海色の初恋
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最初はモストロ・ラウンジに行こうと思っていた。でも迷った結果、行くのをやめた。とぼとぼと歩いていたナイトレイヴンカレッジへの道をぐるっとUターンし、帰路に着く。あの時、最後にすれ違った女の子は誰だったのだろう。ナイトレイヴンカレッジの制服を着ていたが、明らかに女の子だった。男子校のはずなのに。偶然見てしまった、彼に抱きつかれていたところを思い出し、胸がズキンと痛む。仲が良さそうだったな。彼女、なのだろうか。私がつい伝えてしまった想いは告白とは言えない拙いものだったから、伝えるなら改めてちゃんと告白をしたかった。私の初めての恋は、返事を貰う前に失恋が確定したようだ。
「フロイドさんだって、思わせぶりなことしてきたくせに…」
俯きながら歩く。初めての失恋を経験し私の心はどんよりと曇っていた。なんて憂鬱な気分なんだろう。周りを見ずに歩いていたら、誰かにぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
「いえ、僕も余所見をしていたものですから…っと、あぁ、名前さん」
「あ、ジェイドさん。よくお会いしますね」
「本当に。奇遇ですね」
彼の片割れのジェイドさんは私服で佇んでいた。ジェイドさんがいるならばと、キョロキョロと辺りを見回すと、上からくすっと笑う声が聞こえた。
「フロイドとは別行動なんです」
「えっ、ちが、フロイドさんを探してるわけでは…」
「でも今日はフロイドも街へ出ると言っていましたよ」
「今日はお二人共お休みですか?」
「えぇ、まぁ。登山用品を見にきたのですが、どれも素晴らしく迷ってしまって」
うーん、と顎に手を当て悩むジェイドさん。登山が好きなのだろうか?だったら彼も登山が好きだったりするのかな。そういえば、彼のこと何も知らない。好きなもの、嫌いなもの、ジェイドさんは教えてくれるだろうか。
「フロイドは登山はしませんよ」
「私口に出してましたか…?」
「いいえ」
「何でわかったんですか」
「さぁ、どうしてでしょうね。それより名前さん、少しお茶しませんか?」
にこにこと貼り付けたような笑みを浮かべるジェイドさんに連れられて入った喫茶店。外の様子がよく見える窓際の席に座り、向かい合う。
「フロイドはタコ焼きが好きです」
「えっ」
「嫌いなものはしいたけ、ですね。残念なことに」
「ジェイドさんって心が読み取れるとかそういう方ですか?」
「まさか、違いますよ。貴女の顔に書いてあります」
ジェイドさんって観察眼が鋭いのだろうか。最早少し恐ろしい。何気に窓の外を眺めると不意に視界に入った長身の水色。隣にはあの時すれ違った女の子。視線を外から目の前のカップへと戻す。
「あぁ、フロイドと監督生さんですね」
「…おふたり、仲良さそうですね」
「えぇ、珍しく気に入っている様子ですね」
「…あの、」
「監督生さんはフロイドの彼女ではありませんよ」
「そうなんですか…?」
「気に入っているとは言いましたが、あくまで玩具程度だと僕は認識しています」
「おもちゃ…」
「まぁ、貴女のことは違うようですが」
「それはどういう?」
「それはフロイドに直接聞くべきだと思いますよ」
彼女ではなかった。それがわかっただけでモヤがかかっていた気持ちが少し晴れる。でも彼はこの間私を避けたような気がしたが、私とまた会ってくれるだろうか。
「ふふ、大丈夫です。またモストロにいらしてください」
「…私今度こそ声に出してました?」
「いいえ、まったく」
「もうジェイドさんの先回りの言葉がおそろしいです」
あはは、と2人で笑い合うと、ジェイドさんは目線を外に向けた。何かあったのだろうかと外を見るが特に変わったことはない。フロイドさん達の姿も見えなくなっていた。
「どうかしましたか?」
「いえ、なにも」
くすくすと眉根を寄せて悪戯が成功したかのように悪い笑顔を浮かべるジェイドさん。なんだか楽しそうなその様子が彼と重なる。性格は違ってもやっぱり兄弟なんだな。
「さて、こんなにフロイドのことを教えて差し上げましたので、対価をいただきましょう」
「え、お金取るんですか」
「ふふ、結果的にはそうなるかもしれませんね」
「あんまり高額なのは、ちょっと…」
「明日、モストロ・ラウンジへ1人でいらしてください」
「でも明日って定休日じゃ」
「それは来てからのお楽しみです。お待ちしておりますね」
それだけ言い残しジェイドさんは帰っていった。私も店を出ようと伝票を探すが、ない。店員さんからお連れさまから頂きましたよ、と微笑まれた。