海色の初恋
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「何してんの」
「おや、フロイド。今日はもう帰ったのでは?」
不機嫌そうな声が聞こえて目を開くと、私の唇に触れていたジェイドさんの手を掴んでいたのは先程立ち去ったはずのフロイドさんだった。ジェイドさんの手をパシッと叩くと私の隣に腰掛ける。
「いくらジェイドでも許さねーから」
「ふふ、怖いですね」
「そんなこと全然思ってねぇくせに」
ジトっとした目をジェイドさんに向けるフロイドさん。対してジェイドさんはおもちゃを見つけた子供のように無邪気な笑顔になっていた。
もしかして喧嘩が始まるのだろうか。あわあわと2人の顔を見比べる。ハァ、と溜息を吐いたフロイドさんは私に顔を向けた。
「…なんもされてない?」
「?はい、特には…」
「いやですねぇ、僕が何かするとでも?」
「もー、ホント。ジェイドのそういうとこはムカつく」
「ふふ、ありがとうございます」
「褒めてねぇし」
軽口を叩き合う2人をみて、胸を撫で下ろす。どうやら喧嘩というわけではなさそうだ。
「少しお喋りしていただけですよ。ねぇ、名前さん」
「そうですね」
「あっそ」
「まぁ、フロイドが見ていることは気づいていたので、少々戯れさせていただきましたが」
「だからそういうとこだって」
「僕の兄弟が面白い顔をしていたので、つい」
「…、オレもジェイドが面白い顔してたらちょっかいかけるかも」
「そうでしょう?」
「あはっ。オレら似てんね」
「ふふ、そうですねぇ」
なんだかんだ言い合っているけれど、ほぼほぼ初対面の私でもわかるくらい仲が良さそうだ。最初あんなに不機嫌そうだったフロイドさんはもうにこにこしながらジェイドさんと楽しそうに話をしている。この人の気分の高低差はなんなんだろうか。それについていけるジェイドさんはやっぱり彼の兄弟なんだなぁとしみじみ思った。
「そろそろオープンの時間ですね。僕は支度をしてきます」
「えー、これから仕事とかめんどい」
「貴方は彼女のお相手をして差し上げてください」
「いえ!長居してしまいましたし、私はこれで」
「じゃあ送ってく」
「え」
「おや」
「なぁに?」
「いいえ。アズールには僕から言っておきましょう」
またのお越しをお待ちしております。と私の手の甲にキスを落としたジェイドさんは随分と悪そうな笑顔を浮かべて去っていった。キス、されたの初めてだ…。手の甲だけれど。少しだけドキドキしている今の自分の顔は安易に想像がつく。真っ赤なのだろう。それにしてもなんというか。ジェイドさんは最初のイメージと全然違う。確かに所作は綺麗なのだけれど、紳士とはかけ離れているような…。ぼーっとジェイドさんの後ろ姿を見つめていると目を塞がれた。
「そんなにジェイドがいいわけ?」
「へ?」
「オレといる時と顔が全然違う」
「そう、ですか…?」
「そうだよ。オレのときはなんかびくびくしてんじゃん」
彼の手に塞がれた目を泳がせる。そんなつもりはなかったけれど、確かにフロイドさんよりもジェイドさんの方が穏やかに会話を進めてくれるので話しやすくはあった。返答に困っていると不意に暗闇に光が差し込み、彼の顔が目の前に現れる。
「ジェイドじゃなくて、オレのこと見てて」
真剣なその表情につい、頷いた。
にぱっ、と花が咲くように笑った彼は私の手を引いて出口へ向かう。足が長いから歩幅が広い。早歩きで彼についていく。見上げたその横顔は今にも鼻歌を歌い出しそうなほど機嫌が良さそうだ。
「あ、」
「どうしたんですか?」
「忘れてたぁ」
向き合い、私の手を持ち上げ、先程ジェイドさんから口付けを落とされた場所を優しくさすさすとこする。同じ場所に彼の唇が触れ、こちらをチラッと見た彼の視線とかち合った。彼の口角が少し上がったと思うと、べろりと赤い舌が手の甲を撫であげる。触手のように動くその舌先は薬指を伝う。ぱくっと指を口に含むと、ちゅぱちゅぱと音を立て指先を吸い上げた。
「んっ、」
「あっは、消毒ぅ♡」
いこ、と手を引き歩き出すフロイドさん。彼に連れられるがまま、学園の正門まで送り届けられた。じゃあねぇ、と手をひらひらさせ帰る彼の後ろ姿を見つめる。え。え?さっきの、なに?完全にフロイドさんに上書きされた手の甲へのキスを思い出す。真っ白だった頭の中に先程の光景が浮かび、顔が熱くなる。どうして、彼はこんなことをするのだろう。なんで私に構ってくれるのだろう。「フロイドは貴女のことを気に入っているようです」ジェイドさんのその言葉が頭をよぎる。まさか。おもちゃだと思われているだけだろう。熱くなった顔を冷ますようにぶんぶんと頭を振り、家までの道を全速力で走った。