔が真っ赤になっている。私の上から避け、少し距離を取ると絡めていた足を解く。あんな風に手にキスをすることは平気そうだったのに、今はなんでこんなに照れてるんだろう。あわあわと焦る彼がなんだか可愛く見えて笑みが溢れた。
「ふ、ふふっ…」
「な、なんで笑ってんの…」
「フロイドさんが可愛くて」
「なにそれぇ」
頬を膨らませて拗ねたような顔をするフロイドさん。起き上がり、彼とソファーの上で向かいあう。ソファーの背もたれに肩肘をついてこちらを窺う彼と先程開いてしまった距離を少し詰める。
「フロイドさんのこと、話してたんです」
「うん?」
「私が、あの女の子はフロイドさんの彼女だと思って気にしてたから、ジェイドさんが教えてくれたんです」
「女?」
「ジェイドさんが監督生さんって言ってました」
「小エビちゃんは彼女じゃねーし」
「はい。勘違いだって教えてもらったんです」
恥ずかしいですね、と笑うと彼は気まずそうな顔をし、頬を掻く。
「オレも、勘違いしてた」
「何をですか?」
「ジェイドが勝ち誇った顔で見てくんだもん」
「はい?」
「きのう!あんたのことジェイドに取られたのかと思った」
「ふふ、私はおもちゃじゃないですよ」
「そーゆー意味じゃなくてさぁ」
「妬いてくれたんですか?」
くすくすと冗談交じりで言ったその言葉への返答は思いもよらないもので。真剣な表情をした彼は私の手をぎゅっと握った。
「そーだよ。オレも名前のこと好きみたい」
甘く優しい声で、初めて彼に呼ばれた名前と不意打ちの告白に私は頭が真っ白になるのだった。