お酒に火がつく 前編
名前変更
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笹枝 立花(ささえだ りつ)
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黒の組織幹部の一人、ライはFBIの人間だ。
だが、それを知っていながら黒の組織の幹部の一人である立花は誰にも報告をしなかった。
その理由は、組織を裏切るためでも、ましてやライに恋をしたわけでもない。
ただ面白そうだから。
理由はそれだけで充分だ。
そして今日、なんの偶然なのか自分とライが組むことになった。
顔には出さないが、きっと自分と組むことをライは内心嫌がっているに違いない。
きっと自分がライの正体に気付いていることは、勘のいいライには気付かれているだろう。
「残念だったね。バーボンやスコッチが相手じゃなくて」
「構わんさ。それに立花のことを知るいい機会だからな」
その言葉の意味はきっと、自分が本当にライの正体に気付いているのか知るいい機会だという意味なのだろう。
そんなまどろっこしい探りなんてしなくても、聞かれれば素直に答えるというのに。
でも、だからこそ面白いのだ。
簡単にノックだとバレて消されてしまうより、こうして組織の人間に慎重な方のが長く楽しめる。
それから今日の仕事先に向かう。
ジンに頼まれたのは、とある人物の射殺。
そんなのライ一人で充分じゃないかと思うが、きっとジンもライのことを疑っているのだろう。
だから、見張り役として誰かが必要だった。
そこで選ばれたのが自分だったのだろうが、立花にとっては運が良い。
FBIのライが人を殺す瞬間が見れるのだから。
「今日のターゲットさんが現れたわね」
向かいのビルの屋上にいる立花とライ、すでに射撃の準備は万全だ。
そして、標的が視界に入った瞬間、ライの撃った弾が標的である人物の頬を掠めた。
普通に見れば外したと捉えるだろうが、そうではない。
ライの射撃の腕は組織の中でもトップ。
そんな人が向かいのビルからの射撃で外す筈がないのだ。
今ので狙われていると気付いた標的は姿を隠してしまい、結局射殺は失敗。
これをジンに報告すれば、ライはただではすまないだろう。
「あれで助けたつもり?貴方が殺らなくたって組織の他の奴が殺るわ」
「なんのことだ。ただ今日は調子が悪かっただけだ」
本当に嘘をつくのが下手だ。
立花は知っている。
今までジンから依頼を受けた人物をライは逃がしていることを。
いつもは、その人物を逃がすために話をし、相手には身を隠してこの先生活をしてもらう方法をとっていた。
だが、今日は立花がいたためそんなことは出来ず、逃がすためにはこの方法しかなかったのだろう。
そんな優しいライが人を殺す瞬間が見れなかったのは残念だが、こうなることは予想していた。
ライは、悪人であっても人は殺さない。
そういう人だと立花は思っている。
アジトへ戻ると、今回の射殺が失敗に終わったことをジンに報告する。
今まで標的を逃がしてきたライは、組織内では射殺したと報告をしていた。
そのため、失敗なしの人物として知られていたが、今回の件でその無敗も無くなる。
失敗したことに苛立っているのと、ライがノックなんじゃないかと疑っているジンは、ベレッタを手にするとライの目の前で構える。
だが、そんな二人の間に立花が口を開く。
「その件なんだけど、標的が現れたときに私が風でよろけてライにぶつかったから外れちゃったんだ。だから、今回は許してもらえないかな」
お願いと言いながら手を合わせると、ジンは舌打ちをし、今回だけは見逃してやると言い、構えていたベレッタを下げる。
その後、無事に立花とライは部屋を出たわけだが、少し聞きたいことがあるとライに言われ、組織の目が届かない場所へと連れて行かれると、何故助けたとライが言う。
さっきの射殺の件についてのことだと直ぐにわかり、ニヤリと笑みを浮かべる。
そして、その質問の答えは決まっていた。
折角の楽しみをここで終わらせたくはなかったからよと言えば、ライは呆れたように溜息を吐く。
「やはり、全て知っているんだな」
「何のことかしら。ああ、貴方が標的を逃がしてたこととか?それとも、貴方がFBIだってことかしら」
やっぱりといった表情のライを見るのは楽しいものだ。
これは、立花しか知らないことであり、今ここで立花の口を封じてしまえばライの正体が知られることはない。
さてライはどうするか。
一体どんな行動をとるのかと期待していると、何故このことを他の奴に話さないと聞かれ、もしかしたらもう話してるかもしれないわよとクスクス笑って見せる。
「もし他の奴等に話していたら、今俺はこうしてここにいないだろう」
「それもそうね。でも、私がライの秘密を知ってる事実は変わらない」
そう、ここでライは立花を殺すしかないのだ。
だが、ライが銃を構えるより先に、自分がライを撃ち抜く自信はある。
ライの射撃の腕は確かだが、立花もひけをとらない。
急所を外して避けるくらいのことは出来る。
ターゲットは逃がすライでも、自分の潜入に関することなら別だ。
それも自分は組織の人間。
躊躇いなく殺せるはずだ。
だがライは銃を持つことはなく、その場で煙草を吸い始め、吸った煙を吐き出すと口を開いた。
「立花、お前楽しんでいるだろう」
「ええ、楽しんでるわよ。で、何であんたは優雅に煙草なんて吸ってるわけ」
立花の口封じには今が絶好のチャンスだというのに、ライは全くその気はない。
そもそも、口封じをすること自体考えていないようだ。
てっきり撃ち合いになると思っていたため少し残念に思っていると、その必要は今のところないだろうとライは言う。
一体何を根拠にそんなことを言うのかと思えば、ここで自分から楽しみをなくすはずがないからなと言う。
どうやらライは、立花の性格をよくわかっているようだ。
そう、立花にとって組織にいることもライの正体を話さないのも、全ては楽しんでいるから。
その楽しみを自分から手放すような真似はしない。
「わかってるなら、私を楽しませてちょうだいよね」
ヒラヒラと手を振りその場から去ると、立花は自分の借りているマンションへと帰る。
アジトで暮らすことも出来るが、一人の時間も必要だ。
帰って早々ベッドに倒れ込むと、先程までの楽し気な笑みは立花から消えていた。
必要最低限の物しか置かれていないワンルームの小さな部屋。
この部屋には立花を楽しませるものなど存在しない。
天井を見詰めながらぼーっとしていると、スマホが鳴り、画面を見ないまま電話に出ると、相手はジンだった。
「立花、仕事だ」
「さっき仕事終わったばかりなんだけど」
ムッとしながら言う立花だが、組む相手を聞いて口角が上がる。
立花は車もバイクも持っていないため、いつも仕事の際は組む相手が迎えに来てくれる。
そして今日も組む相手の車が家の前に到着すると、立花は助手席に乗る。
すると、車は直ぐに走らされた。
運転席に座る相手。
そしてその人物こそ今日自分が組む相手であるのだが、立花はこの人物はノックではないかと疑っている。
ただ、ライとは違いまだ疑っているだけのため確信はない。
コードネームはバーボン。
組織随一の情報収集力及び観察力、洞察力を持つ探り屋。
普段はライやスコッチと組んでいるため、二人で仕事をするのは初めてだ。
なのに何故疑っているのか、それは、ただの勘というやつだ。
だが、立花の勘はよく当たる。