何も知らずに近づく距離
名前変更
名前変更お話にて使用する、夢主(主人公)のお名前をお書きくださいませ。
【デフォルト名】
笹枝 立花(ささえだ りつ)
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「僕は幸せだよ!!まさか、あの少女以外にこんな素敵な瞳を持つ女性がいたなんて!!」
男が喜びの声を上げた瞬間、辺りに血飛沫が飛び散り、目の前の男はバタリと床に倒れ、その背後には、鎌を赤く染めた殺人鬼の姿があった。
「なんて幸せそうな声出してやがんだよ。つい殺したくなっちまっただろうが」
床に倒れる男を見下ろしながら言い放ったそのとき、放送のようなものが建物に流れた。
〝フロアB6の者が、フロアB5の者を傷つけました。ルールに反することにより、フロアB6の者はいけにえとなりました。各フロアの皆様をご準備を〟
よくわからない放送だが、どうやら目の前の殺人鬼がしたことはルール違反ということのようだ。
「めんどくせぇな」
「……ねぇ、何でここに?」
「あ?理由なんてどうでもいいだろ。それより、さっさとこの建物から出るぞ」
男が歩き出す背を見詰め。
何故か立花の鼓動が鈴のように凛と鳴る。
よくわからない状況によくわからない感覚。
それは不思議で今の自分には理解できないものだ。
「クソッ!!これどうやって開けんだよ」
エレベーターの扉が開かずに苛立っていた男だったが、目の前の扉が突然開かれた。
足音が聞こえ振り返ると、そこには立花の姿がある。
「お前が開けたのか?」
「うん」
「お前、使えねぇ訳じゃなさそうだな」
二人エレベーターに乗ると、次に着くのは4階だが、その前に、先程の放送のことが気になり男に尋ねると、お前、何にも知らねぇんだな、と面倒そうに言われた。
何も知らないも何も、ここがどこで、何故自分がこんなところにいるのかすら記憶にないのだから無理もない。
「はぁ……。俺は頭を使うのが苦手なんだよ」
「えっと、つまりバカってこと?」
ストレートに言われた言葉にイラッとするが、その人形のような顔を見ていたら怒るのもバカらしくなり、深い溜息を吐くと簡単に説明した。
先ずこのビルの各フロアには、そのフロアでのみ人を殺すことが許されたものがいる。
だが、先程の殺人鬼の様に、他のフロアの者に手を出せば裏切り者となり、その者は殺される側になるようだ。
「そういやお前が俺のフロアに来たときは放送が流れなかったな」
そんな会話をしているうちに4階に到着するが、目の前にはお墓がズラリと並べられていた。
「土くせぇとこだな」
「これ、作りかけのお墓かな」
「あ?何て書いてあんだ?」
作りかけで読みにくいが、何やら名前らしきものが刻まれている。
「アイ、ザック、フォスター……?」
「って、俺の名前じゃねーかよ!!俺の墓なんか作りやがって」
「貴方、アイザック・フォスターっていうの?」
そういえば名前を聞いていないことに気づき尋ねると、ああ、と短く返事をする。
「それより、その貴方って呼び方辞めろ」
「じゃあ、アイザック?」
「ザックでいい。先に進むぞ」
よくわからない殺人鬼。
そして、そんな殺人鬼と共に行動する自分のこともよくわからない。
ただ、この人は悪い人ではないような、そして、自分にとって大切な何かのように思えてしまう。
「チッ!こんなせめーとこどうやって入れってんだよ」
「私なら行けるから、ザックはここで待ってて」
通路が狭くザックでは通ることが難しいが、立花なら通れる。
この先にエレベーターがあるのだろうかと進んでいくと、ある部屋に出た。
目の前に扉があるが、鍵がかかっているらしく先へは進めず、一度戻ろうとしたとき、台に置かれた紙が目につく。
そこに置かれていたのは、ザックの事が書かれていた紙であり、今まで犯してきた殺人の数々が記されている。
そんな紙を見ている間、何やら騒がしい音が耳に届く。
どうやらザックは、先程の墓を壊しているらしく、大きな音が響いて聞こえる。
煩いなと思っていると、何かの音が聞こえ視線を向ける。
すると、先程まで鍵がかかっていた扉が開いていた。
「ザックが開けたのかな」
どうやら、この扉を開ける鍵となっていた何かを偶然ザックが押したようだ。
兎に角先へ進んでみようと、先程の紙を台に戻し、扉の奥へと進む。
「真っ暗で何も見えない……」
暗い中進んで行くと、背後でザックが叫ぶ声が聞こえる。
一度戻ろうとしたそのとき、突然ライトがつくと、目の前に被り物を被った子が姿を現した。
「貴方は?」
「僕はエドワード・メイソン。エディって呼んで」
「じゃあ、エディ。上に行くエレベーターの場所を教えて」
「う~ん、それは無理かな。だってここは僕のフロアだから」
エレベーターでザックが言っていたことを思い出し、このフロアの担当が目の前のエディなのだと気づく。
そして、自分を殺そうとしている人物と今二人きりというこの状況はとても危険だ。
恐怖はないものの、ここで殺されるわけにはいかない。
まだ外にも出ていない上に、何故自分がここにいるのかもわかっていないのだから。
ゆっくり後ずさるが、背中が壁にぶつかってしまい、逃げはがない。
「大丈夫、安心して。君のお墓はまだないけど、これから素敵なお墓を造ってあげるから。あの子と同じ様に、お花を沢山敷き詰めたお墓を」
「あの子?」
そんなことを話していると、壁の向こうからザックが叫ぶ声が聞こえてくる。
どうやら、この壁の向こうにザックがいるようだ。
「ザック、思い切り鎌を__」
「駄目だよ!!ザックなんかといたら、君も無惨に殺されちゃうよ?」
エディの言葉に立花が瞳を閉じると、エディは笑みを浮かべる。
だが次の瞬間、立花はパッと瞼を上げ叫んだ。
「ザック、思い切り鎌を振り下ろして!!」
すると、石で出来た壁が砕け、ザックが姿を現した。
エディは納得がいかない様子で、なんでザックなのと叫んだが、ザックの鎌により血飛沫が上がると、近くにあったお墓の中へとバタリと倒れてしまった。
「なん、で……」
「私は、まだ死ぬわけにはいかないから」
ザックは墓石を倒し墓の蓋にすると、先を急ぐぞと歩き出す。
だが立花はエディの言葉が気になっていた。
あの子とは一体誰なのか、そして、エディが倒れたお墓には花が沢山敷き詰められており、ザックが倒した墓石には名前が刻まれていたのが見えた。
「レイチェル……」
一瞬だったため、最初の名前しか見えなかったが、墓石にはレイチェルと書かれていた。
知らない名前なのに、何故かザワつく胸。
そんな意味すらわからないまま、ザックの後を追いかける。
《完》