どちらもきっと許されない
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笹枝 立花(ささえだ りつ)
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それから数週間が過ぎ、今もまだアイザックは立花の家にいた。
そして時々遅くに出掛けては、衣服を血で染め帰ってくる。
「また、人を殺したの?」
「ああ」
「何で人を殺すの?」
「幸せそうな奴を見てるとよぉ、つい殺しちまいたくなんだよ。それに、恐怖で歪んだ顔の奴を殺すのは楽しいんだよなぁ」
人を殺す事が楽しいというアイザックの表情は、背筋が凍るほどに恐ろしく思えるのに、その瞳はやはり悲しく辛く見えてしまう。
幸せそうにしている人を殺したくなるというのは、もしかすると、アイザックが今までに愛されたことがないからではないかと思えた。
「アイザック、私はやっぱり可笑しいみたい」
「だろうな。こんな殺人鬼で血まみれで、手にナイフを持つ男にお前は何してんだよ」
抱き締めていると素直に答えると、アイザックは呆れたように溜息を漏らす。
きっと本人は気づいていないのだろう。
自分が、誰よりも純粋なのかを。
ただ、アイザックは愛を知らないだけであり、それを埋めるかのように人を殺めているのだろう。
「ねぇ、アイザック」
「その呼び方辞めろ。ザックでいい」
「じゃあ、ザック。これから貴方には、私が沢山愛を教えてあげる」
ニコリと笑みを浮かべ言う立花の姿に、ザックは吐き気を感じた。
だが、何故か何時ものような殺したいという衝動は沸いてこない。
ただ感じたのは、今までにない感覚だった。
自分を抱き締める温もり。
こんなに温かなものを感じたのは初めての事だ。
「よし!じゃあ先ずは、二人ともお風呂ね」
ザックから離れると、二人血まみれの姿に立花は苦笑いを浮かべながら言う。
先ず、一番沢山血で汚れてしまっているザックをお風呂に入れ、次は立花が入る。
と、言いたいところだが、ザックはいつも適当に血を洗い流すだけで洗おうとはしないため、頭だけでもとザックの頭を洗う。
勿論嫌がるザックだったが、腰に手拭いを巻くように伝えお風呂で嫌がるザックの頭を洗う。
流れるお湯は血で染まり、鉄の匂いがする。
「これでよし!あとはこのボトルに入ってるので、ちゃんと体も洗うのよ」
「めんどくせぇ」
「文句言わない!ちゃんと洗わなかったらもう一回お風呂に入ってやり直してもらうから」
それだけ伝えリビングに戻り、ザックが出てくるのを待っていると、しばらくしてザックがリビングへとやって来る。
しっかり洗ったか匂いを嗅ぐと、自分がいつも使っている香りがし、言われた通りに洗ったのだとわかる。
やはりザックは、純粋で意外にも素直なようだ。
だが、ザックに1つ約束をしてもらわなければならないことがある、それはザックが嫌がることだと思うが、伝えるしかない。
その、ザックが嫌がることとは、人を殺さないと言う約束だ。
人を殺すことをやめなければ、ザックが変わることは出来ない。
それに、血はとても汚れが落ちにくく、今日の服も捨てなければならない。
その捨てる際にも大変なことがあり、まさか沢山の血がついた服をそのまま捨てるわけにもいかず、ある程度血をとったりと手間がかかる。
だが、人を殺さないなどという約束を聞き入れてくれるはずもなく、ザックのナイフが立花の首元に当てられた。
「俺は殺人鬼なんだぜ?んな話、はいそうですかって聞くとでも思ってんのかよ」
「思ってないよ」
立花は、ザックがナイフを持つ手にそっと触れる。
その行動に、ザックは少し動揺すると、立花の口から思いもしない言葉が紡がれた。
「もし人を殺したくなったら、私を殺して」
「ッ!?お前、自分が何言ってんのかわかってんのか」
「わかってるよ。でも、これ以上ザックに人を殺させたくないの」
首元にナイフをあてがわれているというのに、立花の瞳は真っ直ぐにザックを見詰めていた。
見た目は自分と同い年の青年のようだが、中身は愛を知らないまま育った子供なのだ。
首元にナイフが当てられていようと怖くはない。
何故なら、本当は優しい人だとわかっているから。
「ザック、私と約束してくれる?」
しばらくの間が空いたあと、ザックはナイフを持つ手を下におろすと、深い溜息をつき約束することを誓ってくれた。
そして立花はそのナイフは引き出しにしまうと、その日から、ザックに楽しいことを知ってもらおうと色々なところへ出掛けた。
ザックの顔は街の人に知られてしまっているため、出掛けるときは必ずフードを被ってもらい出かける。
街で買い物をしたり、ゲームを買ってうちの中で遊んだり。
とても楽しい時間を二人で過ごした。
だが、そんな時間はほんの一瞬だった。
「明日は仕事も休みだし、今度はザックと何して遊ぼっかなぁ」
ゲームをするときのザック。
街に出掛けたときのザック。
そのどれも、最近は笑みを浮かべてくれることが増えた。
これでザックが、楽しいことや愛を知っていってくれたら。
そう考えると、立花の口許には笑みが浮かぶ。
だがその時、脇腹の辺りに痛みを感じ視線を向けると、ナイフが刺さり、生暖かいものが滲み出しているのが見える。
何が起きたのかわからないまま、立花は地面に倒れた。
そして、今の自分の状況をぼんやりとする頭で考える。
目の前を歩いてくる男を避けようとすみを歩くと、目の前から来た男とぶつかったのだ。
そう、立花は男に刺されたのだ。
地面は次第に立花の血で染まり、そこで意識を手放した。
そして目を覚ました時立花がいたのは、病院のベッドの上だった。
医者の話によると、男性の声で救急車に電話があり、駆けつけた救急隊員は息を飲んだという。
立花が倒れる目の前には、誰ともわからないほどに滅茶滅茶に切り刻まれた人の死体があったらしい。
それからしばらくして退院した立花だったが、家にザックの姿はなかった。
薄々気づいてはいた。
自分の目の前で殺されていた人は、立花を刺した男だろう。
そして、その男を殺したのはザックであり、救急車に電話をしたのもザックに違いない。
あくまで推測に過ぎないが、引き出しには、閉まっていたはずのナイフもなくなっていた。
きっと、立花の目の前にザックが現れることは二度とないだろう。
自分は、ザックに何も教えることができなかったのだ。
楽しさも、愛も、ザックは知ることなく消えてしまった。
立花の頬には涙が伝う。
愛を教えようとしていた自分が、すでに恋をしていたのだ。
殺人鬼という、許されない相手に。
《完》