海色の初恋
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「ひゃー、やっぱり混んでるね!」
「もう帰りたい…」
「なに言ってんの、名前。これからでしょ」
一般人や他の学校の生徒も多数いるとはいえ、圧倒的に男子生徒が多い。右を見ても左を見てもナイトレイブンカレッジの制服を着た男の子達ばかりだ。ずんずん突き進む彼女に置いていかれないよう必死について行った先に辿り着いたオクタヴィネル寮。その空間に入った瞬間胸が躍った。
「う、わぁ…!」
海の中にいるみたいだ!なんて素敵なんだろう。きらきらと煌めいた空間に目が奪われた。こんなに魅力的な寮があと6つもあるのか。ナイトレイブンカレッジってすごい。キョロキョロしながら彼女の後を着いていくとモストロ・ラウンジはすぐそこだったらしい。扉を開くとこれまた大人な雰囲気の空間が広がっていた。
「いらっしゃいませぇ」
間延びした声が上から響く。見上げると頭ひとつ分以上もの高い位置から見下ろすオッドアイと視線が絡む。
「ひっ、」
「は?なぁに、怯えた顔してんの」
「い、え…別に、あの、大きいなと思っただけ…です…」
「あっそ」
にめいさまご来店でーす。こちらへどーぞ。
やる気がなさそうに呟いた長身の彼は私達を席まで案内してくれるとメニュー表を置いて行ってしまった。あんなに大きい男の人初めてみた…。びっくりしたなぁ。でも、すごく綺麗な人だった。緊張と少しの興奮でどくんどくんと心臓が脈打つ。少し落ち着こうと友人を見ると彼女は目を輝かせ、ホールで忙しなく仕事をする獣人の男の子がかわいい、ここは天国か、などとぶつぶつ呟いていた。
改めて周りを見回すと、高級感のあるソファーとテーブル、バーカウンター、そして巨大な水槽。珈琲や紅茶よりもお酒が出てきそうな雰囲気だ。高校生が運営してるというのだからそれはないだろうけど。完全にお上りさん状態で視線を彷徨わせる私はなんだかこの空間から浮いている気がした。
「注文決まったァ?」
席まで案内をしてくれた彼がオーダーを取りに戻ってきたらしい。テーブルの横に蹲み込んだ彼のお陰で、先程まで上にあった彼の目線は今は私より下にある。さっきよりも近く感じるその距離に思わず目を逸らした。
「ごめんなさい、まだ決まってなくて」
「ふーん。オレのオススメはね、コレ」
メニューを指差し、下から私の顔を覗き込む彼。そんなに綺麗な顔を近づけられると心臓が爆発してしまうからやめてほしい。友人に助けを求めようとしたが彼女は相変わらず1人でぶつぶつ言いながら周りを観察していた。
「オトモダチ?変なやつじゃん」
「ほんとごめんなさい。彼女の分と私の分、そのオススメのやつでお願いします」
「かしこまりましたー」
勢いよく立ち上がった彼はスタスタと厨房と思われる場所へと向かっていった。ほっ、と胸を撫で下ろす。彼は綺麗な顔をしているがだらりとしたその態度や表情が少し苦手かもしれない。背も高くて威圧感があるから少しこわいな、なんてことを考えながらぼーっと水槽の方を眺めた。
お客さんは女性ばかりで、従業員の生徒たちは忙しそうに厨房とホールを行ったり来たり。歩く度に裾が翻るその服はやっぱり友人が言うように人魚のようかもしれない。
「きれい…」
「なにが?」
「ひぃあっ?!」
「アハ、なにその声〜」
お待たせしましたぁ。
ことん、と目の前に先程オーダーしたドリンクが置かれる。シュワシュワと煌めく水色。ここはドリンクまでもがこんなにオシャレだ。なんちゃら映えってやつだ。
「ありがとうございます」
「ん」
すぐに立ち去るかと思っていた彼はオーダーを取りに来たときのように蹲み込むと、こちらをじーっと見つめてきた。私、何かしただろうか。目を泳がせる。
「で、なにが?」
「はい?」
「だからぁ、さっきなんかきれいって言ってたじゃん」
「それは、そのお洋服が素敵だなと思って」
「あー、コレかぁ。アズールが今日はこれ着ろってさ」
「まるで人魚みたいですね」
私のその一言に彼はキョトンとした顔をした。と思うとアハハ!と急に笑い出す。
「つまんねーしこれからサボろーと思ってたけどやめた」
「そ、そうですか」
「んふふ、名前なんていうのぉ?」
「名前です…」
「オレはね、フロイド」
「フロイド、さん」
「じゃ、オレ行くわ。アズール睨んでっし」
手をひらひらさせて去る彼の後ろ姿を見送る。私、彼の笑顔は割と好きかもしれない。
彼が運んできたドリンクを一口飲むと口の中で炭酸がパチパチと弾けた。