どちらもきっと許されない
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笹枝 立花(ささえだ りつ)
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今の立花の状況は、もっとも危機的なものとなっていた。
それというのも、仕事終わりに家へ帰る途中、近道に路地を通ったのがいけなかったのだ。
目の前には、地面に血を流し倒れる人。
そして、その人を刺したであろう血のついたナイフを持つ男。
「ああ?なんだお前」
「えっと、私は通りすがりの者です!この路地を抜けると私の家が近いんですよねぇ」
人間というのはパニックになると、自分で何を言っているのかよくわからなくなるが、今の立花がまさにそれだ。
心の中では殺される恐怖が強いというのに、パニックのせいか何故か自分の状況説明をしてしまった。
「3秒やるから逃げてみろ」
「無理です」
「は?」
「3秒じゃ、この先の私の家にはつけませんもん!というより、今日は雨降るみたいですけど、貴方は家があるんですか?」
何自分は会話してるんだと思っていると、男の機嫌を損ねたのか、帰る家なんざ最初からねぇよと鋭い視線と共に言われてしまう。
だが、どうせ殺されるのならいちかばちか言ってみようと口を開く。
「なら、家に来ない?」
「は?お前、さっきから何言ってんだ」
「いいからいいから!このままだと雨で濡れちゃうし、警察にだって捕まっちゃいますよ?」
立花は男の腕を掴むと、誰かに見つからないうちにと男を家へと連れていく。
扉を開け電気をつけると、男の姿がようやくハッキリと見える。
顔や手には包帯が巻かれており、着ている衣服には血がついている。
それに、あの暗闇ではわからなかったが、自分と同じくらいの年のようだ。
「よし!先ずはお風呂ね」
「何さっきから勝手なこと__」
「お風呂に入ってる間にご飯作るから、ちゃんと入るのよ」
最初は嫌がっていた男だが、最後には大人しくお風呂に入ってくれた。
ただ、変な真似したら殺すからな、と言われたが、それでも素直に聞いてくれるのだと思うとなんだか可愛い気もする。
着替えは立花のメンズ用の服を男に着るように伝えるが、それから直ぐに男はお風呂から上がってきた。
あまりの早さと石鹸の香りがしないことから思うに、お湯で洗い流しただけのようだ。
「ちゃんと洗わなきゃダメじゃない」
「いいんだよ。こんなのは汚れが落ちやあ」
「もう……。こんなに早く出てくるとは思わなかったから、向こうの部屋でご飯出来るまで待ってて」
リビングで料理が出来るのを待ってもらうことにし、簡単なもので炒飯を作る。
ご飯はタイマーで炊けており、いつも少し多目に炊いているのが役に立った。
「はい、どうぞ。お口に合うかわからないけど。ちょっと待っててね、今スプーンを、って!?」
「アッつ!!」
ささっと作った炒飯を手掴みで食べようとすると、男はご飯の熱さで声を上げ手を振る。
出来立ての炒飯を素手で握ったため、手を振っただけで取れるはずもなく、立花は男の腕を掴むとキッチンに連れていく。
そこで手を洗い綺麗にすると、改めてスプーンを手にリビングに戻る。
「今度はこのスプーンを使って食べてね」
「めんどくせーな」
「さっきみたいになりたいわけ?」
「チッ!わーたよ」
何とかスプーンを使い食べてくれたが、一体これからどうしたらいいのかわからず手が止まる。
あんなことをしている現場を見てしまっては、直ぐに警察に電話をするべきなのだろうが、ナイフは今も男の直ぐ側にあり、いつそのナイフが自分に向けられてもおかしくはないため下手に動くこともできない。
「あ、口に米粒がついてるよ」
ティッシュで米粒を取ると、男は無言で立花を見詰めた。
その視線に首を傾げると、可笑しな奴だなと一言いい、再びご飯を食べ始める。
それから食事が済み本格的にどうしたらいいのかわからずにいると、男は壁に背を預け目を閉じてしまう。
しばらくその状態が続き、眠ってしまったのだろうかと、毛布を取り出し男に掛けようと近寄る。
すると、突然手首を掴まれ床に押し倒されてしまった。
瞳には男の顔が映り、その手にはナイフが握られている。
「何をしようとした」
「も、毛布を、掛けようと思って」
男の視線が床に落ちてしまった毛布へと向けられると、ようやく立花の上から退いてくれ、床に落ちた毛布を手に取ると、男は再び壁に背を預け瞼を閉じた。
そして翌日のお昼頃、ようやく目を覚ました男の前には包帯が置かれていた。
「包帯、ないと困るでしょ?買ってきたから使って」
男はその場で上半身を脱ぎ始めたため、立花は慌てて背を向ける。
そして思い出していたのは、包帯を買いに行く途中で見かけた貼り紙だ。
その貼り紙には、今まさにここにいる男の顔写真が載っており、何人もの人を殺してきた殺人鬼と書かれていた。
本当は、男が寝ている隙に警察に連絡することもできたのだが、何故か自分は包帯を買うと家に帰ってきていた。
何故かはわからないが、この男が本当に悪い人なのかわからずにいたのだ。
目の前で人を殺す男の姿を目撃したというのに、それを悪い人と言わずに何というのか、自分でもよくわからない。
「ッ!?お、おい!!何しやがる。離れろ」
気づいたら、立花はアイザックを抱き締めていた。
手にはナイフが今も持たれていたが、そんな事は関係ない。
「包帯を買いに行く途中で、貴方の顔写真が載った紙を見かけたんだけど、貴方、アイザック・フォスターっていうのね」
そんな問いかけをして見ると、突然背後からナイフが首もとに当てられた。
「だったらなんだ?」
「わ、私は立花っていうの。よかったら、貴方がいたいだけここにいるといいわ」
自分でも何を言っているのかわからなくなっていると、首もとに当てられていたナイフが退けられ安堵する。
そして振り返ると、アイザックは立花の胸の前にナイフを突きだす。
「何でんなことしようとする。あの紙を見たんならわかんだろ?俺は何人も殺してきた殺人鬼なんだぜ?」
「正直、私にもよくわからないの。でも、貴方がそんなに悪い人には見えないから」
そんな立花の応えにバカバカしくなったのか、アイザックはナイフを持つ手を下ろすと口を開いた。
「まぁいい。だが忘れるなよ。その甘い考えが、後悔になるってことをなぁ。殺そうと思えばいつでも俺はお前を殺せるんだからよぉ」
「うん、わかってる」
「本当に自分の状況がわかってんのか?俺も頭は悪いが、お前も相当頭がわりぃみたいだな」
一瞬だったが、フッと笑みを漏らしたアイザックの表情は、殺人鬼とは思えない程に柔らかだった。
自分が今していることは可笑しいことなのかもしれないが、不意に見えた瞳の奥の苦しみを放ってはおけない。